デブは遅れてやってくる

デブは遅れてやってくる

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「里美〜、早く起きないと遅刻するわよ〜」
季節は初夏を迎え、私にはつらい季節だ。
冷房を強めに効かせても肉のお陰でかなり暑く、家では常に下着姿で過ごしている。
今朝も重い身体を起こし、胸よりはるかに大きい腹を片手に抱え、贅肉をぐいっと持ち上げる。
(このお腹だけで前の私の体重以上あるんだろうなぁ… はぁ)
体は汗でぐっしょりと濡れていた。
この身体になってから発汗が凄まじく、すぐに汗臭くなってしまうので肉の段差に溜まった汗を丹念に拭くのが毎朝恒例だ。
特注サイズのスカートを履き、巨大なセーラー服を上からすっぽりと被り、贅肉と格闘しながら何とか靴下を履いて着替え終了。
その後、自分の部屋に置いてある肥満体用の仮設トイレで用を足した。
退院後、家の洋式便座は体重で破壊してしまったし、この巨体からくる緩慢な動作で緊急時に間に合わない事もあったため、今は情けないがこの方法をとっている。
おそらく、今以上に肥大化が酷ければ排泄にも介助が必要になっていただろう。
その点では自分は幸運だと今さらながら思う。
2階の自分の部屋から1階に降りるのも一苦労で、突き出た胸とお腹が邪魔で足元が見えないため結構怖い。
そのまま洗面所に向かい、歯を磨き、タオルを濡らして脂ぎった顔を拭く。
情けないが、お腹の脂肪が邪魔で洗顔のためかがむのは辛い。
「はぁはぁ、父さん、母さんおはよう〜」

両親は私の姿にすっかり慣れたようだ。
「ほら、さっさと食べないと。アンタ歩くの遅いんだから」
「好きで遅くなったんじゃないよ〜、身体が重いんだもん」
「そのでかい体じゃあな〜、車で連れてってやろうか?」
「駄目ですよ、お父さん。怠けて動けなくなったらどうするんですか」
「そんなぁ〜」

 

以前なら自転車で5分の駅までの道程も今の私には遠い。
この体重では自転車も下手すると押し潰してしまうだろうし…
腹を突き出しながら、巨大な尻を振りつつ肥満体独特の歩き方で駅に向かうと、すぐに滝のように汗が流れ、非常に暑苦しく嫌でも周りから好奇の目で見られる。
他にも肥大化しデブになった女性は沢山いるが、皆、私には遠く及ばない。
私以上の体重ともなると、さすがに日常生活に支障をきたすらしくめったに外ではお目にかかれない…
つまり、今や私は町で見かける日常の中では屈指のデブなのだ。
そんなデブがセーラー服を着て歩いていれば、注目されるのも無理はない。
やっとの思いで駅に着くと、既にタオルはびしょびしょになり、制服も汗を吸い込みつつあった。
学校に着いたらすぐ体操着に着替えなくては。
駅の構内には同級生の杉山君が待っていた。
「おはよう、浅川さん」
「ぷはぁ、お、おはよ〜」
実は先月から… 私は杉山君と付き合っている。
どうやら彼はそっちの趣味があるらしい。
まさかこんな力士顔負けの姿の自分を相手にしてくれる男がいるとは世の中分からない。
痩せていた時は一向にもてなかったのに皮肉なものだ。

 

「ハイ、喉渇いたろ?」
と言って、2リットルのコーラとお菓子を渡してくる彼。
私はいつものようにそれをガブガブと飲む。
「ぐふぅ〜、やっぱり炭酸は落ち着くね〜」
「浅川さんくらいだと500mlのじゃもの足りないだろ? ほら、お菓子もまだあるよ?」
「ありがと〜、さすが杉山君わかってるね〜」
何か餌を貰う豚か河馬のようだが、これが今の日常だ。
今では私は食欲が増大し、すっかりデブの生活が染み付いていた。
以前では信じられない程の量の食事を食べ、なおかつ暇さえあれば常におやつを食べている。
国から毎月、5万円程度の補償金が出ているが元々医療費はかからない分、親から小遣いとして貰っているため、経済的には少し余裕がある。
しかし使い道はというと、この身体では着られる洋服も限られるし、とくに私くらいの特大サイズの服になるとまだ日本にはほとんど無い。
お洒落する気もおきないし、そもそも滅多に外出しない。
そこで… 結局、食費にあてている。
お陰で体重も更に10kg程増えてしまった。
私くらいになると見た目はあんまり変わらないが。
私だけではない。肥大化した女性はほとんどそうなりつつあるのだ。

「どうせ薬の効果が切れるまで痩せないんだから」
という魔法の言葉を唱えながら、堕落した生活を送っている。
もし薬の効果が切れたとしても、元に戻れるのか最近わからなくなってきた。
まぁいいや。どうせ薬の効果が切れるまで痩せないんだから…

 

 

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