334氏その7
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#,THE IDOLM@STER,アイマス,アイドルマスター,三村かな子
「かな子ちゃーん、7番テーブルのお客様がご指名よ〜!」
控室の扉を開け、リコさんが私を呼んだ。
ソファーに体を横たえて休んでいた私は、のっそりと起き上がった。
「は〜い」
同じくソファーで休んでいた同僚が、頬肉に埋まった目を見開く。
「かな子すごいね。今日だけで20人目のご指名だよ。
これは今月も売り上げ一位狙えるんじゃない?」
「いやあ、それほどでも……」
はにかみながら足音を響かせて7番テーブルに向かう。
私はここに初めて来た時のことを思い出す。
リコさんに太らされた後、私は数人の男達に運ばれて、
繁華街の裏通りにあるこの店に連れてこられた。
円形のステージを十数個の革張りのボックス囲んでおり、高級クラブのような豪華な内装。
しかし、ごてごてしていてどこか下品な雰囲気がにじみでている。
どうみてもキャバレーだった。
プロデューサーさんに売り飛ばされたと気付いたのは、
八田さんとリコさんに初めてお客さんを取らされた時だろうか。
それとも、店で働く同僚達みんな太っていて、ここがデブ専用の風俗店だと分かった時だろうか。
どちらにしても今の私の体ではアイドルとしてのキャリアはすでに終わっていて――
私はここで働いていくことを決心した。
店に来るお客さんは酔ったサラリーマンが大半で、彼らは私の肥満した体を見て興奮する。
彼らにお酌しながら仕事の愚痴に相槌を打つ毎日。
食べ物をたくさん食べ、「デブらしい仕草」をすればチップがたくさんもらえた。
時々、肉体関係を強要されることもあった。
働き始めた当初は、まるで自分が周囲にいいように扱われるペットになったような気がして
毎日家に帰ると泣いていたが――次第に、私は今の状況を受け入れていった。
アイドルだった時も今も、お客さんは自分を見て喜んでくれていることは変わらない。
まあ、今のお客さんが私に求めているものは全く異質なものだけれど。
最初は嫌で嫌で仕方なかった脂肪まみれの鈍重な体も、
お客が喜んでくれるなら以外と悪くないのかもしれない。
給仕する時なんかはテーブルの隙間に挟まって動きにくいと思うこともある。
でも、それも自分のアイディンティティの一つだと思えば、
ぽっこりと張りだしたお腹さえ愛おしくさえ思えてくる。
そう考えると、私の中の何かが吹っ切れて――過去に決別するために必死に働いた。
さすがに初めて円形ステージに上がってストリップショーをした時は、
とても恥ずかしかったけれどお客さんは手を叩いて喜んでくれた。
さらに、何回かこなす内にコンプレックスを持っていた自分の体をさらすことに
快感を覚えるようになった。
アイドル時代に着ていた、もうサイズが合わないきつめの服を、
リコさんの司会に合わせて一枚ずつ脱いでいく。
自分の3段腹やむきだしの乳房を腕で寄せ上げて、肉の谷間を強調する。
すると、興奮の中で自分が自分でない気がして――それがとても気持ちよかった。
数カ月もすると、私は店内で売上No.1の常連になっていた。
リコさんは私の頭をなでて「いい子、いい子」してくれた。
最初に牢屋の中で会った時はS気があって嫌いだったけれど、
深く付き合ってみると面倒見の良い、いい人だ。
「かな子ちゃん、今日もお疲れ様〜」
お客さんの接待を終え、控え室に戻ってきた私に、チャームポイントの八重歯をのぞかせながら
リコさんが笑いかけた。
「あ……リコさん、お疲れ様です」
「いきなりだけど、あなたが教育してほしい新人がいるの。あなたが良く知っている人よ」
屈強な男達に連れてこられたのは、あの時一緒にプロデューサーさんの部屋に侵入した後輩。
スレンダーな体を小鹿のように震わせながら不安げに周りを見回している。
「この子も事務所を用済みになったのよ。だから、ここで一人前になれるように
あなたが指導してあげてね、かな子♪」
リコさんの言葉を聞き、後輩が私の方を見て、目を見開いた。
「え…もしかして、かな子……先輩!?」
「久し振り。私もずいぶん変わっちゃったから分からなかったかな?」
「どうしてそんなに……太っているんですか?」
「あなたもすぐに分かるわ♪」
私はリコさんから栄養剤入りのチューブをもらい、
顔をひきつらせる後輩に一歩ずつ近づいていった。
大丈夫、あなたもすぐに私達の仲間になれる♪
(完)
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