792氏その7
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メリークリスマス!
真夜中に響くクラッカーの音と声に俺は目が覚めた。
「えー、おめでとう。キミはサンタに選ばれた」
(…何言ってんだ? あぁ、夢かコレ)
枕元に、サンタルックの若い女が座っている。
綺麗な金髪ロングヘアー、知的そうな美人だ。おまけにスタイルもいい。
いくら女っ気のない生活をしているとはいえ、こんな夢を見るとは…
「私はメリィ、れっきとしたサンタだ。
あ、『サンタって白い髭のおじいさんだろ?』って顔してるな。毎年突っ込まれるからな…
とにかく、サンタにも若い女性も沢山いるとだけ言っておこう。って寝るなぁ!」
うぜぇ… 元々俺は寝起きが悪いんだ。こんなくだらない夢に付き合えるか。
もう一度寝かせてもらう… 夢の中だけど。たまに目が覚めたと思ったら夢…
って感じのフェイントの夢ってあるよな。アレだなコレ。
と思ったが、女は強引に俺の手にカードとペン、靴下を手渡してきやがった。
「願い事をこのカードに書いて、この靴下に入れるんだ」
「…あのさー、サンタって子供に玩具あげるんじゃね? 俺大人だぞ」
面倒だが突っ込んで見る。いいからさっさと消えてくれ。
「それは人間が勝手に広めただけだ。玩具会社の作戦だな。バレンタインにチョコを送るような…
こら、布団に入るんじゃない!」
(めんどくせぇ… まぁいいや、夢だし好き勝手に書いちゃえ)
願いを書き、靴下にカードを入れる。
「よし、これでいい。どうせ金とかクルマとか願ったんだろうが… まったく、最近の人間ときたら… では、さらばだ!」
朝になり目覚めると、、枕元には夢に出た靴下が転がっている。
…夢じゃなかったのか? いや、漫画や何かじゃあるまいし、ありえん。
夢遊病か何かにかかってしまったか、寝惚けて行動したか…
とにかく、そういう事にしておこう。
俺もおちぶれたもんだな…
昨日も一人寂しくクリスマスを過ごしたってのに、まったく憂鬱な気分にさせてくれるぜ。
とりあえず顔でも洗うか… 洗面所に向かう途中、目の前に… 人間が居た。
「あっ」「あっ」
思わず同時に声が出てしまう。昨夜の夢に出た女が立っている。
お互い、目をぱちくりさせながらしどろもどろになった。
「な… どうして私がまたここに?」
「…き、昨日の夢の!?」
「…な、何をしたんだキミは!? あっ、願い事を書いた紙を見せてみろっ!」
女は何かに気付いた様子で寝室に向かうと、靴下の中のカードを取り出した。
メリィが俺の嫁になる。毎月24日にランダムで体重が増える(この現象は1年続く)
「…こ、こらぁ! キミはなんて事を考えるんだっ! こ、このバカっ! ド変態ッ!!」
朝っぱらから物凄い剣幕で怒られた。
お前が願い事書けって言ったんじゃねぇか。
「すまん、てっきり夢だと思ったんで」
「よくこんな馬鹿な事を考えるものだな… うぅ、どうしよう…」
「よろしくな。メリィ」
「う、うるさぁい! 何寝癖つけてさわやかな顔してるんだキミは! 来年のクリスマス、仲間を呼んでキミにこれを取り消す願いをしてもらう! それで帳消し、すぐにオサラバだっ!」
「じゃあ1年はここに居るんだな」
「…し、仕方無いだろう… 願いの強制力は絶大なんだ。抵抗できない… で、でもエッチな事は断固断るぞ! 手を出したらタダじゃすまなくしてやる! 一応、形式上同居するだけだからな!」
「ぐっ… 残念… まぁいいや。とりあえず朝食作ってくれない?」
「自分で作れ! バカぁ!」
こうして、俺とサンタ(?)との奇妙な同居生活が始まった。
「そういう事だ。分かったか?」
一応、メリィに状況を説明してもらった。
まず、メリィの住んでいる国の人間は魔法使いのような特別な力を持っているという事。
それを隠し、人里離れた隠れ里のような土地で生活しているという事。
古来からの風習として、クリスマスに下界へ下りて人間の望みを叶えている事。
それがまわりまわってサンタクロースの元になったという事など。
「じゃあ、魔法とか使えるのか?」
「…いや、現在は一部の者しか下界では自由に力は使えない。毎年クリスマスは世界中に色んなエネルギーが充満するから、何故か大丈夫だが」
あぁ、確かにクリスマスはクリスチャンはもちろん、カップルやら独り身の色んなドロドロしたエネルギーがたちこめてそうだな… 納得だ。
何でも、あのカードと靴下は儀式に使う特別なもので、クリスマスにのみ渡される貴重な物らしい。その力で、大抵の願い事を叶えるそうだ。
とりあえず、来年のクリスマスにメリィの魔法で他のサンタに連絡を取り、そのサンタのカードで今回の願いを取り消す、という事で話はまとまった。
メリィにしても、魔法が使えなければ国には帰れないのでここに留まるしかないそうだ。
(願いの強制力で、俺から長時間離れられないらしい)
「じゃあ、今のお前は普通のおねーさんって事か。使えねぇな」
「うるさい! くそ何でこんな事に…」
「あぁ、あとどう見ても日本人じゃないのに日本語上手いな」
「ふん、当たり前だ。学生時代から日本コースでみっちり勉強したからな!」
「…はぁ?」
「我々はクリスマスに仕事する事によって、報酬を貰ってるんだ。各地に派遣されるサンタはそれぞれの土地のエキスパートといっていい。こう見えてもエリートなんだぞ? 私は…」
