豚の花嫁
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最終章 明星は宵に輝く
マリアンヌの突然の失踪に王国は震撼した。
国王は勅命を発し、国王軍、領邦軍が総力を挙げて王女を捜索した。
もちろん、団長を奪われた聖堂騎士団がもっとも熱心に捜索活動を続けたのは言うまでもない。
愛すべき団長を取り戻すと、全団員が必死だった。
怪しい場所を見つけてはシラミ潰しに捜索していった。
そして、マリアンヌの失踪から約1年、怪しい輩が徘徊しているとの通報を受けた聖堂騎士団は分隊を派遣した。
通報があった街で、聖堂騎士団は地下に建造された神殿を発見する。
それこそが、マリアンヌが監禁された地下神殿だった。
「この建築様式…この神殿は『宵の明星』のものに違いない!」
「この巧妙に隠蔽された神殿…それに『宵の明星』…もしかしたら団長はここに…!」
ドォーーーーン!
チィン! キンッ! キンッ!
地下神殿に銃声とかち合いの音が響く。
聖堂騎士団は警護の機械人形(オート・マン)を排除しながら神殿の奥深くに進む。
「護衛は機械人形だけ? 教団員は何処に行った!?」
「ここは牢屋だぞ!」
「やはりここに団長が…?」
「隊長、あちらに隠し扉を見つけました。」
伝令に導かれ、本隊が隠し扉へと向かう。
斧で扉を打ち開けると、下層へと続く階段が現れた。
地下洞穴へと続く階段だ。
「むむっ…なんだこの禍々しい瘴気は…!」
「何か下にいるぞ、総員警戒しろ!銃手は装填して発砲に備えろ!」
銃手はフラスコで火縄銃に火薬を装填し、込め矢で弾丸を装填する。
鉾槍兵が四方八方に鉾槍を構え警戒する。
士官たちも剣を抜き敵の襲撃に備える。
そして、陣形を組んで階段を下っていく。
階段を下りた所で、何かの息遣いが聞こえた。
…ふしゅぅーっ……ふしゅぅーっ…
「何かいるぞ…松明を…前に来い…」
「ひどく汗臭い…それに乳の臭いも…牛舎みたいだ…」
隊長の支持に従い、灯りを持った兵士が前方に集まり、それを照らし出す。
暗い洞穴に、白い塊が浮き上がった。
「うわぁ! ま、魔物…!?」
「待て! 様子がおかしい! まだ攻撃するな!!」
兵士たちの眼が闇に慣れてきて、その塊の細部まで視認できるようになる。
塊は肉、それも脂肪質の肉であること、あまりにも太いが、四肢と思われる部分があることが明らかになる。
…ふぅ…ふぅ………うぅあぁぁ………
「に、人間じゃないか?…こいつ?」
「人間だ…すさまじく太った人間だ…」
「胸が大きい…女か…?」
兵士たちが唖然としている時、奥から靴の音が聞こえてきた。
銃口と穂先がその音の方向へと向けられる。
「誰だッ!?」
「御機嫌よう…聖堂騎士団の兵隊さんたち…ようこそ『豚小屋』へ…」
「お前は! 『宵の明星』のイサベラだな!? キサマッ! この女に何をした!!」
「あらぁ…『この女』ですって…気づいてないのね…豚ちゃん、みんなに顔を見せてあげなさぁい…」
「ふぁあぁぁ……」
自身の顎と頬の肉に埋もれるように下を向いていた顔がのっそりと上げられた。
膨らんだ頬に潰れてしまいそうな顔のパーツが兵士たちを向く。
その細い目から除く青い瞳が彼らを見つめる。
肉にかき消されてしまいそうな形でわずかに残る顔の特徴は、兵士たちにとって馴染みの深い顔と一致する。
「団長!? まさかマリアンヌ殿下では!?」
「うわあああああ! マ、マリアンヌさまぁ!?」
「はぁ…はぁ…ふぅふぅ…み、みんなぁ………」
「うふふ、部下と団長の念願の再会ね…」
1年間の肥育の結果、マリアンヌは象のような巨体へと変貌を遂げていた。
彼女の人間らしい部分は、手足が生え、頭がある程度のものでしかない。
世界中の地誌を紐解いても、歴史上、今の彼女ほど太った人間はいなかっただろう。
彼女に比べれば見世物小屋の「自称世界一の」デブ女などかわいらしいものである。
出産と育児のためだけに、一切の人間らしさを無視されて彼女は太らされた。
自力で歩くどころか、立ち上がることさえ適わない。必要がないからだ。
今では魔力により骨の変質さえ始まり、より多くの贅肉を搭載できるように
(しかし歩行などは一切無視して)骨格が変形していた。
球を潰したような形の腹は、下腹部が床に完全に接して地に横たわっている。
脚も可動する意味はもはやないので、尻、太もも、ふくらはぎが一体となった太い肉として左右に投げ出されている。
背負うような、あるいはのしかかるような形で背中に肉がつき、下の肉に上の肉が積み重なり、段々となっている。
腕はたっぷりと袋状の肉をぶら下げて、腋からはみ出た肉の垂れにのしかかるだけだ。
乳房は、巨大腹肉の上にのしかかり、丸々と破裂してしまいそうな感じで乳首を上に向け転がっている。
そして、その乳首はひくひくと隆起し、どろどろと母乳を垂らしていた。
「さぁて…せっかく兵隊さんがいらしたことだし、出産ショーを始めましょうか、女王豚さま…」
イサベラは手に魔力を込め、マリアンヌの壁のような腹肉にずぶずぶと押し込んだ。
「キサマ! マリアンヌさまに何をするか!」
「子宮の赤ちゃんに刺激を与えているのよぉ…」
「赤ちゃん…だと…?」
ズギュウゥゥゥン……どくぅん! ドクドクッ!
