肥満ハザード

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[9月6日・午後(祐が医務室に辿り着く数分前)]
―医務室

 

祐が見回りをしている時、琴音と美鈴は医務室で留守番をしていた。

 

「ほら、美鈴、新しい服、調達してきたよ。」
「……ぅん…ありがと…」

 

美鈴はベッドで半身を起こしたまま、ボーッとした目で、お菓子を頬張っていた。
琴音は、お菓子をあげることでなんとか美鈴の食欲を満たし、「あの水」から遠ざけようとしていた。
とにかく、「あの水」を飲ませたら終わりだと考えた。

 

「着替えさせてあげるね。」

 

美鈴はだらっと無気力なようなので、琴音が服を着替えさせることにした。
汗が染み込んだシャツを脱がす。
汗臭さが気になった琴音は、湯沸かし器からお湯を洗面器に汲み、お湯で濡らしたタオルで美鈴の体を吹いてあげた。

 

「…っうふうぅ……」

 

美鈴が気持ちよさそうだ。さっぱりするから?
それとも、お湯も「あの水」を沸かしたものだから、琴音には分からない「何か」を感じ取って、快感なのだろうか。

 

「……こ…とねぇ…」
「なあに?…!」

 

美鈴が、ふいに抱きついてきた。
琴音は一瞬、びっくりしたが、愛しい親友を抱き返した。

 

「どうしたの…?」
「う…うん…ぁ…ありがとう…」
「……いいんだよ。」

 

琴音は、胸が熱くなった。
ああ、自分の誠心は、美鈴に届いている。
美鈴は、まだ私の親友のままだ。

 

「…ねぇ…琴音ぇ? 琴音も…お腹空いてるん…でしょ?」
「…!」
「私わかるよぉ…親友だもの…あの水も…飲みたいんでしょ…?」
「〜〜! …うん…」
「ツラいのに…がんばって…私のために耐えてくれたんだよね? …嬉しいょ…」

 

琴音は涙が出そうになった。
強く美鈴を抱きしめる。
すると、美鈴も強く抱き返す。

 

 

…強い。

 

…強すぎる気がする。

 

「あ、あの…美鈴? ちょっと苦しい…」
「……琴音…好きだよぉ…」
「う、うん、それは…ありがとう…でもちょと…」
「琴音、我慢してツラそう…苦しそうで見てられないよ…」
「…み、美鈴?」

 

琴音の声を無視して話を進める美鈴。琴音を抱く腕の力はいっそう強くなる。

 

「…かわいそう…体だって、こんなに痩せっぽちで…」
「美鈴!? 何を言っているの!? 美鈴!? 美鈴!!」
「…あのね…琴音が服を待ってきている間ね、ケイちゃんたちがここに来たの…」
「…そ、そう…」
「それでね…話し合って………みんなで琴音を助けることにしたの。」

 

ガラアァッ!!

 

「!! みんな!?」

 

かつて琴音が救いきれなかった友人たちが、でっぷりと太った姿になって、ぞろぞろ医務室に入ってきた。
そして、ベッドのふたりを取り囲む。

 

「琴音…ひとりで苦しまないで…みんな一緒だよ?」
「…ことねぇ…」
「…琴音…お水おいしいよ…」
「我慢しないで…」
「さ、行こ…」
「や、や、や…みんな…目を覚まして…! …いやっ離して! あっ!! わああ!! た、祐せんせーっ!!」

 

琴音は、美鈴を含む生徒たちに連れ去られてしまった。
一対多では、なす術なかった。
誰もいなくなった医務室に、祐はやって来た。

 

「…何処だ…? …おい、琴音ちゃん! 美鈴ちゃん!」

 

「いやああああああっ!!」
「琴音ちゃんの声…!?」

 

祐は、声のする方へ走った。
そこは、廊下の水飲み場だった。異様な光景が、祐の目前に広がった。
何人ものデブ生徒が、琴音を床に押し付けていた。

 

「せんせっ…! 助けてぇ!!」

 

