FGI氏その3
歩く事数分。
「ふぅ・・・ はぁ・・・ 疲れた・・・」
「はやっ! もうちょっと落ち着けよ、飯は逃げないからさ?」
「・・・うむ」
流石にキツイのか、優希は既に息を切らして歩いていた。
体にあったペース配分がまだ分からないのだろう。
「昨日のラーメン屋じゃなくて、近くのマクドに行こう。そっからならケーキバイキングやってるとこ近いし、今日は熱いし、な?」
「・・・すまん、そうしよう・・・」
さっきの元気とテンションはどこに行ったのか、一歩一歩鈍重に歩く優希は既にヘトヘトだった。
「(ま、飯食えば復活するかな・・・?)」
まさにその通りだった。
「うむ、ああゆうジャンクフードも意外と美味い物だな。オヤツと言いラーメンと言いハンバーガーと言い・・・ 私は食について知らなすぎたな、うん。」
「・・・(メガバーガー、メガチーズバーガー、ポテトLLだけならまだ分かるが、今からケーキ食べに行く癖にシェイクL飲まんでも・・・)」
「さあ、ケーキバイキングに行くぞ!」
「はいはい・・・」
「いらっしゃいませ〜って、なんだ礼矢か」
「ちゃんと接客しろよ、今日は客なんだから。男1人と女1人な」
「あ、え・・・ ああ!?」
「何バカ見たいな声出してんだよ、お前の店の接客方針は『とりあえず驚く』なのか?」
「あ、悪い・・・。え〜、1時間食べ放題で男は1500、女性は1000円、合計2500円、お願いします」
「あいよ。・・・すまん、俺ちょっとコイツと話してるから、先行って適当に席取っててくれよ。」
「む? 分かった、先に食べてるぞ。」
店に入った時から嬉しそうな優希はさっさと席取りに行った。
礼矢はさっきの店員、この店でアルバイトをしている友人の芽藤(バイキングの事を教えて貰った)と
話していた。
「とりあえず、お前のお陰だと礼を言って置くぜ、芽藤ありがとうな!」
「は? 何の事だ? 後、あれは何だ、いや、誰だ?」
「お前、一緒の学校だったじゃねぇかよ・・・ 優希だよ。奈加里 優希」
「はぁ!? あのデb」
ドガッ!
「殴るぞ?」
「殴ってから言うな・・・。で、あれがあの優希さん? クラス、いや学校一美人で成績優秀スポーツ万能で学校に密かにファンクラブがあってそこでは『クールビューティー』『鉄の薔薇』等と呼ばれる程だった、あの! 優希さんだと!?」
「後半の方は全て初耳だが、その優希だ。」
「嘘だ! ちょっとキツめの性格で、あの細く長い足、競泳水着の似合いそうな体つき、魅惑のポーカーフェイス、歩く度サラサラとなびく黒く美しい長髪、小さいが美しい美乳だった彼女が今やあんななんて・・・ 俺は認めんぞ!」
「芽藤・・・ なんかストーカー臭いぞ・・・」
「で、お前は何だ? 罰ゲームか? それとも、財布役か?」
「何でそっち方面に考えるんだよ。デートだ、デート。今付き合ってるんだよ、優希と」
「・・・( ゚ Д ゚)ポカーン」
「こっちみんな! 事実だ事実!」
「礼矢・・・ お前、デブ専だったんだな・・・」
「自分でも最近気付いた。抱き締めるとあの体が柔らかくてな・・・ もう癖になr」
「待て! お前優希さんと何処まで行った!?」
「あ? あ〜、ほら、キスを越えて、今は魔法使いになる権利を捨てる一歩手前?」
ちなみに礼矢は『30過ぎて童貞だと魔法使いになる』を信じている。
「なっ!? ・・・お幸せに・・・ 優希さん、痩せさせてあげてくれよ・・・」
「だが断る」
「てめぇwww」
適当に芽藤をあしらい、礼矢は優希の取った席に向かった。既に優希はケーキを食べていた。
「はむ・・・ む? 遅かったな、何か話してたのか? もう5分は立ったぞ?」
「ちょっと友人とだべってた。・・・さて、俺も食べよ。優希、なんかオススメない?」
「ふむ。さっき食べたモンブランとチョコケーキは美味かったな。フルーツケーキは微妙だった。ショートケーキはクリームが甘過ぎるな」
「・・・もうそんな食ったの?」
「はむ。・・・あ? ああ、何だ?」
「・・・ゆっくり食べなよ?」
とりあえず、優希おすすめの2つを取り、席に戻って食べる。
礼矢のトレイには取ってきた2つだけ乗ってたが、優希のトレイには6つ乗っていた。
しかも、既に5個は食べている。
「・・・美味い、が甘さが足りないかな?」
「そうか? ・・・っと、礼矢はジョージアMAXですら甘さが足りなかったな」
「甘い方が美味いもん、仕方ないじゃないか!」
