チャック?ファスナー?ジッパー?
大場 葉子(おおば ようこ) 27歳 身長163cm 体重49kg
社内でも美人で知られる女性。だがその美貌には秘密があって・・・
「あ、大場さんお疲れ様です!」
仕事終わりに知り合いから声をかけられる。
私は足を止めて彼女の方を向く。
「お疲れ様。吉川さんはまだ仕事かしら?」
「ええ、急に仕事入っちゃって・・・本当なら今頃一杯やってるところなんですけどねぇ〜・・・」
「あら、なら待ってるからいつものお店で待ち合わせる?」
「是非に!・・・って言いたいところですけど、結構時間かかりそうですからやめておきます」
残念そうに言う吉川さん。
もう良い時間だしかなりお腹も減っているみたいね。
「それに・・・大場さんと違って食べたら食べただけお肉ついちゃいますから。
いつものお店っていったらあそこでしょう?大盛が売りの。コスパはいいですけど流石にちょっとお腹ヤバイんでやめておきます」
そう言いながら自分の腹を軽くつまむ吉川さん。
たっぷり・・・とまではいかないけど、そこそこの量がつまめる。
まさにぽっちゃり体型って言う感じ。
「そう?それならまた今度一緒にどこかお店探しましょ?」
「あはは、そうですね。それじゃあその時はまた声かけて下さい」
「そうするわね。それじゃあ」
「はい、お疲れ様です!」
吉川さんに背を向けて私は歩き出す。
後ろで吉川さんの『あーあ・・・私も食べても太らない体欲しいなぁー』と言う声を聞いて、私は思わず笑っていた。
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私は昔から大食いだった。
より正確に言うなら食べる事が大好きだった。
ママのご飯はいつも美味しかった。
おじいちゃんと出かけては喫茶店でパフェを奢って貰った。
駄菓子屋さんなんて天国に見えた。
当然、そんな食生活をしていれば太るのは当たり前だった。
小学校を卒業する頃の体重は80kg。
中学生で100kgを超えて、高校卒業の時には150kg超え。
当時のあだ名が大関だったのは今でも覚えている。
とは言え私も年頃になればそれなりに恋という物に憧れる。
ダイエットだって何度も試した。
・・・結果はダメだったけど。
大学に入っても相変わらず・・・むしろ一人暮らしを始めてより崩れた体型に『ああ、私は一生デブのまんまなんだなぁ』なんて半ば諦めていた。
そんなある日だった。
『美貌換金屋』
そんな看板のお店を見つけた。
『こんなお店・・・あったっけ・・・?』
そう思いつつも引き寄せられるように私は大きな体で扉を通り、お店の中に入った。
中はちょっと変わった物が並ぶ雑貨屋で、奥に一人女性が立っているだけの小さな店だった。
『いらっしゃいませ。ご利用は初めてのお客様ですね?』
黒いワンピースに赤いジャケットを羽織った女性がそう声をかけてくる。
どうやら陳列の最中のようで、手には砂のような物が入ったビンを持っていたのを覚えている。
『えっと・・・はい・・・』
『では、ご説明を。
当店は商品の購入には現金等のお支払いを頂きません。
ですが代わりに商品をご利用なさる度にお客様の美貌を少しずつ頂くシステムとなっております』
『え・・・?』
『頂く美貌は様々でして・・・髪の毛を頂く事もあれば肌の艶を頂く事もあります。
ここはお客様ごとにランダムでして・・・ですが健康に害を及ぼすことは決してありませんのでご安心下さい』
そんな説明を受けた。
ここで私は思ったっけ・・・
『ああ、ジョークグッズのお店なのか』って。
つまるところそういう設定なんだって。
『へー・・・じゃあ痩せる商品とかありますか?』
私は思わずそう聞いていた。
『うーん・・・痩せる商品ですか・・・残念ながらそう言う物はありませんねぇ・・・』
少し意外だった。
こう言うお店だと一番最初に作りそうな商品なのにと思ったから。
『あ、ですが一つ良いものがありますよ』
そう言って女性はビンを近くの棚に置くと、奥にあるカウンターの向こうへと消えていった。
少しして持って来たのは肌色の何かだった。
『こちらは裸で着ることで"自分の好きな体型になりきる事が出来る"服です。ただまだ開発途中でして・・・』
そう言って女性は服を広げる。
いや、服と言うよりはあれだ・・・細身の肉襦袢?
