呪われた体重計
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朝起きたら、体重が100Kgになっていた。
何で?何で?なんで?ナンデ?……
体重計の針が指す数値を見て、私の頭の中はこの言葉でいっぱいになっていた。
―元々100Kg寸前のデブだった?―
それは無い、昨日の朝計った時は確かに体重計は48kgを指していた、
まさか、私が1日で52kg太ったと言う訳でもないだろう。
―ここはその『まさか』が起こる場所だ、とは考えられないか?―
それも無い、私の知り合いがそうなったと言う話は聞かないし、第一私から見た自分の体型は昨日と変わってはいない。
黒髪のストレートを長く伸ばした髪型。
やや丸顔で、童顔といっても良いかも知れない顔。
間違っても大きいとは言えないが、綺麗なお椀型をしていると言える胸。
綺麗なくびれと人によく言われるウエスト。
扇情的な丸みを帯び、それでいて下品さを感じさせないヒップと、それに連なる引き締まった足。
世に言う「スレンダー体型」である私の体型に、全く変化は見られない。
―じゃあ、体重計が壊れているんだろう?それ以外考えられ無いじゃないか!―
残念だけどそれも無い。
近くにあった5kgのダンベルはしっかりと5kgを指したし。
私の前に計った母の体重は73kg、先月より2kg増えていたが異常な変化では無い。
こうして、私の中の冷静な自分と一通りの可能性について考えて見たが、どうやら
『体型が変わっていないのに何故か体重計が100kgを指している』と言う事実を認める他に無いらしい。
最後に、自分の見間違いでは無いかともう一度体重計を覗くが、その針は100kgを指したままだ。
……ナンデ?なんで?何で?何d
「弥朱(みあか)ー!いつまで体重計に乗っているのー!遅刻するわよー!」
そんな私の混乱は、母の呼び声と、8時を指す時計によって見事にかき消されたのだった。
私は、体重計から飛び降りると、急いで自分の部屋に向かった。
「(ま、体型が変わったわけじゃないし、大した問題じゃないよね。……多分。)」
……言うまでも無く、大した問題だったのですが。
それから一週間が経った。
体重が100kgになってから2〜3日は事有るごとに体重計に乗って確かめてみたが、やはり体重計の針は100kgのまま全く動かず、もう乗っても無駄だと思い、4日目には体重計に乗らなくなった。
自分の体重が解らないのは少し怖いが、少々食べ過ぎても50kgを超えたことは無いし、大丈夫だろうと思い込んだ。
そして、原因の方も何かの呪いと言う事にし、この事についてはもう考えない事にした。
体重計が使え無くなった事以外は全く何も変わらない、そのはずだったのだが……
「弥朱ぁ、あなたちょっと太ったんじゃない?」
「え?そんな事はな、無いよー。明美、こそ、太ったんじゃないの?」
体育の着替えの時、唐突に言われたこの言葉はなぜか意外ではなかった。
「いいや、絶対太ったわ、まずその胸、ブラジャーに押しつぶされているじゃない。」
「それにそのお尻、スカート越しでも形がはっきり見えているわよ。」
確かに、ブラジャーもパンティーもちょっときついと思っていたが、
この前冬物に替えたからだと思っていた。
……いや、思い込んでいた。
そんな私の思考とは全く関係なく、明美は言葉を続ける。
「それに何よりそのお腹、ギリギリで段は出来ていないけど、かなりやばいわよ。」
「ま、男はちょっとぽっちゃりした娘の方が好きみたいだし、今でも充分かわいいよ。でも……」
明美はそう言うと、私のお腹を……いや、私のお腹の柔らかい贅肉を掴んだ。
「さすがにこれ以上はやばいから、ちゃんとダイエットしなよ。」
そういって、明美は途中で止めていた着替えを再開し始めた。
私も着替えを再開したが、予想通りと言うべきか、一週間ぶりの体操服はかつて無いほどにきつかった。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」
私の高校では、体育を始める前に必ず校庭を2週、400M走らせる。
高校に入ったばかりの時はかなりきつかった距離だったが、一年半以上走ってきた今ではもはや楽勝である……はずなのだったのだが。
……体が重い、息が苦しい、それに、体中ががぷるぷると震えている気がする。
胸とお尻にいたっては、「気がする」ではなく、ぶるぶるとはっきりと揺れている。
男子からの欲情の視線と女子の嘲笑の目線が痛い。
……それでも、私は何とか400mを息も絶え絶えの様で走りきれました。
その日の夜、私は下着だけを着けて自分の部屋の姿見を見ていたのだが……
「何で気づかなかったんだろう、すごく太ってるじゃない……」
あまり変わっていないみたいだが、少し顎に肉が付いた気がする顔
明美が言った通り、完全にブラジャーで押し潰されている胸
姿身の前でブラジャーを外して見ると、文字通りにスイカのような胸が解き放たれていた。
大きくなったのは嬉しいけど、ちょっと垂れてる……
なんとか段は出来ていないが、随分とくびれがなだらかになったウエスト
ついでに言うと、下腹部もぽっこりと出始めている
今にも破れそうなパンティーが包むお尻は、ともすれば下品なほどに過剰な色気を発している。
随分と肉のついた太もももそうだ。
総合的に見ると、かろうじて……百歩譲ってグラマー体型といった所だろうか。
「なんでこんなに太ったんだろう……」
私はここ一週間の行動、とりあえず昨日の行動を振り返ってみる。
朝起きて、取り合えずドーナッツを食べる、のどが渇いたのでコーラを飲んだ。
朝御飯を食べる、トーストを四枚と昨日の残りのカレーを2杯。
自分の部屋で着替えて、学校に行く、途中でアイスを2本食べた。
1時間目の授業を受けながらポテチを2袋食べる。
休み時間に明美とクッキーを食べる。
2・3時間目は家庭科、調理実習で作ったシチューが美味しくて3杯もお代わりした。
4時間目の授業中に空腹が我慢できずにお弁当を食べた。
お昼休みに昼食、食堂のカツ丼とカレーうどんを食べる、食後のプリンは欠かさない。
5時間目の休み時間にのどが渇いたので1Lのソーダを飲んだ。
6時間目にはおやつとしてチョコレートを3枚食べた。
学校が終わって、形だけの部活、お菓子を食べながら雑談。
下校途中にお腹が減ったので丼屋で牛丼を食べる。
家に帰ると晩御飯、昨日のカレーだったが、文句をいいつつ3杯食べた。
お風呂上りにカップアイスを3個食べ、寝る前にお腹がすいたのでカップ麺を食べる。
夜中に空腹で目が覚める、カップ麺を2個食べた。
他の日も大体こんな感じだ。
先週までの自分と比べると確実に5倍、いや、8倍は食べている。
……と言うか食べてない時間が殆ど無い位に物を食べまくっている。
「……こりゃ太るよね、なんで気が付かなかったんだろ。」
ダイエットをしなきゃと強く心に誓い、私は久しぶりに体重計に乗ってみる。
100kgを指す針を見て、こうならないように自分を戒めるためだ。
しかし、変わらず100kgを指す体重計を見る内に、私の中にある考えが浮かんできた。
「(まさか……これって私の体重が100kgになるって言う予言じゃないよね……)」
違う、と否定しようと思ったが、その考えが頭から消える事は無かった。
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