豚は豚へ 〜ある魔女裁判の記録〜

豚は豚へ 〜ある魔女裁判の記録〜

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「ディアス上席審問官、魔女メリッサ・クレソンをお連れしました。」
「うむ、壁に繋いでおくれ。」

 

ここは聖王庁の附属機関、「異端審問部」の本部庁舎にある独房である。
異端討伐の熱狂の中、古来の神々や精霊を信奉し、
呪術や魔法を使う魔法使いは次々異端審問部に連行されている。
時は「大魔女狩り時代」である。

 

「しっかり拘束しろ、見た目はそこらの少女でも、凶暴な魔女だ。甘く見るな。」

 

黒い法衣を着た背の高い男が、職員に命令する。
ひとりの少女が、壁に繋がれた鎖と革の枷で拘束されていく。
透き通るような白い肌、さらさらとした金髪のかわいらしい少女、魔女というよりは、
森の奥から出てきた妖精のような美しい少女だった。

 

やがて、少女の両手がしっかりと拘束された。
黒服の男が、床に座り込んだ少女の前に立つ。

 

「私の名前はアレハンドロ・ディアス上席審問官だ。名前くらい覚えてもらおうか。」

 

黒服の男、アレハンドロは、書類を部下か受け取り、内容を確認するように読み上げた。

 

「『メリッサ・クレソン… 齢16歳… 指名手配中のクレソン家の三女… ガレシア市の貧民街で外法を用い住民を惑わした…』」
「…あれは治療よ… 役人にも僧侶にも見放されたかわいそうな人たちを助けたの…」

 

うつむいていた少女がアレハンドロの声を遮るように声を出した。

 

「…ほう、治療ねぇ…」
「苦しむ人たちに救いを捧げたの… 魔法とはそういうものよ…」
「救いとはひたすら神に祈りを捧げてこそ得られるもの。人の行う手品が救いであるものか。」

 

アレハンドロはそう言いながら部下から棒状の包みを受け取り、包みを開いた。
中から、銀色の杖が出てきた。儀式用の聖杖である。

 

「…と、まぁお前ら魔女に聖職者の説法など今更届くまい、哀れな愚者め。裁きは主に任せるとして、仕事を早くすませよう。」

 

アレハンドロは杖をくるくると手の中で転がした。

 

「魔 女 の ア ジ ト は ど こ だ ?」

 

魔女のアジト―魔法使いたちは、世界各地を転々としたり、
人里離れた場所にひっそりと暮らしているが、それでもお互いに交流するための拠点が存在する。
魔女の根絶を目指す異端審問部にとって、拠点の場所を知ることは急務であった。

 

「絶対に言うもんですか!」
「だろうな… 外法を用い48時間の拷問に耐えた貴様がここで素直に吐くとは思わんよ。」
「分かっているじゃない。」
「…だから、ここではもっと恐ろしいやり方を使う。」
「…恐ろしい?」

 

アレハンドロは杖の石突をメリッサの腹部へ向けた。

 

「恐ろしいやり方を使う前に今一度聞こう… 魔女のアジトはどこだ?」
「その杖で叩くつもり? …耐えてみせるわ。」
「そうか… では、どうなっても知らんぞ! 喰らえ!!」

 

ドンッ!

 

石突がメリッサの腹部にめり込む。痛みが走るが、魔女は痛みに耐える術を知っている。

 

「んん… こんなもの? これが恐ろしいですって?」
「恐ろしいのはこれからさ… とても恐ろしい『神の術』を見せてやる…」
「! …これは!」

 

突然、杖が光りだし、青白く眩い光が走ると、
ただの金属だった杖は焼けた鉄のように赤く輝いていた。
そしてメリッサは、杖から自分の腹に魔力と似たようなモノが流れ込むのを感じた。

 

「これは…魔法!?」
「貴様らの下賎な魔法といっしょにするな… これは神の術だ… ひたすら神に祈り請うことで授かる神の祝福の術だ!」
「(理論はともかく… 相当に強い魔力だ! …体内に入るのはまずい、防御しなきゃ!)」
「抵抗しているな? 甘い! 貴様ら魔女が悪霊と結び手にする力など、所詮造物主の定めた宇宙の摂理の内にあるものでしかない!」

 

アレハンドロはより強く杖を握り、杖を突きたてた。
杖から伝わる魔力も一気に増大する。

 

「!? (…防御しきれない!)」

 

杖の魔力はメリッサの抵抗を圧倒し、メリッサの体内に流れ込み、
あっというまに血流に乗って全身の臓器や器官に染み渡る。

 

「ああぁぁあんっ!」

 

体中が火照り、熱くなる。自分以外の魔力が体内を駆け巡る証拠である。
魔法は自身の肉体の魔力を練りだして発動するものなので、
自分以外の魔力が体内に存在するというのは、魔法使いにとって危険な状態である。

 

「(あぁ… まずい… 肉体の支配権を… 乱される… いや、奪われる…)」

 

メリッサは自身の魔力の独立性を保とうと集中するが、精神の集中を防ぐのが精一杯で、
肉体は指一本も動かせない。
全身がぶるぶると震え、汗がだらだらと垂れる。

 

「こんな術を使う取調べは初めてだろう? さて、白状する気になったか?」
「うぅぅ… (こんな術、何されるか分からない…)」
「ん?」
「はぁはぁ… (でも、郷(さと)の場所が知られたら、みんなが…)」

 

メリッサは、家族や友人の顔を思い浮かべた。そしてキッとアレハンドロを見上げ、叫んだ。

 

「い、言えません!」

 

それを見た職員たちは、驚いた。
メリッサの苦しむ様から、確実に白状するだろうと思っていたからだ。

 

「そうか、では『鍵』を開くとするか。」
「…鍵?」

 

ビリィッ!

 

「!? あぁんっ!!」

 

杖に稲妻のような火花が走る。
それと同時に、杖から流れる魔力の波長も変わり、メリッサの体に伝わる。

 

ドクンッ!

 

「!?」

 

ドクドクンッ! ドクッ! ドクトクドクッ!

 

「は、はあぁっ! この感じは!? ま、まさかっ!?」

 

メリッサは、肉体が魔力の波長に合わせ痙攣するような感覚に包まれた。

 

「ふふふ… あははは…… 魔女め! もっと怯えろ!」
「アレハンドロ様、これは何でございますか…?」

 

アレハンドロの部下も、この光景は初めてなのか、不安そうな顔でアレハンドロに尋ねる。

 

「魔女の肉体に込められた魔力を解放しているのさ!」
「…魔力を… 解放?」

 

そう聞き返したとき、メリッサの体には変化が起こっていた。

 

 

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