263氏その2

263氏その2

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<From the viewpoint of RIO>

 

友達だと思ってたのに…
私の夢を奪って、あの人の隣で笑ってるなんて、許せない。

 

私の名前は利緒(リオ)。
最近までサッカー部のマネージャーをしてた大学生。

 

友人のミスで腕に怪我をおい、マネージャーとしての活動を諦めた私。
傷痕が沈着して残らないように、日焼けをしてはならないから。
そして、想像以上にハードな仕事のマネージャー業に支障が出たから。

 

彼女のせいではない。
そう分かっていても、サッカー部で笑顔を振り撒き続ける彼女が許せなかった。

 

何か仕返しを…

 

そう思い、私は研究に没頭した。
八つ当たりだって分かってはいたけれど。
食品・栄養学専攻だった私には、研究環境が整っていた。
また、知識も能力も十分だった。
部活を辞め、研究に専念する私を見て、教授は喜んだ。
まぁ、卒業研究の内容はちゃんとやってないんだけど…

 

運動すると、筋組織が破壊される。
これを修復するときに起こるのが筋肉痛。
このとき、破壊される前よりも強い筋肉が形成される。

 

じゃあ、筋肉を修復しきれなかったら…

 

筋肉の材料であるタンパク質。
この利用阻害、そして、エネルギーとしての利用促進。
そんな、夢のような薬品(使われる方にすれば悪夢だが)を開発した。

 

ただし、効果は長くは続かない。
摂取から24時間弱、つまり毎日服用する必要がある。

 

私は彼女が服用するサプリメントに薬品を混ぜた。
彼女は体調管理のため、サプリメントを欠かさず飲んでいる。
親友だったからこそ知っている事実。
親友だったからこそできる仕返し。

 

<From the viewpoint of NAO>

 

『あれ? 体重減ってる。』
更衣室の体重計の赤い文字が、41.2と示す。
長い間キープしていた体重が減っている。
運動量もサプリメントも変わっていないのに。
『菜緒、どうしたん?』
『なんか体重が2kg減ってて』
『良いやん、私ももうすこし絞りたいっ!!』
体重が増えるのは問題だろうけど、減るなら大丈夫か。
私はそんな結論に達した。
括れたウエストにうっすらと割れた腹筋、細長い手足。
くっきりとした輪郭、ぱっちりした二重。
背は高くないけど、胸もそんなに大きくないけど。
なかなか均整のとれた体だと思ってる。
美白ブームと言われる現代、肌がすこし黒いのが気になるけど…
これは地黒だから仕方ない。
サッカー部は外で練習だし。

 

私の名前は菜緒(ナオ)。
サッカー部のマネージャーをやってる。
トレーニング関係を中心にやってるから、マネージャーよりはトレーナーなのかも。
少し前までは『菜緒・利緒コンビ』として活躍してた。
私はトレーニング、利緒はマネージャーの仕事。
けど今はいろいろあって、隣に利緒はいない。

 

『菜緒、準備できた?』
『は〜い、今行く。』
帽子を被り、荷物をもつ。
更衣室から出て、太陽の光を浴びる。
利緒のことは考えない、そう自分に言い聞かせた。
今日も、練習がはじまる。

 

<From the viewpoint of RIO>

 

『利緒、暑いのに上脱がないん?』
カフェのテラスで友達が言う。大学のサッカー部時代からの友達だ。
『あっ、ゴメン。そうやんね…』
何も答えずにいると、腕の傷を思い出したようだ。
『良いよ。気にしないで。仕方ないことだし。』
にっこり笑って答える。少し気まずい空気。
『そういえば、菜緒は元気??』
話を変える。でも、これば1番聞きたかった話だったりして。
『あ… やっぱ気にしてるみたいやで。』
『うん…』
表情に気を使う。にやけてしまわないように、心配してるように。
『なんか、体重減ったって言ってた。』
思わず口元が緩んだ。すぐに深刻な表情に戻す。
『気にしなくてもいいのに… 大丈夫かな…』
心にもない言葉を発する自分がおかしかった。

 

菜緒の体重が減ったのは、薬品の効果だろう。
筋肉よりも脂肪は軽い。筋力の減少が体重に影響している。
楽しみはこれからだ。

 

<From the viewpoint of NAO>

 

『お先に失礼しま〜す』『お疲れ〜』
後輩たちが更衣室を出ていく。今日の練習も暑かった。
ぬるいシャワーを浴びてジーンズに足を通す。ジーンズの滑りが悪い。
何かひっかかってるような、そんな感じ。
体重は変わっていなかった。43.2。元に戻ってベスト体重。
洗ったから縮んだのかな。まぁ、気にすることでもないでしょ。
少しだけキツイジーンズを履いて、大学を出る。
『あっ、忘れてた!!!』
ポーチの中からサプリメントケースを取り出し、2粒を水と一緒に飲み込んだ。

