風紀委員長 那須原紫の災難

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そこで私の意識は現在に引き戻される。
閉じていた目を開けるとリリスが覗きこんでいるのが見えた。
「おはよウ。少しうなされていたゾ。人間だったころを思い出していたのカ?」
私は顔をうつむかせ、しっぽをくるくると回した。石畳の冷気がひんやりと身に染みる。
「地上のことは忘れロ。お前はもう魔物なのだかラ。」

 

確かに今の私は悪魔に生まれ変わっている。
リリスとの戦闘の後、さらに肥満化薬の調査を続けていた私は、
小尾里の裏切りに遭って、これまで築き上げてきたものを全て失ってしまった。
高い身体能力も、信頼できる仲間も、周囲からの評価も、全部だ。
だが、私は小尾里を恨んではいない。
むしろ、今までの彼女の身分まで堕落してしまったことで、
彼女が私を裏切った気持ちが良く分かった。
周囲への不信と絶望。
リリスの誘いに従って魔界に来たのは、彼女に同情心が湧き、
一生彼女のそばにいてやろうと思ったことも理由のひとつだ。

 

「リリスちゃマ。」
私は舌足らずな口調で喋りはじめた。
「わたちは今まで自分の能力におごっテ、周囲のことをあまりにも考えていまちぇんでしタ。
魔物に身を堕とちたことデ、ようやくそのことが分かりまちタ。」
「そうカ。そうカ。
(騒動のほとんどの原因は私だということは黙っておいたほうがいいのかナ…)」
「こうなった以上、一生あなたにちゅいていきまチュ。」
「ふふフ、私こそかわいい部下が一匹増えて嬉しいゾ。
体のほうもだいぶ育ってきたじゃないカ。
やはリ、オークの遺伝子を入れたのが効いたナ。」
そう言って、リリスは私の大きな豚鼻をツンとつついた後、
全身をいつくしむように弄びはじめた。
「んっ…あっ♡…ふごっ♡」
細い指が体中の肉をはいまわり、私は快楽の声を上げる。

 

私の体。
少し前までは筋肉で引き締まっていた私の体。
今では、筋肉がぶ厚い脂肪に変わってしまい、満足に立つことすらできない。
首をかしげて見下ろすと、ぶよぶよと弛んだピンク色の肉、肉、肉。
身につけている服はないが、不思議と羞恥心は湧いてこない。

 

「現在、200kgオーバーというところカ。
お前にはこれからも育ってもらわねばならないからナ。
堕落と食欲の悪魔としテ。」
リリスの言葉に、私はこくんと頷いた。
堕落と食欲を司り、それを振りまく悪魔でもいい。
もうあの頃の私は戻ってこないのだ。

 

「そろそろ食事の時間だナ。」
リリスが手をたたくと、小さな下級悪魔たちが料理を持ってきた。
ローストチキン、ケーキ、チャーハン、ピザ…
私はそれを片端から手づかみで口の中に頬張った。
「いい喰いっぷりダ。これからもどんどん育ってくれヨ、私のかわいい下僕としテ。」
リリスが満足げに笑った。
私も笑った。
今は本能のままむさぼり食う『豚』になろう。

 

(完)

 

 

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