710氏その6
とある世界の、とある場所。
そこには、一人の英雄がいました。
彼女の名前はアリシア・キール。
剣の聖女と呼ばれた彼女は、数百年もの昔から世界を守り続けてきた、言わば世界の守護神。
この世界に流れ着いた数多の魔王は彼女に倒され、或いは説得されて、
別の場所へと追いやられてきました。
そんな彼女を人々は慕い、敬い、そして愛しました。
彼女もまた、世界の全てを愛していました。
草木も、空も、その世界で生まれた、ありとあらゆる物を。
そして、再びそんな世界に足を踏み入れた影が6つ。
その影を追い出そうと、アリシアはそれらがいると思われる城へと出向きます。
…そこが、自分の最後の場所になるとも知らずに。
これは、世界を守る事に尽力した英雄の、最後の一節。
「…こんな感じでどうかしら?」
「大丈夫かと思われます… 若干お伽噺に聞こえますが」
「もうちょっと威厳ある感じで書いた方がよかったんじゃない?」
「わたちはしゅきだけどなぁ…」
/ぷろろーぐ・『顔合わせ』
そうして彼女は今、其処に居た。
つい先日、突然姿を現した立派すぎる程に立派な城。
中には人の姿はなく、ただ強大な魔力が奥から放たれているばかりで。
久方ぶりに苦戦する事を思い浮かべながら、アリシアは剣を地面に突き刺し…
そして、口を開いた。
「…この城の主に告ぐ! この世界に汝の居場所はない、直ちに此処を立ち去れ!
立ち去らなければ… 不本意ながら、実力行使でこの世界から排除させて貰う!
これは警告では無い、宣告だ!」
凛とした彼女の声が、エントランスに響き渡る。
それと同時に、エントランスの奥から拍手が鳴り響くと同時に、
強大な魔力の塊が幾つも形を成し始めた。
数は6つ。
内一つは桁外れで、他5つもまた魔王に匹敵するほどの力を持っていて…
アリシアは、思わず剣を抜き、身構える。
「…見事な宣告、痛み入るわ。私の城へようこそ、剣の聖女、アリシア様。
私はこの城の主、ゼ… げふん、ゴモリーと申します… 以後、見知り置きを」
「…わ、私は… ゴモリー様の腹心、杖の魔女… です」
「私は文字通り、最強の魔法使い・リリンだよ!」
「あー… えっと、私は盗賊女帝? ヴァルナだ」
「う… げぷ… 私は… に、肉の賢者、ローランです、宜しくお願いします」
「わたちは、えーっと… はめちゅの、おさなご、けいろん!」
「…何ですか、そのやたら統率の取れてない名乗り口上は」
ゴモリーは兎も角として、周りの5人の… ふくよかと言うには余りに肉を纏っている女性達に、
アリシアはあきれた様子でそう呟く。
それと同時に5人は互いに顔を見合わせ、苦笑いをし…
しかし、アリシアは気を取り直す様に剣を構えると6人に向き直った。
「まあ、それはどうでも良い事。 …返答をお願いします、簡潔に物事を終わらせたいので」
「ふむ… うん、私もそれに関しては同感よ。
答えはNO… 用事が済むまでは此処から立ち去るつもりは無いわ。
序でに、一応言っておくけど此方から其方に迷惑をかけるつもりも無いのだけど…
此処で、立ち去って貰えるなら、ね?」
「断ります… 以前それで足元をすくわれた覚えがありますので」
アリシアのその言葉に、ゴモリーは小さく頷いて見せると、5人も互いに顔を見合せて… そして、小さく頷き。
「では、この城の最上階にて待つとするわ。貴女が私の同胞を乗り越えて、
私の元へと辿り着いたのなら… その時は、私がお相手しましょう」
「…では、私は6階にてお待ちしておりますね」
「じゃあ私は3階ね?」
「んじゃまあ、私は先手を取るとしようかねぇ」
「げぇっぷ… うぅ… では、私は5階で待ちます…」
「それじゃあ、わたちは4かい!」
ゴモリーはそう言うと姿を消し… 他の5人もそう言うと、次々と姿を消していった。
アリシアはそんな6人の様子に首を傾げ… そして、小さく息を吐く。
「危うかった。流石に6人同時ともなれば、確実に敗北していたな…」
だがしかし、とアリシアは呟き、そして剣を収めた。
「…どういう事だ、あれは… 必死さの欠片も無く、此方に対する敵意さえ見えない。
あんな手合いは、これまで居なかったが…」
今までのどの魔王にも見られなかった態度にアリシアは困惑し… しかし、すぐに首を横に振る。
そんな事は自分には関係ない。ただ、今の6人をこの世界から排除する…
そう、其れだけを考えていればいい。
そう、無理やり自分を納得させると… アリシアは目の前に現れた階段を、一歩一歩上り始めた。
(登場人物ステータス)
名前:アリシア・キール
性別:女性
年齢:23歳(実年齢は不詳)
身長:172cm
体重:58kg
3サイズ:87/54/90
備考:
剣の聖女と呼ばれる英雄で、魔王を倒した経験を持つ。
卓越した剣技を習得しており、その実力は並ぶ者が居ない程。
今回もまた、魔王を倒しに一人で居城へと乗り込んだが…?