334氏その5
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ラキとラウラは、ネオンが光り輝く町の入り口に立っていた。
「やっと着いたな。長い旅だった。」
ラキは額の汗をぬぐう。
「長いも何も…ラキさんが頻繁に休み続けるからですよ。
本来3日の道のりを1週間もかかってしまったのですから。」
「う…仕方ないだろ、
スライム達を吸収しちまったせいで素早さがダウンしてるんだから…。
(体力がなぜか増えちゃったけど…)体も重たいし…。」
膝を抱えてスネるラキをラウラは呆れた様子で見ていた。
「はいはい、分かりましたよ。
それでは、さっさと教会で治療してもらいましょうよ。」
その時、ラキのお腹が、ぐ〜っ、と鳴った。
「ちょっと待ってくれ。先に飯屋に行かないか?」
「え〜っ!?」
「さっきから腹へってしょうがないんだ。」
「もう、ホントに困ったハンターさんですね。どこか手頃な店はないでしょうか?」
二人は大通りを歩き出し、店を探し始めた。
20分後。
二人は薄暗い怪しい店の前に立っていた。
ツタが絡んだ看板には『肉料理専門店デビル・ネスト』と書かれている。
ラウラが戸惑った様子で言った。
「ど、どうします?この店以外飲食店が空いていませんでしたよ。
正直なところ、この店に入るとろくなことにならないと、
私の第六感がささやいているんですが…。」
「構うもんか!ただの飯屋だろ?」
ラキは勢いよくドアを開けた。
「こんにちは〜、誰かいませんか〜?」
「ようこそ、わての店へ。」
そこには燕尾服を着た醤油顔の男がお辞儀をしていた。
「ささ、たんと食べていってくれさかい。」
どこの方言か分からない怪しさ満点の言葉づかいで、男は喋る。
「あの…やっぱり止めません?!絶対胡散臭いですよ、ここ…」
ラウラはラキに耳打ちしたが、ラキはさっさと席に着いた。
「細かいことは気にするなよ。まずは腹を満たすことが先決だ。
オヤジ、ありったけの飯を頼む!」
「まいどおおきに!」
その言葉を聞いて、ラウラも観念したのかしぶしぶ席に着いた。
「お待ちどう!当店自慢の肉料理でっせ〜」
しばらくしてオヤジは厨房から謎の肉が載った大皿をわんさか持ってきた。
たちまち直径何mもあろうかという机の上が料理で埋め尽くされる。
「いっただきまーす!!」
そう言ったかと思うとラキは猛然と片っ端から料理を食べ始めた。
ラウラも気乗りしないという様子で肉をほんの少し小皿に取り分けた。
「うっ…すごい臭い。何の肉なのかしらこれ…」
もぐもぐとラウラが食べるのをしり目にラキはするすると肉を胃袋におさめていく。
痩せていたころのかっこいい彼女はどこへやら、
太ましい彼女が次々と料理をたいらげていく姿は、
言い方はおかしいが、やはり絵になる。
顔には出さないが、ラウラはぼそぼそと肉を食べながらそんなことを考えていた。
「あの、そろそろこの店出ません?お腹もいっぱいになったでしょうし…」
ほぼ全ての皿が空になったのを見計らってラウラはラキに声をかける。
「ふぇ、なんふぇ?まふぁ、くひたりなひよ。」
ラキはごくんと口に含んだ最後の肉を飲み干し、オヤジに声をかけた。
「同じものをもっと持ってきてくれ!」
「まいどあり〜」
オヤジはまた料理を机いっぱいに並べはじめた。
「ええ!?まだ食べるのですか?もう止めましょうよ!
さらに太っちゃいますよ〜」
ラウラは必死にラキの体を揺するが、
ラキは料理にがっついて食べるのを止めない。
「ふぐっ…むぐっ…ごきゅん…」
料理がラキの口に消えていくのに比例して、彼女の体がどんどん膨らんでいく。
むちっ、むちっ…ぶちっ、ビリビリ…
ぶ厚い尻肉や小ぶりの胸肉、餅のような腹肉など全身の肉が肉肉しくぶくぶくと膨らんでいく。
肉圧に耐え切れなくなった衣服が裂けていく。
にも関わらず、食べ続ける。
「ハフッ…ハフッ…」
彼女は玉のような脂汗をかいている。すごく汗臭い。
「ああっ!どうしたんですか、ラキさーん!!
あっ、そうだ。お勘定、お勘定お願いしまーす!!」
ラウラはオヤジのところに駆け寄った。
「まいどあり〜。
ほな、代金は占めて○○万円になります!」
それは二人の全所持金をゆうに超えていた。
「持ち合わせが足りない…」
オヤジのニコニコ顔を一変した。
「なんやと!不足分、どないしてくれるんや!
あのデブががつがつ食べるから大赤字やねんで!」
オヤジはまだ食べ続けているラキを指差して怒鳴った。
「ひぃっ!?すみません、何でもしますから〜。」
「それじゃあ、『働いて』返してもらおうか?」
オヤジはにやりと不気味な笑みを浮かべた。
次の日。
「6番テーブル、オーダー入りま〜す!」
「11番テーブルに早くワイン持ってって!」
エプロンを着たラキとラウラが店内を駆けまわっていた。
ラキはさらに肥大した体を揺すって全身に汗をかいている。
きつそうだ。
「全く、ラキさんが食べ過ぎるからですよ」
「はぁ、ふぅ、すまん…」
「(この人本当にダメだ…)」
場所は変わって店の中のどこかの一室。
オヤジが誰かと話している。
「せやけど、あんさんもアコギですな。
あの二人にスライムけしかけてわての店に来させるなんて。」
「ふふふ、もっと誉めてくれ。
あのスライムは特別製でな、吸収した者の食欲を増幅させるのだ。」
声の主は愉快そうだ。周りには黒い霧が渦巻いている。
「そして、あいつらは町で一軒しか開いてなかったわての店で、
ぼったくり価格の料理を食べるしかなかったってわけやな。」
「して、これからどうするのだ。
まさか、借金を返済するまでずっとウエイトレスをさせるのではあるまい?」
「へへへ、そこは考えとりまっさ。デブの方には『裏の店』の仕事をしてもらいます。」
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