FGI氏その3
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橋の下、人から見えない場所に座って一人考え事をする優希がいた。
「(・・・私は、このままでいいんだろうか?)」
優希が両手で自分の腹を掴む。柔らかい感触のその肉は、両手では掴みきれなかった。そんな自分の体を見て、先程琉羽須に言われた事を思い出す。
「・・・デブ、キモイ、豚か。面と向かってあれほど言われると、流石に堪えるな・・・」
今まで優希に向かって嫌そうな目をしたりする人は沢山いた。
が、面と向かって言って来たのは琉羽須が初めてだった。
「(言われると自分がいかに異常かが分かるな。確かに私の周りに私の様な体型の人間は男でもいない。)」
琉羽須に嫌になる程言われた後のせいか、ここまで一人で来た優希は回りの目が気になって仕方がなかった。
ここまでの道、『あの人は私をどう思ってるのだろう?』と、こればかり考えていた。
「・・・人は見た目より中身と言うが、限度があるだろうな、多分」
一人呟く。何か喋らないと、不安で押し潰されそうになるからだ。
「・・・もしかしたら、礼矢が私を探しているかも知れないな。場所も言わずに出ていってしまったし・・・」
あまり考えない方が良い。自分に言い聞かせ、家に帰ろうと橋の下から出た時、不意に人とぶつかった。
「む・・・ (酒臭い・・・)、すまなi」
「おいィ? テメェ人にぶちかまし喰らわせて置いてどこ行くつもりだ、アァ?」
「!?」
ぶつかった男に手を掴まれ、橋の下、つまり本道を歩く人からは見えない場所に引き戻された。
男が突然手を放し、優希は固いコンクリートの地面に投げ出された。
「ったく・・・ 会社クビになった上に、酒でも飲もうと来た場所には豚が一匹・・・ 今日は厄日かぁ?」
右手にビールの入ったコンビニ袋を持っている男は、だらしなく着たスーツに絞まってないネクタイ、茶髪(ロンゲ)、イヤリングと、服装はサラリーマンだが雰囲気は完全にチャラ男だった。・・・が、優希はこの男に見覚えがあった。
「ん・・・お前、屋山か・・・?」
「あ・・・なんで俺の名前?・・・あぁ、もしかして、優希か?」
優希が頷くと、突然屋山が笑い始めた。
「アッハッハッ! コイツは傑作だ! クラスの優等生サンが、今じゃ面影が髪しか無いただのデブとはな!傑作だぜ!」
「・・・!」
「アッハッハッ・・・ っと、そう言えば、お前には色々世話になったなぁ・・・ タバコチクられたり、カツアゲを止められた上、金的までかましやがって・・・ オラァ!」
「・・・っ!」
屋山が優希の腹をおもいっきり蹴った。先程の琉羽須とは違い、腹に激痛が走る蹴り。
「オラァ! 豚らしく鳴きやがれ!」
屋山が下腹部、急所に蹴りを入れる。再び激痛。
しかし、腹の鈍い痛みでは無く、鋭い痛みである。
「うぐっ!?」
その後も爪先、平の部分で優希を蹴り続ける屋山。しかし、不意に屋山の蹴りが止まった。
「ちっ・・・ 本当に効いてんのか? ブヨブヨとした体で効いてねぇんじゃねぇか?」
優希はその場で動けずにいた。
良い事があっても悪い事があっても無表情な顔には流石に焦りの色が見えた。
「(・・・いかん・・・ 全身が、痛む・・・)」
「・・・そうだなぁ・・・ こうすっかな!」
「!!」
屋山が優希の上着を無理矢理脱がせようとする。
優希は抵抗したが、屋山にネクタイで手を縛られ、優希は屋山の前で下着姿の状態になった。
「うわ、下着姿だとマジでキメぇな・・ ・腹が垂れてパンツ見えねぇ・・・」
「・・・何をするつもりだ?」
「あン? テメェのその姿を某画像掲示板に元の写真を添えて晒し挙げるんだよ。100キロ近くはありそうだし、コメントは『美女が食べるだけ食べてたらただのデブになった件について』・・・ なんてな!」
