567氏その2

567氏その2

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<1>

 

そこはこことはちょっと違う、魔法の使える世界。
魔法が科学と同じように存在し、現代社会に根付いた世界。
魔法は必修科目のひとつであり、程度の差こそあれ学べば誰もが魔法を使える。
これは、そんな世界で起こったひとつの事件のお話である。

 

「ねえねえ、見て! やっとCカップに届いたの!」
「凄いねー。私はまだBになったかどうかってとこだよ」
「2人ともわかってないねえ。重要なのは胸の大きさじゃないの。見よ! この細い腰回り!」
とある高校の女子更衣室で、女子生徒達の笑い声が響いていた。
最近この高校――と言うよりこの世界では、ある魔法が大流行していた。
それはずばり、豊胸魔法と痩身魔法である。
当たり前の話であるが、必要以上の栄養を摂取し続ければ過剰な栄養が脂肪に変換されて身体に蓄積される。
豊胸魔法を使えば、その無駄な脂肪を胸に集中的に蓄積させることで無理なく胸を大きくすることができるのだ。
一方、痩身魔法は、蓄積した脂肪を溶解してしまう魔法である。
さらに、その溶解した脂肪を胸に移動させ、再び凝固させることで豊胸の材料とすることも可能だ。
これらの魔法は特に副作用もなく、複雑な手順も必要としない。
高校生レベルの魔法知識があれば誰にでも使用可能である。
この3人もせっかく習ったのだから使わなきゃ損とばかりに、早速自分の身体に魔法をかけてみたのであった。
幸い魔法は上手く効力を発揮してくれたようで、個人差はあるもののそれぞれに嬉しい結果をもたらしてくれたようだ。
「へへっ、この調子でゆくゆくはGカップの爆乳に…」
「えー、それ大きすぎじゃない? 私はDくらいでいいや」

「私はやっぱ胸より腰ね。もっと絞ってやるんだから!」
いつ、どこの世界でも女の子が興味を持つ分野は同じなのであった。

 

<2>

 

国会図書館・魔法技術情報室。
この部屋には新旧あらゆる魔法に関する書物が所蔵されている。
その中でもとりわけ重要なのが魔法大全とよばれる本だ。
ある新しい魔法が開発されると、その魔法の発動に必要な呪文や生贄などが自動的にこの魔法大全に記されていく。そして、これがとりわけ重要なのだが、魔法大全がなんらかの理由で破損した場合、破損した箇所に記されている魔法はその効力を失ってしまうのだ。
なぜそんなことが起こるのかは誰も知らないが、そういう事情があるために魔法大全は厳重に保管され、破損箇所がないか定期的にチェックされることになっている。
そして今日もまた――

 

「…よし。異常なし。君、大全をしまっておいてくれ」
「はい、室長」
情報室長が魔法大全のチェックを終え、秘書に片づけを命じる。
ここまでは何の問題もなかった。
が、この片づけを命じられた秘書はどこか危なっかしい人間だった。
今回も本人としては丁重に扱っているつもりだったのだが、運んでいる途中にうっかり蹴躓いて魔法大全を床に落としてしまった。
さらに間の悪いことに、ページが開いた状態で落ちた大全を自分の足でしっかりと踏みつけてしまったのである。
「あ!」
慌てて拾い上げた時にはもう遅かった。
そのページ――豊胸魔法と痩身魔法について記述されたページには、くっきりと足跡がこびり付き、ところどころ文字がかすれて読めなくなっていた。
「ど、ど、どうしよう… なんとかしないと…」
普段から細かいミスを連発している秘書にとっては一大事である。
バレないように何とか誤魔化したい。
その一心で、誰にも相談することなく、こっそりと大全のページの補修に取り掛かった。

 

「…ふう。これでいいかしら?」
2時間後、努力の甲斐あってなんとか外見は修復することができた。
文字のかすれも一見すればわからない程度に誤魔化せている。
今日チェックが終わったばかりだし、これなら当分の間はバレずにすむだろう。
秘書はホッとして大全を保管庫に収納した。
…もちろん、この後の騒ぎを考えればこの時素直に報告して謝っていたほうがまだマシだったのだ…

 

<3>

 

秘書が魔法大全を踏んづけてから1ヶ月が経った。
某高校では例の3人組が今日もおしゃべりに花を咲かせているのだが…
「なんか最近胸がやせちゃってさー」
「ゆうちゃんも? 私もちょっと減り気味なんだよね…」
「減るだけならまだいいじゃん… 私少しお腹がだぶついてきちゃったよ」
どうも最近は魔法の効きが悪いらしく、3人の表情は暗い。
「ていうかさ、うちらだけじゃなくってみんな調子悪いみたいだよ」
「あー、そうらしいね。エリちゃんも太ったって言ってた」 
「そういうのならあたしも聞いたよ。A組の時任さんっているじゃん? 学年1の巨乳の。最近急に胸が減ったんだって。FはあったのがDに近いところまで減ったらしいよ」
「わ、悲惨」
「んー… 魔法かけたからって皆してちょっと油断してたんじゃない? 食生活とか見直した方が良いんじゃないかなあ」
「そうだね。魔法以前に、まず普通の生活をしっかりしなきゃ」 
妥当な結論に落ち着く3人。
しかし、実際の状況はそのような方法では改善できないところまで来ていたのであった。
大全に不備があるにも関わらず、何万人もの人間が豊胸魔法や痩身魔法を使い続けていたため、魔力の逆流による魔法の逆作用が少しずつ始まっていたのである。
そしてまだ誰も気付いていなかったが、その逆作用は間もなく一気に噴出する運命にあったのだ。

 

 

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