276氏その2
前へ 1/2 次へ
呪術、魔術、妖術、古来より人々の間で想像され、創造され、受け継がれて来た物ではあるが、
近代からの科学の発展と合理主義の台頭により、ある物は神秘のベールを剥がされ、
またある物は不合理と断じられ、あらゆる神秘の力は迷信として葬り去られた……
しかし、妖術としか言いようの無い技は確かに存在し、その使い手もまた存在するのである。
一例として、己の体に蓄えた油を燃料として超人的な体術を可能とし、
燃える拳を放つ拳法が挙げられる。
そして、今回は山奥に住まうその技の使い手の物語である……
「ししょー! お代わりお願いします!」
やや小柄な少女が茶碗を片手に元気良く叫ぶ。余程待ちきれないのか、
目を爛々と輝かせ、五体全てを使って空腹をアピールしている。
「比奈、もうすぐ出来るので少し待っていて下さい」
師匠と呼ばれた長身の男性は、少女の行動を気にした様子も無く淡々と調理を進めている。
アルミホイルの上に適当な大きさに切った野菜を乗せ、
その上に大き目に切った鶏肉と調味料を入れて包む。
この後にオーブンかフライパンで蒸し焼きにすれば鶏肉のホイル焼きとなるのだが
師匠は自分が調理器具だと言わんばかりに両手にその包みを乗せて目を閉じる。
すると、彼の両手が一瞬激しく燃え上がり、その後も小さな炎に包まれている。
しばらくすると、両手に乗せた包みから湯気が立ち、辺りに良い香りが漂って来る。
「どうぞ、熱いから気をつけて下さいね」
「はい! いっただっきまーす!」
師匠が作ったホイル焼きは両手で二つ、二人で分けると思いきや、
その両方が少女―比奈のテーブルに置かれる。
テーブルを見ると、アルミホイルの殻が四つあり、一つは師匠の席、
残りの三つは比奈の席に置かれている。
今置いた分も合わせると、少女は男性である師匠の五人分の食事を取る事になるのだが、
比奈はまるで一日食事を抜きにされたかの如き勢いで、とてもおいしそうに食べ始めていた。
「しかし、師匠は燃費が良いですよねぇ、私があんな方法で料理してたら作った量の三倍は食べないと持ちませんよ?」
食事の後の一服として、比奈は師匠に軽い話を振る。
「比奈はまだ修行中の身ですからね、技が完成に近づけば自然と燃費も良くなりますよ」
お茶を啜りながら軽い調子で師匠は答える
「ふーん、早く師匠みたいに炎をバンバン出して戦ってみたいなー」
ややふて腐れた様子の比奈の指先からはマッチ程度の火が出て来る。
比奈も師匠もタバコは吸わないのでこの程度の炎が役に立つ事は無いのだが、
手慰みと言う奴である。
「まあ、どうしても炎で戦いたいのなら倍位に太ってみたらどうですか? 体脂肪が技の燃料ですから効果はありますよ。」
真顔で答える師匠だが、明らかにからかってる調子である。
「……遠慮しときます、炎を操る巨デブ女なんてただの大道芸人ですよ?」
比奈は一瞬自分の体を見つめてから、げんなりした様子で返す。
艶が自慢の黒い長髪と、やや丸い顔、年相応と言うには少し小さい胸に、
なだらかなくびれを持つ腹部、そして薄く肉の付いている腰と足、
全体的に痩せてるというよりは未成熟な体つきをしているが、
鍛えてある成果かうっすらと筋肉が付いてるのが分かる。
体重が倍になればどうなるのかは想像も付かなかったが、
見苦しいであろう事は容易に想像がつく。
炎を使うのが格好良いと言う理由でこの技を修行している比奈にとっては
耐えられない事なのである。
「まあ、地道に修行する事ですね。比奈の力がすぐ必要なほど物騒な世の中では無いですからね。」
こうして食事を終えて一日が過ぎて行く、師匠と過ごす最後の一日が……
「え……師匠が殺された!?」
