脂肪遊戯
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「ふぅ〜、先輩今日は運が悪いみたいですね〜、ここまで差が開くと逆転は無理ですね。アハッ、今までお世話になりました。ちょっと痩せすぎたから、最後くらいは+も引きたいですね〜。あっ、+だぁ〜。残念w」
全部分かっている癖に下手な芝居をするものだ。それじゃあドラマの仕事は到底無理ね。
でも、僅かながら最後に望みが出たわ。このチャンスに賭けるしかない!
光にカードを通すタイミングを狙い、ナナミは早苗の腕をぐいと掴み、捻った。
カードが通されると早苗はナナミの太くなったムチムチの指を振りほどき、ぎろりと睨みつける。
「ちょ、触らないでよ、このブタっ! 脂でぬるぬるして気持ち悪い… でも凄い力ね。まるで見たまんまの相撲取りみたい… さて、6kg増えて私は終了… さぁ最後のカードを引きなさ… か、身体が…?」
ドクドクと早苗の身体が脈打ち、全身が膨れ上がっていく。
6kgどころか、あっという間にナナミの体重を追い越し、なお巨大化は止まらない。
着ていた洋服はあっという間に弾け飛び、続いて下着が裂ける。
元々控えめだったバストははちきれんばかりに膨らんだと思うと、しぼんだ風船のように垂れ下がった。
お腹の脂肪、お尻の脂肪もそれに続くように膨張し、やがて垂れ下がる。
顎や二の腕、顔にくまなく肉が付き、巨大な山のようなシルエットになってやっと肥満化は止まった。
「う、うわぁぁああっ!!」
思わず大声を上げる早苗だが、その声はもちろん周囲に聞こえる事は無い。
簡易式の粗末な椅子では体重を支えきれず、椅子がひしゃげ、丸裸になった早苗は巨大なマグロのような太い足をおおっぴろげに大股に開き後ろに転げ落ち、ズン、と部屋に衝撃が走る。
ナナミからは早苗の肛門や性器が丸見えになり、非常に見苦しい。
余程ショックだったのか、早苗はジョボジョボと音を立て失禁してしまった。
同世代の女性の、ましてこんな特大のデブの失禁風景が丸見えで見れるとはね。
思わず見下ろすナナミは苦笑してしまう。
潰れたカエルのようにだらんと贅肉を垂らし引っくり返った早苗は、自分の力ではもはや起き上がれず手足をジタバタと動かすだけである。
身体を動かすたびに多量の汗が流れ、尿とともに床にしたたり落ちる。
「ふ、ぶはっ、ど、どういう事よっ… 重い… 何でいきなり…」
「はぁ、はぁ… どう見てもあんたの方がデブね… 私の… 勝ちよ」
「嘘よっ… たかがプラス6kgなのになんでっ…」
「違うわ。+6じゃあなく、×6よ」
早苗の体重は45kgなので、270kg… いまや小錦と同程度の体重である。
しかも、早苗は小柄な女性である為、肉体の巨大感は更に凄まじい事になっており、間違いなく日本人女性としては数字・外見とも指折りの超ド級のデブだろう。
「え… そんなはず無いわっ! そんなカード入れてない!」
「私が角度を変えて、さっきあんたの手の+を×にしてみたの。×や÷のカードもあるって言ってたじゃない。限りなく望みの薄い賭けだったけど…最後まで望みは捨てる訳にはいかないから、一応試してみた…随分いい加減な判定のお陰で助かったわ。センサーは不良品のようね?ホント幸運だった。そしてこれで、ゲーム終了よ」
最後のカードを引く。もう勝負は完全に決しているので、数字も記号もどうでもいい。
案の定+の記号。記号がずれないよう、慎重にカードを光に通す。
(ふぅ、勝ったら元に戻れるかどうか知らないけど… 何とか一矢報いてやったわ… 元に戻れなかったらこの仕事ともおさらばかぁ… こんな身体じゃとても人前に出れないものね。残念だな…)
