アリスの狂気的な愛情
#東方Projectシリーズ
「…ふぅ」
図書館の一角。
机の上に本が山積みにされた場所に、彼女は座っていた。
パチュリー・ノーレッジ。
紅魔館に住む魔法使いであり、若干ひ弱な魔法使いである。
彼女は読んでいた分厚い本をパタンと閉じると、少し疲れたかのように目頭を抑えた。
「…むきゅう… ちょっと集中しすぎたわね」
大きく伸びをしながら、肩をコキコキと鳴らすパチュリー。
…如何に魔法使いと言えど、流石に昼夜続けて読書をしたのは身体に堪えたのか、
彼女は大きな欠伸をして目をこすった。
「あら、疲れ気味みたいね、パチュリー?」
「ええ… 久しぶりに徹夜したから疲れちゃったわ、アリス」
突然聞こえた声にも動じる事無く、パチュリーは気だるげにそう返した。
アリスも返された事を気にする事もなく、近くの椅子に腰掛ける。
そして、アリスの人形が机を運びこむと、パチュリーはアリスに向き直る様にして、
本を机に置いた。
「で、何か用かしら、アリス?」
「ううん、ちょっと世間話をしに来ただけよ。
朝、良い紅茶が手に入ったから一緒に飲もうと思って♪」
邪気のない笑みをパチュリーに返すと、アリスの人形が器用に紅茶を淹れ始める。
そこでようやくパチュリーはある事に気がついたのか、目頭を押さえ、頭を軽く振り…
そして、気まずそうに口を開いた。
「…ねえ、アリス… ひょっとして、貴女… 太った?」
「あはは、ちょっと最近不摂生だったから… 貴女も気を付けないと危ないわよ?」
「そ、そう… そうね… 今度一回体操だけでもしようかしら…」
小さく苦笑しつつ、アリスはため息をついた。
少しデリカシーが無かったかしら、とか、私も危ないかも、とか思いながら
パチュリーは視線を泳がせる。
そんな事を話している家に、アリスの人形が可愛らしい動作で机に紅茶と茶菓子を並べた。
「所でさっきから人形を操ってる気配がしないのだけど、この人形ってひょっとして…」
「ええ、半自律型の上海人形よ。ほらシャンハイ、ちゃんと挨拶して?」
シャンハーイ、と可愛らしい声で会釈する人形。
それを興味深そうに見つめながら、パチュリーは机に置かれた紅茶に口をつけた。
口の中に入った瞬間に感じる、感じた事のない味に少し顔を顰めながらも、
コクン、と一口飲みこんで。
「…何だか変わった味ね、コレ」
「あら、不味かったかしら… おかしいわね、上海が入れ方を間違えたのかしら。
ごめんなさい、でもビスケットの方は大丈夫だと思うから食べてみて?」
「別に不味かった訳じゃないんだけど… それじゃあ、貰うわね」
少し申し訳なさそうにしながら、パチュリーはビスケットを一口食べた。
どうやら此方は味は普通だったのか、美味しそうに咀嚼し、飲み込んで。
安心したからだろうか、パチュリーはアリスが凶悪な笑みを浮かべたのを、見逃してしまった。
もし手遅れでも、見ていればまた対応は違っただろうが、それもまた手遅れ。
…最初は、ほんの少しの違和感。
十分にゆとりのあるパチュリーの服のお陰で外からではほとんど解らないが、
ほんの少し、彼女の顔が丸く。
そしてビスケットを咀嚼し、飲み込んだ瞬間にぷくっと、
まるで風船に少し息を吹き込んだかのようにパチュリーの体が膨らんだのだ。
彼女にとって不幸だったのは、普段から若干大きめの服…
と言うよりはローブだろうか、それを着ていた事だろう。
魔理沙のような服ならば、膨らんだ瞬間に服が食い込み気付いたのだろうが、
彼女の服ではそれはまだ先。
気付いた頃には、既に手遅れの状態なのだから。
「ん… 結構おいしいわね、これ。今度作り方を教えてくれないかしら?」
「あら、パチュリーが自分で作るの?」
「ううん、咲夜にレシピを渡して作ってもらうわ」
そんなたわいのない話をしながら、パチュリーは二枚目のビスケットを口にする。
その途端、今度は傍から見ても判る程に… 服のゆとりがなくなってきたからだが…
パチュリーの体が膨らんだ。
やや痩せ気味だったパチュリーの顔にはぷくぷくと肉がつき、顎の下には肉が溜まり始めて。
若干ローブの前を腹が押し始めて、乳房もそれに合わせて膨らみ、
更に尻や足にも肉がつき始めたからか、アリスと同じくらいだった座高は少しずつ高くなっていく。
「(…ふふ、やっぱり原液は良く効くわね… さあ、どんどん食べなさい、パチュリー…♪)」
そんなパチュリーの様子を見ながら、アリスは内心ほくそ笑み。
そっと、バスケットの中に入れた… 一ピース分欠けた、あのケーキを見やった。
そして、パチュリーが三つ目のビスケットを食べ終えた頃だろうか。
そろそろ頃合いか、とアリスはとうとう行動を開始した。
「ねぇ、ところでパチュリー。貴女、ここ最近運動とかはしたかしら?」
「ん… ううん、此処一週間は面白い本があったからこの図書館からすら出てないけど…
それがどうかしたの?」
「…だからね… えっと、パチュリー… その、言いにくいんだけど…」
最初にパチュリーがしたように、今度はアリスが少しだけ気まずそうにすると立ち上がり…
そして、パチュリーを後ろから抱き締めるようにして。
途端にパチュリーは顔を真っ赤に染めながら、慌て始めた。
「え…っ、ちょ、ちょっとアリス!?」