数日後、留守番をしていた比奈にやってきたのは、仕事を終えた師匠では無く、
敬愛する師匠の訃報であった。
訃報を届けた者の話によると、武器密輸の現場でSPをなぎ倒していた所で
、数百m先からライフルで狙撃されたのだと言う
全身で高熱を出せば銃弾を触れた傍から溶かすような芸当も出来るのだが、
直前まで隠密行動だったので使っていなかったらしい。
「そんな、ししょう……」
半ば放心状態で聞いている比奈に対し、財産の引継ぎやしばらく仕事を回さない事を伝えた使者は
さっさと帰って行った。
そして、2〜3日程は放心したまま過ごしていたのだが、
そのうちに心の中で徐々に芽生えてくる復讐心を自覚し、
さらに復讐心を師匠の後を次ぐと言う大義名分で塗装した比奈は、
師匠を殺した組織を壊滅させる事を決意する。
本来ならその時点でアジトまで直行したい所であったのだが、仮にも師匠が不覚をとった相手であり
無闇に特攻すれば相手に何の打撃も与えずに犬死にするだけである。それでは何の意味も無い。
体術だけで言えば、今の比奈の実力でも十分圧倒できるのだが、
師匠をも葬った狙撃に対応することが出来ない。
前述した全身から高熱を出す技を使ったとしても、燃費が悪すぎて30秒も持たないのである。
いつ狙撃されるか分からない状況で戦うのならば、最低でも15分は維持出来ないと話にならない。
師匠の言によれば、比奈がその域に達するには順調に行って10年はかかるそうである。
そして、比奈は10年も復讐心を抑えて修行に励める自信は全く無かった、
恐らく2〜3年でタカをくくって特攻し、その楽観的な脳を打ち抜かれてしまう事だろう。
ではどうすれば復讐を完遂できるのか、考える比奈の頭に師匠の言葉が思い浮かぶ
―どうしても炎で戦いたいのなら倍位に太ってみたらどうですか?―
「これよ! これだわっ!」
この言葉に思い当たった瞬間、比奈は思わず手を叩いて叫んでしまう。
「燃費が悪くて技が使えないなら燃料を増やせば良い! 考えれば単純な事よね!」
そうして比奈はすぐに体重計に乗り、自分の体重を見る、アジトに突撃する目標を計るためである。
今の比奈の燃費では、例の技を大体45秒維持すると脂肪を1kg消費するので、
単純に考えれば脂肪を30kg増やす必要がある。
他の技にも脂肪を使用することを考えれば更に10kg程予備の脂肪が必要があるだろう。
「えーっと…… 42kg、それなら80kg位あれば十分かな。それを超えたら突撃ね!」
こうして、キリの良い数値を目標に定め、比奈の増量計画が始まったのである。
とりあえず、増量のために比奈が始めた事は、大量の菓子やジュースを買い込んだ事である。
常識的に、太る為には運動を減らすか食事を増やす必要があるが、復讐のためには
修行を欠かす事は出来ず、元々三食はお腹一杯になるまで食べていた比奈は
そのどちらも行なう事が出来ない、
よって、あまり多く食べていなかったお菓子やジュースを大量に食べようと言う
結論に達したのである。
とりあえず、おやつの時間と寝る前の夜食としてホールケーキを食べることにしたのだが
「普通なら大喜びなんだけどなぁ……」
目の前には半分程残ったホールケーキがあるが、どうしても手が動かない。
そもそもお腹一杯になるまで夕食を食べていたので、
ホールケーキを半分も食べれるのが凄いのだが、
「……徐々に慣れていこっと」
せめてもの抵抗としてペットボトルのコーラを無理やり飲み干すと、
残りのケーキを冷蔵庫に押し込んで眠りについたのであった
〜2ヶ月目〜
「2kgか、全然増えないわね……」
普通の女性に言えば殺されかねない事を言う比奈。今の体重は44kg、
