334氏その8
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5月30日
あれから芝くんは一回も生徒会室を訪ねてこない。
どうしてだろう、もう5kgは太ったはずなのに。
まだ太り方が足りないのか。
それならもっと食べる量を増やそう。
芝くんに愛されるためなら……多少の美貌は犠牲にしてもいい。
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レストラン「いさはや」日誌 記入者:諫早由宇
・6月10日(月)
食材が無くなったため、午後3時で閉店した。
ほぼ全ての生徒がおかわりを頼んだためだ。
それも量が多い。Lサイズが一番の売れ筋だ。
明日からは購入する食材の量を2倍にしないと足りない。
注文数に比例するように丸々と太った生徒の数が爆発的に増えた。
特に黒瀬綾さんの太り方がひどい。
ゴムまりのように太り、ブレザーが窮屈そうだ。。
頬もぱんぱんに張っている。
短期間でこれほど太るとは尋常じゃない。
教師陣に伝えなくては。
・6月11日(火)
生徒の状況について教師達に報告したところ、リリス先生が対応を考えてくださるそうだ。
これでひとまず安心といったところ。
それにしてもやたらお腹が空く。
そう言えば忙しくて昼食を食べる暇がなかった。
リリス先生からいただいたクッキーを食べただけだった。
あまりにお腹が減ったからできあがった料理を少しいただいてしまった。
・6月12日(水)
食べたい食べたい食べたい。
生徒達の料理を作ることなんてどうでもいい。
勝手に食材を食べていればいい。
やってきた生徒には、厨房に入ることを許可した。
私は食べるのに忙しい。
・6月14日(金)
からだがおもい。
うごくのがおっくうだ。
おいしい。
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6月17日
なんで……なんで芝くんは会いに来てくれないのだろう。
こんなに醜くなってまであなたからの愛を求めたのに。
呪いのように私の体は脂肪におおわれている。
くびれたウエストには垂れ下がった贅肉がまとわりつき、首はほとんどなくなっている。
足は丸太のように太く、ソックスの上に肉が乗っている。
お尻には2つの巨大なボールがくっついているようだ。
鏡を見るとそこには100kg以上のデブが泣いているだけだ。
どうして私だけがこれほど醜くならなければならないのだろう。
生徒達も私と同じように醜くなるべきだ。
「会長、明後日の体育祭のことですが……」
生徒会室に諫早美羽が入ってきた。
私を見て目を見開いている。
まるでグロテスクな怪物を見るかのように。
彼女は以前より多少太ったとはいえ、ぽっちゃり程度。
巨デブの私ほど醜くはない。
彼女も私と同じにしてやる。
私は常備していたスナック菓子を手に持ち、彼女に詰め寄った。
「な、何ですか……」
彼女の目には恐怖が映っている。
一気に彼女に押しかかった。
私の肉に彼女が埋まる。
分厚い腹肉を通して彼女がもがいているのを感じる。
今にも泣きそうな顔だ。
私はそのわずかに開かれた口にありったけのスナック菓子を押し込んだ。
***
学校が狭く感じる。
別に校舎が縮んだはずはないのだけれど、なんだか狭苦しい。
教室の扉を開けると汗臭い湿った風が頬をなでた。
思わず顔を顰める。
「おはよ……う!?」
教室の中にいたのは肥え太ったクラスメート達だった。
「あー、おはよう」
口にモノを頬張りながら国東さんと笹倉さんが話しかけてきた。
どちらも丸々と太っている。
「ずいぶんと立派な体形になって……」
「平野さん、あなたもね」
そう言って彼女達は私の妊婦のように膨らんだお腹を撫でた。
「……」
「それはともかく、今日から新しい学校規則が追加されるそうよ。黒瀬会長の指示で」
「えっ、そんな……聞いてないよ」
「私の独断よ」
低い声がしたので振り返ると、肉塊が私に語りかけてきていた。
良く見ると肥え果てた黒瀬会長だった。
「私だけがデブだなんて許さない。
今日から学園の生徒全員が100kg以上になることを義務付けるわ。
そのためにみんなどんどん食べて頂戴!」
「はーい」と、クラスのみんなが嬉しそうに嬌声を上げた。
「さてと、この中で一番痩せているのは、平野さん……あなただけね。
みんな、食堂に連れて行って〜!」
「い、嫌だー!!」
迫りくる肉の壁に押しつぶされ、私の意識は遠のいていった。
***
「さてト……これで学園の支配は完了したナ」
私は教室の外からこの騒動を眺めていた。
「あの、これで私の呪いを解いてもらえるのよね?」
私は傍に控えていた小宮に手を向け、呪いを解除する魔法を唱えてやった。
「これでお前は人間に戻ったゾ」
「やった」
小宮は嬉しそうに微笑んだ。
「ただシ、私の事に関する記憶を消させてもらウ。
悪魔の存在を言いふらされてはかなわないからナ」
「仕方ないわね」
「それト……」
と、私はにやりと笑い、言葉を継いだ。
「お前にも生徒と同じ運命をたどってもらウ」
私が呪法を唱えると、驚いた顔をした小宮の腹がぷっくりと膨れ始めた。
「悪魔に協力してタダで帰れると思ったのカ?」
「え!?」戸惑う小宮。
その間にも彼女の体はボールのように肥大していく。
「最後の仕事ダ。肥満化して私に負のエネルギーを捧げてくレ」
私が笑いかけると小宮は目の端に涙を浮かべて懇願した。
「い……嫌! ……お願い、やめて……」
しかし、その顔も餅のように膨らんでいって。
手足を振り回すも腹が膨れすぎて地面に届いていないのでは無駄な抵抗だ。
「さらばダ、小宮。お前は役に立っタ……」
私は適当な場所に繋がるゲートを空に開き、小宮をその中に放り込んだ。
悲鳴が聞こえたが、私は彼女の方を見なかった。
「さテ、次はどんな奴を太らせようカ」
思案をめぐらせながら魔界に通じるゲートを開き、懐かしい故郷への帰路についた。。
(完)
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