肥満ハザード18

肥満ハザード

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―事務棟

 

「はぁ…はあぁ…はっ…」

 

祐は無我夢中で走り続け、事務棟に来ていた。

 

「待ってぇ〜♪ 祐ク〜ン♪」

 

迫り来る「恐怖」は、いつの間にか合流し、数を増してした。
追われる祐は、もう半狂乱だった。
怖い、逃げたい、ただそれだけだった。

 

「う、うわあああ…」

 

ガチャンッ!!

 

祐は、階段の下の、小さな倉庫に逃げ込んだ。
倉庫というより収納というべきか。
内側から鍵を閉める。
窓の無い、小さな空間に閉じこもる。

 

「はぁーっ…はぁーっ…」
ひたひたひた…
「あ〜、祐クン、ここですかぁ〜?」
「く、来るなぁ! バケモノォ!!」
「バケモノって…ひっど〜い。一緒に気持ちいいことしましょ? ね? 開けてください。」
バンバンバン!
「ひあっ!」
「開・け・て! 開・け・て!」

 

バン!バン!バン!

 

ドアを強く叩く音。
まりみだけではない、その他大勢のデブたちも、力いっぱいドアを叩きだした。
このままではドアが壊れてしまうのではないか?
狭い室内に響くバンバンバンという音、聞いていて頭が割れそうになる。
恐怖した祐は、OA用紙などが積んであるスチール製の棚をつかみ、強引に横にスライドさせて、入り口を塞いだ。
現実と格闘することを放棄し、悪夢のような世界から、自らを隔離しようという行為だった。
棚は何十sもあるはずだが、移動できたのは火事場のバカ力によるものだったのだろう。
そしてバカ力を出し切ると、祐は力なくぺたんと座り込む。
頭上から、棚を動かしたときに落ちた紙がはらはらと降ってきた。

 

「もう…ここから…出ないっ! …助けが来るまでっ、俺はここから出ないぞっ!!」

 

自分の肩を抱き、ガタガタ震えながら叫ぶ祐。
その時外から、女たちの甘い声に混じって、中年の男の声が聞こえてきた。

 

「大口せんせーい? いるんですか…って、皆さん、どうしたんですか!? なな、何で裸なんですか!?」
「(この声は…坂本先生?)」
「ふふ、服を着てくださいよ…うん? その中に、大口先生がいるんですか?」
「はぁーっ、はぁーっ…さ、坂本先生って…よく見ると…筋肉があって…かっこいいですね…(ゴクリ)」
「(やばい…!!)」
「え? そりゃあ、体育教師ですから…って、あ? 皆さん…ちょっと…」
「逃げてー!! 坂本先生、逃げてー!!」
「それぇーっ♪」
「う、うおあああ!? な…皆さん…何を…ちょ、服を…あ、ズボンは…わあぁっ!!」
「あわわわわ…坂本先生…(ガクガク)」
「うおっ、ぐふっ、重……うぎぃやああああっ!!!」
「さ、坂本せんせーーいっ!!??」

 

坂本が、扉の向こうで女たちに「食われた」。
扉を挟んだすぐそこで。
祐の震えは止まらない。

 

ガタガタガタ…

 

「ははっ…あはっ…嘘だ…嘘…あははははは……ははははは!!」

 

ブルブルブル…

 

<祐の日記(倉庫内の紙に書き残したもの)>
9月 6にち

 

こわい
  まりみ が

 

 ことね    ダメダ
      さか本せんせ
  いやだ

 

    たす け て

 

[9月7日・朝]
―安久嶺山中

 

バラバラバラ…

 

数日続いた嵐がやみ、気持ちよく晴れた9月7日の朝、二機のヘリコプターが、安久嶺山中の上空を飛行する。
国防色のカラーリングに、日の丸のマーク、陸上自衛隊のUH−1Jだ。
ようやく晴れた今日、この二機はセント・ミカエル女子学園の生徒、教職員の救出に向かっているのだ。

 

―2号機

 

国防色の作業服を着た若い陸士が、機内で話していた。

 

「任務は女子中高生の救出か…燃えるぜぇ〜」
「空飛ぶ騎士か?お気楽なヤツだな、お前。でも俺たちの任務は救出じゃないぞ。」
「分かってるって、教師に会って、負傷者、病人の確認して、後で来るチヌークの着陸場所の選定、だろ?」
「よし、正解。俺たちは様子見部隊ってわけだ。昨日の朝から連絡が無いらしいぜ。落雷で無線施設がイカれたらしいって。」
「まー、心配要因はそれぐらいか…とにかく一番のりの救世主ってのはかっこいいね、モテモテだぜ、きっと。」
「ふふっ、はいはい。じゃあ、菓子をプレゼントするのはお前の役でいいよ。」

 

