857氏その2
前へ 1/2 次へ
現在
神話が世界を支配していた時代などとっくの昔に終わり
それにかわって科学が世界を支配している
そんな世界で生まれ育った私は必然的に
悪魔だとか神様だとかそんなものを信じる感受性を持ち合わせていなかった
いなかったのだ
だがいまは信じている
信じざる負えない
悪魔という漆黒の存在を
それ程の出来事が私に起こったのだ
事の発端は
いつも一緒に帰る友人の都合がわるく今日は帰れないと言われた事だった
「ごめんねぇー絵里!彼氏が一緒に帰ろうっていうからさぁ」
「べつにいいよ、彼氏共々悲惨な死に方をしてくれれば」
悲惨な死に方とは爆死とか、爆死とか、爆死である
「もぉー嫉妬しないでよぉー」
入学して一ヶ月程度しかたっていないのだが
先週に先輩に告白されオッケー
それからはずっとこの調子だ
ムカつく
おまえ単品でもいいから爆発しろ
「絵里も彼氏作ればいいのにぃ
ぁたしみたいにさ
ぇりかわぃぃからかれしすぐ出来るって
すたぃるぃぃしさ☆」
先週までの彼女は
いちいち読みにくいうえに
どう発音するかわからない
不適切な小文字を使う事はなかった
ましてや語尾に非常に腹が立つ星マークをつけたりすることはなかった
本当爆発しろよ
「あはは、しばらくはかれしいらないかな」
彼氏を作るということがこうなる事ならば
私は一生を孤独に負えたい
「えぇーもったいないよー
えりってばすごく綺麗な髪してるじゃん
ロングの髪型も似合ってるし
まつ毛長いし
化粧いらないくらいはだきれいだし」
※以上腹が立つため小文字等は
脳内変換してお送りいたしました
照れる
彼女は単純だが素直なので
褒めてくれると嬉しい
オホホホホホ
憎めないやつだ
爆発は免除してやろう
「そ、そんな事ないよ!おほほ」
「なにその笑いかた?
あ、もう四時半だ
それじゃあそろそろいくね
彼氏とはゆっくりかえりたいから」
「そ、それじゃあね」
私の言葉をきくと彼女は足早に教室から出て行った
やっぱ爆発しろ
心の中で悪態をつきつつ私も教室を出る
放課後の学校は部活動をしている生徒が多いので
案外にぎやかである
部活動か
入学して最初のホームルームで部活動参加許可の用紙を配布されて
それっきりだ
私もなにかの部に参加しようかな?
ちょうど一人だし
とりあえずどこかの部を見学して帰ろうかな
部活動紹介の紙が貼られた掲示板をみる
運動はからっきしなので
入るとすれば文科系だろう
文科系の紹介は・・・
あった
茶道部
ドアノ部
ボーイズラ部
四部〜ダイヤモンドは砕けない〜
etc..
・・・ほうほう
!?
三回ほど見直したがまともな部は茶道部しかなかった
この学校はどうなっているんだ
仕方なく茶道部へ行く事にした
茶道部の場所は・・・茶室
ではなく、科学実験室
フラスコに抹茶をいれアルコールランプで湯を沸かす
ところを想像した
いやな予感がしてきた
どうかまともな部であることをいのる
不安を背負いつつ
科学実験室へむかう
なぜだろうか
私の今日の行動は引力のようなものに引っ張られているようなきがする
そんな神秘的なものは断じて信じていないといえるのに
ついた
科学実験室へは授業で何度かきていたので
迷わずにこれた
「失礼します」
ガラガラと引き戸をあけると同時に
鼻に付くいやな臭いがした
少なくともお茶の匂いではない
酸っぱいようなツンとくる臭い
おそらく、今日ここで薬品を使う授業がおこなわれたのだろう
その名残がこの臭いだろう
「あら、こんにちは」
おそらく茶道部ものであろう声で我に帰る
臭いについて考察している場合ではなかった
「あ、こんにちは茶道部の見学にきたのですが」
先ほどの声の主の方を向く
するとそこに居たのは
かなり肥満した女だった
腹は制服を破らんばかりに押し上げているし
腕はかなりの脂肪がついて
制服の上からでは本来見えるはずのない腕のラインがはっきりでている
かおにももちろん脂肪が沢山ついており
お世辞にも美人とは言い難い容貌だ
「茶道部・・・?
