218氏その2
1.
脱衣所、更衣室、試着コーナーの中…目的は違えど衣服の着用を目的としている限りその行為は時として衣類対人の戦いへと発展する
(んっ…どうしようキツい)
友人が見守る中デニムショートパンツに勝負を挑もうとしているこの女性は心の中でそう呟いた
彼女の名前はヒロミ、食べ歩きと女子会が趣味、昔は活発な性格だったが最近は清楚系にジョブチェンジを目論みロングワンピースを着こなす27歳の女性である
事の発端は今日の昼間に遡る、同い年の友人ユウカとお気に入りのパンケーキのお店で幸せを?茲に詰め込んでいた彼女はふと、ユウカの話題にフォークを止めた
「ここのお店もよく来る様になったよね、パンケーキって美味しいから食べ過ぎちゃって…ちょっとダイエットしよっかなぁ」
苦笑しながらさらに話を続ける
「ヒロミも一緒にダイエットしない?もうそろそろ痩せにくい年齢だから好きなだけ食べてたらそのお腹もパンケーキみたいになっちゃうわよ」
そう言いながらナイフの背でパンケーキをぷるぷる揺らして笑ってみせた
(ぐっ…このタイミングでそんな話をするなんて)
確かにヒロミは社会人になってからはデスクワークも増え運動不足な為、以前と比べれば露出の多い服装に抵抗を持ち始めた、それでもスタイルにはそれなりに自信があったのだが…
流石に少しムッとしヒロミ、ユウカへの反撃が始まった
「わぁほんと、よく見るとこのパンケーキ…ぽよぽよしててユウカのお腹みたいね」
ドキッ
ユウカはサッと両手でお腹を隠す
「セーター越しだから分かりにくいけどユウカ…以前よりふにふにしてきたよね、ひょっとして気にしてたから最近ゆったりした服装が多かったのかな?」
「ちっ、違うわよ確かにダイエットには誘ったけどまだまだ普通体型だから!!」
とっさに両手でお腹を抑え込むユウカ、図星だったようだ
「大体ヒロミだって私と同じような食生活じゃない、折角心配してあげたにょに!!」
「…のにっ!!」
噛んだ、顔を真っ赤にしてぷりぷりしてる、ちょっといじめたくなる
(もうちょっとからかっちゃおうかな)
「ごめんね、私太らない体質だからよくわからないの…大学生時代からずっと同じ体型なんだテヘ」
(正直少し見栄は張ったけど少なくとも自分では全然変わってない、そう思う)
ダイエットに必死な相手に決して言ってはならない一言「太らない体質」その一撃は見事ユウカの乙女心にクリーンヒットした…
「う、嘘よ…だって!!」
二人の間に険悪な空気が漂い始める、流石にやり過ぎたかな?
「あの〜ユウカさん?ユウカちゃん??ごめんね…ちょっと言い過ぎたかな」
流石に不味いと思いフォローに入るヒロミ
「…パンツ」
ごめんに対してパンツと呟くユウカ、正直意味が分からない
困惑するヒロミの前にそっとスマートフォンの中の一枚の画像を指差すユウカ、そこには就職前、つまり大学生の頃にユウカと一緒に撮った画像が大切に残されていた。
その画像の中で確かにヒロミはデニム地のショートパンツを履いてポーズを決めている、どういう事だろう?
「ヒロミ、このショートパンツまだ持ってる?」
「ど、どうかなぁ…最近こういうの履かないからクローゼットの奥に眠ってるかも」
「じゃあ…今からヒロミん家行くから本当に大学生時代と同じ体型なら履いて見せて」
正直ドキリとした、ユウカをからかう為にそんな事は確かに言ったけどいざやって見せろと言われると流石に恥ずかしい
「いや…こんな古いのまだ残ってるかどうか分からないし」
どうにか逃げようと試みたが
「は い て み せ て 」
凄い剣幕に押し切られてしまった…こんな事なら焚き付けなければ良かった
そんなこんなでぷりぷり不機嫌なユウカの分の会計もお詫びに済ませたヒロミはユウカを連れ帰宅した。
2.