「…っはあぁあぁ!? お腹イク! お腹ビクビクするぅ!?」
「なんだ? 何が始まるんだ!?」
「死にはしないから安心して見てなさい…」
「はっ…はあぁ…やめてぇ! …こんな…みんなの前で…産ませないれぇ!」
イサベラの送った魔力により、出産が強制的に始まってしまう。
マリアンヌは胎動に耐え切れず、ごろんとその肥満体を横にした。
ちょうど、股間を兵士たちのいる方へ向ける格好になってしまった。
太い脚の合間から、羊水と汗と尿がジョボジョボと溢れてくる。
「はぁん! はあぁん!…出ひゃうぅ!? 赤ひゃん出ひゃうぅ!!」
ゴプ…ゴププ…ぶびゅっ…ジュププ…ムリムリ……ジュルンッ!
ピギャーーーーーオォォ!!
プギィィーーーーーーーィィ!!
内股の肉に囲まれた奥底から、飛び出すように立て続けに二体の豚の仔がひり出された。
「う、うわあああ!!」
「魔物! 半豚人の仔だぁ!!」
「姫様が…姫様が豚の仔を産んだ…」
マリアンヌの肉体から魔物の仔が出てきた光景に驚き、聖堂騎士団は半ばパニックになった。
よりによって、神聖な血統であるマリアンヌから魔物の仔が産まれたことは悪夢以外のなにものでもなかった。
「あらぁ…二体出てきちゃったわね。お産、ずいぶん楽になったでしょう、女王豚さま?」
「キサマ…姫様を半豚人に孕ませたな…」
「そうよ、半豚人の復活にはふさわしい器が必要だったの。アナタたちのお姫様を使わせてもらったわぁ…」
イサベラは臍の緒を処理しながら淡々と答えた。
「…をよこせ…」
「はい?」
ひとりの若い士官が、怒りに肩を震わせ、側にいた銃手に搾り出すような声をかけた。
目の前の非現実的光景に唖然としていた銃手は、一回ではその震える声を聞き取れなかった。
「ハークイブス(火縄銃)をよこせぇっ!!」
「え…あっ!」
「やめろウィル!」
銃手が答えるよりも先に、若い士官は銃を銃手の手から奪い、隊長が止めるのも聞かず銃を構えた。
「死ねぇっ!!」
照星にイサベラを捕らえるやいなや、火縄が火皿に落ち、銃口が火を噴いた。
ダァァァァーーーーーーーーーンンッッ!