 

<From the viewpoint of RIO>

 

部室と更衣室に荷物を片付けにきた。
ついでに、グラウンドにも挨拶をしに向かう。
『あ… 利緒…』
背後から聞こえる聞き慣れた声。菜緒だ…。
明るく! 優しく! 爽やかにっ!
そんな風に自分に言い聞かせて、表情をつくって振り返る。
『菜緒、久しぶり〜』
菜緒を見て、思わず微笑んだ。
もちろん、久々に顔を見れて嬉しい!という微笑みではない。

 

黒く引き締まっていた体は、全体的に柔らかそうになっている。
気をつけて見ないと分からないが、筋量が減っているのが分かる。

 

『利緒、大丈夫なの?』
『うん、今日は荷物引き取りに来たの。』

 

たわいのない会話をしながら、ばれないように菜緒の体を見た。
ジャージを着ているため、下半身はよく分からない。
上半身は少し太くなっただろうか。
そろそろ、自覚するころだな… 頑張ってダイエットしてね。

 

<From the viewpoint of NAO>

 

うっ… やばい。
みんなが帰った暗い更衣室で、体重計に乗る私。
暗闇の中に、デジタルの赤い文字が浮かび上がった。
47.8。
4kgも太ってしまった。

 

大学が長期休みに突入し、部活と家の往復だけになっていて、ジャージしか着る機会がなかった。
ウエストがゴムのジャージでは、太ったなんて危機感感じない。

 

鏡にうつる自分。二重顎にはなっていない。だが、確実に丸くなっている。
ティーシャツをまくりあげてみた。
うっすらと見えていた腹筋は完全に隠れてしまってる。
むにっという感触と共に、1cmほどの脂肪が掴めてしまう。

 

ダイエットしなきゃ。

 

運動量を増やすことを決意した。
自転車登校をランニングに変えようかな。
大丈夫、トレーニングの知識なら十分だ。

 

<From the viewpoint of RIO>

 

夏休みだというのに毎日のように大学で研究。
部活続けてたら、もっと大変か〜。

 

最近、菜緒の自転車を見ないな〜なんて思ってた。
噂によるとダイエットのために走ってきてるらしい。

 

頑張ってダイエットしてね。

 

運動すればするほど、太っていく。体重増加が加速していく。
正しい知識を持っているからこそ太っていく。

 

それが、私が作った薬品の怖さだ。

 

<From the viewpoint of NAO>

 

はぁ… はぁ…
息があがっている。暑い…。

 

『菜緒ちゃん! ボール取って〜』
『は〜い。』
夏の練習は暑い。汗が流れる。
選手もマネージャーもみんなが汗をかき、太陽に照らされてキラキラ輝いている。
いつもの風景。いつもと同じみんなの笑顔。

 

いつもと同じ。私から見える世界は。

 

重い体を引きずりながら、ボールを投げた。
ぷるぷると二の腕が揺れる。思ったより飛ばないボール。

 

ふぅ… ふぅ…

 

私だけが変わってしまった。
体力がなくなり、反比例みたいに脂肪が増えていく。体が重くなっていく。
滝みたいに汗が流れる。汗をかいた肌に、ジャージの生地が張り付く。
ティーシャツはすでに全体的に色が変わっていた。
絞ればぼたぼたと汗が落ちるだろう。

 

昨日計った体重はまた増えていた。55kg。
私の身長は155cm。
5がいっぱい並んで良い数字…なんて言ってる場合じゃない!!
ジャージのウエストですら乗っかってしまう贅肉。
浮輪みたいにでっぷりとウエストに纏わり付いている。
見えていたはずの腹筋はおろか、括れすらもなくなってしまった。
電話帳のような厚さの贅肉が掴めてしまう。
胸は人並みに大きくなった。だけど、重力に従順で、すでに少し垂れている。
足も太くなった。走るたびに… いや、歩くだけでもふるふると脂肪が揺れる。
太ももとお尻の境目はわかりにくくなり、とてもだらし無い。
パンツの生地は張り詰め、いつ破れるかという恐怖に怯えているように見えた。

 

ダイエットを始めてから、余計に体が重くなった気がする。
多分、筋肉がついたからだろう。筋肉は脂肪より重い。
運動するダイエットの場合、最初に体重が増えることは容易に考えられる。

 

大丈夫。
ちょうど今は夏休みだし、ジャージだけ着てれば良いから。
今は我慢のとき。筋肉がつけば代謝が上がって、するすると痩せていくはずだ。

 

 

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