276氏その2
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〜6ヶ月目〜
「ふむふむ…… あ、おいし。」
体重計は75kgを指している、先月に較べて12kg、最初と較べれば33kgの増量である。
ちなみに比奈はポテトチップスを抱えたまま体重計に乗っている、
修行以外の時は常に手放さずに食べている。
その修行だが、最近は体力が落ちすぎて1000mですらまともに走りきれなくなっており、
腹筋や腕立ては重くなった体を持ち上げられず、柔軟はお腹が邪魔で曲がらなくなっており、
瞑想意外の修行メニューを全てやめてしまっている。
そして、瞑想以外の時は常にゴロゴロしながらお菓子を食べ続けており、食事の時も調理を
めんどくさがってホールケーキやアイスクリームを沢山食べる事にしているのである。
当然体型は崩れるだけ崩れており、Hカップにまで達した胸も、重力に負けて少し垂れており、
ヒップも同様に大きく突き出ながら少し垂れている、そしてお腹もブクブクと膨らんでおり、
立った状態で真下を見る事が出来ないほど突き出た状態になっている。
服はいちいち買い換えるのが面倒になったのでXLサイズのジャージをずっと着ており、少々汗臭い
ショーツやブラジャーはすぐにサイズが合わなくなるので付けていない、
そんな状態でごろごろしている彼女は、まさに地上にあがったトドとしかいいようがない状態である。
「全部終わったら山火事起こす勢いで火を出さないとねー」
最早夜食という区別に意味が無い程大量のお菓子を食べながら比奈はぼやいている
〜7ヶ月目〜
「お、やっと80kgを超えたわ!」
体重計は80kgどころではなく、93kgを指している、
先月に較べて18kg、最初と較べれば51kgの増量である。
単純に考えれば、かつての自分自身の重量よりも大量の脂肪をつけた事になる。
サイズ自体はより大きくなった物の、アンダーが膨らんで結局Hカップのままの巨大な胸は
若さゆえのハリで形を保とうとしているのだが、重力には勝てずにお腹の上にどっかりと乗っており、胸を乗せているお腹は胸を上回るほどに突き出ており、息をする度にタプタプと震えている
ヒップは若さゆえのハリで辛うじて形を保っているが、それがよりボリュームを強調させている
太ももはヒップとの区別が一瞬付かないほど大量に肉を付けており、
少し足を広げても太もも同士が接触している。
顔は元々丸顔だったとはいえ、完全な二重顎になっていたり、
頬の肉が盛り上がっていたりしており、辛うじて愛らしいと言えるかどうかといった所である。
「さてと…… 今日の夜に奴らのアジトに突入よ!」
すでにピチピチとなったジャージを脱ぎ捨て、比奈は決意を固めるのであった。
〜同日夕方〜
「さて、技を使うのも久しぶりね、上手く出来るかしら」
今の比奈の体力では、彼らと戦うどころかアジトにたどり着く前にバテ切ってしまうだろう。
なので、貯めに貯めた体脂肪を燃料として、太る前程度の体力に強化する必要がある。
比奈は静かに目を閉じ、体の中心で燃える炎のイメージを作り、
それが経絡を通って全身を巡るイメージを構成する
それが完成すると、比奈の体は倍以上に太ったことが嘘のように軽くなる感覚を覚える。
「うん、うまく行ったわ! コレでちゃんとアジトに乗り込めるわね」
確かめるように飛び跳ねたり軽く走ったりするが、全く疲れる様子も無く、
十分な機敏さで動くことが可能のようだ。
ただし、体重や体型は太ったままなので、一歩走るたびに全身がブルンブルンと震えており、
柔らかく着地したつもりでも、足がが土にめり込んで足型が付いていたりするが……
ちなみに、今の比奈の服は黒一色のラバースーツである。
さすがに今にも破けそうなジャージで外に出る訳には行かない事と、
