493氏による強制肥満化SS

493氏による強制肥満化SS

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「…う、うちで預かるってどういうことですかプロデューサー!」
「お、再起動した」
 しばし放心していた千早だが、はっと我に返ると混乱しつつなんとか問いを放る。
 いくら自他ともに認める歌狂いとはいえ、千早も年頃の女だ。見たところ2部屋型のマンションのようだが、だとしても男性と二人暮らしができるほどには自分を捨てきっていない。
「再起動したー、じゃないです! 何でですか! 私ずっと一人暮らしだったんですよ!? 自分のことくらい自分でやります!」
「…あのなぁ、千早よ」
「…な、なんですか」
 呆れたように半目で睨めつける彼にたじろぎつつも、千早は気丈に彼を睨み返した。
「お前、今日倒れたよな?」
「はい」
「倒れた原因は?」
「…え、栄養失調…です」
「何でこうなったか言ってみ?」
「食事が…偏ってた、から?」
「なぜ疑問形。お前それ『自分のことくらい自分で』できてねーじゃん」
「うっ…」

 やれやれ、と首を振る彼に、千早は何も言い返せない。
 自分が栄養失調で倒れたことも、家事全般からっきしなのも事実だからだ。
 さすがに洗濯くらいは―――と思ったところで、先日上着のポケットにティッシュを入れっぱなしにしていてひどい目に遭ったのを思い出した。これもダメだった。
「つーわけで、お前は今後しばらくうちで暮らすこと。さっきも言った通り大家さんには連絡してあるから、必要なもんがあったら体調が戻ってから取りに行けな」
「くっ…分かりました。…で、でも! ヘンなことしたら許しませんからね!」
「病人に手ぇなんぞ出すか阿呆」
「…むぅ」
 再び半目になって言い切る彼に微妙な気分になりつつ―――いや手を出されても困るのだけれど―――、千早は憮然とした顔で頷く。
 かくして、アイドルとプロデューサーの同居生活がスタートするのであった。

 

[壁]

 

 古来より、腹が減っては戦は出来ぬ、という格言が唱えられてきた。
 戦にしろ仕事にしろ、全ての基本になるのは『食』だ。
 食を疎かにする者には、良い結果は舞い込まない。
「…というわけで、お前にはまず『食』の大事さを知ってもらおうと思う」
「はぁ…」
 量販店で買ったと思しき黒の丸テーブル―――脚に『御値段相応。カワシロ』と書いたシールが貼ったままになっている―――を囲み、如月千早とプロデューサーはお茶を啜っていた。
「つっても難しいことじゃない。お前、今までまともな食事を摂ってこなかったんだろ?」
「付き合いで外食をすることはありましたが…まぁ、はい」
 千早の食事はほぼ例外なくカロリーメイトとゼリー飲料である。たまに同僚の春香や美希に誘われて断りきれずにファストフード店に足を向けることもあったが、そこでも注文していたのはハンバーガーを1つにドリンク程度。とてもではないが褒められた食生活ではない。
「だから、俺が料理を作ってやろうってな」
「…プロデューサーが……?」
「おい何だその目は」
 いけないいけない。目で語っていたか。
 だってそうだろう、普段は無精髭に散髪すら面倒がっているのかやや伸びた髪、スーツもシャツもよれよれで最低限清潔にしてある程度のこの男が、料理ができるなどと誰が想像できようか。
「まぁ…いいでしょう。どうせ私には料理などできませんし、舌もそこまで肥えているとは言えませんし」
「―――言ったな?」

 いかにも期待していない、といった調子で言う千早に対し、帰ってきたのは彼の不敵な笑みだった。
 怒るかな、と内心気にしていた千早は、その反応に些か面食らう。
「よっしゃ任しとけ。お前に『食事』の楽しさと大切さを思い知らせてくれるわ!」
「…そこまで言うなら、お任せします。プロデューサー」
 でもその台詞はちょっと悪役っぽいです、と言葉には出さずツッコミを入れる千早だった。

 

[壁]

 

