肥満ハザード

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[9月6日・午後1時]
―職員室前廊下

 

「…ったく、一体どうしたってんだよ…」

 

祐は職員室の前まで、来ていた。
教員の多くが女性であるこの学園、金曜日を最後に、職員室は昨日を停止した。
今は、何もなす術がない男性教師がフラリと立ち寄り、愚痴をこぼし合うだけだった。
…はずである。

 

「ひっ、ひいいいぃ…」
ガラアァッ!
「あ! 大口先生! 助けてください!」
「わあっ! 副学園長! どうしたんですか!? って、その格好はっ!?」

 

弱々しい悲鳴に続き、扉を開けて、この学園のナンバーツー、細川仁(ほそかわひとし)副学園長が廊下に飛び出してきた。
細川は、落ち着きのある管理者だった。
しかし、今はぶるぶると震えて、何かに怯えている。
そして祐を驚かしたもの―

 

細川は、スラックスもパンツも脱ぎ、下半身裸であった。

 

「ふくがくえんちょ〜うせんせ〜い♪」
「ひ、ひいいっ!」

 

職員室の中から、甘ったるい声―女性だ―が聞こえてきた。
声の持ち主が、祐の眼前に姿を現す。
のおおっと巨大な影、それは、肉の塊だった。

 

「……まりみ先生?ですか…?」

 

祐は、甘い声の持ち主を推測した。
若干低音になっているが、聞き覚えのあるセクシーな声。
しばらく姿が見えなかった英語教師、鈴沢まりみの変わり果てた姿だった。
大きく、ただただ大きく太っていた。
昨日のトップクラス、白雪さやか以上に巨大化していた。
モデル体型の彼女は何処に消えた?
胸も、腹も、尻も、脚も、丸い肉の塊と化していた。
痩せた彼女が太って肉をつけたというよりも、肉の塊が集合して彼女になったかのようだ。
見事な「ボン・キュ・ボン」のセクシーなプロポーションは、「ボムッ!・ボムン!・ズドン!」になっていた。
まりみは何故か全裸だった。
だからまさしく「肉の塊」でしかなかった。

 

まりみに引き続き、他のデブ女たちがぞろぞろ職員室から出てきた。
彼女らも、教師の成れの果てであった。

 

「さぁ…副学園長…いや、ひとしクン…楽しいコトしましょ?」
「はっ、ふひっ…細川…先生…」
「はぁーっ、はぁーっ…ふくがくえんちょーせんせー…」
「ひいいい! お、犯されるゥゥ…!!」

 

「楽しいコト」、「犯される」
―祐は、何故副学園長が半裸なのかわかった。
その刹那、副学園長はデブ教師たちに取り押さえられ、のしかかられてしまった。

 

「ひゃあぎいいいい!!」
「副学園長ォォォ!? ま、まりみ先生! やめてください!!」

 

祐は、まりみの肩掴んだ。
まりみは祐のほうを向く。

 

「あら…祐クンだぁ…」
「いっ…!」

 

まりみの目はトロンとしていて、「性欲」が滲み出ているようだった。

 

「はぁ…よく考えたら…祐クンのほうが…若くておいしそう…」
「えぇ!? はあっ!?」
「結構イケメンだし…フゥフゥ…たた、祐クウウン!!」

 

突然まりみが、その巨体でのしかかろうとしてきた。
抱きつこうとしたのかも知れないが。
祐はとっさに後へ下がったので、まりみの太い腕は宙を切った。

 

「うふふふ…祐クン…逃げないでよう…」

 

獲物を獲り損ねたまりみの目がギラリと光り、祐を見つめる。獣の目だ。

 

「あー、まりみぃ…私も祐クンがいい…」
「はぁはぁ…私もぉ〜…」

 

これはヤバイ、ヤバすぎる。そう思った祐は踵を返し、走り出した。

 

「あああ〜ん、待ってぇ〜〜♪」

 

ドドドと音を響かせ、デブ教師たちが若い男の肉体=祐を追う。
彼女らが痩せていたら、ハーレム漫画の一場面みたいだが、あれはヒロインではない、あれは暴徒だ。
まりみは美人だったし、スタイルも抜群だった。
この学園の男性で、まりみに劣情を催さない者はいなかったであろう。
しかし、それは彼女が痩せていた時の話、「アレ」は違う。
「アレ」は淫欲に満ちた、贅肉の塊だ。

 

