666氏その1

666氏その1

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第6話

 

 

夏休みも終わり、二学期が始まった。
二学期と言えば文化祭。
その目玉として、うちの学校ではミスコンを行なっている。
最近は高校でミスコンをやるところが少なくなってきて希少価値があるせいか、文化祭で最も人を集めるイベントとなっているらしい。
「美咲はミスコン出るの?」
「んー…どうしようかなあ」
美咲は迷っている。
今はぽっちゃり体型で、これはこれでいい線いっていると思うのだが、美咲にとってはNGらしい。
元が良かっただけに基準も厳しいようだ。
(うーん、ぜひ出場してもらいたいんだけど)
僕としては一番注目を浴びるミスコンで大恥をかかせたい。
だが、当の美咲があまり乗り気でないようだ。
「美咲なら優勝も狙えるって。エントリーしなよ」
「でも、なんか最近変なのよねえ。病気かと思ったけど、異常は見つからないってお医者さんは言うし…」
どうもここ2ヶ月ほどの不可解な太り方で気弱になっているようだ。
まあその気持ちは分かるが、ここは奮起してもらわないと面白くない。

「じゃあ、まだ時間はあるんだし、納得できるまでダイエットすればいいんじゃない? また調子が悪くなったらやめるってことで。別に今から諦めることもないでしょ」
「そうね… まあ、そうしようかな。ダメなら来年だってあるし…」
結局美咲はダイエットの調子次第で決めることにしたようだ。
(ふう。あとは出場する気になるように、最高のスタイルにしてやらなきゃな)
美咲が出場する気にならなければ何にもならないし、そもそも美咲を痩せさせてやったのは一度持ち上げたところでどん底に叩き落すためだ。
だったら思いっきりやってやろう。
それこそ元の状態よりも素晴らしい、モデル級の極上のスタイルに。
「よし、頑張るぞ」
「は? 平助が何を頑張るっての?」
「あ、いや、何でもない」
気負うあまり、つい口から言葉が漏れてしまった。
とにかく頑張ろう。

 

その日から僕は美咲のスタイル改造を始めた。
しかしいくら綺麗に痩せたとしても、変化が急激すぎるとそれはそれで不審がられる恐れがある。
幸い文化祭まではまだ1ヶ月以上あったので、以前に胸のサイズを変えた時以上にゆっくり変えていくことにした。
1日ごとにミリ単位でスリーサイズを操作し、体重も細かく変動させてやる。
何ともじれったい仕事でつい一気に変化させたくなる時もあったが、これも後の楽しみのためだと自分に言い聞かせて必死に我慢した。
こうして3週間が過ぎた。

 

「何着て出ようかなあ〜。水着は狙いすぎかな? あ、でも着るならもっと腰のあたりを減らさないと」
「別に今のままでも十分だと思うけど」
「ダメよ。今絶好調なんだから、この際減らせるところは減らしておかないと」
ミスコン出場を逡巡していた頃とは比べ物にならないほど美咲の口調は軽やかだ。
どうやら、自慢のスタイルと共に自信も取り戻したようだ。
今の美咲は元の体型とほぼ同じか、あるいはそれ以上にすっきりした身体になっている。
バストサイズもDカップ近くまで復活している。
本人はダイエットと並行して行なっていたバストアップ運動とやらの効果が現れたのだと思っているらしい。
「ま、この調子なら優勝はもらったも同然よね。他にめぼしい子もいないみたいだし。どうせ勝負にならないから今から辞退すればいいのにね〜」
もう完全に優勝した気になっている。
今さらなんだが、実に調子のいい女だ。
「でも油断は禁物だよ。ダイエットの後ってリバウンドしやすいんだろ? ミスコンまではあと2週間ちょっとあるわけだし…」
「大丈夫、逆にミスコンまでにもっと絞ってみせるつもりだから。ふふ、今から楽しみだな〜」
(僕も楽しみだよ。残りの期間で最高の身体にしてやるからな)