煙の尾を引いて、鉛弾が一直線にイサベラの額に命中した。
…確かに弾道はイサベラの頭部を貫いた、しかし着弾の瞬間、まるで水面を撃ったかのようにイサベラの顔が波紋を描き歪んだ。
血は一滴も出ず、それどころか歪んだ顔は笑みを浮かべた。
「ダメじゃなぁい…力量の解らない敵をいきなり撃つなんてぇ…軍人なら上官の命令に従いなさぁい…」
「こ、これは…幻影かッ…!?」
「そうよ、アナタたちが見ている私とこの豚ちゃんは物体性を伴った虚像よぉ…実体の私たちは別の場所にいて、中継してるだけなのぉ…」
「『宵の明星』の術師は、こんな再現性の高い幻術まで使えるのか…」
「ごぉめんなさぁいねぇ…今どこにいるかは流石に教えられないわぁ…まぁクオリティの高い立体幻影だから、見て楽しんでねぇ…」
そう言ってイサベラは、産まれたばかりの仔豚を抱えてマリアンヌの腹肉に跳び登った。
着地の衝撃で、腹肉がボヨンと潰れ、揺れが脂肪の波となって全身に伝わった。
「さぁ…おっぱいあげましょぉねぇ……」
イサベラはマリアンヌの「乳輪」を鷲づかみにして、2、3回揉んだ後、隆起した乳首を掴み、上下にしごいた。
まるで乳首が勃起したペニスのようだが、実際、イサベラの手の刺激を受けて、乳首はムクムクと膨らんだ。
「はっ! あぁん! …らめぇ!! お乳搾っちゃらめぇっ!!」
「乳腺開きっぱなしになっちゃって…いつも垂れ流しちゃってるけど…やっぱり赤ちゃんにやる時はこうしないと…」
ジュプ…ビュブッ!…ビュ!ビュピューーッ!!ぴゅうぅぅぅぅぅ……
イサベラは同じことをもう片方の乳房に対しても行い、それぞれの乳房に仔豚を置き、母乳を飲ませた。
「ご覧なさぁい、アナタたちの団長さまは、半豚人に乳をやる母豚になったのぉ…」
「おぉ…何ということだ…」
「あぁ…あぁ…マリアンヌさまぁ…」
「この娘の肉体はもう人間のものじゃないのよぉ…大きなお腹でしょう?これ…」
イサベラは腹肉の上に横たわり、腹肉を撫でながら語りだした。
兵士たちは、幻影相手ではどうすることもできず、イサベラの話を聞くだけしかなかった。
「このお腹の脂肪の奥には、豚の仔でパンパンに膨らんだ子袋があるわぁ…そうねぇ、今すぐにでも産まれてきそうなのが20体くらいかしら…」
「にじゅ…20体だとぉ…?」
「もちろん人間サイズではないわぁ…すごい子宮よぉ…濃い魔力で満ちていて、受精から出産まで2ヶ月しかかからないの。あ、そうそう…」
イサベラは、乳を夢中になって吸っている仔豚の一体を乳房から引き剥がし、抱きかかえた。
そして、豚の仔の脚を開き、その小さなペニスはしごき始めた。
「見て…この仔、もう勃起するのよぉ…お姫様の子袋が優秀すぎて、産まれた仔は繁殖可能な状態まで成熟して産まれてくるの…ほら、出すわ。」
ピギィィィ…
「すごいでしょう? こんな仔ならすぐ半豚人は増殖していくわ…もしかしたら、マリアンヌちゃん、そのうちお腹の中の仔に射精されて孕んじゃうかも…自分の子どもの子種で孕むなんてケダモノにふさわしいと思わない?」
「そんなぁ…いやぁ……」
「マリアンヌさま! すぐに見つけ出してお助けいたします!」
「そうです! 国中の魔法療法師を集めれば、すぐに元のお身体に戻れます!」
「それはどうかしらぁ? この身体は、強力な魔力が変質させたもの…この脂肪だけにしたって普通の脂肪じゃないのよ? 細胞レベルで魔素がたぁっぷり練りこまれた脂肪よ。彼女の肉体の本質(イデア)と深く絡まりあっているから、そう簡単には…」
毎日注ぎ込まれる豚の王の魔力と、それによって強引に引き出された王女マリアンヌの魔力。
どちらも第一級の魔力を誇る。そんな魔力が合一して彼女の肉体を変質させている。
たとえ絶食したとしても、彼女は空気中のエーテルを吸ってでも生き延びるだろうし、その脂肪を剣で裂こうとも、たちまち傷は塞がり、なんらかの術法を与えようとすれば、逆に術者が呪い殺されるだろう。
豚の王のものと結合して汚染された魔力は、マリアンヌのコントロールを離れ、自動的に彼女の出産・授乳器官としての肉体を保護してしまう。
この時代、この王国において、この状態を解除できる療法師はいない。そう知っていてイサベラは言ったのだ。
「さぁ、そろそろピグシーちゃんのムラムラも限界でしょうし、豚同士の交尾をお伝えしてお別れしましょう…」
のっしのっしと、豚の王が現れた。(これも幻影である。)その巨体に兵士たちはおののく。
ギャラリーがいて嬉しいのか、豚の王は彼らに見せ付けるようにその巨根をマリアンヌに押し込む。
「ああ…姫様が豚に…!!」
「や、やめろぉ! バケモノ! 姫様から手を離せ!」
ブゴォォーッ! ブゴォォーッ!
