334氏その6

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 その後。
 俺は喫茶店を営んでいる友人に牛坂さんを紹介し、バイトとして雇ってもらうことに成功した。
 知り合いは彼女に少し面接を行うと「即採用!」といい、俺に向かって
 「朴念仁のお前にこんな美人の知り合いがいるなんて聞いてなかったぜ。すみにおけないね」
 と言った。余計なお世話だ。
 当の牛坂さんはにこにことそのやりとりを見ているだけだったけれども。

 

 友人によると彼女はウェイトレスとして良く働いてくれているらしい。
 「こまめに良く動くし、接客も丁寧だ。本当にいい娘を紹介してくれて助かるよ」とは彼の弁。

 

 それから1カ月が経過した。
 白雪が舞う日のこと、俺と牛坂さんはスーパーに食材を買いに来ていた。
 「先日は助かったよ。仕事から帰ってみると牛坂さんが俺の家を大掃除してくれていたんだもの」
 「いえいえ、居候としてはそれくらいしないとただ飯喰らいになっちゃいますから」
 「それにしても食器が入った戸棚まで一人で動かしていたのには驚いたな。力持ちなんだね」
 「ええ、実家では毎日農作業で鍛えてますから」
 雑談をしながら人参やジャガイモなどを手に持った籠にいれていく。今夜はシチューなのだ。

 

 ここ1カ月で牛坂さんも大分人間界の食べ物に慣れた
 (といっても牛なので肉食はさすがにできないが)。
 家にくる前は道端の雑草や生野菜を食べていたらしい。
 人間の感覚からみれば信じられないことだが、彼女達ミノタウロスにしてみれば
 当たり前のことなのだろう。
 だが初めて食べたカップラーメンに目を輝かせたところを見ると、
 やはり人間の食べ物の方が美味しく感じるらしい。

 

 「同じ野菜でも、調理しだいでこんなにおいしいものが作れるんですね」
 それ以来、彼女は料理本を買って俺に夕飯をつくってくれている。
 最初は味付けもめちゃくちゃで食べられたものではなかったが、
 このごろは下手なレストランよりも美味しい料理をつくるようになった。

 

 「うー、寒かった。ストーブ、ストーブと」
 自宅に帰りついた俺達は部屋の中の冷気に耐え切れず、電気ストーブのスイッチを押した。
 暖かい熱風が吐きだされる。
 「暖かくなってきましたね」
 牛坂さんがコートを脱ぎどっかりと腰を降ろす。
 コートの下に来ていたシャツは、元は俺のものだったのだが着る服がないということで
 彼女にあげたものだ。
 大柄な彼女にはサイズが小さすぎるため、ふくよかな胸の間に服の皺が
 深いブリッジをつくっている。
 体形にそってぴったりと張り付いた服は、彼女の豊かな腹も露出させていて、
 下腹部はジーンズの上に乗っかっている。
 家に来た時よりも太っているような……と、いうかこんなに寒いのにうっすらと汗かいてないか?
 「さあ、さっそくシチューをつくりましょう」
 鍋に火をかけ、野菜を刻む牛坂さん。
 俺は雑誌を読みながらちらりとその後ろ姿に目をやる。

 

 やっぱり太ったよな……。
 以前に比べお尻が2回りは大きくなっている。ズボンの縫い目がほつれそうだ。
 「ん、どうかしましたか?」
 できたばかりのシチューが入った鍋をもってきながら、彼女は首をかしげた。

 

 「いや、なんでもないよ。それより早速夕飯にしよう」
 俺たちはスープ皿にシチューをつぎ分けて、スプーンをつけた。
 相変わらず牛坂さんは食べるのが速い。
 俺が1杯食べるうちに3杯は平らげる。すでに鍋の中にはシチューはほとんど残っていない。
 「本当に人間界の食べ物はおいしいですね。実家の食事には戻れません。
 げぷっ……ごちそうさまでした」
 かわいらしいゲップで占めた後、冷凍庫の扉を開けてアイスクリームを取り出した。
 「暖房が効いた部屋で食べるコレがたまらないですよね〜」
 熱で溶けるアイスクリームを舌で受け止めてながら食べている。
 やっぱり牛坂さんが太った原因は……。
 「なあ、お前最近食べ過ぎじゃないか?」
 「ふぇ?」
 「お腹が……やばいことになってるぞ」
 「……? ああ、何ですかこれ!?」
 ぽっこりと突き出たお腹を見て驚愕する牛坂さん。
 「今まで太ったことなんてなかったのに……たった1カ月でここまでなるなんて」

 牛だから太るのが早いのか?
 「えーと、今日はそんなに食べてないと思うんだけどな。朝ごはん食べて、
 10時のおやつ食べて、昼ごはん食べて、喫茶店のまかないで3時のおやつ食べて、
 夕飯に食後のデザート。1日6食しか食べてないのに」
 「食べすぎだって。よし、明日は休日だし、バイト先の喫茶店に行って
 まかないを出すのを止めるよう頼んでみる」
 「ええ〜」
 「お前のダイエットのためだろ」
 そう言うと、牛坂さんは少し不満そうに布団にもぐりこんだ。
 食ってすぐ寝ると牛になるぞ――あ、彼女はミノタウロスだったっけ。

 

 

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