263氏その2

263氏その2

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<From the viewpoint of RIO>

 

今日は学校を休んで病院へ。腕の診察とリハビリ。
診察の待ち時間って長いから嫌い。院内は携帯使えないしね。

 

ポータブルオーディオで音楽を聞きながら、ぼーっと順番を待つ。
平日の病院だけど、夏休みだからなのか若い子も多い。
いつも以上に長い待ち時間。
ちょっと寝坊して、受付に行くのも遅かったしなぁ…

 

『…緒さん。』

 

ん? 私…じゃないよな。
イヤホンを外して看護師さんの声を聞く。

 

『…緒さ〜ん、皆本菜緒さ〜ん、診察室にお入りください。』

 

菜緒さんか〜 そんな早く呼ばれないよね。
…って菜緒!?

 

辺りを見回した。
小肥りの女の子が、のそのそと診察室に入っていく後ろ姿が一瞬だけ見える。
真ん丸のシルエット。動くたびにぷるぷる体が震えているように見えた。

 

あ〜人違いだろうな。
にしても、同姓同名ってめずらしいよなぁ。。。
聞き間違いなのかも。ま、いっか。

 

イヤホンを耳に戻し、音楽に集中した。

 

<From the viewpoint of NAO>

 

今日は部活が休み。
運動しても太り続ける私。体重のことなんて考えたくもない。
さすがにおかしい、そう思って小さな服に体を押し込み、病院にやってきた。
ゆるめで履いていたはずのジーンズはピチピチになっている。
収まりきらない脂肪が溢れ、ウエストの辺りで浮輪を作っている。
顎は気付けば二重になっていた。
まだ、目がぱっちりしているのが救いかしら。

 

早めに来てはみたけれど、病院は混んでいた。評判の良い病院なだけある。
利緒もこの病院に通院しているらしい。
今日が通院の日なのかは知らないけれど。

 

『皆本菜緒さ〜ん。』

 

ぼーっとしていると名前が呼ばれていた

 

<From the viewpoint of RIO>

 

リハビリルームで筋トレ。
ガラス張りとそうでない部屋の2種類あるんだけど、今日はガラス張りの方で。

 

ガラス張りだと外がよく見えて楽しい。
検査に向かう人や付き添いの人。忙しそうな看護師さんたち。

 

あ〜、あの子さっきの子だ…

 

待合室で見た太った女の子が近付いてくる。検査だろうか。
菜緒ちゃんって言うんだっけ、あの子… そういえば、菜緒はどうなったんだろ。
同じ名前の彼女に、自然と目がいってしまう。

 

…菜緒!?

 

丸い体。太い手足。失礼だけど、デブ以外の言葉が見つからない。
しかも、張りのないだらしないデブ。

 

…まさか。こんなにあの薬品が効いてしまうなんて…
どうしよう…

 

<From the viewpoint of NAO>

 

家に帰ってきて、ベッドに倒れ込む。ギシッという音がして、ベッドが沈む。
今日は1日検査だった。血液検査の結果は明日出るらしい。
でも、病気は発見されないだろうとのことだった。
筋肉が落ちているということだけは分かったが、なぜ筋肉が落ちたのか… それが分からない。

 

『運動はしていますか?』
『タンパク質は摂取していますか?』

 

してるよ!! そう怒鳴ってやりたかった。
とりあえず、血液検査の結果を待つことに。
運動なんかやったって無駄なのかな…。

 

立ち上がり、鏡の前に立ってみる。本当に筋肉がない。
脂肪も、もう少し張りがあればキレイに見えるだろうに…
重力には抗えずに、だらしなく垂れている。胸もお尻も、お腹も。
自分が持つ中で1番大きな服を着てみたものの、それも無理矢理着た状態。
服がきつすぎてイヤになり、ジャージに着替える。

 

力を入れてジーンズのボタンを外すと、自動ドアみたいに勝手にファスナーが下りた。
行き場を失い、仕方なくジーンズに乗っかっていた脂肪が、嬉しそうに震え、垂れ下がる。
大きく息を吸ってお腹をひっこめ、力いっぱいジーンズを下ろした。
圧迫がなくなり、ジーンズを穿いていたときよりも足が太く見える。
お腹にはジーンズの型がつき、足は汗でべたべた。

 

あれ?? ジーンズを脱いでも下着が見えない。
ジーンズと一緒に脱げてしまったの??
いや、下着が脱げたわけじゃなくて…

 

垂れ下がった厚いお腹の脂肪に阻まれて、視界にほとんど入らないのだ。
かろうじて見える体の外側の部分は、これでもかというほど引き伸ばされ、
ちぎれそうになっている。

 

…これが私…

 

体重こそまだかろうじて60kg台を保っているけれど。見た目はただのデブ。
自然と涙が零れていた。どうして… こんなことに…

 

<From the viewpoint of RIO>

 

仕方ないじゃん、こんな風になるとは思ってなかったんだもん。

 

お風呂に浸かり、ダンベルを上下させながら考える。
リハビリの一環として習慣になってる筋トレ。今日は全く集中できない。

 

やーめた。
今日は病院でトレーニングしたし、もういいや。

 

にしても…
菜緒の太り方、普通じゃなかった…
あの薬品があんなに効くとは… 早く回収しないと!!
私はこんな結果を望んでたわけじゃない。
薬品の回収を決意してお風呂から上がる。
サッカー部の練習予定を聞かなきゃ。

 

<From the viewpoint of NAO>

 

昨日と同じジーンズを無理矢理穿き、父親のティーシャツを着て私は病院にいた。
穿けるボトムはこれしかない。
そのジーンズですらも、昨日よりキツイ気がする。

 