 

文化祭当日。
ミスコン会場の講堂は大勢の生徒や一般客で賑わっている。
今日の僕はノートパソコンを持参している。
携帯からでもプログラムを起動することはできるが、やはりパソコンの方が手馴れているし、 なんとなく心強い。
この大一番で失敗する可能性は出来るだけ減らしたかった。
既にミスコンは始まっているが、まだ美咲の出番までは間がある。
その間に、僕は美咲のデータを確認しなおすことにした。
 身長:164.8cm
 体重:51.0kg
 B:トップ90.5cm、アンダー67.6cm
 W:56.8cm
 H:88.3cm
この1ヶ月、僕は美咲の身長も少しずつ伸ばしてやっていた。
それも全体的に伸ばすのではなく、 脚を中心に伸ばしていたのだ。
数センチ程度伸びただけだが、脚が長く見えて綺麗だ。
また、身長を伸ばした分体重は昔よりも少し増えたが、そのかわりにスリーサイズは高校生とは思えないほど素晴らしいものになっている。

これだけいい身体をしていれば、すぐにでもモデルとして通用するんじゃないだろうか。
(おっと、そろそろ出番みたいだな)
美咲の出番が近づいてきたので、僕はステージに目を戻した。

 

そしていよいよ美咲がステージに出てきた。
その瞬間、観客席からは歓声が上がった。
(これはまた…気合の入った格好だなあ)
美咲は細いストラップの黒いスリップドレスを身に着けていた。
スリップドレスというとスレンダーな女性が着るイメージがあるが、美しいボディラインを持つ美咲にはよく似合っている。
大きく開いた胸元からは谷間が見え、実に色っぽい。
ああいうボディラインがもろに出てしまう服装は、かなり自分のスタイルに自信を
持っていなくては着られないだろう。
(いやあ、本当にいい身体になったなあ。頑張った甲斐があったよ)
出演者には自己PRを行なう時間が3分間与えられている。
美咲も他の出演者と同様にステージ中央に立ち、スピーチを始めた。
(さあ、ここからだ。じっくり見学させてもらうよ…)

 

 

*ここから美咲視点です*

 

ステージに足を踏み出した瞬間、歓声が私を包んだ。
ステージの真ん中まで歩いていって、一度くるっと回ってからマイクを持つ。
「こんにちはー。河野美咲でーす!」
(修一君見てるかな? しっかりアピールしとかなきゃ)
‥‥ざわざわ‥‥
観客席はまだざわめいている。
(ふふん、いい気持ち。ま、当然よね。こーんな可愛くてボンッキュッボンな女の子、他にいないもの。優勝したらいい機会だし、修一君に告っちゃうかな)
‥‥ざわざわ‥‥
(しかし、平助とこんなに長く付き合う羽目になるとは思わなかったわ。修一君に近づくにしても、もっと別の方法とればよかったかも。あんな冴えない男のお下がりなんて思われなきゃいいけど)
‥‥ざわざわ‥‥
(それにしてもうるさいわね。騒ぎたくなるのは分かるけど、もうちょっと静かに見れないの?)
‥‥ざわざわ‥‥‥ざわざわ‥‥
(もう、何なのよ! 喋ってるのは私なのに。…って、あれ? なんか、服がキツい…)
私は自分の身体に視線を這わせた。
すると、もともと大きい乳房がさらに膨れて開いた胸元から零れ落ちそうになっている。
「きゃっ! ちょ、何なの?」

