魔王の愉悦と、王女の…
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「リーンさん、ゼブルは何処に居るか解る?」
「あ、ぱーじゃさんだぁ」
「またセフィリア様の所へ行ったようですよ。
自分でしでかした事とは言え、やはり罪悪感はあるようですから」
リーンのそんな言葉に、パージャは苦笑しつつ…
リーンと戯れていたアーリアの頭を優しく撫でた。
あれから、既に1年が経とうとしている。
1年の間に、パージャ達は沢山の経験をした。
様々な世界を巡り、ゼブルと共に歩み… 冒険者達を陥れて。
その内何時からか、パージャ達はゼブル達と、何時しか家族のように打ち解けていた。
「…でも今でもちょっと頭に来るなぁ… まさか、双六の内容決めてたの、ゼブルだったなんて」
「ああ見えて… というか、見ての通り悪戯好きな所がありますからね。
後はまあ… 何と言うか… こういう、私達のような人が好き、というのもありますし」
そう言って、リーンとパージャは互いの姿を見て、小さく笑った。
あれから、パージャ達の姿は元には戻っていない。
ゼブル曰く、元に戻そうと思えば簡単に戻せるようなのだが… 彼女達自身がそれを拒否したのだ。
コレから家族になるであろう人間ならば、どんな姿でも受け入れてくれるだろうと言う事と…
あの日知った事を忘れぬように、と。
「まあ… 今じゃ全然気にならないから良いんだけどねー…
馬鹿に何言われたって、もう大丈夫になってきたし」
「良く言うよ、今でも偶に凹んでる癖に」
パージャの言葉に、何時からそこにいたのか、ニーナが口を挟む。
ニーナはリーンと軽く挨拶を交わすと、後ろからパージャの頭をくしゃりと撫でた。
「わぶ…っ、も、もう… 何で言うのよ、ニーナさん…っ」
「はは、悪い悪い… あ、そうそう、伝言しに来たんだった。
アイツ、そろそろ次の世界に行くってさ。また忙しくなりそうだってはしゃいでたよ」
「そうですか… ではまた準備をしないといけませんね。
ニーナさん、パージャさん、手伝っていただけますか?」
リーンの言葉に二人は頷くと、リーンはアーリアを抱き上げて…
そして、そのまま暗闇に溶けていく。
…そして、そこから少し離れた別室に、二人は居た。
「…い、いい加減許してはくれないか…? 悪い事をしたとは思っているんだ、
だが君のそんな姿を想像したらつい…」
「げぷ…っ、つまり、私には… 下品な姿が、似合ってると言う事… うげぇっぷ… ですね?」
「ち、違う違う! そうじゃなくてだね、ギャップが良いと言うか、
それでも気丈に振る舞う姿が美しいとか…
ああもう、拗ねないでくれたまえ… 本当に反省しているんだから…」
「拗ねてなんて… げぷ、いません」
そう言いながら、たぷんたぷんと体を波打たせながら、ゼブルから視線をそらすセフィリア。
…事の発端は一月前、双六での事でゼブルが口を滑らせた事が発端だった。
セフィリア自身、今でも下品な事をしてしまう自分に恥じらいを持っていたが…
それをしたのが、当のゼブル本人だったと言う事を知ってから、
今に至るまで、このような状況が続いている。
本人としては、もう自分の身体に関しては受け入れては居るのだが、
それとこれとは話が別らしい。
「全くもう… 可愛いな、セフィリアは」
「…っ、だ、抱きしめても… そんな、許すとか無いですからね?」
そんな様子のセフィリアを、ゼブルは愛おしげに背後から抱き締めると、
セフィリアは顔を真っ赤にしながらそっぽを向き…
しかし、その表情はどこか嬉しそうに歪んでいた。
あれから1年、彼女達はゼブルと共に歩んできた。
それはきっと、傍から見れば世界を裏切ったのと同義なのだろう。
だがしかし、彼女達はそれでも構わないと思っていた。
罪悪感が無い訳では無い、だが… どんな自分でも受け入れてくれる仲間と過ごすこと以上に、
幸せな事など無いのだから。
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