710氏その10
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/1・お姉さんと動く歩道
ごぅん、ごぅん、と駆動音が部屋に響く。
扉を開けた八馬の目の前に有ったのは、ピンクとオレンジに彩られた、
異様に長いルームランナーだった。
おおよそ、100mはあるのだろうか。
部屋と言うよりは通路に近いのであろうその空間の最奥には、小さく、
先程くぐったのと同じ扉が見えた。
「…要するに、此処を進めと言う事か」
小さくそう呟くと、八馬はルームランナーを見つめる。
ピンクとオレンジの縞々で出来たそれは、見ているだけでも目が疲れてしまう程に悪趣味で。
しかし、そのお陰でどの程度の速度で動いているのかも良く判った。
大体では有るが、恐らくは普通に歩くよりも少し早い程度。
小走りで走れば、少し時間はかかるが扉には辿り着けるだろう。
元より、フルマラソンでも走れるほどの体力がある八馬には、
この程度のルームランナーは苦にもならない筈だ。
そうして、八馬は小さく息を吐くと、軽く、小走りでルームランナーの上を走り始めた。
確かに若干辛い事は辛いが、別に音をあげる程の事でも無い。
女性らしいヒールを穿いていたりしたのならば確かに難しい…と言うか無理であろうが、
八馬は幸いにも運動靴を普段から穿いているので何の問題も無かった。
…とは言っても、進みは遅い。
いっそのこと全力疾走してしまえば良いのかもしれないが、
それだと逆に部屋の奥までは持たないだろう。
今後何があるか判らない以上、無暗に体力を消耗するのは賢い事とは言えない。
「…しかし、思いの外時間がかかりそうだな」
軽く走りながら、八馬は呟いた。
アレから1分以上経つのに、まだルームランナーの3分の1も走り切っていない。
身体は軽いジョグで暖まってきて、額にも少し汗が滲み始めてきて。
八馬は軽く額を拭うと、そのままペースを変える事無く走り続ける。
そうして、少し経った頃だろうか。
不意に、体に感じる違和感に八馬は顔を顰めた。
…スーツが、妙に身体に張りついている。
初めは汗でスーツが張りついているだけかと思っていたが、
今は最早スーツに締めつけられているに近い。
そして、何よりも…ベルトが、ギチ、ギチと先程から小さく音を鳴らし始めている。
「(何だ…何が、起きて…?)」
呼吸を乱さない様にしながらも、八馬は自分の身体を見下ろすと…思わず、思考を止めた。
…スーツが張りついている、その表現は決して間違いでは無い。
だが、それは。汗のせいなどでは決してなく。
八馬の視界に移ったのは、スーツを窮屈そうに張らせている、自分の身体で。
スーツは皺が無くなる程にパンパンに張り詰めており…それは、つまり。
「(身体が…膨らんで…っ!?)」
そう八馬が考えるのと同時に、バツンッ!!と、音を立ててスーツの前ボタンが一つ、
はじけ飛んだ。
それと同時に、ワイシャツをパツンパツンに張り詰めさせながら…ぼよん、と。
自分には有る筈の無い、忌むべきものが柔らかく弾んで…その慣れない感触に、
八馬は小さな悲鳴を上げた。
「な…っ、な、何っ!?」
思わずそう叫んでしまえば、八馬は漸く自分に起きた現実を理解し。
それと同時に、慌てたように全速力でルームランナーを走りだした。
軽快だった足音は、どたどた、というベタ足に変わっていき。
ミチ、ミチ、とスーツを押し上げる音は途絶える事無く続き、時折バツンッ、と弾け。
服のほつれた所からはぷく、と柔らかな物がはみ出しながら、更に解れを広げていき。
はぁ、はぁ、と八馬が息を荒くすれば、どす、どす、と重たげに足音を鳴らしながら、
何とかルームランナーの終わりまでかけぬけて。
そして、膝に手を突こうとした瞬間…ビリィッ!!と、大きな音を立てながら、
スーツのお尻の部分が張り裂けてしまい。
ひ、と小さく悲鳴を上げながら、お尻の解れを隠そうとすれば、
辛うじて止まっていたスーツのボタンが、ブチブチィッ、と勢いよくはじけ飛んで。
だぷんっ、と音でも立てるかのように、お腹は前に出て、弾んでしまえば、
八馬はその場にペタン、と尻もちを突き。
「…あはっ、お姉さんってば…凄い格好になっちゃったね♪」
「―――!?」
それと同時に、唐突に耳に入った声に、八馬は周囲を見回した。
…アリスの姿は何処にもない。
だがしかし、耳に入ってくる笑い声は、紛れも無いアリスそのものの声で。
「なさけなぁい…♪そんな無理してスーツ着て、もっと自分の身体を考えた方が良いよ、
お姉さん♪」
「く…っ、だ、黙れ、黙れ!!」
アリスの声に、八馬は耳まで真っ赤に染めながらそう言うと、立ちあがって…
そのまま、ドスドスと歩き、目の前の扉に逃げ込んだ。
これ以上アリスの声を聞いていたら、心が折れてしまうと…何故か、判ってしまったから。
名前:美袋 八馬(みなぎ やま)
年齢:23歳
身長:172cm
体重:97kg
サイズ:95/92/95
容姿:ボーイッシュに切りそろえられた黒髪に、ややキツ目の容貌。
だが、若干ふくよかで温和な顔つきに。スーツは所々が解れ、裂けており、
裂けた部分から肥えた腕や足、そして腹がはみ出している。
動く度に解れは大きくなっており、ワイシャツも何とか留っているが悲鳴を上げていて、
限界が近い。
また、大きく裂けたズボンの尻からはだらしなく膨らんだ臀部がはみ出しており、
ショーツがキツく食い込んでる様も見えてしまっている。
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