戦闘中に脂肪を消費して急激に痩せるはずなので、それに合わせるための服装である、
それでも、そのままでは街中で異常に目立ってしまうので上から男物のコートを羽織っているが
体型が出ないように極端に大きなサイズのコートにしたせいで
首から下が着ぐるみを着たかのような状態になっており、十分に目立つ格好ではあるのだが。
〜同日夜〜
「あそこが、師匠の敵の本拠地ね……」
繁華街からは少し離れた所に位置する純和風の屋敷、それが辛うじて見える位置で比奈は様子を伺う
これ以上近づいては敵の監視に見つかる可能性があるからだ
それでなくとも今の比奈は非常に目立つ。街中では道行く人の9割以上が思わず目を止め、
その半分が一瞬で目を背け、残りの半分からは憐憫と好奇の視線を浴びせられる。
そうして自分が目立つことを嫌と言う程思い知ったのだが、
比奈は最初から自分の存在を隠すつもりは無かったので、大した問題とは考えていない。
正面から突撃して一人残らず叩きのめし、報復する気力すら奪いつくし、
ライターの火に怯える程炎への恐怖を刻み込む、それこそが比奈の復讐なのである。
「師匠、見ていてください……!」
そうして改めて決意を固めた後、比奈は屋敷へと向かったのである
「おいそこの女、こっちには何もねえぞ」
屋敷の門が見える位に近づくと、チンピラ風の男に声を掛けられる。
余りに怪しい風体の比奈が近づいて要るので、一応の警戒として配置したのだろう。
比奈は声に気が付いて無い振りをして男に近づいて行く。
「おい聞いてんのかデブ、ここはお前の大好きな飯屋じゃねえぞ!」
少々苛立った様子で男が声を上げるが、比奈は構わず門に近づいていく。
「てめえ聞いてんのか! 耳にまで脂肪が詰まってんのかオイ!」
男は完全に叫び始めたが、やはり無視して進み、男のすぐそばまで近づく。
「さっさと帰れっつってんだデブ! てめえみたいなブタが近寄ると暑苦しくてたまんねぇんだよ!」
男は自分の隣を素通りしようとした比奈の肩に手をかけてあらん限りの大声で叫ぶ。
実は、比奈の周囲は暑苦しいを通り越して熱い程になっているのだが、
激昂した男はその事に気が付かない。
そして、比奈が笑みを浮かべた瞬間、彼女の体が燃え上った!
「あ…熱ぃ! デブが燃えやがった!」
肩に手をかけていた男はモロに火を浴び、思わず真後ろに仰け反る。
そして、目の前の様子を改めて確かめると、巨体がそこにあった。
どうやらさっき燃えたのは彼女のコートだけだったらしく、
肩に残ったコートの一部のみが炎を上げている。
その炎に照らされているのは、爆乳と言って良い程の乳房と、それを上回るほどに膨らんだお腹、
丸太のような太ももを黒のラバースーツに包んだ幼い少女である。
格好こそ特殊エージェントのそれであるが、その顔や体型はエージェントとは程遠い。
男はその異形と、服が燃えたのに平然としている比奈の様子にただ呆然としている。
「アンタ、いったい何者なんだ……?」
男がやっとの事で搾り出した声に対しても比奈は答えず、そのまま思いきり走り出す。
体当たりを受けた格好になった男は完全に吹っ飛ばされてドアに当たった後、
ドアに体当たりを仕掛けた比奈に巻き込まれ、破られたドアごと吹っ飛んでいった。
「私が誰かって…… 正義の味方よ?」
ドアを破った所で止まった比奈は、やっと声を出し、男の質問に答えた。
「侵入者だ、殴りこみがあったぞ!」
「ここでビビって何が鉄砲玉だてめえら!」
「ドスじゃ勝てねえ! チャカ持って来い!」
「組長は何処だ! 早く逃がさねえとやられちまう!」
チンピラ風の男が吹っ飛ばされた後、悠々と屋敷の庭に入った比奈に対し、
相手は半ばパニック状態に陥っている。このまま暴れ回れば相手の壊滅は容易なのだが、
あえて比奈は相手の準備が整うまで待っている。
完全な状態の相手を叩き潰して恐怖を植えつける事と、