「めとめがあうー、しゅんーかーんすーきだーとーきづーいたー♪」
「…………」
 キッチンから楽しそうな歌が―――鼻歌ではなく普通に歌っている―――聞こえてくる。音程もリズムもガタガタだが、とりあえず当人が楽しそうなのは伝わってくるので触れないでおくことにした。
 でも何でよりによって『目が合う瞬間』なんですかプロデューサー。
 午後7時。テレビでは偶然にも先日収録した番組が放映されていた。画面の中で歌い踊る自分にはいつまで経っても慣れそうにない。
 自分の歌声を聴き流しながら、彼女はソファに身を沈めた。
 彼が立っているキッチンからは、美味しそうな匂いが漂ってきている。食欲を刺激する香辛料のそれではなく、出汁のふんわりとした優しい匂いだ。
(…なんて、知った風に言っても、私には正解かどうかなんて分からないのだけれど)
 ふぅ、と息を吐く。
 こと食に関して、千早の知識は乏しい。
 さすがに料理の名称くらいは一般常識程度に知っているが、どうすれば作れるのかなど皆目見当もつかない。
(女の子らしく、なんて。今まで考えたこともなかったのにね…)
 自嘲気味に笑う。
 歌だけを頼りに生きてきた自分が、そんな『女の子みたいなこと』を考えていることが。
 彼女にはなぜか、酷く滑稽に思えた。

 

[壁]

 

「いただきまーす」
「…いただきます」
 食卓に並んだたくさんの料理に、千早は目を白黒させた。
 肉じゃが。ほうれん草のおひたし。鯖の塩焼き。ねぎと豆腐の味噌汁。きゅうりの浅漬け。そして白いご飯。
 お手本のような日本の家庭料理がそこにあった。
「…これは……すごい、ですね」
「だろ? ふふーん、見直したか」
 渾身のドヤ顔をキメるプロデューサーを無視して、千早の目は食卓に釘付けのままだ。
 さすがに病み上がりということで千早の分の量は少なめだが、胃に負担をかけずかつ栄養素をバランスよく摂れるよう献立が工夫されている。
 認めたくない―――というわけでもないのだが、彼の料理の腕は確かに本物のようだ。
「ま、とりあえず食おうぜ。冷めちまったら台無しだ」
「そうですね…」
 言って、彼女はまず鯖の塩焼きを口に運ぶ。よく脂の乗った身は箸で摘んでも崩れない。
「ん、―――おいしい」
「ふふん」
 ドヤ顔。無視。

 味は非常にいいので素直に感嘆しつつ、彼女は次におひたし、味噌汁と箸を進めた。
「…プロデューサー、すっごく美味しいんですが…料理人か何かなさっていたのですか?」
「あー…」
 もはや驚く以外にない千早が尋ねると、それまでの得意げな様子が一転、なぜか彼は言葉を濁した。
 怪訝に思いながらも、彼女の箸は止まらない。
 おひたしはしっかりと芯まで火が通っていながらもしゃきしゃきと歯ごたえが残っているし、味噌汁はやや薄味で出汁が利いている。
「おいおい、そんな急いで食わなくても料理は逃げやしねぇって」
「むぐ…失礼しました」
 ついついがっついてしまった。
 こんなに美味しい料理を食べるのは初めてであるとはいえ、見苦しい食べ方をするわけにはいかない。
 気を取り直し、彼女は未だ手を付けていない皿―――肉じゃがに箸を伸ばす。
 そういえば、かつて母が肉じゃがを作ってくれたことがあった。
 あれはまだ、弟が生きていた頃。家族皆で食卓を囲み、その日何があったか嬉しそうに母に報告する私と弟、それを優しい笑みで聞く母、それは私達にとっての『幸せ』そのもので―――。

 

 口に入れた瞬間、ぽろり、と。
 彼女の目尻から、涙が零れた。

 