大きくて形の良いバスト。
くびれたウエスト。
きゅっと引き締まったヒップ。
すらりとした手足。
そんな体型を模した全身を覆うタイプのスーツ。
ご丁寧に乳首も股間のあそこもきちんと作られてるように見えるそれはどう見ても私が着れる物じゃない。
『こちら耐久性に難がありまして・・・1t以上の体重を持つ方がお召しになるとチャックが壊れてしまって・・・』
1トン・・・って・・・
ジョークにも程がある。
『なら私は大丈夫ですね』
『ええ、大丈夫ですよ』
思わず笑いながら聞くと、店員さんはそう真顔で答えてくれた。
『ならそれ下さい。1トンまでは大丈夫なんですよね?壊れても代金払いませんからね?』
『ええ、勿論ですとも』
ここまできちんと演技されると何となく欲しくなってきてしまい、私は結局スーツを貰って家へと帰った。
そして自室に入るとスーツを取り出す。
手触りも人肌に近く、背中に着いているファスナー以外は本当に人の肌に見える。
早速服を脱ぎ、スーツに足を通した。
絶対にきつくて足首すら入らない。
そんな私の予想を余所にスルスルと足はスーツに入っていく。
『あ、あれ・・・?』
太ももまですんなり入り、じゃあと腕を通せば腕もそのまま入っていく。
吊られて大きいはずのお腹もすっぽりと、胸も勿論ぴったりと入った。
『う、うそよね・・・?』
そんな事はあり得ない。
そう思いつつも背中のファスナーを上へと上げる。
背中の肉がドンドン入っていき、首元までファスナーはスルスルと上がる。
『はい・・・った?』
下を見ればそこには大きな胸の下に伸びるすらりとした足が見えた。
慌てて洗面所にある鏡を見に行く。
そこには顔こそ多少肉があるけど、ほっそりとした女性が映ってた・・・
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あれから10年近く経つけど、私の体型はどれだけ大食いしようとも変わることは無かった。
体も軽くなったし、スーツは肌と一体化したかのように何一つ不自由なく過ごせた。
シャワーもトイレもこのままいけるし、汗だって上手いことスーツが逃がしてくれた。
私は夢を叶えたんだ。
「いらっしゃいませー!空いているお席へどうぞー!!」
行き付けのお店の扉を開けると中から威勢の良い声がきこえる。
空いているテーブル席に進み、荷物を置いてから椅子に腰掛ける。
「さて・・・何を食べようかしら?」
ここは揚げ物が美味しいからアジフライと牡蠣フライで・・・でもお刺身もいいかな?
あ、今日マグロおすすめなんだ・・・だったらマグロ三種盛りかなぁ・・・ん、新メニューのマグロフライかぁ・・・
・・・って別に悩まないでも全部頼めばいいか。
「すみませーん!とりあえずマグロ三種盛りとマグロフライとあと・・・アジフライと牡蠣フライ。それとご飯大盛りで下さい」
「かしこまりましたー!オーダ−!マグロ三種とマグロアジ牡蠣フライ1つずつとライス大1!」
「あいよー!」
店員さんの声に厨房から声が帰ってくる。
私は用意されたおしぼりで手を拭きながらお通しを待ちつつ何を追加注文しようか決めるためにメニューを見る。
オムレツ・・・は今日はいいや。焼きうどんは後で頼むとして・・・あ、イワシの天ぷらかぁ・・・これとあと・・・塩サバかな?