直接の復讐相手である狙撃手に狙撃させる余裕を与え、その居場所を見つけるためである。
待っている間にも、何人かがドスやナイフを構えて襲い掛かって来るのだが、
体脂肪を燃やして超人的な身体能力を得ている比奈の相手では無く、
ある者はナイフを叩き落とされ、またある者はドスをヘシ折られ、次々と無力化されて行く。
そんな中、体を捻ってかわそうとした日本刀がお腹に直撃してしまう、
余りに軽快に動けるので、自分が太っている事を忘れ、
痩せていた頃の感覚でかわしてしまったのだ。
腹部を切り裂かれ、致命傷は免れないはずなのだが……
「調子に乗り過ぎたなデ、ブ……?」
比奈に切りつけた男は歓喜の声を上げるも、余りの手応えの無さに一瞬動きが止まる。
その隙を逃さず、比奈は男を片手で掴んで投げ飛ばす。
男は何人かチンピラを巻き込んでから刀を掴んだまま屋敷の中に投げ飛ばされる。
「おい、何だよこれ……?」
男が握っていた刀は針金のように曲がっていたのである。
「ヤツが腹肉に刀が弾かれたってのか?」
「だろうな、それ以外に考えられん」
「野郎ども! ヤツの腹肉は分厚すぎて刀はきかねえ! 手足を狙え!」
実際には、狙撃された時のために、銃弾を溶かし、コートを燃やす程の高熱を比奈の全身から
発しておりその熱で斬られる前に刀を溶かして曲げたのだが、そんな事を知らない男達には
これ以上無いほど付いた腹肉に弾かれたようにしか
見えなかったのである。
「ち、違うわよ! そんなデブじゃないもん!」
そんな声に、殆ど無言を保っていた比奈も思わず少女然とした声を上げてしまう。
「くそ! やっぱりチャカも効かねえぞ!」
「どんだけデブったら銃弾浴びて平気でいられるんだ!?」
拳銃の用意が終わった男達は比奈に対して集中砲火を仕掛けるが、
全て腹の脂肪に弾かれ、…もとい銃弾を高熱に溶かされて一切効いていない。
比奈は、そんな攻撃には一切関心を見せず、意識を集中させる。
恐らく、師匠を葬った狙撃主はこの銃弾の嵐に紛れて狙撃してくるだろう。
その弾丸をあえて受け止め、その位置を割り出す必要がある。
そして、その時は来た、比奈のこめかみに強い衝撃を感じたのである。
一瞬で弾丸を溶かしたのでダメージこそ無かったが、拳銃よりもはるかに強い衝撃は
比奈に狙撃された事を確信させる。
即座に狙撃された方を振り向くと、50M程離れた離れの4階にライフルを持った男を見つける。
「師匠の敵…… 見つけたぁああああああああ!」
その瞬間、比奈は猛然と男に向かって走り出す。
一歩踏み込む度に乳房とお腹を中心にブルブルと脂肪が不規則に振動し、
そのフォームもバテきったかのごとく無茶苦茶だったのだが構わずに風のような速さで走る。
そして、男のいる離れにたどり着くと、大きく膝を曲げて跳躍を行なう。
普通ならば、飛び上がる前に膝か腰を痛めて終わりだが、比奈が一瞬炎に包まれたかと思うと、
一気に4階の窓にまで飛び上がり、窓を破って男の前に降り立った。
その姿は非常に幻想的であり、見る者が見れば炎の天使や堕天使とでも称したかもしれない、
比奈が痩せたままだったらの話ではあるが。
今の比奈の姿では焼きブタか、せいぜい炎のトドといった所だろうか。
「こんばんわ、狙撃手さん」
比奈は、完全に竦み上がっている師匠の敵に対して非常に気さくに話しかける。
「ねぇ、あなたは7ヶ月前の事を覚えてるかしら?」
男は答えない
「その時、あなたは港の倉庫で武器密輸の護衛をしていたはずよ。」
まだ男は答えないが、少なくとも思い出そうとし始めている。
「それで、とっても強い男の人が邪魔をしてきたからあなたは彼を撃ち殺した、そうよね?」
男はそこまで言われてようやく思い出したらしく、辛うじて首を縦に振る
「それでね、その男の人って私の師匠なのよ、私を娘の様に可愛がってくれたわ」
男は何も答えないが、徐々に顔が青ざめて行くのが分かる