「!!」
屋山は楽しそうにそう言った。
「いや、『昔とある高校のアイドルだった女が、久しぶりに出会ったらブクブク肥ってた。』なんて入れて、テメェの名前とか家の住所とか学校名とか書いて、晒し挙げてやるよ! アッヒャッヒャッ!」
「や、やめr」
「豚に否定権はねぇ!」
「ぐぅっ!?」
反論しようとした優希を屋山は数発蹴った。最後に顎を蹴りあげた。
何も言えなくなる優希。屋山は座り込む優希の体の回りを歩きながら携帯で写真を取る。
「・・・背中もスゲェな、垂れた肉が溢れてやがる。このアングルも一枚撮っとくか」
全身を舐め回す様に見て、写真を撮るポイントを決めて行く屋山。
隙だらけだが、優希に抵抗する元気と力は無かった。
すると突然、屋山が胸ポケットからマジックを取り出した。
「・・・何か、つまらねぇな。ちょっと『イジる』かな・・・っと!」
「!? な、何を・・・する!」
体をよじって抵抗する優希を無視し、屋山は優希の体にマジックで字を書いていく。
『デブ』『私は豚です』『揺らさないで下さい』『エサを下さい』等々、好き勝手書いて行く。
「やめ、ろ・・・!」
「ん、こんなもんか。少し、黙って・・・ ろ!」
書き終えた屋山は使っていたマジックを優希の秘部に突き刺した。
「あぅう!?」
痛みの他、色々な物が優希の体を駆け抜けた。
屋山はマジックを抜いて立ち上がり、携帯のカメラで優希を撮り続ける。
「ま、こんなとこだな・・・ オラァッ! 豚が人並みに感じてんじゃねぇ!」
アゴを蹴り上げられ、仰向けに倒れる優希。体を起こそうとした時、
「く、あっ・・・ ぁ・・・?」
優希は見た。屋山の背後にひっそりと、しかし凄まじい威圧感を放ち、オーラすら見えそうなくらい怒る男。そう、礼矢を。
「アン? 何・・・ ゴボアッ!?」
屋山が体ごと振り向いた時、屋山のみぞおちに強烈な一撃が叩き込まれた。
屋山の膝が折れ、礼矢の腰の高さくらいになる。
礼矢はバックステップし、右足を上げ、溜める。
「てめぇは俺を怒らせた」
「誰D・・・!!」
その先は言えなかった。顔も見れなかった。
「トンファーキーック!!」
礼矢の渾身の蹴り『ヤクザキック』(靴の裏、平部分での蹴り。トンファーは関係無い)が、屋山の顔面にヒットした。
蹴りの勢いで後頭部から倒れた屋山は『ゴイン!』と鈍い音をさせて気絶した。
血が出てないから死んで無い・・・ と願いたい。
「殺意の波動と暗黒パワーとサイコパワーが良い感じにマッチした様な高揚感だよ・・・ フハハhグエッ!?」
高らかに勝利宣言してる礼矢に優希がタックル・・・ もとい、抱きついてきた。
「優希・・・ 勝利宣言くらいはさせてくれ・・・?」
――優希は、泣いていた。
怖かったのだろう。痛かったのだろう。辛かったのだろう。
優希は礼矢に抱きつき、泣くだけだった。
「うぅ・・・ ああ・・・」
「(やばい・・・ こんな状況考えて無いぞ!? どうしようどうしようどうし(ry」
「? 礼矢・・・?」
優希が泣き顔でこっちを見る。その顔を見た瞬間頭が真っ白になった。
そして礼矢は(言うセリフを)考えるのをやめた。
「優希、ごめん・・・ 何かアイツに色々されたみたいだな・・・ 俺がもっと早くここを見付けてたr」
礼矢はただ謝る。しかし途中で優希に遮られた。
「・・・お前が来てくれただけで十分だ。私だけではアイツにされたい放題だった。・・・礼矢、ありがとう」
優希の目から出ていた涙はもう止まっていた。
安心して落ち着いた礼矢は、違う大事な事に気付いた。
「・・・優希、裸・・・」
「! ・・・む、すまない。今服を着る」
