豚の花嫁

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第1章 肥育の牢獄

 

地下牢の中で、鎖に繋がれた女が吼える。
「くっ…よくも私にこんな辱めを…許しはせんぞ…」
マリアンヌ
睨みを利かせて毒を吐いた女は、この王国の王女であり、名をマリアンヌと言う。
齢は18、この王国の邪教・異端討伐の専門部隊、「聖堂騎士団」の団長である。
いや、「団長であった」と言うほうが正しい。
彼女は、悪魔・妖魔を崇拝する邪教教団「宵の明星」を討伐するために教団勢力地に乗り込んだが、団員に扮していた邪教徒によって拉致されてしまった。
そして、邪教徒の地下神殿の内部に位置するこの捕虜収容所へと連行された。
当然、この世界では常識である、魔法封じと人体操作の儀式処理が施された。

 

「あらぁ、団長さまは高貴なご身分に似合わず勇ましいわねぇ。流石だわぁ。」

 

捕らわれの王女を見下ろす、粘りつくような声が印象的なこの女性は「宵の明星」の高級幹部、呼び名を「イサベラ」という。
彼女の本名は定かではないが。
黒い布のドレスを纏った彼女の身なりは、邪教の尼にふさわしいものだった。

 

「さぁて、どれくらい太ったかしらぁ?」
「ひゃぁっ!?」
「うふふ…かぁわいいお声…クスス…」
「…くっ」

 

イサベラはマリアンヌのわき腹をさぐる。
イサベラの細く、赤いマニキュアが映える白い指は、マリアンヌのぷよぷよとした腹に埋もれる。
マリアンヌの肉体は、全体をふよふよとした柔らかい肉によって包まれていた。
丸みを帯びた、ぽっちゃりとした肉体は、マリアンヌが富貴の生まれであることを考えれば不自然ではないかもしれないが、今の肉体はマリアンヌの本来の肉体ではない。
聖堂騎士団団長の地位は消してお飾りではない。王国の安寧を脅かす邪教徒を討つために、屈強な戦士ばかりを集めた最精鋭集団が「聖堂騎士団」である。
団長は彼らの長としてふさわしいように武芸に秀でていなければならない。
マリアンヌは、王家の指南役から武術と魔法戦闘の稽古を受けるとともに、戦闘にふさわしい肉体づくりに努めていた。これはマリアンヌ自身が望んでいたことである。
結果、マリアンヌの肉体は鍛え上げられ、引き締まっていながら、しなやかな、豹のような容姿を誇った。貴族たちはそんなマリアンヌを見て、彼女を伝説中の「戦乙女」に喩えたという。

 

しかし、今のマリアンヌには、かつては無縁だった贅肉がついている。

 

マリアンヌが地下牢に繋がれてから一ヶ月、マリアンヌは特に拷問や暴行を受けなった。
その証拠に、彼女の肌には捕虜囚にはつきものの傷やアザがついておらず、絹のような美しさを保っていた。

 

マリアンヌが強要されたのは、ただ「出された食事を食べ続ける」ことだけだった。
断ることは無理であった。彼女が指示に従わないと言えば、別の牢から捕虜が連れてこられ、彼を殺すぞと脅された。
国民を愛する彼女は、「食事をし続ける」という奇妙な指示に従った。

 

食べ続け、食べ続け、食べ続けた。
山盛りの食事を、最初は一日三食、そのうち一日四食、五食と、出される食事のペースは日に日に上がっていったが、捕虜を死なせはしないと、彼女は懸命に食べ物を詰め込んだ。
牢屋暮らしで、そんな生活を続ければ、当然過剰な栄養が彼女の肉体を肥えさせる。
まず腰まわりに肉がつき、次いで尻が膨らみ、腿が太くなった。
そして一ヶ月が経過した今では、引き締まった肉体にひとまわり大きく脂肪が被さった感じにぽっちゃりとしてしまった。
身体のどこを触っても、ぷにっとした脂肪が指でつまめる。
男性の彫刻像のように浮かび上がっていた筋肉の筋も、全身くまなく覆った脂肪で見えなくなった。
捕虜の命を守るためとはいえ、戦うために築いてきた完璧な肉体を、倒すべき敵によってその完璧な調和を崩されるというのは、彼女にとって屈辱だった。

 

「くっ…私を太らせたところで、私の心の中にある、お前らへの敵意は消せはせんぞ!」
「ふふふ…大丈夫よぉ…そのうちに私たちと仲良くなれるわぁ…」
「何っ…!?」

 

マリアンヌはその時、その言葉の真意を掴むことができなかった。

 

 

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