と、不安に思いながら自分のたるみきった身体を眺めるナナミ。
もっとも、その近くには自分より遥かに大きい肉の塊となった早苗が転がっている為、比較的ましに思えるのだから不思議なものである。
ナナミもきっちり100kg体重が増えており、相当な肥満体なのだが…
しばらくすると、ナナミの膨れ上がった身体はどんどんしぼんでいき、元の見慣れた自分の身体になった。
皮膚もたるむ事無く、太る以前のままだ。
ナナミは心の底から安心し、同時にどっと疲労感が襲う。
早苗はというとその身体はまったく変化せず、規格外のデブのままで相変わらずズデンと引っくり返っている。
「ぶ、ふふ〜、嫌っ! こ、こん、なデブなんてーッ!!」
半狂乱になりながら泣き叫ぶ早苗を尻目に、フッと辺りが明るくなったと思うと、
ナナミは自分の部屋に居た。
時計を見ると、当日の朝に時間が戻っている。
「夢じゃないわよね…」
その証拠に、目の前にはあの忌まわしいカードゲームが綺麗にケースに入って置かれている。
「…とにかく仕事に行かないと」
考えていても仕方が無いので、奇妙だが本日二度目の仕事場へとナナミは向かった。
それからしばらくの時間が経過し…
事務所の奥、人目の付かない部屋で、ノソノソと動く巨大な肉の塊があった。
その巨体には似つかわしくないロリータファッションに身を包んでいる。
可愛らしい三つ編みに巨大なリボン。フリルとリボンの付いたワンピース。白いタイツ…
以前の彼女なら、その可愛らしさに一部の男は熱狂したのだろう。
ただ、今の彼女は250kgをゆうに超える超肥満体なのだ。
ワンピースは元々ロリ服独特のゆったりとした作りな上に、規格外のサイズで更に膨張しブクブクに膨れ上がっているし、膨張色の白いタイツは張り裂けんばかり。
贅肉が詰め込まれたそれは、元々極太の脚を更に太く見せる。
気の弱い人間なら見ただけで腰を抜かしそうな衝撃的な姿の超特大デブ…
白井早苗。この事務所の雑用係である。
今は脂肪を揺らしながら、お茶をよちよちと運んでいる。
「せ、先輩、お茶をど、どうぞ」
「ありがとう、早苗ちゃん。そのワンピース新作かしら? よく似合ってるわね」
「あ、ありがとうございますぅ〜。ブハッ、が、頑張って作ったんですよ〜」
早苗はくつろぐナナミの横に、ゆっくりと腰を落とす。
座った事でお腹の肉は前にせり出し、べたりと完全に畳にくっつき、太股を閉じる事もできない。
お尻の肉も同様に広がり、大き目の座布団を完全にはみ出す勢いでだらんと広がった。
当然ながら、こんなサイズの洋服… ましてやロリファッションなど売っている訳も無いので全て器用に自作しているらしい。
こんな姿になっても律儀にかつての自分のキャラを守るなんて… いや、前はキャラを作っていただけだったが、よりにもよって今更になって本当にこの趣味にどっぷりと入るとは、まったく大したプロ根性だ。
「ぶふ〜、せ、先輩はホント、スリムで、き、綺麗で、うらやましいですぅ」
早苗は太ったことで常に息が上がっており、満足に喋る事もできない。
かつてはその軽妙なトークとアニメ声も魅力のひとつだったがもはや見る影も無かった。
声も体型に似合ったこもった重低音に変わり、若い女性の声とは思えないほどだ。
「何言ってるの、早苗ちゃんもここに入った頃は可愛かったじゃない」
「で、でも今じゃ、こ、こんなに太っちゃいましたからぁ、ほ、他に行く所も無いので、じ、事務所の雑用で、働かせて貰えて、よ、よかったですけど。皆さん、よ、よくして下さって、早苗は、し、幸せものですぅ」
早苗はスカウトされ事務所に入ってから急激に太り、僅か3年で250kgを超える超特大のデブになった… という事になっていた。
