624氏その1

624氏その1

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どういうこと、もしかして・・・グル?
いえ、そうではないはず、 グラウンドにも生徒はたくさんいる。
ここで数人仲間がいても仕方ないはずだ。

 

「あんたさぁ・・・なにいってんの?」
何がおかしいのか、もう一人の男に至っては腹を抱えて笑っている。
「篠崎美香ってのはさ、すっげぇ美人なんだぜ。お前みたいなデブが彼女なわけないだろ。」
なっ・・・・・
「そうだよおでぶちゃん。あの人がいなくなったから、少しはしゃいじゃったのかな。まぁあんたも顔はそこそこ綺麗だけどさ。いくらなんでも無理があるでしょう?」
「本当ですわ!私、本当に篠崎美香ですの!」
「おまえなぁ・・・ふざけんなよ!彼女の美しさは本当に神がかってるんだ。お前みたいなデブと一緒にすんなや。」
「そうそう、しっかしこんな力士みたいな女が学校にいたなんてなぁ。びっくりだぜ」
「あはははは! 確かに、一体ドコのクラスのバカだろうな。」

 

もうだめですわ!こんなバカども、学校に戻ったらすぐに退学にしてやる!
校門の近くに女の子が3人固まってる。
あの娘達は・・・私の周りにいつもいた娘達じゃない。
彼女達なら大丈夫だわ!

 

「あ、あのみなさん!」
彼女達は怪訝そうな顔をこちらに向ける。
「信じられないでしょうけど、私、篠崎美香ですわ! あのクラスの退学させた男に今まで捕まってましたの! 警察に、父に・・・連絡を!」
だが、彼女達の顔はうれしいというより・・・怒り・・・・
「はぁ!? あんた何いってんの? よりにもよって篠崎〜! ふざけんな!」
「どういうことですの?」
「ですの?じゃないわよ! あのバカがいなくなってせいせいしたっていうのに。次はオデブちゃんが篠崎ごっこ? それで私達が言うこと聞くとでも思っているの!?」
「そ、そんな・・・言うこと聞かせてなんか・・・。」
「あいつのせいで、本当に学校がだるかったわ!せっかくいい気分になってきたのに、あんたね!今度あのバカ女の名前かたってごらん。承知しないからね!」
「そうよ、第一あんた、自分を鏡で見たことあるの? 今度家に帰ったらもう少し現実を見ることねおでぶちゃん。」
「うう、ううう。」
「あれ〜、泣いてるの。隣の彼氏にでも慰めてもらえば〜 あんたに似て冴えなそうだけど!」
「キャハハハハハ!」

 

・・・あの男は気づいたら私のすぐ横にまできていた。
「なんですの!! 貴方は・・・こうなることを知っていたのですね!
ひどい! あんまりよ! 貴方、あんたのじいさんだって私のせいじゃないじゃない! なのになんで私に・・・あんたは退学になっただけだけど! 私はもっともっと最悪よ!!」
「・・・じいちゃんは関係ないよ。あれはあんたのお父さんの責任。あんたは関係ない。」
「じゃ、じゃあ何でよ! 何でこんなことしたのよ! ちょっとふざけて退学にしただけじゃない!そのくらい許しなさいよ!」

 

「そうだね、退学だけだったら・・・こんなことしなかったかもね。」
「ど、どういうことですの・・・。」
「俺さ、あのまま家に帰ったんだ。そしたらさ父さんや母さんが玄関にいてね。あ、以前は出来が悪いだなんだとバカにされて疎まれてたけど、勉強がんばったら親がやさしくなってさぁ、けっこう居心地がよかったんだぁ。」
「だ、だから・・・それがどうしたんですの?」
「出て行けっていわれた。」
「えっ・・・。」
「学校から電話がかかってきてたらしくてさ、もうお前みたいなクズはいらないって。目の前から消えてくれってさ。」
「・・・・・・。」
「俺、一生懸命説明したんだぜ・・・。それはあの女が仕組んだことだ、俺は関係ないってね。でも・・・まるで信じてもらえなかった。本当に、冷たい目で、俺を見てたんだ・・・。」
「そ、それは・・・・確かに気の毒なのかもしれませんが、でもそれは家庭の事情ですわ! 貴方達の親が元々悪かったのであって! 私はそれとは関係ありませんわ!」
いって、しまった!と思った。
もうだめだ。
そう思った。
だけどこの男は静かに笑った。
「・・・そうだね。ごめんね。君をしっかり、家までとどけるよ。」
・・・・どういうつもりだ・・・。

だけど、家まで距離はあるし正直もう生徒の前に姿をさらしたくない。
家まで送ってくれるというんだ。だったら乗せてもらえばいいだけだ。

 

この男・・・彼はなにもするわけでもなかった。
そのまま、私の家の門の近くまで来ていた。
「さぁ、帰りなよ。ここで、お別れかな。」
変な感覚・・・こいつは本当に憎い相手だ。
私を、こんなふうにしてしまった。
でも・・・いや、関係ない!
家に帰れば、この狂った生活も終わる。
お父様とお母様が私のことをまっているんですもの!
「え、ええ!それでは、失礼しますわ!」

 