「…貴女、随分素敵な事になっちゃってるわよ?」
「ひゃんっ… って、え… え、ええええっ!!?」
慌てるパチュリーに動じる事もなく、アリスはむに、と… パチュリーの膨らんだ腹部を抓む。
そこでようやくパチュリーが自分に起きている事態に気がついたのか、自分の身体を見降ろし…
そして、素っ頓狂な悲鳴を上げた。
ぷっくりと肉がついた顔に手を当て、たぷたぷとした腕を見て…
そして、信じられないと言ったように、放心するパチュリー。
「そ、そんな… 嘘、こんなの…」
「一週間も引きこもって運動もしてなければこうもなっちゃうわよ…
…ふふっ、私の事太ったとか言ってたけど、私が太ってるならパチュリーは子豚さんみたいね?」
「…嫌っ、言わないで… 言わないでぇ…っ!」
アリスの言葉に、パチュリーは頭を振って悲鳴をあげた。
普段から繰り返し同じ服を着るほどに、容姿には無頓着なパチュリーではあるが、
乙女である事に変わりない。
それだけに、いつもとはまるで違う… パチュリーからしてみれば醜い… 自分の姿に、
拒絶を覚えたのだろう。
「…大丈夫よ、パチュリー。今の貴女も十分に可愛らしいもの…
それに運動すれば、また元に戻れるわ」
「嘘よっ、嘘…っ、こんなにぶくぶく肥って… こんなの、可愛くなんてないし、
運動なんてしたって元になんか…っ!!」
パチュリーがイヤイヤと頭を振るたびに… 今の自分の身体を自覚させるかのように、
パチュリーの全身がたぷたぷと波打つ。
アリスはそんな彼女の姿を見ると、ほんの少しだけ心を痛めた。
…確かにこうしたのは自分だし、思惑通りでもあるし、何よりパチュリーは恋敵、だが…
それでも尚、良い友人でもあるのだ。
その友人を騙し、泣かせたともあれば流石のアリスも良心が痛む。
だからだろうか、アリスは少し考えるように、眉を潜めた。
「(…最初は身動きも出来ないくらいの肉塊にしてしまおうかと思ったけれど…
流石にそれは可哀想ね。それに、何故かしら…
最初は魔理沙を私だけのものにする為にこういう手段を取っただけ、
だったのに… …何だか、今のパチュリーも、可愛い…♪)」
邪悪な笑みは影を潜め、一転して… 魔理沙に向ける物とはまた違う…
まるで、ペットを慈しむかのような表情を浮かべると、
アリスは優しくパチュリーをあやすように、背中を撫で始めた。
「嘘じゃないわ… その証拠に… ん…」
「何よ、同情なん、か…っ、ん… ぅ…っ?」
自暴自棄になり始めていたパチュリーに優しくそう囁きかけると…
優しく、触れるだけのキスを交わして。
そっと顔を離すと、額をコン、と合わせた。
「…醜い相手に、こんな事出来ると思う?」
「…アリ、ス…」
目をパチクリとさせるパチュリーの頭をそっとなでると、アリスはビスケットを唇で咥えて。
そして、パチュリーに口移しするかのように、食べさせながら…
今度は、口内にビスケットを押し込むように、キスを交わし始めた。
初めは少し抵抗するようにしていたパチュリーも、すぐに抵抗しなくなり…
そして、ビスケットを一つ、また一つと食べさせられていく。
ゆとりのあったパチュリーの服は、いつの間にはパンパンに膨れ上がり、
袖はビリビリと破れながら肉を溢れさせて。
力仕事などした事もなかったであろう白く細かった指は肉で太く、短く見えるようになり。
とうとうローブもビリビリと破れ、抑え込まれてきた腹肉は溢れだし、たぷんたぷんと波打って。
顔はぷくぷくと丸くなり、首は見えなくなる程に。
しかしそれでも彼女特有の愛らしさを失うことなく、醜いというよりは可愛らしい、
といった容姿に納まっていた。
「…ぷは、ぁ… ん… ね、信じて貰えた?」
「う、うん… 信じる、わ… 有難う、アリス…」
恥ずかしそうにしながらも、落ち着きを取り戻したパチュリーは少し太くなった声でそう呟いた。
アリスもその様子に嬉しそうに微笑み… そして、ケーキはいらないか、と心の中で苦笑して。
そして、そっとパチュリーから身体を離すと、荷物をまとめ始めた。
「…何処に、いくの… アリス…?」
「ん、そろそろ時間だから… 続きがしたくなったら、私の家に…ね♪」
クス、と悪戯っぽく微笑むと… 今のパチュリーでも来られるように、
転移の魔法陣が描かれた洋紙を渡して。
そうしてアリスは手を振りながら、図書館を後にした。
「…それにしても困ったわね。
ケーキを全部パチュリーに食べさせて肉塊にするつもりだったんだけど…」
そんな事をするなんてできないし、と誰に言う訳でもなく呟いて。
彼女はため息をつきながら、10倍ケーキの行き先を考えていた。
幸い、まだ薬は一人分はある。
ある、が… どうにもあの河童に使う気にもなれず。
使っても良心が痛まない相手は居ないだろうか、と考えていたところ。
「そう言えば一人だけ居たわね、私の良心が痛まなさそうな相手。
彼女なら自力で元に戻れるでしょうし… 胡散臭い彼女が肉塊になった姿、
少し興味が出てきたわ…♪」
そんな事を呟きながら、アリスは邪悪… と言っても、子供の悪戯みたいな物だが… な笑みを零し、空に飛び立った。
楽しい事になりそうね、と鼻歌交じりに呟き。
それが済んだ後のパチュリーと魔理沙との事を考えて、にへら、と彼女らしくもなく頬を緩ませた。