そんな事を考えていると、お通しですという声と共にコトリと目の前に小鉢が置かれる。
今日はタコの酢の物みたいね。
「いただきます」
パチンと割り箸を割って、私は早速食べ始めるのだった。
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「うー・・・ちょっと食べ過ぎたかな?」
お店からの帰り道。
お腹をさすりながら私は今日食べたメニューを思い返す。
「・・・やっぱり最後の鯛茶漬けは余計だったかなぁ?」
でも油っぽい物多かったし、あっさりとした物が欲しかったから仕方ない。
「でもあれだけ食べても全くサイズ変わらないんだもんね・・・」
撫でているお腹は相変わらずくびれたままだ。
「・・・ホント、良い買い物だったわね」
そう呟いたときだった。
【ビキッ】
背中から、そんな音が聞こえた。
「・・・え?」
背中・・・から?
慌ててシャツから手を入れて背中を探ると、例のファスナーが途中で少し開いていた。
そこからあふれ出た柔らかい何かが・・・いや、これは多分・・・
「脂・・・肪・・・?」
私の脂肪。
そうだ・・・これは決して痩せる為の物じゃ無い。
あくまでも体型を誤魔化す為の服だった。
だから脂肪があるのは当たり前だ。
そうそこは問題じゃ無い。
問題は・・・
「な、なんで?」
ファスナーの開きが徐々に広がっていることだった。
『こちら耐久性に難がありまして・・・1t以上の体重を持つ方がお召しになるとチャックが壊れてしまって・・・』
あの店員の声が頭の中に響く。
つまり私の今の本当の体重は・・・
「1トン・・・超えた?」
ぶわっと汗が出る。
そんな事は無いという考えと、今までなんでも無かったファスナーが壊れた事実が反発し合う。
気がつけば私は駆けだしていた。
自宅へ戻ればなんとかできるかもしれない。
そんな考えをあざ笑うかのように背中の肉はドンドンあふれ出していく。
それと同事に足に違和感を感じるようになった。
ドンドン重くなっているのだ。
あふれた部分の重さが足にかかり始めたからだ。
数分間走り、息を切らして家の中に飛び込んだ私は急いで仕事着を脱ぐ。
そして痩せた体を見るために買った姿見で自分を見ると・・・
「ひっ・・・!?」
背中のファスナーは半分以上開いていて、そこから贅肉がこぼれだしていた。
まるで水の詰まった風船に穴を開けたみたいにファスナーの穴からドンドンドンドン脂肪が出てくる。
手で中に押し込もうとするけど、手はむなしく背中の肉に食い込むだけで内側からの勢いは止まらない。
「やだ・・・やだやだやだやだ!!」
スーツを引っ張って背中の肉を覆い隠そうとするけど、当然間に合うはずも無く・・・
それどころか引っ張ったせいで・・・
【ビリッ!】
「ひぃ!?」
右の脇腹の所に亀裂が走り、中から脂肪が溢れてくる。
ファスナーだけじゃなかった。スーツその物が私の体を押さえきれないんだ。
【ビリビリビリビリ・・・!】
亀裂は内側からの圧力に負けてドンドン広がり・・・そして・・・
【ボルンッッ!!】
大量に飛び出た腹肉が股間に当たる。
スーツの切れ目は腹だけじゃ無く胸にも足にも広がり・・・
【ドブン!!】
体の右側が弾けたかと思った。
スーツが耐えきれなくなって、そこから右半身が全部出てしまった。
その衝撃で残ったスーツもドンドン捲れていく。
バルンと大人三人分ぐらいある胸が飛び出た。
衝撃で座り込んだら尻の肉が付きすぎていてバウンドした。
腕はすぐさま動かせなくなり、視界がドンドン肌色で埋もれていく。
「あ・・・ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」
私は何も出来ず、野太くなった声でただただ叫ぶことしか出来ないのだった。
大場葉子
身長:163cm
体重:49kg → 1008kg
B:89cm → 280cm
W:56cm → 469cm
H:83cm → 206cm
『──県のとある住宅で、本日とてつもなく太った女性が発見され、自衛隊が出動する騒ぎが起きました。
女性は酷く錯乱しており、警察と自衛隊は女性の身元調査を開始しており──』
「あらあら・・・やっぱりまだまだ耐久性はダメみたいですね・・・あの子にもうちょっと強度を上げるよう言ってみましょうか」