◆nTUiVpCzdQ氏による強制肥満化SS

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07

 

それから一週間、セーリュはひたすら食べ続けた。
出された食事もそれなりにバラエティに富んでいた為飽きる事もなく、今ではこの暴食に快楽さえ感じ始めるようになった。
何も考えずに、ただ家畜の如く与えられた餌をむさぼり続けるだけ。
時折、いっそこのままでいいのではないかと言う考えが頭を横切るようになったが、その度にセーリュは我が家を思い出し固く決意した。
この食事は、再び自由を得る為の手段に過ぎないのだと。
そして七日目、セーリュが夕食の特大ハンバーガーを食べているとロイドが部屋に入ってきた。
「……なんか、見るからに大きくなってるよね」
「はふっ、ほうへふ?」
「ほら、食べながら話さない」
残った数口を口に含み、練乳で流し込むと、セーリュはナプキンで口を拭いた。
「でも、さすがに十キロも増えてるとは思わないんですけど」
正直、街に出てみたかったので約束の十キロは太りたかったのだが、強制飲食も無しでそこまで太る事はできないだろうとセーリュは思っていた。
「そうかな? 前はここまでお腹が出てなかったと思うけど」
太ももにどぷんと乗っかるセーリュの大きなお腹を突きながらロイドは言う。
「ちょっ、ロイドさん!」
「前はこれを全部片手で掴めたような気がするし」

セーリュのお腹の肉を鷲づかみにするロイド。
「やめてください!」
ロイドを振り払い、セーリュは突き出る腹部を両腕で隠すように守る。
「私だって恥ずかしいんだから」
「先週まではセーリュだって楽しそうにそれで遊んでたじゃないか」
「それとこれとは別、もうロイドさんが触るのは無しです!」
何故かロイドに触られると妙に興奮してしまう。セーリュはそれが怖かった。
「はいはい、それじゃあとりあえず体重量ろっか」
「はい」
立ち上がろうとすると同時に膝に乗っていた腹の脂肪が一気に重力に引っ張られるが、なんとか踏ん張ってバランスを保った。
脂肪がつきすぎたお腹は今までのように突き出るだけではなく垂れ下がるようになり、歩き難さに拍車を掛けていた。
ロイドが持ってきた体重計に乗ると、ロイドが驚きの表情を見せる。
セーリュ自身はお腹が邪魔で体重計の表示が見えない為、彼に尋ねた。
「どうです?」
「すごいな、目標達成どころか四キロオーバーじゃないか」
「オーバーって、そんな――」

「104.8キロだよ」
まさかの増量にセーリュは目を丸くする。自分は無意識にここまで食べていたと言うのだろうか。
ついに体重が100キロを越したと言うのも不思議な感覚である。
元々の倍以上の体重であると言う事は、脂肪が自分のもう一人分の量あると言う事になる。
大きく柔らかい腹部に手を乗せながらセーリュはため息を吐いた。
「それじゃあ、約束通り明日は街まで出よ」
「本当に大丈夫なんですか?」
再び研究所から出られるのはうれしいのだが、どうしても自分を家畜呼ばわりしたあの女が許可を出すとは思えなかった。
「まあ、姉さんも君がたった一週間でそこまで太れるとは思ってなかったみたいでさ、
意外とすんなり外出許可を出してくれたよ。才能あるんじゃない?」
「太る才能なんていりません」
「今はその才能が役に立ってるじゃないか」
ふてくされるセーリュのへそを突っつき、ロイドは言う。
「ちょっ、ロイドさん!」
「ごめんごめん、それじゃあまた明日ね」
「もう……」

ロイドが部屋を去っていくと、セーリュは何故かその場に立ったまま自分のお腹を揉み始める。
自分の腹部から突き出る脂肪の塊は手が触れる度に激しく揺れた。
お腹が揺れる度に体がその贅肉に引っ張られるような感触に見舞われる。
自分の肉体がこの脂肪に縛られていると言う屈辱は、いつのまにか快感に近いものとなっていた。
でも、やはりロイドが揉んでいる時の感触とは違う。
急に顔が火照り始めてきた事に気づき、セーリュは首を振る。
――なにやってるんだろ。
太る事によって精神的にも変わり行く自分を、セーリュは少しだけ怖くなった。

