FGI氏その3

FGI氏その3

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1年の中で1番短い月、そのちょうど半分の今日。
町は大いに賑わっていた。そう、バレンタインデーである。

 

学校で。
「悠君! ハイ!」
「ん? ・・・ああ、すまないな北村さん」
職場で。
「功、これを、どうぞ・・・」
「え!? あ、そうか、今日は・・・ 新奈、ありがとう!」

 

公園、飲食店内、車内、道、etcetc・・・。
町の至る所で女性がチョコを渡している姿が見れる。
渡した側と貰った側は良いだろうが、周りで見てる貰えて無い男にとってはハンカチを口に喰わえたくなる様な風景である。
が、悔しいのは貰えない男だけではなかった。
勇気が出せなく渡せない女性や違う本命がいた女性も少なからず居たのだった・・・。

 

夜、出歩く人も少なくなった頃、一人の仕事帰りの男がハイテンションで歩いていた。
「今日は色々なチョコが貰えて良い日だな! 当分オヤツには困らないぜ! ヒャッホイ!」
一人の男、名前は礼矢と言う至って普通の見た目の男は紙袋いっぱいの『義理』チョコを持って歩いていた。
明るい(軽い)性格で、仕事先や近所のたくさんの女性から慕われているため、義理チョコだけ無駄に貰ったのである。
本命がひとつも無いのが淋しい所だが、本人はさほど気にしていなかった。
「しかし、優希から貰えなかったな〜・・・」
優希とは彼の幼馴染みの女性で、毎年市販のチョコをくれたのだが、今年はまだ出会っても居ない。
「帰りに家にでも寄ってみっかな!」
人がいないから良かったが、鼻唄を歌いながらスキップをする礼矢の姿はひどく滑稽、又はキモかった・・・。

 

「・・・あれ? 居ないのか?」
優希の暮らすアパートに着いた礼矢は、いつもの様にインターホンを連打する。
が、返事は無い。居ないのか、扉にも鍵が
「・・・あら?」
掛って居なかった。
「不用心だな〜。気付いたのが俺だから良かった物を・・・」
と言いながら勝手に入る。昔から良くやる事だが、他人から見れば失礼である。
「・・・ん?」
勝手に上がり、部屋の襖を開けると、真っ暗な部屋に人がいた。
良く見えないが、腰まである黒く長い長髪。おそらく優希であろう。
「おいおい優希、部屋の電気くらい付けようぜ?後、ベル連打したり3・3・7拍子でノックしたのは確かに悪かったが、返事くらいはさぁ・・・」
「お前のせいだ」
「・・・はい?」
突然優希が恨んでる様な声でそう言った。思わず聞き返す。
「お前がチョコ嫌いなら悩まずにすんだ。お前が毎年私のチョコを楽しみにしてなければ、お前が・・・」
「ちょ、ちょっと優希〜?」

呪文の様に恨み節を唱える優希にあたふたする礼矢。
そして、突然優希が礼矢にタックルし、礼矢を押し倒し馬乗りになった。
「ぐえっ!?」
「何故私がお前一人にこれほど悩まなければならない!」
「だから、何が・・・!?」
馬乗りになった優希から逃れようと優希の体に触れ、礼矢は違和感を感じた。
「優、希・・・? お前、何か」
礼矢が何か言う前に、優希が突然部屋の電気を付けた。
「!?」
「何故、お前一人のせいで私はこんな姿に成らなければならない・・・?」

 

明るくなった部屋。そこには倒されている自分と、涙ぐみ、前会った時と違う姿をした優希がいた。
服装自体はいつも家に行くと着ている服―― 去年のホワイトデーの時にあげた、デフォルメされた猫の絵が描いてある服―― だったが、普段と見た目は違った。
猫が横に引き延ばされ、ブサイクな感じに・・・ いや、そんな所より、優希の体付きがかなり変わっていた。
前は美乳、腰のくびれ、綺麗な髪の毛、スッキリした顔立ち・・・まさしく『美人』だった。
が、今は・・・ あまり面影が無い。
丸くなり、軽く2重顎になった、脂でテカっている顔、同じくテカり、痛んでいる様に見える髪の毛、大きくなったが、腹に乗っかってしまっている胸、自分に乗っている肥大した尻。
そして、元のサイズに合わせてある服から3段腹がはみだし、泣いてしゃくる度にみっともなく揺れる腹。
全てがこの間まで優希になかった物だった。
「ゆ、優希、どうした? なんでそんな体になっT」
「お前のせいだと言ってるだろう・・・!」
「・・・??」
興奮してる、しかし哀しそうな顔をしている優希は顔を赤くして静かに言った。