ああそういうことになっているのね」
先ほどはきにならなかったが
ずいぶんこもった声でききとりずらい
おそらく首にたっぷりとついた脂肪の所為だろう
そのため、後半はうまく聞き取れなかった
「うふふふふ
残念だけどここは茶道部じゃないわ」
この女の笑い声を聞くと
なぜかとてつもなく不安になった
この部屋にくるまえに想像したちっぽけな不安ではなく
もっとおおきな
私の人生に関わるような不安
「そうですか、教室をまちがえてしまったようです失礼しました」
部屋に入る前に確認した時
ここは間違いなく科学実験室だった
だがいまはそんなことどうでもいい
一刻も早くここから出たい
引戸をあけさっさと部屋からでようとした
が
その瞬間
手を掴まれ強引に引っ張られる
あの体格を差し引いても物凄い力だった
「折角来たのだからゆっくりしていくなさいよ・・・」
ガチャ
引き戸の鍵を閉めた音が響く
本能が危険信号をだす
早くここからにげろと
だがもうおそい
既に唯一の出口はあの女の後ろでしかも鍵までかけられている
これでは封鎖されたも同然だ
どくん
どくん
やけにクリアに鼓動の音が聞こえる
これから自分はなにをされるのだろう
未知に対する恐怖とさきほどからするこの嫌な臭いが私の不安感を煽る
「まあ、私がよんだのだけどね・・・うふふふふ」
言っている意味がわからない
この女と話すことはおろか
あったことすら初めてのはずだ
断言できる
こんな極度のデブ一度みたらわすれるわけがない
「この学校にね茶道部なんてないのよ、それなのになぜ貴方が茶道部の見学にきたか
それは私が貴方をよんだからなのよ・・・」
いまいち状況がつかめない
ではあの紹介は、この女のつくった嘘のものだったのだというのだろうか?
「正確には彼ね、出てらっしゃい」
そう女がいうと
途端に臭いが強くなった気がした
部屋に黒い霧のようなものがあらわれはじめた
黒い霧のようなものな彼女の隣に集まり
一つの形を作っていく
それは人のようであり獣のようでもある
なんとも形容し難いが
とてもグロテスクだということはいえる
先ほどからしていた臭いのもとは薬品などではなくこいつだったのだ
あまりのことに終始唖然とするしかなかった
「彼は私達人間が悪魔と呼ぶ存在よ
本来ここはオカルト研究会の部室なのよ
そして私は部長といっても先輩が卒業しちゃって
私以外の部員はいないのだけどね
私はある日極秘のルートで悪魔と交信できる儀式を
教えてもらったのよ
面白半分でやって見た結果
大当たりってわけよ」
にわかには信じられないが目の前にいる
グロテスクな生き物は悪魔の名にふさわしい
確かに、悪魔はいる
だがなぜ、私がこんな不気味な出来事にまきこまれなければならないのか
「な、なんで私はここまでよばれたのですか?」
「彼は呼び出した相手のねがいを一つだけ叶えてくれるそうよ
ただし同等の対価をはらわなければならない
そしてそれは時に人間の場合もある」
背中に寒気が走る
つまり私は・・・・生贄というわけか
「な、なぜみずしらずのわたしなんですか!!!」
「しらないわよそんなこと
悪魔から生贄を指名してご丁寧にあんたをここまで連れてくる手伝いまでしてくれたわ」
ーその女の容貌が美しかったからだー
!!
脳に直接響くような声
おそらくこれが悪魔の声
ーお前の願いの生贄は美しい方がいいそれにおまえもそれをのぞむはずだー
どういうことだ、震えがとまらない
おそらく私は殺されてしまうのだろう
いやだいやだいやだ
「ああ、なるほどねうふふふふ悪魔って案外親切じゃないの
それじゃあそろそろ叶えてもらえるかしら?
