クロ
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03年 4月
私はこの学校を去る。
今日、新人の鮫嶋さんにSCの仕事を引継ぎして辞める。
明日には遠くはなれたT県に去る、そしてここの事は忘れよう。
この学校はMお嬢様との思い出がありすぎるから。
----2年前(2001年4月)----
01年 4月
私はI。今日からこの高校でSC(スクールカウンセラ)として働くことになった。
カウンセリングルームは明るい部屋で雰囲気も良い。
校内ではSC室と呼ばれている、ここが私の仕事場ね。
でもなぜかここには体重計やベットがある。
不思議に思い、事務所で聞いてみたら
「I先生、連絡忘れててすいません。あの部屋はごく最近まで中等部の保健室だったんですよ」
との事。
放課後のSC室では、生徒達がいつも5,6人でお茶菓子しながらたむろしている。
つい先月まで中等部だった一年生達だ。
彼女達はみな細っそりしていて、まだまだ子供といった感じの体型。
生徒たちのおしゃべりがちょっと騒がし過ぎるので、
「SC室は喫茶室じゃないわよ」
とたしなめたら、
「おいしいよ、I先生も食べたいの?」
との返事。
いや、そういう意味で言ったわけじゃないんだけど。
結局、放課後は事務仕事を片付けながら彼女達を見守る毎日となった。
01年 5月
放課後。
生徒達はいつものようにSC室でお茶菓子している。
最近、その中の一人が急に肥り始めてきた。
良く見ると、周りの子達がその子にせっせとお菓子を与えていて、その子は「やだよ〜」と言いつつも喜んで食べてる。
ここの生徒は何考えてるか分からないわ。
数日後。
その生徒が事が心配なので、偶然を装って担任の「A先生」に尋ねてみた。
A先生曰く、SC室でお茶会している生徒達はMさんのグループとのこと。
肥りだした生徒はクロ(畔美)という子で、明るい性格からクラスの人気者らしい。
A先生に
「食べ過ぎは健康に悪いし、Mさん達がクロさんにお菓子食べさせるのを止めさせようと思うけど、どうかしら」
と聞いたら、彼は急に険しい顔になり
「I先生、それはいけません。MさんはM前理事長の孫娘だから下手に関わらない方が良い」
と言った。
01年 6月
クロさん、すっかり肥ってしまった。
周りの生徒が異常に細っそりとした子ばかりなので余計に目立つ。
ベストは破ち切れそうで、極端に短いスカートは窮屈に盛り上がっている。
脚にもやわらかい肉がたっぷり付いて、歩くとブルブル振動しているのが他人目にもわかる。
・・・でも当人は何とも思っていないようで、友人達の差し出すお菓子を笑顔でせっせと食べている。
次の日。
さすがにクロさんを放っておく訳にも行かず、たまたま2人きりになったのを機会に
「どうしたの?」
と聞いてみた。彼女は
「だってMちゃんが『太ってる方が可愛い』って言うんだもん、今月5kg太っちゃった」
と言いながらニコニコ笑っている。変な子ね。
01年 7月
クロさん最近見ないなと思っていたら、今度は別の生徒が肥り始めた。
つい先日まで、Mさんと一緒になってクロさんにお菓子を与えていたQという子だ。
クロさんの時と同じようにM子さんや周りの友人が、その子にお菓子を食べさせている。
でもQさん、無理に食べさせられる事を嫌がっていない?
Mさん達に一言注意しようかと考えたけど、A先生の言葉を思い出して止めた。
01年 8月
夏休み
2学期の準備で学校に出勤。
SC室に入ったとき、異常な雰囲気に驚いた。
M達が誰かをベットに縛りつけて、無理やり食べさせている。
あの丸い生徒、Qさん?
Qさんのお腹は膨れあがって、今にもはちきれそうだ。
「何してるのあなた達!」
私は思わず怒鳴った。
するとMはニヤリと笑って
「丸く可愛くなって欲しいのに、Qさん嫌がるんだもの」
と言って部屋をゆっくりと出ていった。
・・・この子達、怖い。
M達が去った後。
慌ててQさんの手足を縛りつけてるヒモを外しながら、私はQさんに言葉をかけ続けた。
「Qさん、もう大丈夫だから落ち着いて」
「I先生、巻き込んじゃって御免なさい」
そう謝るQさんは、既にクロさんよりも肥っていた。
泣き続ける彼女を慰めながら、私はどうしようかと悩んでしまった。
01年 9月
2学期。M達は放課後、SC室に来なくなった。
私も「あの事件」以来M子達が怖くなったので、来ないのは有り難い。
そんなある日、Qさんが相談にやってきた。
真剣な表情で「今日わたしの家にきて欲しい」と言う。
1時間後。
Qさんの家に入るとM達がいた。
逃げようとしたけど数人の生徒達に取り押さえられてしまった。
Qさんが
「I先生御免なさい」
としきりに謝りながら、その言葉とは裏腹に、慣れた手つきで私の服を剥がしてゆく。
「アレを先生が見るからいけないんだからね」
と不気味に笑うMの横で、別の生徒が私の裸を写真に撮っていた。
翌日。
クロさんがSC室へ相談にきた。
そういえば最近M達と一緒に居るのをみたことがない。
クロさん、一見すると明るく笑っているけど、良く見ると何かに耐えてるような感じがする。
私はできるだけ優しく、
「どうしたの?」
と声をかけた。
するとクロさんは、急に大きな瞳に涙を浮かべて
「Mちゃんの事を想って丸く太ったのに彼女に捨てられちゃった」
と言って泣き崩れた。
何とか助けてあげたいが、私もMに裸の写真をばら撒くと脅されていて身動きとれない。
結局、彼女の話を聞いてあげる事しかできなかった。
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