私もまぁもしかしたら少しは悪かったのかもしれませんからこの男が捕まったら少しは罪を軽くしてあげようかしら。
そう思うとなんだかうれしくなった・・・。
本当に変な気分だ。
とにかく帰る、今はそれだけ、それだけでいいんですわ!
ピンポーン
「はい、どちら様ですか?」
執事の渡鍋だ。ひさしぶりに聞いた声だ。
「私です!美香です!帰ってきたのですわ!」
「美香お嬢様ですか!よくご無事で!お父様もお母様もすぐ呼んで来ます!しばらくまっていてくださいね!」
お父様、お母様、待っていてくださった。うれしい・・・。
ガチャ!
扉が開く。
「美香!」
「お父様!お母様」
私はお父様に抱きつく。
私のことをずっと探していたのか二人とも以前よりやつれてしまっている。

「私本当に大変だったんですのよ!」
だが、突然お父様は私を突き飛ばす。
「お、お父様?」
お父様が私を見る目は、ひどく冷え切っていた。一体・・・
「お前! どういうつもりだ! お前みたいなデブ女が、美香の名を語って! 一体どういうつもりだ!!」
「一体どういうつもりなのですか! 貴方、私達がどれだけあの娘を思っているのか、わかっているんですか!」
「ち、違うのよ、私、太ってしまったけど、篠崎美香よほんとなの!!」
「ふざけるな! あの娘はな! 私達がずっと育ててきた娘なんだ。それを見間違えるわけがあるか! 金か! 金が目的か!」
「さっさと出て行ってください! 貴方が美香のはずはありませんわ。親の目はごまかせません!」
そういって二人は、玄関の中に消えていった。
残ったのは執事の渡辺、もしかした彼なら・・・
「貴方みたいなオデブさんが、美香様の名を騙れるわけがないでしょう。もっとやせて出直してくるのですね。」
そういってクスクスと笑って扉の中にもどっていった。
本当に、冷たい目で、私を見ていた・・・。

 

あれ・・・どこかで聞いたような・・・話・・・。
彼は車の前で待っていた。
彼を見た途端・・・自分の中の疑問が氷解した。
『そ、それは・・・・確かに気の毒なのかもしれませんが、でもそれは家庭の事情ですわ!貴方達の親が元々悪かったのであって! 私はそれとは関係ありませんわ!』

 

・・・今の私と同じ・・・。
彼が家から追い出されるキッカケ、それは私が作ったもの。
私が家から追い出されるキッカケ、それは彼が作ったもの。

 

私は・・・なんてひどいことをしてしまったのだろうか。
目から自然と涙があふれてくる。
今まで退学にしてきた人たちも、何かしら苦しんだのだろうか。
自分で同じ目にあって、やっと分かった。
私は、本当に悪いことをしてしまったんだ・・・。

 

「ごめん・・・なさい。ごめんなさい。」
初めての、本気の、ごめんなさいだったのかもしれない。
彼は・・・笑っていた。
「本当はさ、最初うれしかったんだ。」
「え?」
「お前がさ、クラスの生徒と一緒にいたとき俺、すぐ近くにいただろ。でも、誰も俺に気づかなかった。正確には元クラスメートだとってことな。俺は・・・存在してないみたいだった。空気みたいな、あるかないかわかんないような。そんなとき、お前は俺に話しかけてきた、俺をそこにいるものとして、話しかけてきてくれた。それは・・・うれしかったんだぁ・・・。」
「・・・・・・・・。」
「あの後のことでものすごい腹はたったけど、やっぱりうれしかったのは本当。それに・・・君の涙を見て確信した。本当にごめん。君は、誰からも教えられなかったんだね。悪いことがどんなことか。それをされたらどんなふうに思うか。でも君は、最後に僕のために涙を流してくれた。本当は・・・すごく優しかったんだね。本当に、ごめん・・・。」

 

そんな、私は本当にひどいことをしてきたのに
「貴方が謝ることは何も無いですわ。それにここ何十日かの生活、本当は、楽しかった・・・んですわ。」
「え・・・?」
「食べるものはすごくおいしかったし、貴方のしたことは全部気持ちよかった。それに・・・太ったのを・・・けなされたとき・・・。」
そういって彼の手を私のあそこにいざなう。
「濡れてる・・・。」
「そう、腹が立ちながら、どこかで感じていたのです。貴方はいろんなことを教えてくれた。だから感謝していますのよ。」
「でも・・・そんなふうにしたのも・・・俺のせいで。」
「そうですわね。こんなふうにしたのは貴方のせいですわ。」

 

「そうだ・・・ね。本当に・・・本当にごめん。美香さん。」
「それは私の名前ではありませんわ。その名前は知らない人達がつけた名前。私の名前は豚美ですわよ。ご主人様。」
「え、でも・・・そんな・・・。」
「こんなふうにしたのは貴方の責任なのですから。最後まで、豚美の面倒をみたくださいな。」
「俺を・・・ゆるしてくれるのか・・・?」
「許すも何も、私は今、貴方をまったくにくんでいませんわ。」
「あははは、そうなんだ。でも豚美ってのも・・・何か考えなきゃ、あはは。」
やっと笑ってくれた。貴方が悲しむと、私も悲しい。
「そう?私はけっこう気に入ってますのよ。ご主人様。」
「そ、そのご主人様ってのも・・・さ。」
そういわれて、私は、大事なことに気がついた。
「まだ、名前を聞いていませんでしたね。もう絶対に忘れませんわ。貴方の名前、教えてくださらない?」
そう、もう絶対に忘れたりしない。
私が、世界で、最も大事な人の名前なのだから。

 

          <終>

 

 

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