肥満化ウィルスにご用心
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「乾杯!」
高級なフランス料理レストランの席に、ミキは友人のハルコとともにいた。
療養所では考えられなかった、“少量が皿に豪華に盛られた”フルコースだった。
「いやぁほんとによかったわぁ〜 ミキが無事退院できて。療養所に行って以来
何の連絡もないんだもん。心配したんだから〜」
ハルコの言葉に微笑むミキ。元の体重にこそ戻っていないが、ポッチャリ体型と言える程度の体重にまで減量した笑顔は、元のミキそのものだった。
「ホント大変だったんだから。もうちょっとで死ぬとこだったのよ」
楽しそうに話しながら、久しぶりの外の世界の食事を楽しんだ。
療養所では意思とは無関係に食料がつめ込められ、肥らされていた。
当然、美味しく味わうなんて経験はできなかったわけだ。
およそ半年振りの“普通の”食事だった。
ミキはゆっくりと、丁寧に、神戸牛のミディアムレアステーキを噛み締めた。
短大も後期からの復学が決まり、ミキは完全回復をなしてみせた。
その日はハルコとの会話をたっぷりと楽しみ、帰宅した。
翌日。
鳴り続く着信音に、ミキは起こされた。
「ふぁい、もしもし〜 ハルコ何? こんな朝っぱらから…」
『ミキ! 大変! 今すぐテレビつけて、テレビ!』
「?」
不思議に思いながら、寝ぼけ眼でリモコンを探し出し、ミキはテレビをつけた。
『逮捕されたのはフランス料理店経営のマルセイエーズ社長、義荘幸作容疑者です。調べによりますと義荘容疑者は、経営するフランス料理店で、高級牛と偽って安価な牛肉や豚肉を使用した詐欺の疑いです。また、同容疑者は、劣悪環境で牛や豚を飼育し、使用が禁止されている“キシニコウィルス”の使用した食品衛生法違反についても容疑を認めており…』
眠気なんて、完全に吹っ飛んだ。ミキはリモコンを落とし、呆然と立ち尽くした。
『ね、ねぇ… ミキ、なんかあたし、凄く、お腹が空いてきたんだけど……』
「は、ははは…… 私も…」
テレビの音量に負けないくらい大きな、腹の虫が鳴り響いた。
肥満化ウィルスにご用心 完
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