 

「私の人生には、いつもお前が居た。お前が近くに居て、バカやって、私が静かにつっこむ。それが楽しかった・・・」
「だが、何時からか、お前の存在が私の中で少しずつ大きくなって来た。何故かは分からないが、お前の事を考えると普段は有り得ないミスや判断が鈍る事があった」
普段の優希はいわゆる完璧超人である。頭の良さ、運動能力、見た目、美的センス、どれをとっても礼矢の回りでは一番の存在で、小、中、高では学校一の美人だった。
「そして今回だ・・・ 普段なら絶対料理をしない私が、気付いたらお前の為に手作りでチョコ何か作ろうとしている・・・」
「ま、マジで!? いや! 普段通り市販品で良いよ! マジで!」
ただ、料理だけは「独創性」と「前衛的」なとこだけに完璧超人パワーを発揮していた。
一度優希の料理を食べた礼矢はあやうくピリオドの向こうに旅立つところだったくらいだ。
「だから、一ヶ月前からチョコ造りを始めた。何度も何度も失敗した。何度も何度も味見した。何度も何度も失敗作を食べた。そして、ここ3日はほぼ引き込もって作っていた、そうしたらこんな体型だ・・・ フフフ・・・」
乾いた笑いをする優希。
「・・・優希、なんでわざわざ手作りチョコなんて作ろうと思ったんだ?」
「私が聞きたいくらいだ。お前の為に勝手に努力して、勝手に自爆した・・・ 我ながら恥ずかしい体型になってしまった・・・」
「こんな体型では、お前にも嫌われる・・・ そう思ったら、何か、さっき、涙が、出てきたんだ・・・」
優希の目から、何時の間にか止まっていた涙がまた出始めた。
「優希・・・」
「今、気付いたよ・・・ 気付くまでに時間がかかり過ぎた。もっと早ければ、こんな体型にもなって無かったのに・・・」
・・・そして、泣きながら、前と変わった顔で、前と変わらない笑顔で、言った。

「これが、『好きな人の為に頑張る』と言う事なんだな・・・」
「優・・・希」
「・・・フッ、その好きな対象を押し倒して馬乗りになりながら言ってもムードが出らんか。おまけにこんなだらしない、ブヨブヨでは余計に・・・!?」
馬乗りの体制から無理矢理戻った礼矢は話をキスで遮った。
そしてそのまま逆に押し倒す。キスは長い様で、短い時間だった。

 

「・・・好きな人って言葉の返事変わりのつもりだったんだけど、駄目だったか?」
「・・・本当、か? 本当に良い、のか?」
「別に体型なんて関係無いさ。優希なら、優希だからこそ、俺も言える・・・ 優希、好きだ・・・」
優希の目から涙が溢れる。そして、さっきまでの冷静さが嘘の様に泣きじゃくり始めた。
「・・・ありが、とう・・・ ありがとう!」
感極まって、抱きついて来た。否、今の見た目ではのしかかって来た様に見える。
「ちょ、おま、二回目は勘弁、アウッ!」
そのまま押し倒され、お腹に押し潰される様な形になった。見える範囲が汗ばんだ贅肉で一杯になる。
ハッキリ、重い。
「わ、るい、ギブ・・・」
「・・・正直、すまんかった」
「後、汗が顔にスッゴい付いた」
「・・・」
「こんだけ腹が出る様では、新しい服を買わないといけないな・・・あうっ!」
潰された。今度はわざと、しかも上の服を脱いで下着姿の状態で潰された。
「少し、自重しようか・・・」

「・・・頼、む、許して・・・」
「お前がそんなにデリカシーの欠片も無いのではなぁ・・・(怒)」
「いや、ほら! さ、さっきまでのイイ感じのムードを尊重するべきだと俺は思うぞ!?」
「・・・まあ、なら許してやろう」
「(・・・ホッ)」
「じゃあ、せっかくこんな体になるまで頑張って作った手作りチョコでも食べて貰おうかな」
「え゙・・・いや、その、チョコはいらないかな〜、なんて・・・」
「なにか言ったか?」
人は恐らくこんな時に殺気を感じるのだろう。
顔には出てないが、今の礼矢はまさしく『蛇に睨まれた蛙』状態である。
「いえ、何も言っておりません。(嗚呼、死兆星が見える・・・)」

 

流石に死ぬことは無かったが、酷く甘かったり、苦かったりと味がランダムなチョコはおいしく無かった。
が、今までで一番、貰えて嬉しかったチョコだった。

 

 

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