493氏による強制肥満化SS
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「はーっ…はぁ…っ」
「―――おい、おい千早。聞いてんのかおい」
都内某所、某レコーディングスタジオにて。
最低限の防音設備しかないこの安スタジオを貸しきって、ひたすらボイストレーニングに励む少女の姿があった。
「は…っ、はい、聞いてますよ。何ですかプロデューサー」
「何ですか、じゃねえよ。ちったぁ休めって言ってんださっきからずっと」
「何を…言ってるんですかプロデューサー。まだまだ足りません、もう2時間追加でお願いします」
汗だくになりながらもヘッドホンとマイクを離さない少女に、プロデューサーと呼ばれた青年は大きく溜息を吐いた。
「お前なぁ…何度も言ってるだろが。筋トレだろうがボイトレだろうが同じだ、適度な休息を挟まないと能率は上がるどころか落ちてく一方なんだよ。そのくらい知ってんだろ」
「それは――」
「あぁ一応言っとくけど気の持ちようとか言ったらキレるからな。俺がこの世で最も嫌いなものは根拠のない根性論だ」
ぐ、と言葉を飲み込んだのが分かる。図星だったか。
納得いかないのかスタジオの中で俯く少女に、こいつぁまだまだガキだ、と男は肩を竦めた。
無謀ともいえるストイックさでレッスンを続ける彼女の名は如月千早。
歌に関して天賦の才を持ち、彼女自身も世界一のシンガーを目指して日々努力している…のだが、見ての通り自分の限界というものが見えていない節がある。
(…いや、むしろ見て見ぬふりをしているのか)
生活の全てを犠牲にしてまで『歌』に取り組むその姿勢はある種病的ですらあるが、それゆえに―――それだからこそ尊いと、美しいと思えるものでもある。
プロデューサーである彼は儚くも妖しい魅力を放つその輝きに惹かれ、彼女の専属Pとなることを決めたのだ。
…思えば、これも惚れた弱みというものなのかもしれない。
当然、アイドルに恋愛はご法度なのでこの想いは胸に秘めたまま墓まで持っていくつもりだが。
「くっ…仕方ありません。あと1クールやったら今日のトレーニングは終了にします」
「本当は今すぐやめさせたいとこなんだが…しゃーねぇな。これで終われよ」
もう一度嘆息し、彼はスタジオの隅へと戻っていく。
その姿を横目で見やりつつ、千早は意識を目の前のマイクに戻した。
(―――そうだ、私は立ち止まらない)
脳裏に浮かぶのは、幼き日の約束。
(あの子のために、私は立ち止まれない)
彼女は歌う。
(弔いにならなくても、償いにならなくても)
彼のために。
(私の歌で、あの子の魂が鎮まるなら)
世界の全てが、目の前のマイクに収斂していく。
彼女の存在が、思い出の中へトリップしていく。
幻めいた、記憶の中から、
蒼い髪の少年が、
笑みかけて、
(私は―――)
如月千早の意識は、そこで途絶えた。
[壁]
「―――」
「お、気がついたか」
ふと目が覚めると、自室ではなかった。
安堵したような、聞き覚えのある男の声に抱かれるようにして、千早の意識はゆっくりと覚醒していった。
「…ここは……?」
白い壁に黒い家具が目立つモノトーンを基調とした部屋。ある程度清潔には保たれているようだが、机の上に書類が散乱していたり流しに洗い物が溜まっていたりと、細かい部分に部屋の主の大雑把さが滲み出ていた。
(誰の部屋だろう…今の、プロデューサーの声…ということは)
未だもやのかかった思考を惰性で回転させながら、状況の判断に努め…そこで、スイッチが入ったように頭がクリアになる。
(…彼の、部屋?)
状況が、一気に雪崩れ込んできた。
「…! ぷっ、ぷぷプロデューサー! ここここれはどういうことですか! 何で私プロデューサーの部屋に―――あうっ」
「あぁほら、目が覚めたばっかで無理すんなって」
弾かれたように立ち上がると同時に唐突に訪れたブラックアウトに思わず倒れかかるも、青年の腕に優しく抱きとめられる。
意外と逞しい―――じゃなくて。
「覚えて…ないだろうなぁ。お前レッスン中に倒れたんだよ」
「倒れた…?」
「貧血だとさ。つっても栄養失調寸前のかなり重いやつだったみたいだけど」
栄養失調。実感のわかない単語だ。
貧血を起こすことは昔からよくあった。体質のようなものだろうと思っていた。
それでも、今回のように記憶ごとばったりと倒れることは滅多になかったのだが。
「お前なぁ…聞いたとこによればろくな飯食ってなかったそうじゃねえか。一日二食でカロリーメイトとゼリー飲料だけってバカじゃねーのお前」
「ば…バカとは何ですかバカとは! …っ」
「叫ぶな叫ぶな」
「だ…誰に聞いたんですかそんなの。私一人暮らしなのに」
「大家さん。意外と世間様ってのはよく見てるもんだよ」
「…くっ」
まさか見られていたとは。世話焼きなご婦人だとは思っていたが。
仕方ない話ではないか。料理もできないし食べることが特別楽しいわけでもないのだ。食事は栄養補給、レッスンがあるのにそんなものに手間をかけているわけにはいかない。
「で、だ」
内省――という名の自分への言い訳――をやめて顔を上げると、彼は普段より随分と真面目な顔をしていた。
「向こうさん…あぁ、お前の住んでるマンションの大家さんとも話したんだが」
「…? はい」
唐突な話題転換に、戸惑いつつも千早は頷く。
「お前、―――うちで預かることになったから」
「……………は?」
とぅーびーこんてぃにゅーど?
[壁]
如月千早
年齢:16 身長:162cm 体重:44kg
B:72 W:55 H:78
#,THE IDOLM@STER,アイマス,アイドルマスター
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