「だからね、あなたにお礼がしたいのよ…… ぎゅって、抱きしめて良い?」
比奈は、とびっきりの笑顔を狙撃手に向ける。痩せていた頃ならともかく
今の比奈では一部の物好き位しか喜ばない提案では有るが
狙撃手はそれ以上に本能的な危険を感じて逃げ出そうとするが、その肩を比奈に掴まれる。
「逃げちゃダメ、最後まで付き合って貰わなくちゃね」
狙撃手の肩を掴んだ腕が燃え上がり、反対側の腕も炎が上がる。
そのまま男を力強く抱き寄せ、顔を乳房に、体をお腹に押し付けるようにする。
少女特有の張りがありながらも柔らかい感触で男を包み込むが、それを感じる間もなく
男の肉は焦げ、燃え上がり始める。
何処までも続くかと思われるほど柔らかく分厚い脂肪に押し込まれるほど炎は大きくなり、
比奈と狙撃手は文字通り激しく燃え上がる。
そのまましばらくしてから比奈が手を離し、炎が消えた後には灰すら残っていなかった。
「さて、残りを片付けないとね……」
呟いた後、比奈は離れを飛び降り、残りの雑魚を蹴散らしにかかった。
〜エビローグ〜
「これでとりあえずは終わったわね……」
狙撃手を焼き尽くした後は相手は完全に戦意を喪失したようで、
師匠と親交のあった人を呼び出して後の処理を任せると、比奈はそのまま家に帰った。
まず、ホールケーキを二個食べて2Lペットボトルを飲み干し、空腹を収めた後で
汗だくになったラバースーツを脱ぎ捨て、シャワーを浴びる。
そして、今は体重計の前に立っていた、
「さて、今回の戦いでどれくらい脂肪を使ったのかしらね……」
比奈の当初の計算では、体重は60kg位になっているはずなのだが、
殆ど体型が変わっているようには見えず、恐らく体重は10kgも減っていないだろう。
修行が完成に近づいたのは良いのだが、コレでは痩せる事に苦労してしまう。
少しでも多く減っていますようにと祈りながら体重計に足を乗せたのだが……
「うそっ! 体重増えちゃってる!?」
体重計は96kgを指している出動前と較べて何故か3kgも増えている。
だが、さっき食べたケーキとジュースが合わせて4kg程有るので
実質的には92kg、1kg減ったと考えて良いかもしれないが、
大量に汗をかいた分を考慮に入れると、燃やした脂肪は100gにも満たないのではないだろうか
「なんでいきなりこんなに燃費がよくなったんだろ…… あ、あーっ!」
比奈は、自分が全く痩せていない理由を考え、師匠の言葉にたどり着く
―冷静に激情を発露せよ、これこそがこの技の極意です―
―極意を極めれば、体脂肪を使わずに精神だけで炎が出せるそうです―
―もっとも、私もその域には達していないのですがね―
冷静に激情を発露せよ、平たく言うと冷静にキレろと言うことだが、
この7ヶ月の間、比奈はすぐにでも師匠の敵を討ちたいと言う気持ちを押さえ、
復讐を成功させるために倍以上に太るという少女にとって何よりの苦行を平然とやってのけた。
この行為は十分極意を極めるに値する行動であろう。
そして、極意を極めたならば精神のみで炎を出せるようになるため、
幾ら炎を出しても体脂肪を使わないのだから痩せるはずが無いと言う事である。
また、先日の戦闘ではいつもと全く同じ方法で技を使い、手ごたえの違いも全く無かったため
意識して脂肪を燃やす事も出来ないのだろう。
全てが終わったら好き放題炎をだして痩せるつもりだったのだが、
その目論見が完全に崩れてしまい比奈の目の前は一瞬真っ暗になる。
「これからどうやって痩せようかな…… ゴハン食べてから考えよっと」
なお、比奈が無事に痩せられたかどうかは定かでは無い。
だが、数年後には、腹の肉で剣も弾丸も弾き、自らの脂肪で対象を焼き尽くす
女性エージェントの名が裏社会に轟き、恐れられたと言う……
(了)
※おまけ
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