シロ
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02年3月。ローカル線の終点を降りて歩いてたら、見慣れぬ女性が前にいる。
きれいな人だなーと思ってたら、僕の家と同じ方向だ。誰だろう?
妹の畔美(くろみ)に話すと、
「美樹姉ちゃん帰ってきたね! ところでこの回覧板、お隣りの鮫嶋さん家へ持ってって」
とにやついている。
4年ぶりに会った鮫嶋さんは別人のように「スマート」になってきれいになっていた。
少しだけ会話を交わしたけど何か元気なさそう。結局、話も続かずに帰った。
家に戻ったら畔が「どうだった?」としつこく聞いてくる、おまえウルセーんだよ。
***
久々に会った志郎(シロ)君は変わってなかった、懐しいな。家に帰るのは4年ぶり。
東京の大学に進んだものの、都会の独り暮らしに疲れてしまった。
そしてあの事件に巻き込まれた私は....
....「薄っぺらな人間関係も、恋愛もいらない」。
そんな状態で就職に失敗して家に帰ってきた私に、故郷の皆は優しく接してくれる。
就職かぁ、専攻の心理に拘らなければ良かったのかなぁ。
「引きこもっていては駄目」と焦っているのに力が入らない。
***
鮫島さん家に行ってから数日後。
「はい!、回覧板持ってって」と妹の畔がにやつくので、また彼女の家に行ってみた。
僕の期待に反して、美樹さんじゃなくて小母さんが出てきた。
小母さんは「あの子、帰ってきて以来塞ぎこんでて心配なのよ、ご飯も全然食べないし。志郎(シロ)君が外に誘ってくれると嬉しいんだけど」と話した。
帰宅すると馬鹿妹がしつこく訊いてくるので、小母さんとの会話を報告したところ、
「駅前にスィーツの店あるんだ、美樹姉ちゃんを誘って食べに行こうよ」
と目を輝かせた。
それ名案! たまには良い事言うじゃないか....て俺におごらせる気だな、お前ダイエット
始めるんじゃ無かったのかよ。
***
今日、志郎君の妹の畔美(クロ)ちゃんが会いにきた。
「新しいスィーツの店が出来たから一緒に食べに行こうよ」。
久々に会った畔ちゃんは、私の母校の制服を着てすっかり大人びていた。
来週からは高校二年生とのこと。
昔会ったときは火箸みたいに細い体型で、まるで子供だったのに。
今日の彼女は丸っこくて明るくて元気で、まるで昔の私を見てるみたい。
ちょっと妬けるな。
***
週末、鮫嶋さんを誘って3人でスィーツの店に行った。
男の僕がケーキ屋に誘うのは恥ずかしいので妹の畔に言伝を頼んだ。
畔が馬鹿話するので、「オマエうるさ過ぎ!」とツッコミ入れてたら、それ見た鮫嶋さんが静かに...とても静かに微笑んだ。
帰宅したら畔が「美樹姉ちゃん暗いよ、あれウツ病じゃない? 叔父さんとこのクリニックで
診てもらった方がいいよ」と言う。
畔には「シロートが適当言うもんじゃない!」と答えたものの、僕も気になって仕方ない。
次の回覧板の時に小母さんに話してみよう。
***
母から、駅前のクリニックに行ってみるように勧められた。お母さん心配かけてごめんなさい。
シロ君兄妹も心配そうな表情。私、そんなに落ち込んでたつもりは無いのに。
心療内科は初めてで不安だったけど、簡単な問診だけで済んだ。
青いシートの白い錠剤を処方してもらい、2週間毎に通院することになった。
***
5月。今日はGW中のせいか、店内が賑わっている。
鮫嶋さんの顔を見たくて、あれ以降もちょくちょくとスィーツに誘ってる。
ちなみにやかましい僕の妹の畔は抜きで(笑)。
鮫嶋さん、最近少しずつ元気になってきたみたいだ。
ところで彼女の話では、畔にも誘われてこの店によく来る由(他人様にたかるな妹よorz)。
僕の妹が君に奢らせてしまってごめん、と彼女に謝ったら
「畔ちゃんと居ると私も楽しいから、全然気にしなくていいよ」
と笑った。
***
二日置きぐらいでケーキ屋に誘われて出かけている、やはり外の空気を吸ったほうが精神的に良いみたい。
薬も効いてきたみたいで、焦燥感もなくなって体も少し軽く感じるようになってきた。