幸い破られたりはしてなかった服を着る優希。礼矢はただひたすら優希の裸体をじーっと見ていた。
「(( ゚∀゚)オパーイ・・・)」
そして、屋山の後ろでチラッと見ただけの落書きを改めて見た。屋山への怒りが再び沸き上がる。
礼矢は、下手したら二度と使い物にならなくなるくらいの勢いで一発、『男の大事な場所』を蹴り飛ばした。
「れ、礼矢?」
「あ、ごめん。何でもないよ? ただ蹴り飛ばしただけだから・・・ 家に帰ってから、風呂入ろうな」
「・・・ああ」
気絶した屋山を置いて、二人は橋の下からでた。
その後の屋山を知る者は、誰も居なかった・・・。
――その後。
あの日から優希はダイエットを決意した。事情を知っている礼矢(優希は礼矢がケーキ屋の一件を知らないと思っている)も手伝う事にした。そして努力して痩せる事が出来た。6月の出来事でった。
――8月。夏まっさかり。
「あ〜、暑い。汗が止まらん」
「(寒い。)・・・クーラー20度設定なんだけど・・・」
突っ込む礼矢。全身から汗を流す優希は見事にリバウンドしていた。
しかも、更に増していた。
6月なかばに56まで落ちた体重は、1ヶ月ちょっとで100キロを越えていた。
「まさかリバウンドとは、いや〜、予想外だ」
「いや、見てる方は予想通りだったから。食う量が元に戻ってたし」
「む・・・ 確かに、体型のせいで仕事も辞めさせられたからな・・・ もう仕事も無理だな」
ちなみに、優希は今バイトもしていない。礼矢の稼ぎで生活している。
「・・・ニートは卒業しようぜ?いい加減N」
枕が顔面めがけて飛んできた。
「主婦と言え。主婦と」
「・・・はい、すんません」
「よし。・・・あ〜、暑い。汗が止まらん」
今優希は紅い服に青いジーパンを着ている様に見える。
が、元は濃いピンクの服と薄まった水色のジーパンである。
汗を吸い込んで色が違って見えるのだ。
優希の汗の臭いが部屋全体に充満し、優希が座っているソファーには汗ジミが出来ている。
優希はそれくらい汗をかいていた。
「絞ったらどうだい?」
「ぬ。そうだな」
優希がシャツを脱ぐ。脱ぐと、服で抑え込まれていた肉がブルンと激しく揺れる。
以前よりも出た腹は少し動く度に揺れ動いていた。
更に太くなった腕で絞った服からは相当な量の汗が出てきた。
改めて着る優希だが、服が汗で縮んだ為か腹が隠せていなかった。
優希に近付き、服からはみ出た腹を撫でて揺らし、そして軽く叩く。
「・・・いや〜、幸せ太りもここまで来るとな〜・・・ またダイエットだね」
「もうダイエットはしないぞ」
「はぇ?」
礼矢から変な裏声が出た。この次はもっと頑張って痩せるかと思っていたからだ。
「私がこの体型の方が礼矢は嬉しいのだろう? なら私は特に痩せる理由は無い。正直、痩せた私を見てる礼矢はかなり寂しそうだったぞ?」
「う・・・ (バレてたのか・・・) いや、でも、また前みたいな事があったら、さ・・・」
礼矢は言い難そうに言った。あの出来事は優希にとって忘れてしまいたい事だと思っていたからだ。しかし、優希の反応は違った。
「? その時は礼矢が守ってくれるだろう? ・・・これに誓ってくれたじゃ無いか」
そう言って優希は指を見せた。「ああ・・・」と礼矢が思い出した様に言った。
「・・・そうだな、俺が優希を守れば、良いんだもんな」
「私は礼矢が居れば他は要らない。礼矢が守ってくれるのであれば、私はこのままでも良い。・・・今の私にとって、礼矢はそんな存在だ」
「優希・・・」
抱きつき倒れた二人。二人の指には誓い合った証である二人お揃いの、しかしサイズは全く違う指輪が付いていた・・・。
〜END〜
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