アリスの狂気的な愛情

アリスの狂気的な愛情

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#東方Projectシリーズ

 

「…ふう… しかし、緊張するわね…」

 

アリスは誰に話しかける訳でもなく、小さく呟いた。
今、彼女はとある屋敷の前に居る。
普段は行こうとさえ思わず、思えばまだ殆ど入った事すらない場所。
そう、マヨイガの前に。
無論単純な世間話をしにきた訳でもなく、アリスの目的は当然の如くアレだった。

 

幻想郷一胡散臭い妖怪、八雲紫。
彼女を、見るも無残な肉塊に変えてしまおうと言うのである。
その理由は単純で、彼女の能力なら自力で元の体型に戻れるだろう、という
アリスの想像から、なのだが。

 

「別に恨みとかがある訳じゃないんだけどねー…」

 

自分を納得させるように呟きながら、アリスはマヨイガの戸を叩いて。
程なく品のある足音と共に、戸が開く。
中から顔を出したのは八雲紫本人ではなく、品のある物腰に心地よさそうな毛並みの
9つの尾を持った女性… 紫の式神である、八雲藍だった。

 

「おや、貴女は… 珍しいですね、貴女が来るなんて」
「ん、ちょっと良い紅茶が手に入ったから… ほら、今まで余り会う機会も無かったし、ね?」
「成程、では少々居間でお待ちください。紫様を呼んできますので」

 

アリスの言葉に藍は柔らかくはにかむと、そのまま屋敷の奥へと消えていった。
そんな藍の様子にほんの少しだけアリスは胸が痛んだ、が。
実際被害を受けるのは彼女ではないのだし、と、そう一人納得しながら屋敷にあがった。
屋敷の中は存外に広く、居間の位置はそこはかとなく判るものの、今の太ったアリスでは少々辛い。

 

「(…飛んでる時は気づかなかったけど… こんなに、体が重いなんて…)」

 

軽く息切れしながらもようやく居間に着くと、アリスはどてっと床に座り込んだ。
額には薄く汗が滲み、普段の自分ならば味わう事のない苦痛ともいえる感覚に、
アリスは少しだけ戸惑う。
…だが、戸惑う以上に今のアリスは幸福感に包まれていた。
少なからず、今の自分は魔理沙と同じ苦痛を共有できているのだ、と。
無論魔理沙の方はアリスとは比べ物にはならない程の体重になっているので、
苦労も今のアリスの比ではないのだが。

 

人形に額の汗を拭わせながら、身だしなみを整えて、
何時でも紅茶を出せるように準備を済ませると、丁度良く襖の向こうから足音が聞こえてきた。
紫が来たのだろうと、アリスは若干緊張しながら正座する。
…しかし、襖の向こうから現れたのは、予想外の人物… 八雲藍だった。

 

「…あれ、えっと、紫は…?」
「申し訳ない、まだ就寝中でして… 起こそうと試みたのですが…」
「就寝って… ちょ、ちょっと、今はもうお昼過ぎよ?」
「ええ、解ってます」

 

少し頭を抱えるようにして、溜息をつく藍。
そんな藍の様子を見るに、どうやら彼女が嘘をついてる訳ではなく、
本当にまだ彼女の主は眠りの中のようで。
アリスは心底驚いたような、それでいて呆れたような表情を浮かべると…
少なからず、藍に同情した。

 

「それじゃあ仕方ないわね。今日はお暇させて貰うわ」
「申し訳ありません… もし良かったら、また来て下さいね」
「ええ、それじゃ…」

 

それじゃあ、また。と言おうとした瞬間、アリスは自分の体が宙に浮いたのを感じた。
無論、彼女が浮遊したわけではない。
急に床が無くなったかのような浮遊感に思わず下を見れば、そこには冗談のような空間の裂け目。
視線を前に向ければ、藍が驚いたような表情で、こちらに手を伸ばしている。
アリスはその手を掴もうとして… そこまでが限界だった。
藍に向けて手を伸ばす事すら叶わないまま、アリスは空間の裂け目に飲み込まれたのである。

 

「…今のは、紫様の… 一体何を考えているんだ、あの妖怪(ヒト)は…っ!!」

 

そうして、誰もいなくなった部屋で藍は一人嘆いた。
こうなってはもう仕方ない、後は橙と戯れていよう、と荒んだ心に誓いながら。

 

 

 

 

「…う…」

 

黒く、しかし視界の開けた場所で、アリスは眼を覚ました。
目の前に広がる光景は先ほどまで居たマヨイガでは無く、
真っ暗で所々に奇妙な目がある、悪趣味な空間。
余りに唐突な事態に、アリスは自分に起きた事態を未だに良く飲み込めずにいた。

 

「ようこそ、人形遣いさん。歓迎するわ♪」

 

そんなアリスの前に、突然… 本当に突然に、紫の衣装に身を包んだ女性が姿を現す。
そこまで来て、漸くアリスは自分の置かれている状況を理解した。

 

「…これが歓迎って態度なのかしら? 客人に対して余りにあんまりな対応だと思うんだけど」
「あら、ごめんなさいね? でも今まで全く来る気配すらなかった貴女が物を持ってきたんだもの。
 警戒して当然でしょう?」

 

クスクス、と可笑しそうに笑いながら、紫はアリスの頬を撫でる。
アリスは手を払いのけようとしたが… そこで漸く、自分が空間に磔にされている事に気がついた。

 

「でも、別に貴女を殺そうとか… そんな物騒な事を思ってた訳じゃないのよ?
 異変とかは正直御免だけど、こういった軽い出来事なら良い退屈凌ぎにはなるし…」
「軽い、出来事…? 何を言って…っ!?」

 