 

 

 

翌日、セーリュはシャワーを浴びていた。
実験が始まったばっかりの時はアウターの水風呂と違って無制限にお湯が出てくる事があまりにも嬉しく毎日のようにシャワーを浴びていたが、次第にその感動も薄れ、最近は三日に一度程度になっている。
そもそも食っては寝るだけの生活なので汚れる事もないし、なによりどんどんとシャワーも浴びにくくなっていた。
セーリュは石鹸をスポンジに含ませると、片手でスイカのような大きさの胸を持ち上げ、もう片手で乳房の下側を洗い始めた。
太るにつれて手の届かない場所や洗わなければいけない面積が多くなり、かつては五分で終わらせられたシャワーも今は十五分以上掛かる。
おまけにシャワールーム自体結構狭く、振り向いただけでお尻やお腹がガラスにぶつかってしまう。シャワールームに入る事すら出来なくなる日もそう遠くないだろう。
また一つ、この脂肪のせいで出来なくなる事がある。
そんな事を考え、軽く欝になるもののセーリュはすぐに気を取り直す。
今日は待ちにまった日なのだから。
――ロイドと二人で街に出かけられる。
世間ではデートと言うのものだろう。もっとも、こんな状況ではそうとは言い難いが。
だが、実際にロイドと過ごす時間は楽しいし、昔からクレイドルの人々がどの
ような暮らしをしているかには興味があった。なので一石二鳥そのものだ。
その為に一週間頑張って太ったのだから、今更弱音を吐いている場合じゃない。
泡だらけになったまんまるな体を満遍なくお湯で流すと、シャワールームを出て近くに掛けてあるバスタオルを体に巻く。
葉を磨き、ブラシで髪を梳かしながらドライヤーで乾かすと、バスタオルで体を拭き、洗面台において置いた下着を身に着ける。

先週買ってもらったばっかりのなのだが、すでにサイズが小さくなりつつある。
全身の肉を震わせながら必死にパンツを履き、ブラに溢れんばかりの胸を詰め込むと、目の前に置かれた真の難関を見つめる。
先週ロイドがくれた白いワンピースである。
街に出るとなれば普段のスエットパンツとタンクトップと言う格好じゃいけないのは当然だが、先週着た時すでにきつめだったこのワンピースが、今のセーリュに着れるのかどうか……

 

「なにはともあれ、試すのみ!」
そう意気込み、セーリュは上からワンピースを被るように着る。
首はすんなり入り、両腕も少々きつかれど袖を抜けたが、問題はここからだ。
二つの大きな膨らみが生地の進行を邪魔する。
ためしに少し引っ張ってみるものの、やはり胸が邪魔だ。
ならば、とセーリュは両手でワンピースを掴み、一気に引っ張る。
「えいっ!」 
作戦は成功し、なんとかワンピースは胸を通過した。
だが、その先にあるお腹は一筋縄ではいかないだろう。
胸よりさらに突き出てる為、強引に引っ張ろうとも弾かれるだけに違いない。
ワンピースを左右にずらしながらセーリュはゆっくりとワンピースを身に着けていくが、脂肪の山の頂点であるおへその少し前で動かなくなってしまう。
必死にお腹を押さえ込みながら生地を下ろす事によってお腹はクリアしたが、今度は反対側がお尻に引っかかる。
最終的に幾多もの苦難を乗り越えてなんとかワンピースを身に着ける事に成功したが、鏡に映る自分の姿は滑稽以外のなにものでもない。
限界まで引き伸ばされたワンピースはボディースーツのごとくピチピチにセーリュの体に張り付き、腹とお尻の突き出るだらしない体のラインを強調させる。 
ワンピースの丈もあきらかに足りなく、太ももは完全に露出しており、ギリギリお尻を隠せる短さだった。
服の素材が良質な為か、前のボロワンピースのように破れる心配はなさそうだが、これではまるで夜の繁華街に現れて男を誘惑するお姉さんのようである。