機内には、機材と人員を積み込んだ残りのスペースいっぱいに、お菓子や飲み物が積んであった。
実は、セント・ミカエル女子学園の遭難は、全国的なニュースとなっていたのだった。
少女たちの滅私的な行動は、全国で一大センセーションを巻き起こした。
積み込んだお菓子は、感動した全国の人々が自衛隊に送りつけたものである。
お腹を空かしているだろうから、ヘリで助けに行くときに届けてください、と。
自衛隊内部のカンパで購入した差し入れも混ざっている。

 

「ははは…俺はサンタクロースか。」
《ザザ…学園上空に到達した。2号機は降下準備に入れ、1号機はこのまま上空を旋回する。…ッザ》
「おお、上須加(うえすか)隊長のお声だ。準備するぞ。」
「上須加三佐と仕事ができるのは光栄だけど…なんで急に上須加三佐が俺らの隊長になったの? 三佐がヘリに乗って来るなんて珍しい。」
「救出人数が多い、珍しい任務だからじゃないの?上は三佐の経験を買ったんだろ。」
「ああ、そんな感じか…」

 

救出部隊の指揮を執る隊長が搭乗する1号機は上空を旋回し、2号機だけが学園の校庭に降り立った。

 

―校庭

 

爆音を立ててヘリコプターが校庭に着陸した時には、誰もいなかった。
さきほどの若いふたりが機内から出てきて、ひとりがメガフォンで建物に向かって呼びかけた。

 

「あー、あー、あー、セント・ミカエル女子学園のみなさん! 陸上自衛隊です。助けに来ました。学園長先生か、どなたか他の先生、こちらまで来てくださーい。」
「……」
「……」
「…お、出てきた、出てきた。」

 

建物の扉があちこちで開き、人間がゾロゾロ出てきた。

 

「……?」
「……えっ?」

 

ふたりの自衛官は驚いた。出てくる者、出てくる者、全員が肥満体型の女性ではないか。
僅かな肉の量の差こそあれ、違いは「大デブか超大デブか」しかでない。
単体でも、滅多にお目にかかれないようなレベルのデブ女が、数十人、いや、100人、200人と出てきた。
そして、ヘリコプターの近く、ふたりの自衛官の前に集まる。

 

「……えっえっ?(デブばっか?)」
「……なんだ、これ…」

 

近づいて見ると、遠近感効果がないので、彼女たちの巨大さがよく分かる。
冷蔵庫サイズの肉の塊がいくつも、ふぅふぅ息をしながらそこにいた。
その肉の群れをよく見ると、上着を脱いでいる者がいる。
中には全裸の者もいる。
ただのデブの群れではない。
なにかが異常なデブだ。

 

「…えっと…責任者の方は…先生はいらっしゃいます…か?」
「あっ…私、教師です……鈴沢…まりみと言います…はぁはぁ…」

 

最前列よりはやや後ろから、肉塊をかき分けて、若い(だろう)デブが出てきた。
全裸の、ぶよぶよの肉塊だった。
ひときわデカい。自重で歩くのもつらそうだ。
この教師だと言う肉の塊は、まりみだった。

 

「はぁ…はぁ…助けに…来てくれたんです…ね?…」
「そ、そうですが…」
「あれ?」

 

出てきたまりみは、自衛官の顔から視線を逸らした。
視線の先はヘリコプター、開け放したままの扉から、機内が見える。
袋に詰まったお菓子が見えた。袋はビニールなので、お菓子の包装のカラフルな色は透けていた。

 

「あ…あ…あの…あれは…お菓子ですよね? …ふぅふぅふぅ…」
「え…あ、そうです。差し入れにと…」
「…お菓子…」
「お菓子だ…」
「はああ…おいしそう…」
「あれ、み、皆さん?」

 

群集の様子が明らかにおかしい。お菓子の存在を知ってから、目の色が変わった。

 

「あ…かっこいい…」
「へぇ?」
「やっぱ…自衛隊のひとってかっこいいですよね…筋肉あって…引き締まってて…(ジュルリ…)」
「あ、ありがとう…ござ…先生? …鈴沢先生?」
「…もう我慢できない…」
「お菓子…」
「ちょ、ちょっと、お菓子は順番に配りますから…」
「いただきまーーーす!!」
どどどどどどどどど……
「う、うわっ!ちょっと…順ばっ…って、ぎゃあぁ!!」
「あっ、わっ…手を…って、どこ触って…うわ、うわああああ!!」

 

200人ほどのデブの群集が、一斉にヘリコプターに殺到した。
お菓子の袋が宙に舞う。自衛官も押し倒され、服を剥かれる。

 

《ああっ…上須加隊長…助けてくださいっ! …隊長!隊長! …(あ〜、パイロットさんだ〜♪)…うわっ、来るな!!おっ…あっ…ブツッ!!ザザァーーッ》

 

恐ろしい無線の音声が上空を旋回中の1号機にも届いたが、1号機は降下しない。
地上のゾンビ映画のような惨状を、救出部隊隊長、上須加がハンディカメラで記録し続けるだけである。

 

「…うむ…聞いてはいたが…これはひどいな…」

 

上須加はひとりつぶやいた。

 

 

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