「ち、千早!? どうした!?」
「だ…大丈夫、です。なんでもありません」
 優しい味だった。ただ美味しいだけではない、食する者に郷愁を与えるような、そんな味だった。
 母が作ってくれた肉じゃがを思い出して、つい涙腺が緩んでしまった。
「そ…そう、か? ならいいんだが…」
「えぇ…ありがとうございます」
「うん?」
「…いえ」
 今更に気恥ずかしくなって、千早は残りの料理を口に運んでいく。
 十数分後、彼女は全ての料理を綺麗に平らげた。

 

[壁]

 

「ごちそうさまっしたー」
「ごちそうさまでした」
 両手を合わせ、目を閉じて呟く。
 千早の心には、満腹感とは違う言い知れぬ満足感が広がっていた。
「…で、どうだったよ? 俺の料理は」
「すごく…美味しかったです。見直しました」
「ふふん、そうだろうそうだろう」
 ドヤ顔。無視。
「まぁそれはともかくだな、こういう食事ってのも悪くはないだろうよ。確かに食事は栄養補給のためのものだしそれを疎かにするこたぁできねぇが、何も栄養を補給する『だけ』じゃねえってこった」
「えぇ」
 心からの同意とともに頷く。
「私は今日、食事によって心を揺さぶられました。作り手の思いが伝わってくるような、そんな優しさと懐かしさをこの料理から感じました」
 先ほどの涙は、その証左だ。
 千早の心に、それまで想像だにしていなかった方面からのアプローチによって新しい感動が生まれたのだ。
「この感動は、きっと私の力になります。私の歌に、新しい輝きを与えてくれる」
 だから、

「ありがとう、プロデューサー」
「…おう」
 照れたようにそっぽを向く彼に、くすくすと笑みを零した。

 

[壁]

 

 そして、翌日以降。
 千早の食事量はゆっくりと、だが確実に増えていった。
「むぐむぐ…プロデューサー、おかわりお願いしていいですか」
「お、いいぞいいぞ。今回のシチューは自信作なんだ」
 嬉しそうな顔で鍋からあつあつのクリームシチューをよそうプロデューサーの後ろ姿を、千早はある種の尊敬の眼差しで見つめていた。
 私が16年間固持してきた『食事は栄養補給でしかない』という固定観念を、この人は見事に叩き壊した。
 今まで歌のことだけを考えて生きてきた私に、新しい生き甲斐を与えてくれた。
 つい先日の私に、今の心境を吐露しても絶対に信じてはくれないだろう。こんなに近くに、こんな幸せがあったことを、私は知らなかったのだ。
 なんと愚かなことだろうか。プロデューサーには感謝してもしきれない。
 この『食事』という行為から得た感動が私の歌をさらに高めてくれる。その充足感で食事はさらに感動を増す。
 プロデューサーの料理があれば、私の歌はどこまでも高みへと昇ることができる。そんな予感すらしていた。
「はいよー、おかわりお待ち。ちょっと多めに盛っちゃったから食べきれなかったら残してもいいからな」
「大丈夫ですプロデューサー。プロデューサーのご飯ならいくらでも食べられる気がします」
「…素直に褒め言葉として受け取っとくわ」
 ぶっきらぼうに言い放つも、耳たぶが明らかに赤い。照れている彼に穏やかな気持ちになりながら、千早はスプーンを口に運び続ける。
 結局この日、彼女は3杯のクリームシチューと2膳のご飯をきれいに平らげた。

 

[壁]

 

