デブは遅れてやってくる

デブは遅れてやってくる

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「ムフフ、これが谷間かぁ〜」
自分の部屋、半裸で胸をいじりながら鏡の前でにやつく私。
別に頭のおかしい女って訳じゃないけど、しょうがないじゃない。
三ヶ月前の私には考えられなかったんだから。

 

三ヶ月前の女子更衣室。
「アンタまた胸大きくなったんじゃない?」
「そお? そういやブラが最近きついわ」
「太った?」
「アー聞こえなーい聞こえなーい」
皆、体型について盛り上がる。女同士独特の空気だ。
しかしこの流れは… まずい。
「しかし、ホント相変わらず微乳っていうか… 無乳?」
「ここまで無いといっそ清々しいわw」
「あたしの小学生時代以下ね〜」
ほら来た。女友達の、いつもの容赦の無い突っ込み。
「うるさいなぁ、胸なんて… 胸なんてっ!! ぐすん」
親友の洋子がそっと私の肩に手をやる。
「大丈夫、そういう趣味の男も多いから」
「それ、慰めになってないわよ…」

 

私は浅川里美。高校1年生。
成績、中の上くらい。容姿、中の上くらい?
健康状態、良好。体型は結構細いほう。
今の一番の悩みは… スレンダーすぎるこの胸。
高校2年生にもなろうというのに私には胸の膨らみというやつが(ほぼ)無い。
とくに痩せすぎという訳じゃないのに、ブラも要らない程のぺったんこなのだ。(一応つけてるけどね)
母親や親戚は平均的なサイズだから遺伝じゃないし…
この胸のせいかは知らないが、今までもてた試しも無いし彼氏もいない。
憂鬱な気分になっていると、周囲からこんな声が聞こえてくる。
「今度ビューティ買おうかな〜」
「あたし飲んでるよ〜」
「ウソ〜、効くの?効くの?」
「にひひ、一ヶ月でウエスト3cm減」
「おぉー!」
最近、若者の間で大流行のサプリメント「ビューティMAX」。
バストやヒップを増やし、ウエストを減らす女性にとっては夢のようなサプリ。

ネットで買えるいかにも怪しいサプリなのだが、発売後またたく間に大流行。
周囲に愛用者も多く、クラスの女子も半数は飲んでいる。
効果もかなりあるらしい。
「里美も飲んでみれば? ぺったんこ卒業できるかもw」
「…いい加減怒るよ」
「あたしも飲んでるけど、最近Cカップになりましてな」
「…ホントに?」
「ほれ」
確かに寄せ上げた洋子のバストは、以前より大きくなっている。
ちくしょう、涙出てきた。
とうとう私も、帰って注文してしまった。

 

1週間後、到着したダンボールを開け、説明書を読む。
(なになに、飲む量によって効果が変わるのね… 1錠ならお腹の脂肪に… 2錠ならキュートなヒップに… 3錠からはバストアップも… 一日5錠でボン・キュッ・ボンに! 目標を達成したら必ず服用をお止めください… なんかすごく怪しいなぁ)
そう思いながらも一日5錠飲む事を即決意した私。
並大抵の洗濯板じゃないのよ、あたしの胸は。
最初は半信半疑だったが、徐々に効果は現れ…
こうして私は念願のバストを手に入れた。
まぁ、サイズ的には人並みなんだけど…
洋子も私の変化に驚いている。
「凄いね里美〜、ちゃんと胸が膨らんでるw」
「へへ〜、この調子で目指すは巨乳だよっ」
「でも気を付けた方がいいよ。アレ、効果がありすぎてあんまり飲むと、胸とかお尻がバカでかくなっちゃうらしいから。ホラ、C組の野川さんとか」
たしかに、もともと巨乳の部類だった野川さんは、服用によって1m級のバストになっている。
本人は満足そうだけど。
街では日本人離れしたプロポーションの女性も最近よく見かけるし…
恐るべし、ビューティMAX。
「アタシもお尻が大きくなってきたから飲むのやめたし」

「でも私胸以外は変化無いよ?」
「アンタの無乳はさすがのビューティでも一杯一杯なんじゃない?」
まぁ、他に効果が現れたら止めればいいか、と思いつつ私は服用を続けた。
それからも相変わらず胸以外に効果は出ず… ついに、巨乳と呼べるレベルまで成長した。

 

そんなある日、私達の運命を一変させるニュースが流れた。
突然、見ていた番組が切り替わり深刻そうなアナウンサーの顔が映る。 
「あの話題の商品、ビューティMAXに重篤な副作用が見つかりました。服用はただちにお止めください。尚、この件について厚生労働省に対する責任を問う声が…」
その後、正式に発表があった。
ある程度の潜伏期を置くと、体内に蓄積された成分が一転、脂肪細胞を爆発的に増やし、一夜にして体重が膨れ上がって「肥大化」してしまう。
摂取した量に応じ、それは大きくなり、個人差はあるが確実にそれは起こる。要は肥満薬だ。
しかも薬によって変質した脂肪は運動や食事制限でも痩せる事が無く、その効果は何年も続く。
脂肪を除去したとしても残った脂肪がそれ以上に増えてしまい、逆効果。
女性にとって夢のような薬は、実は悪魔のような薬だった。
不安になって、洋子に電話し恐怖を紛らわせようとしたが
「里美〜、どうしよう… アタシ100錠は飲んだよ〜」
おぼろげな頭で自分の飲んだ量を計算する。
一日5錠×4ヶ月(120日)=約600錠。
「…私… その5倍以上飲んでる…」
結果、不安は増大した。

 

それからは毎日が恐怖だった。
ビューティを飲んだ事のある子の表情はみな暗い。
いつ自分が肥大化するか、その恐怖が毎日襲うのだから無理は無い。
爆弾を抱えて生活しているようなものだ。
TVでは毎日関連ニュースで持ちきりだし、アイドルや女優にも被害は広がっている。
莫大な賠償請求がされたが、販売元の会社はきれいに雲隠れしてしまい、国から被害者に補償が出るとか出ないとか…

 

公式発表から半年が過ぎた辺りから、ついに悪魔は牙を剥き出した。
見慣れた女性タレントやアナウンサーが別人のようにぶくぶくに太り、スタイル抜群だったグラビアアイドルの中には部屋一杯に肥大化してしまった子もいる。
当然、私の周りも例外ではない。
「…あれ、野川さん… よね?」
遠目からでも分かる見事な肥満体が、のしのしと苦しそうに歩いている。
かつて自慢だったバストは重みで垂れ下がり、歩くたびにみっともなく
揺れていた。
「1週間前にあぁなっちゃったらしいよ… あれじゃ3桁は軽く超えてるね…」
「明日は我が身… なんだよね」
野川さんを皮切りに、周囲でも肥大化はどんどん進んでいった。
クラスでもデブが目立つようになり、肥大化してしまった子は慣れない大きな体を抱えて窮屈そうに、そして恥ずかしそうに生活している。
目の前で起こった時は正直驚いた。
いきなりボン!と人間が膨れ上がるんだもの。

 

そんな不安な日々の中、洋子が学校を休んだので、まさかと思い電話すると…
「…ヒック、昨夜、「肥大化」が起きたの… 一気に50kgも増えて… うぇええん」
100錠飲んだといっていた洋子が50kgなら、私は…
250kg? 300kg? どうしよう… 恐ろしい想像が頭から消えない。
結局その日は一睡もできなかった。
それから私はノイローゼ気味になり、しばらく学校を休んだ。
(怖い怖い怖い… デブは嫌だよぉ…)
布団を被って震える毎日が続き…
そして… ついにその日はやって来た。

 

 

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