792氏その7

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翌朝…
昨夜、夜更かししたせいか昼前に起きると、居間で超デブになったメリィが息を切らしながら、儀式のような事をしていた。おそらく仲間を呼んでいるんだろう。そして今晩、あのカードで願いを取り消すわけだ。
…だが、どうも様子がおかしいな。

 

メリィは焦っていた。もう10回は試している仲間への通信魔法がいっこうに成功しないのだ。
大して難しい魔法では無いのに、である。
(ど、どうしよう。何で…)
これはメリィも知らない事だが…
メリィの故郷の粗末な食事。それにはちゃんとした理由があった。
メリィの故郷の住人が魔法を使える理由… それは、僧侶がなまぐさを控えるように、仙人が霞を食べるように、食事を通じて、幼少時より魔力を高めていたのである。
世代を重ねていくうちに、いつしかそれを知る者も少なくなり、住民も粗末な食事を、さも当然と思うようになっていた為に今のサンタでこの事を知っている者は殆ど居ない。
つまり、1年間、フォアグラさながらに贅沢な食事を続けたメリィに、もはや魔法は使えるはずも無いのだ。
そんな事もつゆ知らず、必死で魔法を詠唱するメリィの顔は、次第に焦りの色が色濃くなる。
ぐるぐると、脳裏に取りとめの無い考えが浮かぶ。
(…仲間と連絡を取る術は魔法のみだ)
(…もしこのまま今日を逃せば、嫁になるという願いがある以上、また1年ここに居るしかなくなる)
(…この200kg以上の超肥満体のままで)
(…動くことすら大変な、このデブのままで)
(…もしかして… 一生この身体なのか?)

 

こうして、夕方になるまでメリィの魔法は続いたが、もちろん成功する事は無かった。
「…ま、魔法が使えない…」
がっくりと肩を落とし、半ベソでうなだれるメリィは半ば放心状態だ。
「まぁまぁ、そんなに落ち込むなよ」
願いが取り消されない以上、ここに留まるしかない。元の姿にも戻れない。
とうとう、魔法すら使えない只の… 異常なデブ女に、なってしまった。
そう思うと気持ちも重くなる。身体ももちろん重い。
横を見ると、優しそうな顔で彼がお茶を運んできていた。
「俺は構わないぞ。お前はこんな男とまた1年暮らすなんて、嫌だろうけどさ。まぁ、これでも飲んで落ち着け」
「うん、ありがとう… グスッ、でも…」
「…ゴメンな。俺のせいで」
「そ、そういうわけじゃないんだ。でも、ヒック、こんな大デブの大飯食らい、いくらキミだって、えぐっ、すぐに愛想を尽かすに決まっている…」
メリィには、それが我慢ならなかった。だからこそ、ここで別れたかったのだ。
「…おいおい、見くびられたもんだな… お前は俺の嫁なんだぜ?そんな事、気にしなくていいよ」
ニヤリ、と笑う彼が何故かとても頼もしく見える。
「う、う、うわああん、ありがとうっ!」

抱えていた不安が取り去られたメリィは、感激のあまりまた涙し、
自分の体重も忘れ、猛烈な勢いで抱きついた。
「わ、ちょ!?」
まるで巨大なダンプカーが突っ込んできたようだった。
いくら何でも、250kgの人間を抱き止められるのは力士くらいのものだろう。
当然のように、どしぃいん、と倒れる俺とメリィ。
勢いよく抱きついてきたメリィの重みで、見事に押し倒されてしまったのだ。
幸い、モロに体重はかからなかったが、もしモロに下敷きになっていれば骨の1本くらい折れていたかもしれない。そう思うとぞっとする。だが、メリィの胸や腹のぶよぶよした柔らかい感触が全身を包み、肉布団に包まれた感触がとても心地良かった。
「ゴ、ゴメン!大丈夫か!?」
目の前には、頬を赤らめたメリィの顔。200kg超のデブのくせに随分と可愛らしいもんだ。
「!!」
「俺からのクリスマスプレゼントだ」
丁度目の前に顔があったので、唇を奪ってやった。
突然の事で耳まで見事に真っ赤になったメリィは、のそのそと起き上がると恥ずかしそうに言う。
「…サ、サンタの私にプレゼントをくれるなんて、まったく… でも、その… こんなに太ってしまった私と、
一緒に歩くのとか恥ずかしくないか…? もう毎月の肥満化も無いわけだし、キミが言うなら… 頑張って、痩せるぞ」

「おいおい、俺のストライクゾーンを舐めるなって。500kgだろうが、1トンだろうが… お前なら全然アリだ。お前こそ、こんな変態でいいのかよ?」
「フフフ、私のストライクゾーンも広いんだ。キミくらいの変態、全然アリだな」
「ハハ、そいつはどうも」
「あの、その… こんなデブだが、これからも… よろしく」

 

ぺこり、と座ったままお辞儀をするメリィ。
でかい腹が邪魔そうで、随分不恰好なお辞儀だった。

 

…どうやら、俺はクリスマスに寂しい思いをする事はもう無いらしい。
こうして、美人のサンタクロースは変わり果てた姿になり… 俺とずっと生活を共にする事になった。

 

 

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