「……あれ………?」
 如月千早が栄養失調で倒れ、同時に食の喜びに目覚めてから一週間後。
 医者からは2週間の療養を言い渡されているためまだレッスンには戻れない(彼女はもう大丈夫だと訴えたのだがプロデューサーが全力で拒否した)が、もう外出程度なら大丈夫だろうという判断で、今日は気分転換も兼ねて街へ出かけることにした。
「おーい千早ー。まだかかりそうかー?」
「え、えぇ…ちょっ、と、待って下さいねっ、ふぬぬ…そんなはずは…!」
 千早に割り当てられた部屋の外で、彼は手持ち無沙汰にその辺に転がっていたヨーヨーを弄んでいる。クラッチが2つ仕込まれた最新式だ。
「…っていうか何してんの?」
「!? ま、待ってください! 絶対開けないでくださいよ!? 絶対ですからね!」
「……フリ?」
「違います!」
 ロングスリーパーから指に巻き付けブランコ、崩してドッグウォークから一旦手に収めてループザループ。流れるような動作だが観客はいない。
「つってもお前もう1時間以上篭ってんぞ。着替えとメイクにしてもさすがに長すぎねーか」
「…うぅ」
 ワープドライブをしようとしたところでさすがに天井にぶつかることに気付いたのかキャッチしてムーンサルトへ移行する。
「……分かりました。今出ます。……笑わないでくださいね?」
「は? 笑う?」

 最終的にスリーパーを待機させたままあやとりを始めストリングスプレイスパイダーベイビーが完成したところで、彼女の部屋の扉が開いた。

 

「―――!?」
「…っ! やっぱり出かけるのやめます! 一生家で過ごします…っ!」
「ま…待て待て待て! 笑ってない! 別に笑ってないから!」
 千早の悲痛な叫びに、慌てて弁解をする。焦りすぎてヨーヨーを取り落とした。
 実際、面食らっただけで笑ってはいない。
 そう―――面食らっただけだ。
 彼女の変わり果てた姿に。
「うぅ…こんな格好で外なんて歩けません…」
 涙目でそう呟く千早は、なんというか―――ひどく窮屈そう、であった。
 いつものパンツルックにジャケットを合わせたコーディネートだが、まずジャケットが見るからに狭そうだ。恐らく―――元々そういう着こなしをするようなデザインではないにせよ―――前のボタンも閉まらないだろう。
 以前は余裕すらあったはずのスキニージーンズも、今にもはちきれそうなくらいパンパンに張っている。
 散々気にしていたはずの胸は一般に巨乳と呼んで差し支えないレベルにまで成長し、Tシャツの柄を虐めていた。
 胸から視線を下げると、あまり目立たないが腹部もだいぶ膨らんでいる。…というかシャツの裾丈が合わなくなってしまったのか、ジーンズに乗り上げた下腹部が見えてしまっている。
 こういうの何ていうんだっけ…。
「……あぁマフィントップだ。思い出した」
「…?」

「ごめん何でもない」
 だいぶ丸顔になった千早が首を傾げたが流す。
 しかしこれは…。
「…まぁ、その、何だ…健康的に、なった、な?」
「慎重に言葉を選びながら言われると余計傷つきますね」
「すまん…」
「いえ…実際太ってしまったのは否定できませんから」
 彼女の言うとおり、小枝のように細かったボディは随分と豊満になっていた。
 これならグラビアアイドルとしてもやっていけるレベルだろう。本人は嫌がるだろうが。
「とにかく…今日の外出に目的ができてよかったじゃねーか。服買いに行こうぜ」
「えぇ…この格好で外に出るんですか…?」
 すっごい嫌そうな顔をするが、遅かれ早かれ服は買う必要があるだろう。
 まさかプロデューサーだけで千早の服を買いに出るわけにはいかないし、さすがに通販で服を買うのは厳しいし。
「大丈夫大丈夫。今日は平日だしこの時間ならまだ人も少ないだろ」
 楽天的に言ってのけるプロデューサーを見て彼女が嘆息するも、気付かないふりをして手を引いてやる。
「さっさと行くぞ。昼時になったらもっと人通り多くなるんだし」

「くっ…分かりました。行けばいいんでしょう行けば!」
「何でキレてんのお前…?」
 半ばヤケになって叫ぶ千早に怪訝な目を向けつつ、戸締りを確認して家を出る。
 双方とも、これが客観的に見て『デート』と呼ばれる行為であることには気付かずに。

 

[壁]

 

如月千早
年齢:16 身長:162cm 体重:44kg→56kg
B:72 W:55 H:78
→ B:88 W:67 H:92

 

#,THE IDOLM@STER,アイマス,アイドルマスター

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