アリスの反論を制するように、紫が手を振ると… 空間に裂け目ができて、とある光景が目に飛び込んできた。
裂け目の向こうに見えたのは、太った体を揺らしながら部屋を片付けている魔理沙の姿。

 

「…盗み見なんて、良い趣味してるわね、貴女」
「ごめんなさいね、こうも永く生きてると退屈が一番の苦痛なのよ。
 それで、丁度良く退屈をしのげそうな、楽しげな出来事があったから… ね?」

 

紫は少しだけ申し訳なさそうな顔をすると、裂け目を閉じる。
それとは対称的に、アリスの瞳はドス黒い怒りに満ちていた。
仮に拘束が無かったのならば、恐らくは紫を押し倒していたであろう程に。

 

「で、何故此処に貴女を連れてきたかって言うと、
 貴女の趣味に少し付き合ってあげようと思ってね♪」
「…付き合ってもらわなくて良いわ」
「まあ、そう言わずに聞いてよ。貴女の目的にもきっと合ってるでしょうから」

 

紫のその言葉に、アリスは眼を細める。
その様子を肯定と取ったのか、紫は楽しそうに説明をし始めた。

 

彼女の提案、それはカードゲーム… それも単純なもの… をする事だった。
題目はトランプのブラックジャック。
21に近い数の方が勝ちであり、21を超えると敗北という、扱く単純なルールのゲームである。
無論、ただトランプをするという訳ではなく、一つ条件がある訳だが。

 

その条件は、勝負に負ける度に体重を増加させる、と言う物。
それも勝者の手によって増加率も変動する、というルールだった。
例えば21以外ならば1.1倍、21ならば1.5倍、そして絵札とAの組み合わせならば2倍、
と言った具合である。
それ以外にもドローの場合は次の倍率が二倍になる等、正直危険なルールばかりだ。

 

「ね? このルールだったら貴女の目的にも合ってるでしょう?」
「…貴女がイカサマをしないって証拠はあるのかしら?」
「証拠と言われると困るけど… それじゃあ、札の配布やシャッフルは貴女に任せるわ。
 それでも駄目かしら?」

 

紫の言葉にアリスは小さく唸った。
確かにこのルールならば、紫を肉塊にする事も十分に可能だ。
しかし、逆に… もし負けた場合は、下手をすれば
身動きが出来ないほどの肉塊にされる可能性すらある。
そうなってしまえば、魔理沙との相手もできなくなってしまうだろう。
…だが、それ以上に今のアリスは自分の趣味… というよりも
秘密を見られた事に対して怒りを覚えていた。
それこそ、リスクを考えずに紫の提案を飲んでしまう程に。

 

「判ったわ。勝負の回数は?」
「10回ね。20回とかになると大変な事になりそうだし」

 

紫はそう言うとアリスの拘束を解き、トランプを手渡した。
先程言われたルールは既に理解している。
勝負としては、彼女がイカサマをしていないとするならば5分… の筈、だ。

 

そうして、幻想郷である意味今までにない大一番が始まったのである。

 

「それじゃあ、ディーラーは貴女からで良いかしら?」
「ええ、構わないわ」

 

紫の言葉に頷くと、アリスはトランプをシャッフルし始める。
流石は人形遣いと言うべきか、非常に素早く、そして器用に、
綺麗にトランプはカットされていって。
そして、アリスと紫の元にトランプが2枚、配られた。
アリスの札はハートのキングともう一枚は伏せられ、紫の札はクローバーの5、ダイヤの6。
もしアリスの伏せられた札がA(エース)ならば、その時点でアリスの勝利は確定するが…

 

「…スタンド」

 

札を返すと、伏せられた札はスペードの6。
考えられる限り、最悪のカードだった。
ディーラーは17以上になった場合はそれ以上カードは引けない。
つまり、紫はこの場合18〜21の数を出した時点で勝利が決定するのである。

 

「それじゃあ私はヒットさせてもらうわ… あら、今日は運がいいわね」

 

アリスから配られた札を見て、紫はほくそ笑んだ。
紫に配られた札は、クローバーの10… つまり、合計21。
それをアリスが確認するや否や、突然アリスの体が熱を持ち始めた。

 

「んぁ…っ!? う、くぅ…っ!!」
「それじゃあ、楽しい楽しい罰ゲームの時間よ…♪」

 

突然熱を発し始めた身体を抱えるようにしながら蹲るアリス。
そして、紫がそう告げるのと同時に… 彼女の目の前で、アリスの体が膨張し始めた。
ビリィッ、と音を立てながら袖は破れ、バツンバツンと服の前ははじけ飛び。
顔は丸く肉がついて、目は肉に押され細くなって。
足は丸太のように太くなり、お尻はまるで巨大な桃のように膨らんで。
アリスが自分を抱えていた腕も自身の肉にめり込んで、まだ細かった指も太く膨らんでいく。

 

「う、ぁ… あ、く… ふぅ…っ」
「…ふふっ、1.5倍と言っても随分増える… さあ、2回目の勝負と行きましょう?
 ディーラーは2回交代で行こうと思うから、次も貴女ね♪」

 

漸く変化が終わったアリスに、優しくトランプを手渡す紫。
アリスはそれを受け取りながら… 確かに見た。
紫の、まるで幼い子供が虫の羽を毟るかのような、残酷で純粋な笑みを。
この勝負は絶対に降りられない。
降りさせては貰えないのだ、と… その時アリスは、本当の意味で知ったのだ。
先ほどよりも体重が倍加したからか、トランプを持つ手も覚束ない。
太くなった指先でシャッフルを繰り返しながら、アリスは… 深く、後悔した。

 

「(ごめんなさい、魔理沙… 私、帰れないかもしれない)」

 

 

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