もちろん、こんな体では男など寄ってこないだろうが。
「おはよう、セーリュ」
部屋の扉が開き、いつも通りの姿をしたロイドが現れる。
「おはようございます」
「もう出かける準備は万全みたいだね」
「……結構恥ずかしいんですけど」
ロイドは下から上までセーリュを見つめると、平然とした表情で言う。
「まあ、そう言うのもいいんじゃない?」
「よくないですよ、いやらしい」
「じゃあ街行くのやめる?」
「これを着るのにどれだけ苦労したと思ってるんですか? 行きます!」
「じゃあ決定だ、さっそくいこ」
「はいっ!」
ロイドに続いて実験室を出たところで、セーリュはふと気になった事を尋ねる。
「ロイドさんは着替えないんですが?」
彼はいつもの白衣姿であり、得に余所行きの格好ではない。

「他に服がないんだよ、研究以外で外出するのなんて何年ぶりかわからないし」
「……なんかごめんなさい」
なるほど、と思いつつセーリュは思わず聞いてしまった事を後悔する。

 

研究所の敷地から出ると、二人はバスに乗って目的地を目指す。
途中、住宅地と思われる場所を通り、セーリュは驚愕する。
舗装された道路はヒビ一つなく、両側に建つ家はどれもマルタの孤児院のような大きさだった。
正面には綺麗に切りそろえられた芝生があり、家の隣には車庫がついていた。
「これってどれも一軒家なんですか?」
「うん」
「こんな大きなお家に住む人がいるなんて……」
「セーリュの家はどんなんだったの?」
「珍しいですね」
「何が?」
「ロイドさんが私に質問するのって、初めてじゃないですか」
「そうかな」
ロイドは頭の後ろで腕を組む。
「確かに、僕って昔からあんまし他の人に興味がなくてさ」
「いっつも自分の世界に閉じこもってる人ですもんね」
セーリュを見つめ、ロイドは笑う。

「あれ、バレた?」
「始めからバレバレです」
窓から立ち並ぶ豪邸を見つめ、セーリュは言った。
「私は、物心つくころから孤児院に住んでました」
「そうなんだ」
「だから親の顔なんて知らないし、なんで自分が念力を使えるかもわからない」
「……」
「でも、そんな人はアウターにはごまんといるんです。親のいない子供たちや、食べ物のない人たち。明日があるかもどうか分からない世界で怯えながら生きている人たちが」
ロイドは何も言わず、ただ彼女の話を聞き続ける。
「だから、こう言うのを見るとちょっと気持ち悪くなります。同じ人間なのに、なんでこんなに差があるのか、って」
「……いつだって人はこんなものだよ」
「ロイドさんは一度言ってましたよね、支配する側に生まれるか支配される側に生まれるかは運だって。だったら私はとても運の悪い人です。支配される側に生まれてきた上に念力を持ってしまったせいでこんな目に会わされるんだから」
「――うん」
「だけど、だからってそのままでいいなんて納得したくないんです。今が幸せなロイドさんやクレイドルの人々はそうかもしれませんけど、今までがそうだからって、この先もずっとそのままの世界なんて私は嫌です」
するとさきほどから考え込むような仕草を見せていたロイドはついに口を開く。
「僕だって気づいてるよ、今の状況がいかにおかしいか」