驚いた事に、事務所のアルバムの写真には3年間で面白いように太っていく早苗の姿が写っている。
現実が改変されている… あの時、早苗の言っていた事は全て本当だったのだ。
もし自分が負けていたら、どんな惨めな生活が待っていたか…
しかも本人は急激に変わってしまった自分を自覚する事すらできない。
何て恐ろしいカードだと、今更ながらに思う。
まるで神か悪魔が作ったようだ。
皆の話を総合すると。家出同然でこちらに出てきた為、親元にも帰れず、お情けで事務所の雑用として雇われ、働いているという。最初は報復の為に嫌がらせでもしてやろうと思ったが、さすがに哀れすぎるので止めた。
かつての白井早苗を知っているのはもはや世界で自分一人なのだから、もうあの性格の悪い早苗は死んだようなものだ。
今の早苗の行動は全てが緩慢・鈍重でみっともなく、あまりに惨めかつ滑稽で、同じ女性として同情したくなってしまう。
「もう少し痩せれば、ぽっちゃりタレントでグルメ番組に出られるかもしれないわよ? 早苗ちゃん、元はすごく可愛いんだから」
「む、無理ですよぉ。100kg減っても、くちゃくちゃ、ま、まだ150kg以上の大デブ、
なんですから〜w ゴクゴク、そ、それにっ、こんな姿、お、お茶の間に流せないです…むしゃむしゃ…」
ロケ先から持って帰った、捨てるはずの山積みのロケ弁を、残飯を漁る豚のようにガツガツと食べている早苗。
薄給で雇われている今の彼女の大切な主食である。事務所の所属タレントが、彼女を哀れに思いいつもロケ先からいくつか持って帰ってくれるのだ。
もはや、賞味期限など強烈に湧き上がる食欲の前には毛ほども気にならないらしい。おそらくこの食べっぷりなら、これからも更に体重は増えていき、人外クラスのデブになるのも時間の問題だろう。
他に変わった事といえば、外見が醜くなったのと比例するように性格は良くなった。
以前とは正反対に人当たりは良いし、よく気が付く。そして礼儀正しく誰にでも優しい。
もっとも、殆どの人間は彼女の異様な姿と服装を見ただけでひいてしまうので、それを知るのはごく僅かなのだが。弁当の件でも分かる通り、事務所の後輩や社員からも、姿は別にしてなかなかに慕われている。(もちろん若くしてこんな醜く太りきった事に対する同情もあるんだろうが)
あの性悪がねぇ。まったく世の中上手くいかないものだとナナミは思う。
「じゃ、そろそろ仕事に行ってくるわね。お弁当の余りがあったら、また貰ってきてあげるから」
「ブハッ、モグモグ。ありがとうございますぅ。い、いってらっしゃい〜」
3つ目の弁当を食べながら、太い腕をぶんぶんと振り見送る早苗を背に、ちらりとバッグの中の、あのカードを見る。何とか自分は機転を利かせて助かったが、もし相手に自分の手を使われたら… と思うととても恐ろしくて使う気にはなれない。
早苗の変わり果てた姿を知っているだけに尚更に。
「こんな物、やっぱり捨てた方がいいわね…」
丁度ゴミの収集日だったので、ゴミ捨て場にカードを捨て、ナナミは仕事に向かうのだった。
「あれ? 見て見て、カードゲームが捨ててあるよ〜? 勿体無いなぁ、まだ綺麗なのに」
「茜〜、アンタもう子供じゃないんだから、そういうの拾うの止めなよ〜」
「いいじゃん。うんうん、説明書もちゃんと入ってる。体重が増えるゲーム? アハハ、ジョークが効いてて面白そう〜。学校着いたら皆でやってみよー! 大勢でやるカードゲームって楽しいよねぇ〜」
…こうして、今も確実にこのカードゲームの犠牲者は増えているのだった…
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