慌てて胸元を腕で隠す。
その腕も、一回り太くなっているように見えた。
「な、なんで… 一体何が…」
思わずしゃがみ込む。いや、しゃがみ込もうとした。
しかし、腰の辺りがつっぱってしまって上手くしゃがみ込むことが出来ない。
どうやら腰回りも膨れあがっているらしく、タイトなドレスがぴったりとくっついてしまって動きを制限しているようだ。
「助けてっ! 誰か、誰かあ!」
そう叫んだが、周りの人達もどうすればいいのか分からないらしく、困った顔をするだけで何もしてはくれない。
そうこうしているうちに、ブチっという音を立ててストラップがちぎれ、上半身が露になってしまった。
「いやっ、見ないでぇっ!」
あまりの恥ずかしさに、私は舞台裏へと駆け出す。
走りにくい。ドレスがまるで拘束具のようにぎちぎちと下半身を締め上げている。
おまけに太くなった左右の太ももがこすれてしまって、むずがゆい。
「はっ…はっ…」
ほんの少し動いただけでも汗が出てしまう。
(一体どうなっちゃったの…私の身体…)

一刻も早くその場から離れたかった。
私は必死に駆けた。

 

「う… 何で、何で…」
舞台裏に駆け込んだ私は、誰もいないところで泣いていた。
泣き疲れたところでふと前を見ると、そこには全身鏡が立てかけてあった。
よせばいいのに、私はついその鏡を覗き込んでしまった。
「こ…これ…私…?」
顔は一回り大きくなっていて、ぷくぷくと膨らんだ頬の肉が目を細く見せている。
顎は二重になり、首から肩にかけてたっぷり肉がついている。
必要以上に大きくなった乳房は乳首こそ上を向いているものの、自身の重さを支えきれずに少し垂れ気味になってしまっている。
わきを締めるように立つと、わきの下の贅肉が押し出されてくるのが見えた。
膨らんだお腹は段を作っているのがドレスの上からでも分かった。
「ウソでしょ… こんなのって…」
すっきりとした小顔。
パッチリとした眼。
ツンととんがっていた綺麗な円錐形のバスト。
贅肉のひとつもない、引き締まったお腹。
すらっとした長い脚。

みんなみんな、どこかに消えてしまった。
目眩がして、私はしゃがみ込んだ。
今度はしゃがむことが出来た。
ドレスが圧力に耐え切れず、しゃがみ込む瞬間に破れてしまったからだ。
「やだ…やだよお、こんなの…」
手を顔に当て、私はまた泣き出した。
その手から伸びる指は、以前よりもずっと太かった。

 

 

*平助視点に戻ります*

 

美咲がステージから消えた後も、講堂内はしばらくざわついていた。
皆なんだか要領を得ない顔をしている。
僕だけが事情を分かっているというのは何となく気分がいい。
“ステージ上でマイクを持つと、4秒ごとに1kg太る。この変化は体重が100kgに達するまで継続する”
これが僕の設定した条件だ。
露出度の高いドレスを着ていてくれたおかげで脂肪の付いていく様子がよく分かり、非常に面白かった。
どうせならドレスが完全に破れてしまうまで見てみたかったが、これは贅沢な注文かもしれない。
(美咲も今回は相当堪えたろうな。もう十分かな…)
満足した僕はノートパソコンを閉じ、純粋にミスコンを楽しむことした。

 

 

―エピローグ―
あの後、僕の方から美咲に別れ話を持ち出した。
あんな身体で他に言い寄る男があるはずもなく、美咲は必死に僕を繋ぎとめようとしたが、 無論僕は取り合わなかった。
数ヶ月たった今でも美咲はダイエットに精を出している。
ようやく体重が80s台にまで落ちてきたらしいが、元の体型に戻るにはまだまだかかるだろう。
ちなみに僕の方はというと、顔は十人並みだが性格のいい子と付き合うことができた。
もちろん、その子には肉体改造プログラムを使ってナイスバディにしてあげた。
おかげで級友には「うまいことやったな」と羨ましがられている。
実に気分がいい。
そのうち気が向いたら美咲もちょっとは痩せさせてやろうと思っている。
…いつ気が向くかは自分でも分からないけどね。

 

 

(はっぴーえんど?)

 

 

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