「よく分からんがまぁいいや。じゃあ、俺仕事行ってくるから」
「あぁ! 最後まで聞けーっ!」
怒鳴るメリィを尻目に、俺は仕事に向かった。
仕事を終え、帰宅するとメリィが体育座りでじっとしている。
…ああ、家に帰って誰かが待ってるというのはいいもんだなぁ。
しかしメリィの様子は何か元気が無い。
「どうした? 調子悪いのか」
「おなかすいた… どうしてこの家には食べ物が無いんだ…」
「あぁ、悪い悪い。男の独り暮らしだからな。牛丼買ってきたから食おうぜ。お前の分ももちろんあるから」
「ぎゅ、ぎゅどうん? な、何でもいい。とにかくこの空腹を何とかしないと…」
見たことも無いだろう食べ物におそるおそる箸を伸ばすメリィ。
箸の使い方は意外に上手い。
口に肉を放り込み、もぐもぐと咀嚼していくと、表情が一変した。
「う、うまっ! …こ、これはなんという料理なんだ」
「牛丼だけど? お前、牛丼も食べたこと無いのか?」
「こ、こんな美味いものは故郷には無かった!あぁ、このスープもおいしい!」
「…味噌汁でそこまでいいリアクションする奴をはじめて見た」
「はぁはぁ、今日は何か特別な日なのか? こんなご馳走を食べるなんて… 私の知る範囲では、そんなイベントは無いはずだが」
「いや、普通の飯だぞ。安いし。そんなに気に入ったなら、近くのコンビニでもう一つ買ってやるぞ」
「!! ぜ、是非頼む!」
結局、その後牛丼とデザートに買ってやったケーキを丸々平らげ、メリィはとても満足そうな表情だった。
そうこうしてるうちに、あっという間に一ヶ月の月日が流れ…
「おーいメリィ、今日は何食べたい?」
「そうだな… やっぱり牛丼だな! 大盛りで頼む!」
「分かった。じゃあ仕事行ってくるな」
「あぁ、掃除と洗濯は任せておけ」
メリィはなかなかよく働いてくれる。ただし、料理だけは駄目だ。
話に聞くとこいつの故郷の料理は質素というか粗末で、聞いただけでげんなりするようなものばかりだった。
木の実はまだしも、樹の皮やら雑草とか普通食べるか?
文化の違いとはいえ、とても向こうには住めそうにない。
メリィにとってはこちらの食事は全てがご馳走に感じる程にとんでもなく美味いらしいがそれも無理も無いだろう。新しい食べ物をやるたびに余りにもいいリアクションをするのでこちらもついつい面白くなってしまう。
最初は一つ屋根の下にパツキン美女と二人暮し、それ何てギャルゲ? 状態だったんだが今はどちらかといえばペットに色んな餌をやる感覚に近い。
一度手を出そうとしたらボコボコにされたし…
(その時は特上寿司で手を打ってもらった。痛い出費だった)
エロい事はできないが、美女との二人暮しも悪くない。
食費やらメリィの普段着など、色々と出費はかさむが。
…何か忘れてる気がするな。
そういえば、今日は1月23日… 明日は『メリィが太る日』だ。
さっそく、帰宅するとメリィにその事を聞いてみる。
「ああっ! そうだった! モグモグ、あまりにこちらの食べ物が、ゴクゴク、美味いので忘れてた!」
「いや、食べるか喋るかどっちかにしろ」
「しかし、なぜそんなトチ狂った願いを書いたんだ? 普通は痩せてる女がいいんじゃないのか。男性は」
「俺は細身のおねえさんも好きだが巨デブのおねえさんも好きなんだ。あ、美人限定だけどな。この願いならどっちも楽しめると思って」
「…キミの頭は理解できん」
「しかし、本当に太るのかなぁ」
「それは間違いない。今ここに私が居るのが証拠だ。うぅ… 不安になってきた…」
メリィの話では日付が変わってきっかりに効果は現れるらしい。
少し夜更かしして、その様子を見る事にした。
(メリィはもの凄く嫌がったが、外食に連れて行く事で渋々承諾した)
午前0時、カチリと時計の針が日付が変わった事を指し示すと…
「き、来たぁっ! ひゃぁッ!」
色っぽい喘ぎ声とともにメリィの顔が紅潮し、もぞもぞと身体を震わせる。
着ていたパジャマがぷっくりと膨らみ、胸や太股のボリュームが少し増した。
体重にして5〜6kg太ったといったところか? …ちっ、もう少し増えてもいいのに。
「…マジで太ったな」
「だから言ったろう! くそぅ、こんなのがあと11回もあるのか…」
「でも、まだそんなにデブってわけじゃないぞ。気にするな」
元々細いだけにむしろ健康的な身体といった感じだ。もっともこれから先は分からんが。
「気にするわ! うぅ… お腹の肉がたぷたぷしてる、こんなの生まれて初めてだ…。いくら今年のクリスマスに元の姿に戻るとしてもこれはちょっと… こ、こら! 聞いているのか! そもそも原因はキミの…」
「まぁまぁ、ホラ、これでも食べてさ」
「あぁ! それはチョコレートという奴! …し、仕方ないな。それをくれるんなら、今日のところは引き下がろう(じゅるり)」
「…よだれ出てるぞ。ほれ、ちゃんと食べたら歯磨きするんだぞ」
以前よりもむっちりとした身体で真夜中にうまそうにチョコにかぶりつくメリィ。
…何か体重が増えると願うまでも無く、こいつは普通にデブりそうな気がする。
まぁいい。1年でどれだけ太るか、じっくりと楽しませてもらうとしよう…
メリィ 167cm・55kg→62kg(残り11ヶ月)
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