半豚人にとって聖堂騎士団は憎き仇である。知能が低下した頭でも、豚の王はその怨念を忘れてはいなかった。
その仇の前で、マリアンヌを犯す。この状況は豚の王にこの上ない喜びを与え、いつもより激しく腰を打ちつかせる。
ずっぽずっぽ…じゅぽっ…じゅぽっ…
「やめてぇぇ…こんな…こんなところ、みんなに見せないでぇ!!」
「おーほっほっほっほ! どう? 愛しいお姫様が醜い肉塊になって、醜い豚に犯されるのは!? 最高だわ!! あーはっはっはっは!!」
「はぁん! はぁん! みんなぁ…見ないでぇ…はぁ…はぁ…」
「腰動かせながら言っても説得力ないわよ! この淫乱メス肉豚ちゃん♪」
二つの巨大な肉の塊が、クチャクチャと音を鳴らし、がっぷり組み合う。
雄の精力を押し込まれる快感に、マリアンヌの膣は卑しく収縮し応えてしまう。
信頼を寄せてくれる部下たちの前にも関わらず、豚の王を下半身で貪り食うような腰の動きが止められない。
マリアンヌは恥辱のどん底に叩き落された。
「さぁて、お別れよ、聖堂騎士団の皆さん。でも折角来てくれたお土産に、成長した半豚人を見せてあげるわぁ…」
フゴッ…フゴッ…
ゴフッ…ゴフッ…
洞穴の奥底から、ぞろぞろと武装した半豚人のオスが何体も出てきた。
「それはマリアンヌちゃんが産んだ仔豚たちで編成した最初の部隊なの。幻影じゃないわよぉ…彼らは今日が初陣よぉ…」
「初陣…?」
「さぁ、最初の相手は聖堂騎士団よ! 皆殺しになさい!」
イサベラの号令とともに、半豚人が一斉に騎士団に襲い掛かる。
「うわぁーーっ!!」
「撃てーッ! 撃て、撃てーッ!!」
「うわああああああ!!!!」
ダダァーーーンッ! ズダダダァーーーーッッ!!
ピギギギイイィィィーーーーーーッッ!!!!
「じゃあね♪ 聖堂騎士団の皆さん♪」
「あぁあぁ!?…みんなぁ!!」
「びっくりさせてごめんなさいねぇ…でも黙っておかないとアナタ、彼らにバラしちゃうし…」
「もぉやめでぇ…ごんなひどいこどぉぉ…」
「やめないわ…まだ、たった一部隊じゃない。王国転覆の為にはもっと半豚人の兵士が必要だわ。」
「へいじ…?」
「そうよ、私たちがタダで半豚人を助けると思う? あんな下衆な種族を。契約をしたの。半豚人を復活させる代わりに、新しい世代の半豚人は『宵の明星』の兵士となって王国打倒のために戦うって。」
「!?」
「半豚人は戦士として見れば優秀だわ。しかもアナタの産んだ新世代は元の半豚人より強いじゃない。アナタの産んだ新型半豚人の軍勢が、この国を滅ぼすの。」
「そ、そんなああああ!!??」
「さ、できるだけ早く殖えるように、ボンボン種づけされなさい♪」
ピギイイィィィ! フゴッ! フゴッ!
「いやあああ!!」
ジュポッ…! ジュブッ…!
「すごいわねぇ、デカチンで再生可能な羊膜突き破って、妊娠中の子宮に容赦なく精液流し込むんですもの…それでいて胎児は流れない。流れ込んだ精子は、常に胎内で待機している卵子と結合する…受精卵は子宮のスペースの許す限り着床して、妊娠中でも新しい仔を次々に孕める。本当に出産器官なのね…」
「はぁあ!! また…また受精したあぁんっ!? また産んじゃう! また豚の赤ちゃん産んじゃうぅ!?」
「死ぬまで産み続けてもらうわよ…アナタ何歳まで生きるかしらね? その魔力だと100年は余裕ね…」
「はああっ!? いやあぁ…もう産みたくないぃぃ!!」
マリアンヌは、「豚の女王」として、肥え太り続け、犯され続け、孕み続け、産み続けた。体内に満ちる強力な魔力のせいで、これ程の肥満体にも関わらず、怪我とも病気とも無縁で太り続けた。
そうして、産まれた半豚人たちは、子ども同士で交配し、あるいは捕らえた人間の女を犯し、どんどん子孫を殖やしていった。マリアンヌの髪と同じ、金色のたてがみを持った半豚人の軍勢が、王国領内を荒らし、王国は衰退の一途を辿った。
皮肉にも、一度は滅ぼしたはずの半豚人が、王家の娘の胎から蘇り、王国を滅ぼす形となってしまった。
「豚の花嫁・完」
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