血液検査でも特に病気は見つからなかった。
健康的にも問題はないらしい。いや、肥満以外は問題ないらしい。

 

私はただのデブ。そういうことだ。

 

『気がつかない間にたくさん食べているんでしょう。運動が不足しているんでしょう。』
先生が言う。私は必死に説明する。
『でも… 食事のバランスも考えていますし… 運動もっ。』
『気付かない間に間食しているものですよ。』
『でもっ…』
『肥満患者さんはよくそう言われます。が、実際食べ過ぎていることがほとんどです。』
笑顔で先生は言った。でも、目は笑っていない。
『急激に太ったんです! おかしくないですか!!』
泣きそうだ。声が震える。
『とにかく、もう一度生活を見直してみましょう。私も症例を捜してみますので。』

 

医者は私を他の肥満患者と同じだと思ってる。
急激に太った事実も気のせいだって思ってる。
信じられないのは分かるよ、私も信じられないもの…

 

…私が何をしたって言うの??

 

重い気持ちで、重い体で、私はサッカー部の午後練習に向かった。

 

<From the viewpoint of RIO>

 

久々の外は暑い。お昼の2時って1番暑い時間じゃん。
今日はサッカー部は午後練習とのこと。
練習が始まったこの時間に更衣室にやってきた。

 

大丈夫、誰もいない。

 

更衣室に入り、ロッカーに向かう。
体育館のロッカーを使っているので、鍵はかかっていない。
自由に出入りができるようになっている。

 

菜緒のロッカーは…

 

今までと私が使ってたロッカーの隣が菜緒のロッカー。
鞄とキレイに畳んだジャージが入っている。

 

ジャージ? まだ練習行ってないの? でも、鞄あるし…
まぁ、良いか。

 

鞄の中のポーチにサプリメントが入ってる。
私はサプリメントを取り出し、買っておいた同じサプリメントと入れ替えた。

 

<From the viewpoint of NAO>

 

はぁ… はぁ…

 

練習が終わって部室へと歩く。全身の脂肪が揺れるのにも慣れてきた。
かなりしんどい。今まではこんなことなかったのに。

 

ふぅ… ふぅ…

 

息があがる。大量の汗をかく。
やっとの思いで部室前までくると、中から声が聞こえてきた。

 

『菜緒ってデブになったよな〜』
『何kgくらいあるんだろな。
『俺らより重かったりして!!』
部員の話し声が聞こえる。
『菜緒さんいつも私たちの前で体重計のってたのに、乗らなくなったんですよ〜』
マネージャーの声。
『そりゃ、乗れないだろ。100kg越えてたりして。』
『『あはは、まさか〜』』
みんなの笑い声。

 

病院だけじゃない。部活の中ですら私はただのデブなんだ…
私は悲しくて、空しくてその場に座り込んだ。

 

ビリッ…

 

音を立ててジャージが破れる。
今日買ったばっかりのワンサイズ大きいジャージなのに…

 

今すぐにでもここを立ち去りたくて。みんなに見つからないように立ち去りたくて。
私は重くなった体を起こす。破れたお尻がなんともなさけない。

 

頑張ってるのに… 運動なんてしても、無駄なんだ…

 

<From the viewpoint of RIO>

 

無事に薬品を回収できてよかった。
誰にも見られなかったし、ばれてないだろう。

 

私はみんなが帰った実験室で、回収したサプリメントを見て考えていた。

 

回収したからって、やってしまったことがゼロになったわけじゃない…
あれだけ太ってしまったんだ… 何か、痩せる手伝いをしなくちゃ。

 

菜緒の食事量や運動量は変化していないはず。
だから、あの薬品の摂取をやめれば、ゆっくり痩せていくはずだ。
あの薬に持続性はないから。
でも、そのダイエットを手伝うことができるはず。
つまり、筋力上昇に関する薬品を作ってみようということだ。

 

私は、レポート用紙に、次々と試薬や作用機構を書いていった。

 

<From the viewpoint of NAO>

 

更衣室から荷物だけをひったくり、家に逃げるようにして帰宅した。
もちろん、この体じゃ、何からも逃げられない程度のスピードしかでないけど。

 

部屋のベッドの上で声をあげて泣き続ける。
泣いてても仕方ないってわかってる。

 

パサッ…

 

私の前に何かが落ちてくる。
あ… 今日の運動…
ダイエットのために、壁に運動ノルマを貼付けていた。
それがはがれて落ちてきたのだ。
紙の存在を思い出し、今日は午前が病院でまだ達成していない事実に気付く。

 

…運動なんてやっても無駄よ…

 

ノルマ表をくしゃくしゃに丸め、ごみ箱へと投げる。
丸めた紙がごみ箱のふちに当たり、ごみ箱が倒れてゴミが散らばる。
なにもかもがうまくいかない。
私は努力してるのに…

 

なにもかもが面倒になって、私はそのまま寝てしまった。
ゴミも片付けず、お尻が破れたジャージのままで。

 

<From the viewpoint of RIO>

 

太らせる薬品はあんなに簡単にできたのに…

 

私は苦戦していた。
警備員に学校を追い出されるまでは学校で、帰宅後も机に向かって考え続ける。
帰宅中だって、ご飯中だって、お風呂だって。
片時もレポート用紙を離さず、考え続けていた。
レポート用紙に新しい作用機序を仮定し、そんな薬品が調合できないか考える。
あぁ… これもダメだ。体に大きな副作用が出てしまう。
そりゃあそうだ。簡単に痩せる薬品が作れるなら、誰かが作って販売してる。
世界中のみんなに愛用されて、大金持ちだ。

 

…ん? まてよ?
そうか、世界中のみんなに…か。

 

 

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