「おお〜見た目は落ち着いたけど部屋は昔のままだねぇ」
所々に衣類が脱ぎ散らかされたヒロミの部屋を物色しながらケラケラ笑うユウカ
良かった、もう機嫌は直ったようだ、とは言えショートパンツの探索は始まっているのでさっさと着替えて納得して帰って貰おっか…そんな事を考えながらクローゼットの奥をゴソゴソ漁る。
タンスの肥やしが積み重なり…これは後片付けが大変だ諦めようかと思い始めたその時
「あったぁ、懐かしい」
無事大学生当時のデニムショートパンツを探し出した、片付けない性格が幸いして捨てられる事なくしまい込まれていたらしい
「じゃあ着替えれば良いのね?」
「ん〜…あ、ちょっと待って、その前にこれも着てみない?」
ショートパンツに着替えようとしたヒロミの前に差し出されたのは同じく最近めっきり着ていないレース素材のブラウスだった
「これ先に着て見てよ、また久しぶりにカジュアルなヒロミも見たいな」
ニコニコ、いや、どちらかと言うとニヤニヤ笑っている様に見えるユウカ
うーん…仕方ない、折角機嫌が直った所だ…ヒロミは素直にブラウスを受け取る
袖を通すとツンと防虫剤の匂いがする…このブラウス最後に着たのはいつだっけ、たまにはまた着てみるのも良いかもしれないかな
ほうっと大学時代の思い出が蘇る、当時からユウカとは友人だったけど今みたいに別々の会社に就職する前だからもっと遠くまで旅行に出かけたりレジャーに出かけたりで今より随分活発に遊びまわってたっけ、ほんと懐かし
(うっ…!!)
「どうしたの?ヒロミ」
「いや…なんか、いや、何でも無い」
違和感、二の腕の生地が張り詰めるのを感じた
(あれ?こんなにタイトな作りだっけ…まぁ久々にこんなスッキリしたシルエットの服着るからそう感じるのかな)
キチ…キチ…
「…ふぅ」
(おかしいわね…なんか)
「なんか…キツ」
ボタンを留め始めたヒロミは声を漏らした
「どうしたのヒロミ、ひょっとしてやっぱり太ったからキツい…とか?」
ハッと振り返るとユウカがニヤニヤしながらこちらを見ている
これはマズい…このままじゃ私がまるで太ったみたいに思われる
「あっちゃー、洗い方失敗してたかな、ガサツだからさ私」
咄嗟に返す、そうだ…そんなに見た目は変わってないユウカみたいに太ったりなんてしない
「ふっ…ふぅう…」
ボタンをホルダーに通す為お腹を凹ませ、そして
パツン…パツン、上から順にボタンを閉める…下腹部に近づくに連れ柔らかな肉が逃げ場を失い横ジワを作る
(大丈夫、生地が縮んだだけ、縮んだだけ)
なんとかボタンを閉め終えたヒロミはなだらかな下腹部を誤魔化す為、再度「ふんっ!!」とお腹を凹ませユウカの方へ身体を向ける
「お待たせーなんかちょっと恥ずかしいけど…どう?似合ってる」
大丈夫はつもりのヒロミはパツンパツンのブラウス姿でユウカの方へ振り向いた
全身に下腹部横腹二の腕、ありとあらゆる気になる箇所へ力を込めて細く見える様に
額からは汗がつたう
そのまま平穏を装い身体を捻りポーズを取ったのだ…が、それが不味かった
ググッ…ブチィ!!
急に開放感に見舞われるお腹
下腹部に圧縮された肉圧に耐え切れずボタンが飛んだ
「あっ、ヤダ
うそっ…あわわ、これは違うの!!」
赤面、お腹を手で隠しながら慌てふためく
「あら、古いブラウスだからきっと生地が痛んでたのね」
ここぞとばかりにからかってくるかと思ってたユウカは以外にもそうフォローする
良かった、ひょっとして誤魔化せた?
「そうそう縮んでたの!お気に入りだったのにほんとに残念ーーー」
「じゃあ次はショートパンツね」
安堵の表情を浮かべかけたヒロミの前にデニムショートパンツが差し出された。
3.