私の願い
生まれた時からつきあってきたこの醜い脂肪を
私のコンプレックスを全部けしてしまって!!」
ー契約成立だー
そういうやいなや悪魔はもとの黒い霧に戻ったかと思うと
デブ女のくちから入っていった
すると、すぐに変化は始まった
まず異常にふくれた腹がちじみ
彼女の太かった手足が細くなる
あっという間に彼女痩せ型といえる体型になった
そして口から、入ったときよりも量を増した黒い霧がでる
これで変化はおわりのようだ
「やった、やったわ!!」
新しくうまれかわった肉体を撫で回すもとデブおんな
ききとしたそのこえさきほどまでのこもったものではなく通った聞き取りやすいものだった
ーさて、対価を頂くぞー
黒い霧が私の周りに集まる
あんなくだらない願いのために私は死ぬのか
余りにも理不尽だ
納得がいかない
いきたいいきたいいきたい
黒い霧口や鼻から体内に入ろうとする
口を閉じようとするが霧の勢いがつよくとじることができない
しにたくない
しにたくない
ー安心しろ対価は命ではないー
え?
それでは一体・・・?
答えをしったのは対価を支払いはじめてからだった
体に寒気が走る
全身が氷にはさまれているかのような
痛みを伴う感覚
そして、その感覚が膨張して行く
ぶく、ぶくぶく
泡が弾けるようなおとをだして
体が膨らんでゆく
うでが
あしが
おなかが
まるでなにかがまとわりつくかのようなかんかくがうちがわから
じょじょに身体が重くなっていく
そこで私の意識は途切れた
きずくと私は見慣れた天井のしたにいた
ここは・・・私の部屋か
するとさっきのは夢か
とたんに安堵する
いやな夢だった
夢の所為かぐっしょりと汗をかいている
やけに体がだるいし
熱があるのかも
呼吸もなんだかしずらい
おきあがろうとすると腹に違和感があった
いやなよかんがする
その予感を打ち払うためふと目線をおとすと
醜く肥え太った自分の体があった
嘘だ嘘だ
いそいでおきあがり姿見で自分の姿をかくにんする
自分がさっきみたものとは別のいつも通りの自分の体があることをきたいして
だがそこにうつったのは
間抜けなジャージにみをつつんだデブ女だった
顔は脂肪にあっぱくされ
目は半分ほど大きさに
鼻は低く醜く整形されている
そして目を背けたい身体
全身に大量の脂肪がくまなくついていて
腹などはみるも無残だ
「いや、うそよ・・・こんなの」
しゃべった声すらいつもとちがう
以前友人に褒めてもらった自分を鏡の中にさがすが一つも見当たらない
髪の毛すらちらほらフケがみえ
あぶらでいたんでいる
もはやそれは私では無かった
「いやあああああああああああ」
ー対価は、お前の美貌ー
その後、私の生活は衝撃的だった
どういう訳か私が目覚めたのは
悪魔と出会った日から一ヶ月後の世界だった
そして私は全く記憶にないのだがその一ヶ月のあいだ、普通に過ごしていたらしい
異常に食欲を示すようになったことをのぞいて
つまり客観的に見ると私は
一ヶ月のあいだにひたすら食べ続けそして激太りした
ということらしい
あのおんなを探したのだが当てもなく
いまだにてがかりすらつかめない
もしかしたらもう他の学校にいっているのだろうか?
あたらしい私の生活はとにかくみじめだった
家にある服には一ヶ月の間に買ったのであろう見たことのないビックサイズの服が増えていたので
着替えにはこまらなかったのだが
どれも私は好みではなかった
慣れないからだでの生活
電車にのるときは奇異の視線をおくられ
歩いただけで直ぐに息切れし汗を滝のようにかく
クラスメイトの反応のちがい
どこかみんな私を馬鹿にしている
先生に馬鹿にされたこともあった
そりゃあそうだ
こんなに太ってしまっては
そしてとめどない食欲
いままでの三倍以上のものを食べるようになった
これが私の身におこった全ての出来事
私はあの女を
絶対にゆるさない
絶対に復讐してやる
そのために私は悪魔と交信する手段をさがしている
こんどはあいつに代償をはらってもらうために
前へ 1/2 次へ