二ヶ月前よりは確かに増えているが彼女の背が伸びた事と、筋肉が付いた事が主な要因であり、
肝心の脂肪はむしろ減っているかもしれない。
大分筋肉が目立つようになった体を見つめてため息をつく比奈。
「これだけはしたく無かったんだけど…… 師匠、申し訳ありません!」
比奈は、壁に張っていた修行のメニューの幾つかに大きな×印を付ける
技の修行では当然技を使うために大量の体脂肪を消費する、
故に比奈は異常な大食にも関わらずに太らなかったし、
逆にやせ細らない為に大量に食事を取る必要があった。
逆に言えば、修行をしなければすぐに太れると言う事である。
しかし、修行のメニューは師匠が直接組んでくれたものであり、
それを減らすのは非常に抵抗があったのだが、
復讐を果たすためには仕方が無いと、修行メニューを半分に減らすことにしたのである。
「早く復讐を達成して元のメニューに戻したいな……」
夜食であるホールケーキを食べ終わると、そう呟いて比奈は寝床についた。
〜3ヶ月目〜
「本当に効果がある物ね……」
体重計は49kgを指していた、先月にくらべて5kg、最初と較べれば7kgの増量である。
当然、体型にも増量した成果が表れており、特にAカップのブラでも少し緩かった胸が、
つい先日どうしても入らなくなった事はささやかながらに彼女を喜ばせる事になった。
ショーツも同様にきつくなり、下腹がつまめるようになる等、他の部分には影響は大きいのだが…
「ふふ、これ位の体なら維持したい位かな♪」
夜食のホールケーキを食べ終え、ポッキーをつまみながら呟くのであった。
〜4ヶ月目〜
「中々順調だけど、そろそろ見た目がヤバイね……」
体重計は55kgを指している、先月に較べて6kg、最初と較べれば13kgの増量である。
本人は嘆いてる見た目であるが、客観的にみればそれほどではない。
確かに完全にお腹が出るようになり、ショーツの上に肉がのるようになってしまい、
お尻も大きく突き出すようにになっているが、成長期も手伝ってか
胸はDカップが少しキツイ位にまで大きくなっており、筋肉が完全に見えなくなった太ももは
つい先日15歳になったばかりとは思えない色気を発している。
総合すればグラマーとぽっちゃりの境界線ギリギリといった所であろうか。
とはいえ、今まで来ていた服や下着は全部着れなくなったので
大きなサイズを買うまでのつなぎとして、ジャージを着ているので、
本人はそれに気が付かないのだが……
「やっぱり、走りこみの後はお菓子が美味しいわ」
夜食のホールケーキとポテトチップを食べ終え、ポッキーつまみながら呟くのであった。
〜5ヶ月目〜
「この後走りこみか、辛いなぁ……」
体重計は63kgを指している、先月に較べて8kg、最初と較べれば21kgの増量である
比奈が呟いている通り、最近は体型の変化よりも体力の低下が著しい問題となっている。
例えてあげるなら、30分で楽に回りきれた山道の走りこみのコースが半分も走りきれなくなり、
同じ距離の平坦なコースに変えても1時間半以上かかる様になってしまっている。
脂肪を燃料として身体能力を向上させれば10分もかからず完走できるのだが、
それに脂肪を消費する訳には行かない。
それと、体型も大きく崩れており、先月買った服のサイズが全く合わなくなっている。
今は余り体型が出ないオシャレとしてワンピースを着ているのだが、無理やり着ているせいで
体型がストレートに表れており、Fカップとなった胸も相当目立つのだが、
それ以上に段々になって突き出たお腹が一番目立つ結果となっている。
「本当、痩せたら一から鍛え直さ無いと…… あッ!」
夜食のホールケーキの二つ目を食べている途中で、ショーツが破れてしまったようだ。
前へ 1/2 次へ