「どうしたの?約束よね?」ニコニコ
「うっ…、そ、そうだったわね」
もう引き下がれない…ヒロミはショートパンツを手に取った
?茲を冷たい汗が伝う
「うーん…このショートパンツも縮んでるかも知れないわね、なんて」
チラッ
「取り敢えず履いてみたらどうかしら」
「うっ…」
大丈夫、大丈夫だとは思うが先ほどのブラウスの事を思うと嫌な予感がする
再びユウカに背を向け、変わりにショートパンツと向き合う…
両足を通しショートパンツを引き上げる為少し屈む…
(んっ…どうしようやっぱりキツい)
再びミチミチとブラウスが悲鳴を上げ始めた…大丈夫、一番キツかった下腹部はボタンを飛ばしたお陰で楽になった
変わりに屈んだ事によって生地を押しのけてぽってりと乗り出したお腹がパンツの上で段を形成し視界に映り込む
(前までこんな所にお肉あったっけ…)
ショックを受け震えるとつられてお腹もふるふる揺れる
(落ち着け…大丈夫、最後にユウカに見られる時にまた凹ませれば誤魔化せる)
背後のユウカにこの下腹部を見られない様に注意しながらショートパンツを引き上げる、実際は背後から見ても横腹のお肉がむっちりとパンツに乗っかっているのだがそんな事に気付く余裕も無い
スルリと膝の上を通過、ここまてまは順調だっだが今度はむちみちと太ももが邪魔を始めた
ショートパンツを上げるに連れて行き場を失った肉が食い込み密度を上げる
「くぅう…」
グッ…!!グッ…!!
ぎちぃ…まだゴールでは無い、がそれ以上上に上がらなくなるショートパンツ
「ふんっ!!」「ふんぬっ!!」
「このぉ!!上がれっ!!」
声を上げ飛び跳ねる
ズポンッ!!
きゃあっ!?ズテーン!!
「あいたた…」
勢い余って転倒してしまったがなんとか太もも、お尻の二大難関を突破…しかし問題はここからである
「ゼェ…ゼェ…やったぁ…」
汗をかき息を切らせるヒロミ、後はファスナーを上げてボタンを閉めるだけなのだが…
「うそ、何これ…」
ショートパンツはファスナーを上げる前からオーバーフローした腹肉に圧迫され強く食い込んでいた…
試しにふんっ!とお腹を凹ませてめいいっぱいファスナーを上げようとしたが、それでも凹みきらない柔らかなお腹のお肉が邪魔をする。
もにゅ、ぐにゅ…!!
先にボタンを閉めようともしたけどとても届かない。
とにかく肉が邪魔をする
「もうやだぁ、いつの間に私こんなに太っちゃったの、どうしよう…」
思わず言葉を漏らしてしまった…その時
「やっと認めたわね、太らないヒ・ロ・ミさんっ!!」
焦りすぎてすっかり忘れてた、背後からユウカの両手がヒロミの下腹部をがっちり掴む
「えいっ、このっ」
ぷるぷる
ユウカの手にこねられたヒロミの腹肉が波を打つ
「本当に太った事に気付いて無かったなんて!こんなに立派なお肉付けてるのに良く言えたものね」
「やっ…やだぁやめてぇえ!!」
恥ずかしさが限界を超え赤面し、身体をよじりユウカの魔の手から逃げようとしたその時
バッツーーン!!
「「あっ!!」」
「プッ…可哀想に…ショートパンツも限界だったのね」
ショートパンツのお尻が裂け中からパンツが顔を出す
そんな泣き出しそうなヒロミの前でユウカが笑う
「ふふんっ、ヒロミが悪いのよ、折角人がオブラートに包んでダイエットに誘ったのに気付くどころかあんな酷い事言うんだもの、これに懲りたらちゃんと一緒にダイエットしましょ」
してやったり形成逆転のユウカだったが…
バッ!!
「ってあっ、駄目セーターめくらないでそこは揉んじゃ駄目ぇ」
今度は再びヒロミの逆襲が始まる
「何よ!!やっぱりこんなにお肉隠してる、パンケーキみたいなお腹してるのは本当じゃない!!」
ぺちぺちとヒロミに叩かれるそのお腹はヒロミ以上にふかふかだった
「今はそういう話じゃなくて!!私は自覚してるからいいの!!
「…いや良くないでしょ」
「言ったわね、もう許さない!!」
バタバタと揉みつ揉まれつキャットファイトに発展する二人
その姿は険悪なものではなくただのヤケクソなのだろう。
こうして1人の女性の前に衣類は敗北し2人のダイエットは幕を開けた。
おわり