志郎君、気をつかってくれてありがとう。体を軽く感じるので体重測ってみたら43kg。
あれ? 3kg増えてる。
そういえばあれだけケーキに誘われてたから太るのもあたりまえね。
気持ちが落ちつき、元気も出てきたので、仕事を調べることにした。
この辺の公立校のSC(スクールカウンセラ)は、公務員じゃなければ駄目らしい。
受験倍率はすごいけど、頑張って勉強しよう。
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6月。鮫嶋さん、来年度の公務員試験を受けることにしたそうだ。
このあたりでは、最近2〜3年はコネなしで受かったって話を聞いたこと無いが、努力家の彼女なら大丈夫かもしれない。
なんとかして応援しよう。
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今日計ったら46kg。3kg太ってしまった。
公務員試験の勉強始めてから、ずっと座ってばかりだからなぁ。
深夜に勉強していると、ついついクッキーとかつまんじゃうし。
勉強の合間の息抜きも、志郎君達とスィーツに行くだけだし。
志郎君に「太っちゃって格好悪いよね」と話したら、
「僕には全然そう見えない、今は受験のことだけ考えてればいいよ」
と言ってくれた。
***
8月 夏休み。畔が「うみに行きたい」と煩いので、鮫嶋さんを海へ誘った。
彼女は「水着が恥ずかしいから・・」とか言って渋ってたが、僕が
「勉強ばかりじゃダメ、気晴らしにも良いから是非行こう」
と粘ったら、一緒に来てくれることになった。ヤッタ!
***
来週、志郎君に誘われて海に行くことになった。
一昨年の水着を引っ張り出してみる。
当時の彼氏の趣味で際どいビキニだ。試しに着たらやっぱりきつい。
恐る恐る体重計に乗ったら50kgもある。あ〜ぁ、溜息。
鏡を見てみたら結構キテて紐は微妙に食い込んでるし、パンツの上には腹肉がぽこんと
せり出している。
新しい水着買おうにも近所に良い店ないし、どうしよう?
***
今日、海に出かけた。
鮫嶋さんと二人きり・・・では無くて畔が居るのは残念だが、この海水浴は畔が言い出したのだからコイツ抜きと言うわけにもいかない。
水着の鮫嶋さんは、キレイというより可愛いいって感じだ。
パッチリした大きな目、色白の肌はなめらかだ。
春先に見たときには妙に細っそりしてると思ったが、いま水着姿を見たら普通の「女の子体型」に見える。
「彼女、着やせするタイプかな?」と思いながら、ついつい気になり見てしまう。
ビキニの紐がちょっと食い込んで、その上に乗ってるお臍まわりの柔らかそうな肉を見て、僕の中で何かのスイッチが入ってしまった。
これHな意味で好いな。
***
志郎君達と海水浴に出かけた。
畔ちゃんは相変わらず元気、まるでピンポン球のように跳ね回っている。
私は結局一昨年前の例の水着を着てきたけど、志郎君が私のお腹をさりげなく見るので恥ずかしい。
あまり見られたくないので、水にもぐってせっせと泳いだ。5年ぶりの故郷の海は楽しかった。
***
9月。短い夏休みが終り、すっかり秋だ。
僕も就活と研究が忙しくなって、鮫嶋さんといつものスィーツに行く時間がなかなか取れない。
でも彼女に会いたくて口実に悩んでたら、畔が「受験勉強の陣中見舞いって事でケーキでも買ってあげたらどう?、また良い店見つけたんだけど」。
それ名案!と思ったが、「ついでに私の分も買ってきてね」。
オマエそれが本音かよ、以前も似たような事言ってたじゃねーか。
***
受験勉強は順調に進んでいる、これはいい。
困ったことに体重も増え......さっき計ったら53kg!
BMI22だからまだ標準だけど、ちょっとまずい。
でも勉強してると深夜にお腹がすくのよね。
志郎君も忙しいのにケーキ買ってきてくれる。ありがとう。
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