「じゃあ、さっき言ったショートケーキを食べれば良い。・・・さて、食べたし次を取るか」
話している間に優希はトレイにあった6個を食べきっていた。
既に優希は10個以上食べている事になる。そして次のケーキを選びに言った。
「(・・・元の2倍以上は取れるな、優希1人で。)」
20分後、礼矢は紅茶(飲み放題)を飲みながら休憩していた。
優希はひたすら食べていた。現在全種制覇、2週目である。
「ふう、流石に腹がきついな・・・」
余裕があった筈のスカートが若干きつそうになっている。あれだけ食べれば仕方ないだろう。
「腹が出てる割には余裕そうに見える件について?」
「あまり私の胃袋を舐めてほしくないな」
優希が自信たっぷりで言った。そして、また次を取りに行く。
礼矢はゆっくりと紅茶を飲みながら取りに行く優希の後ろ姿を見ていた。
「・・・なんか、店に悪いな・・・」
「ふむ、次は・・・」
「邪魔だ、どけデブ!」
「なっ・・・!?」
優希が後ろから引き倒される。倒された優希の前にはチャラチャラした、いかにもな男がいた。
「てめぇ邪魔なんだよ! てめぇが横でバンバンとるから俺の彼女がゆっくりケーキ選べねぇじゃねえか!ただでさえ横とる体してる癖に邪魔してんじゃねぇよ!」
「・・・ッ!?」
周りの人は見てみぬフリをして止めに来ない為(食べる所と置いてある所は違う場所にある。)、男が好き勝手言っていると男の後ろから、男同様チャラチャラした女が現れた。
女は優希を汚い物を見るような目で見下し、男に抱きついた。
「ほら琉羽須、邪魔なブタはほっといて、好きなの選びな?」
「さっすが〜♪ 久辺くんカッコい〜♪」
「俺はケーキ食わないからアッチに居るけど、また何かあったら呼べよ?」
「うん♪」
久辺と呼ばれた男が自分の場所に戻っていった。
琉羽須と呼ばれた女がこっちを向き、見下して言った。
「あんた〜、ハッキリ言ってキモイんだけど〜? そんな体してんのにまだ食う気? 頭おかしいんじゃないの?」
「な・・・」
「ただでさえデブなのに、もっとデブる気? キモッ! 私がそんな体なら痩せるか死ぬか選ぶし〜」
「・・・」
「ほら、そんなとこで倒れられてたら周りの人間に邪魔だから、とっとと退きな!」
琉羽須が優希の腹をハイヒールでおもいっきり蹴り、脇腹にヒットする。
ドムッ、と鈍い音がした。
「ぐっ・・・!?」
「うわっ、汚なっ!? 靴が汗でベットベトじゃん・・・ 最低の一日だわ・・・ もう帰ろ! ・・・あんたはガツガツと豚見たいに食べてれば良いわ、じゃあね! ・・・久辺く〜ん♪」
好き勝手言って、琉羽須は自分の席に戻って行った。
残された優希もゆっくりと立ち上がり、悔しそうに自分の席に戻って行った。
「長かったな・・・!? どうした優希!?」
「・・・すまん礼矢。先に帰る」
「お、おい!?」
言うが早いが、優希はさっさと店を出ていってしまった。
礼矢も慌てて店を出る準備をして店を出ようとした時、突然芽藤に手を掴まれた。
「な、何だよ芽藤、代金なら最初に払ったろ?」
「・・・俺、見てたんだ、さっきの一部始終を・・・」
「はい?」
芽藤はさっき優希に起こった事を礼矢に話した。
「悪い、俺が止めに行くべきだったけど、「面倒を起こすな」って店長に止められたんだ、すまん・・・!」
「・・・お前のせいじゃないさ、悪いのはそのDQNなんだからさ。・・・じゃあ、俺は優希を追い掛けるから」
「ああ、呼び止めてすまなかったな。・・・また来てくれよ?」
「・・・(悪いが、それは優希しだいだな・・・)」
店を出てとりあえず自宅に向かって走る。
途中で道を歩く人に尋ねるが、優希はなかなか見付から無かった。
「(・・・優希、どこだ?)」
焦る礼矢。優希の歩く速さを考えれば既に追い付く筈なのだが・・・一向に見付からない。
礼矢は深呼吸をして辺りを見渡した時、後ろにいた小学生の会話が聞こえてきた。
「さっきの人、スゲェよな〜! 女の関取かな?」
「髷じゃなくて長い髪だったよ?でも、どれだけ食べればあんな体になるんだろうね? 母さんより横があったよ!」
「!! 君たち、その女の人、何処にいるか知ってる?」
「何、お兄さん?」
「河原の方で見掛けたよ?」
「河原!? (正反対じゃないか、何でまたそんな所に・・・) 君たち、ありがとうね!」
ポカーンとする子供達に礼を言って、礼矢は河原に向かって走って行った。