肥満ハザード

肥満ハザード

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その後、追加の自衛隊のヘリコプターがやって来て、救出作戦が実行された。
上空から睡眠薬いりの食べ物を投下し、彼女らに食わせた後、眠った者から順番に、ロープで吊り上げ、上空のヘリコプターに収容した。
時間こそかかるが、(ピストン輸送で3日間もかかった。)学園の女性たちにとっては、有効な救出方法だろう。
しかし、この前代未聞の事態に対処するわりには、できすぎた計画だし、隊員の手際もよかった。

 

救出作戦では、男性教職員及び、先遣隊の哀れな自衛官も救出された。
男たちは、重い女たちにのしかかられて、アザや骨折を負っていた。
そしてなにより、精力を吸い取られて、枯れ果てたようになっていた。
唯一安全なところにいた祐でさえ、精神面でだいぶ衰弱していた。
隊員が倉庫をこじ開けたとき、丸まって怯えていた。

 

救出された全校生徒、教職員は、良薫市内の病院に搬送された。
病院の名前は「慈傘(じさん)病院」―パラソルグループ系の私立病院だった。

 

[9月10日・某時刻]
―慈傘病院、特別病室

 

ガラス窓で囲まれた個室のベッドの上で、大きな肉塊が、ふぅふぅ息をしていた。
肉がつきすぎて、そのシルエットは常人とかけ離れすぎているので分かりづらいが、一応横になっているらしい。
いくつもの肉の塊がぐちゃぐちゃに結合したようだ。
どれがなんの肉だか分からない。
尻だか太腿だか分からないといった感じだった。
ひょっとしたらこれは着ぐるみで、どこかにファスナーがあるんじゃないかと思うくらい、「人間の肉」といった気がしない。
尻のあたりの肉、腿のあたりの肉が垂れ下がり、ベッドにのしかかっている。
腹肉はドーム状に、丸いカーブを上に向けていた。
臍の部分のみ、十字型にくぼんだ穴になっている。
二の腕も乳房も、本来あるべき場所より下にデロンとぶら下がっている。
顎は何個も飛び出している。
脂肪でできた顎だ。

 

その様子をガラス窓の外の小部屋から眺める、スーツ姿の男性がいた。
男性はインカムをつけて、誰かと話しだした。

 

「御前、映像は届いていますか?」
《ああ、良好だ。…うむ、いい太り方だ。彼女のデータを。》
「名前は『真宮琴音』、17歳。高等部の2年生です。学校の記録では、元は体重45s、今は198sです。」
《4倍超か。》
「はい、今回の中で最大体重です。」

 

ベッドの上に横たわる脂肪の塊は、真宮琴音だった。
6日までぽっちゃり目だった彼女は、僅かな期間に、なんと学園の中でもっとも太った生徒になっていた。
彼女は、初期に少し水を飲んだだけで、その後はずっと我慢していた。
しかし、体は水を求めていた。
そこに、強制的な水の摂取。
耐えてきた心が壊れた後、琴音は水の亡者となった。
しかも、水を飲むのは友人がサポートしてくれる。
結果、皮肉にも耐え続けていた彼女が、一番の肥満体になってしまった。

 

「2位は同じく高等部2年の『白雪さやか』です。トップ10は今日中に、詳細なデータを送っておきます。」
《あの『成金白雪』のところのムスメか、ふん、いい気味だ。よろしい、他の生徒に関しても、至急精密検査を行い、データを送りたまえ。重要なデータだ。》
「仰せのとおりに。」
《森山、今回の事故は予想外のことだったが、『塞翁が馬』で、思いがけない貴重なデータが集められた。お前もよく働いてくれた。事故の責任は帳消しにしてやろう。》
「はい。ありがとうございます。」
《ところでお前、あの学園をどうするつもりだ?》
「はい、教育施設のまま、我々の実験施設にしたいと思います。生徒も教員も元に戻します。男性は辞職するでしょうが… そこで新しい教職員を送り込み、乗っ取ります。残った教職員はどうせ豚です、造作もないことでしょう。こんどは特製の給水装置で『あれ』を送り込みます。食事にも『あれ』を。山奥の全寮制、理想的な実験場です。農業科があるのもいい、野菜や家畜を通しての、二次的影響が調べられます。」
《ふむ、おもしろそうだな。》
「御前が許可を下されば、実行いたします。」
《よろしい、『組織』を挙げてバックアップしよう。》
「ありがとうございます。」
《他に言うことはないか?》
「はい、学園の中で、『大口』という校医が、詳しい日記をつけていました。ご丁寧に健康診断までしてくれて…経過が分かる貴重な資料です。それらも後で送信します。それと、今回の救出で、抱き込みました『上須加』という自衛官、中々使えそうな男です。わが社に引き込もうと思っています。」
《そうか、自衛官の件はお前の判断に任せる。では、切るぞ。》
「はい。御前の崇高なる目的の成就、心から願っております。」

 

男性は通信を終えて、インカムを外した。

 

「…ぐふっ…うぅぅ…うぅぅ…」
「おや?目を覚ましたか。」

 

ベッドの上の琴音がもぞもぞ動きだした。
男性は受話器を取り、室内の琴音に話しかける。

 

《おはよう。》
「やあぁ…なにぃ…この体ぁ……ああ…ぃやあぁ…」
《その内慣れるさ。心配ない、一生わが社が面倒見てやろう。》

 

「森山社長、そろそろ本社に戻りませんと。」
「ああ、分かった。」
「…あぁぁ…うぅあ…」

 

「社長」と呼ばれた男性が、秘書らしき女性と小部屋から出て行った。
ガラス窓に囲まれた部屋では、いつまでも琴音が大きな体を震わせ、うめき声をあげていた。

 

セント・ミカエル女子学園は、その後は、変な点で話題になった。
と言っても、テレビや雑誌といったメディアではなく、もっぱらネット上の怪情報としてだが、次のような話題である。
「良薫市の『セント・ミカエル女子学園』の生徒はデブだらけ、女性教師もデブばっかり、この学園に入った生徒は、どんなに痩せてても、入学直後にブクブク太る。」
そして、学園は一部の人間にとって伝説的なスポットとなって、今も良薫市安久嶺山中にある。

 

〜The End〜

 

 

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