ひとりの生徒が―なんと美鈴だった―が、蛇口からペットボトルに水を汲み、琴音の口にあてがう。

 

「お、おいっ! やめるんだ!」
「先生! 邪魔をしないで!」

 

祐は琴音を救い出そうとしたが、4人ものデブ生徒がそれを阻止する。
女子とは思えない力だった。

 

「さぁ…琴音ぇ…おいしいよぉ…」
「いっ、いやああっ!! やめてええっ!! み、みすっ…! …んんっ!? ん〜〜!!」

 

祐の見ている前で、琴音は水を口に含まされてしまった。
琴音は水を吐き出そうとするも、顎をがっちり押さえられてしまった。
そうするうちにも、水はドクドクと流し込まれる。
多少は噴き出したり、口の端からこぼれるが、美鈴はかまわずペットボトルの水を流し込む。

 

「〜〜〜〜!!」

 

琴音は、全身が波打つような感覚に襲われた。
久しぶりに流し込まれた井戸の水に、体中の細胞が騒ぎ出す。
水が口腔を満たし、食堂を滑り落ち、胃を満たす。
カラダが待ち望んだ感覚。
脳の奥深くが、ぱあっと軽くなる。

 

「(ああっ…やだ…あの味だ…だめ…デブに…デブになっちゃう…いやあっ…)」

 

一本目のペットボトルが空になると、美鈴は二本目のペットボトルを他の生徒から受け取り、またムリヤリ飲ませる。
デブ生徒の連携プレーで、蛇口から琴音の口まで、水が運ばれる。

 

「くそっ! どけぇ!!」

 

祐は意を決し、自分に群がる生徒を押しのけようとした。
多少彼女らが怪我をしても構わないと思った。

 

ドンッ!!
「うわっ…!」

 

しかし、祐が力を入れた直後、それの何倍もの力が帰ってきた。
いつの間にか生徒が増え、6人が、一斉に祐を弾き飛ばしたのだ。

 

「あ…」
「先生…私たちの邪魔するの…?」

 

ピシャアアァァンッ!!
ゴロゴロゴロォ…

 

雷が近くに落ちる。
まばゆい光に照らし出された彼女らの姿は、人間には見えなかった。
祐は、恐怖で体が萎縮する。

 

「せんせっ…せんせいっ!! 助けてぇっ!!」

 

琴音の悲痛な叫び声、しかし、彼女と祐の間には、分厚い「肉の壁」がある。

 

「あ…琴音…」
「あ〜、祐クン、みぃっけぇ〜〜」
「…!!」

 

背後から甘い声。
全裸の肥満体、鈴沢まりみが立っていた。

 

「ああ…ああ…ああ…」

 

一本道の廊下を、まりみと生徒たちに挟まれてしまった。

 

「んっふっふ〜♪ さあ、祐クン、遊びましょ…」

 

まりみがじりじりにじり寄ってくる。
一方は「肉の壁」、とても通してもらえそうにない。

 

「う、うわああああああっ!!」
「せ…せんせーーいっ!!?」

 

祐は、恐怖に押しつぶされ、まりみの脇をすり抜け、逃げ出した。
琴音を置いて。

 

「あああっ!? …せんせ…戻ってぇ… んぷっ! んぐぅ!?」

 

問答無用で親友から流し込まれる水。

 

「…んっぷあぁっ…だめ…やだ(ミズダ!) …ハァハァ…やめて…(オイシイ!) も…飲ませな…(モットモット!)」

 

ずっと飲みたくて飲みたくてしょうがなかった「あの水」が、存分に体内に流れ込んでくる。
飲みたくない…いや、本当は飲みたい…飲みたいけど飲みたくない。
葛藤に、理性が耐え切れない…

 

「(あぁ…あぁ…おいしい…だめ…いやだ、いやだ、デブになんかなりたくない! ……あぁ…ううっ……だめぇ…うっ………………もっと…欲しいっ………………………)」

 

そして、琴音はおとなしくなった…

 

 

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