「だったら――」
「だからって自分に何かができる訳じゃない、だったら周りから目を背けてただ自分の好きな事をして生きていけばいいと僕は思ってた。セーリュの言う通り、自分だけの世界に閉じこもってる。僕も、クレイドルの全ても」
しばらくの静けさの後、セーリュは口を開いた。
「……なんだか重い話しちゃってごめんなさい。せっかくの気晴らしなのに」
「いいよ、現実問題なんだしね。あっ、ここで降りるよ」
「はいっ」
バスを降りると、目の前にはお洒落なレンガ街が続いていた。
「すごい……」
色とりどりの商店を見つめながら、セーリュは目を丸くする。
「クレイドルの若者たちに人気のスポットだよ。洋服屋や喫茶店を初めとして色々あるんだけど……僕もあんましこないからよくわかんないや」
するとまるでロイドの言葉に返答するかのようにセーリュのお腹は鳴った。
「すいません……普段はこの時間帯に食事するから」
ロイドはふっと笑い、セーリュのお腹に手を乗せる。
「そうだね、じゃあ食いしんぼうなセーリュの為に早速朝ごはんにしようか」
「誰のせいでこうなったと思ってるんですか!」
「はいはい」

抗議するセーリュを軽くあしらいながら、ロイドは歩き始めた。
「もう、ロイドさんの意地悪」

 

近くの喫茶店で朝食を済ませ、二人は商店街を歩き始めた。
「ふう〜、お腹いっぱい」
五人前の朝食でパンパンに詰まったお腹はただでさえキツキツのワンピースを限界まで引き伸ばしており、破れていないのが不思議なくらいである。
「今更だけど、念力発電実験って食費だけでも相当掛かってるんだね」
財布の中身を見つめながら落胆する。
「それを覚悟の上で誘ったんじゃないですか?」
些細な復讐を果たせた事を喜び、セーリュはクスリと笑った。
「お昼もよろしくお願いしますね」
ロイドはため息を吐き、財布をポケットにしまう。
「まあ、自ら太ってくれるんだからそれに越した事はないんだけど」
その一言で、セーリュはここにきてから薄々と気づいていた事を口にする。
「そう言えば、なんかここって太った人が多いですよね」
セーリュほどでないにせよ、他の通行人や喫茶店にいた人たちは殆どがぽっちゃり以上だった。
一部はセーリュと同じぐらいの重量の人や、セーリュより更に太っている者まで見かけた気がする。
「統計によるとクレイドルの人口は半数が過体重かそれ以上らしいよ」
「ええっ!?」

驚くセーリュに、ロイドは平然と言う。
「これだけ食料が豊富なんだ、そうなるのも必然さ」
アウターでは食料はまともに手に入らないと言うのに……
「太ってる事が気にならないんですか?」
セーリュは、目の前を歩く女性の大きなお尻を見つめながら言う。それは歩く度に激しく揺れ、非常にみっともない。
自分も今後ろからみたらこんな惨めな姿なのだろうと思うとやるせなくなる。
「ううん、今じゃ太ってる事は美しいとされつつあるよ」
「えっ?」
「それがクレイドルの人間のやり方さ、自分を変えるより世界が今の自分を認めるように変えようとする。ある意味エントロピーの最終段階だ」
ロイドは目を細めてフェテュスを照らす人工太陽を見上げながら言う。
「でも、無理もないさ。もう人間に行くところは残されてない。この狭い地下都市で腐っていくだけだろうね」
「まだ、このフェテュスで変えられる事なんて沢山あります」
「アウターの事かい?」
セーリュが頷くと、ロイドは首を振る。
「そうかもしれない。だけどその先に何がある?」
「なにがって、沢山の人の幸せがですよ」

「それだけじゃ足りないんだよ、この衰退を覆すに――」
ロイドは急に言葉を止める。
「随分と都合のいい解釈だな」
いつのまにかロイドの後ろに立っていた小柄な人物がそう言う。
「あの……」
フードによって隠されたその顔を見ようとするが、その前にセーリュは背中に冷たく固いものを突きつけられるのを感じた。
おそらくこれがロイドが喋るのをやめた理由であろう。
「あの――」
「悪いが、一緒に来てもらう」
セーリュの背中に拳銃を押し付ける大柄な男がそう言った。
周りにこの異変に気づいているものはおらず、とても逃げられるような状況でない為、セーリュとロイドは言われるがままに謎の二人組に裏路地へと誘導される。

 

 

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