必死に走り数分後、祐は彼女らを撒くことができた。
異常に速かったが、それでもやはりデブデブの女、男の祐のほうが足は速かった。
しかし、慌てて変なところに逃げ込んでしまった。
医務室と反対方向に来てしまった。
淫乱デブ教師たちは、今は散り散りになって祐を探索しているらしい。
ひとりにでも見つかればアウトだろう。
祐はこそこそ移動し、遠回りに高等部寮舎を経由して、医務室のある教職員寮舎に避難することにした。

 

[9月6日・午後2時]
―高等部寮舎

 

高等部寮舎は、凄まじい様相だった。
あちこちの床に、お菓子の空き箱や空き袋、カップ麺の空容器、ジュースの空き缶やペットボトルが散乱していた。
うら若き乙女たちの住まいとは思えない、いや、すでにうら若き乙女だなんてこの寮にいないのだ。
ある部屋では、ドアが開けっ放しで、中の様子がうかがい知ることができた。
その部屋では、床にスナック菓子をぶちまけて、数人の生徒がそれをむしゃむしゃ食べていた。
その姿はまさしく飼料に群がる豚だった。
どこの水飲み場も、生徒でいっぱいだった。
蛇口は全開、水があふれかえっていた。
蛇口から飲めない生徒は、床にあふれた水をぴちゃぴちゃ舐めていた。
そして、寮内には、女同士で絡み合う者もたくさんいた。
裸になる者、自慰にふける者、抱き合う者、舐め合う者、キスし合う者、ただひとりで湧き上がる性欲を持て余して身悶えする者…
女同士でシックスナインをする生徒もいた。
生徒たちの心が、「食欲」と「性欲」に支配されている。
まるで寮はソドムとゴモラの市だ。

 

祐は知る由もないが、地下水に流れ込んだ物質には、性欲を極限まで高める効果がある物質も含まれていたのだった。

 

祐は自分の置かれた状況に、頭が痛くなってきた。
雨脚が強くなり、稲光がした。
雷光が寮内を照らすと、ますます人外魔境の様相を呈する。

 

ドンッ!!
「…って!」

 

辟易して、ボーっとしていた祐は、曲がり角を曲がった時、何かにぶつかった。
思わず尻もちを突いてしまった。
壁? 壁なんかあるはずがないが壁だった。
柔らかい、温かい壁だった。
祐は「壁」を見上げた。

 

「クトゥルフ神話のクリーチャーみたい」なのが、そこに、いた。

 

「ふしゅーっ、ふしゅーっ…はぁはぁはぁ…」

 

金の髪、白い肌、碧い目、「壁」は白雪さやかだった。
衣服はまったくつけていない。
白い肌に手の平くらいの乳輪が浮かぶ。したたるように全身汗で濡れていた。
もはや洋ナシではなかった。
形容しがたい、巨大な「肉の塊の塊」といった感じの肉体だった。
でかい、先ほどのまりみよりでかい。150sぐらいは超えたのか?
胸も腹も、ずででって垂れ下がっていて、上の肉が下の肉にだらしなく支えられていた。
だから下の肉ほど押しつぶされて、余計に垂れていく。
幅はかつての2倍はあるだろうか?その肉の塊は、かつてのさやかを三人ほど束ねたものよりも大きそうだ。
あの凛々しかった生徒会長、白雪さやかは何処にいったのだ?
美しいお嬢様、白雪さやかはどこ?
大講堂で、堂々と意見を口にした白雪さやかは?
…今は、醜い脂肪に埋もれてしまった。
なんだが哀れにさえ思えてくる。
大デブの例に漏れず、目はブクブク肥大した頬肉に押しつぶされている。
さやかの場合、その細い目から覗く綺麗な碧い瞳が、美しかったころの姿を連想させ、よけいに惨めだ。

 

どうしてさやかがそこに突っ立っていたのかは分からない。
祐がぶつかってもびくともしない。

 

「…ぁ…ぅ…」
ビシャビシャビシャアァ…

 

さやかは、祐の見ている前で失禁した。
おびただしい量の小便だった。
それが何を意味するのか分からない。
彼女は完全に壊れてしまったのだろうか。
祐は、彼女がかわいそうに思いながらも、何もしてやれず、そのまま医務室へと向かった。

 

―医務室

 

「…何処だ…? …おい、琴音ちゃん! 美鈴ちゃん!」

 

琴音も、美鈴も、医務室から消えていた…

 

 

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