突発性肥満化彼女

突発性肥満化彼女

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コンコンと扉を叩く音がした。
「どうぞ」
鏑木照馬は試薬を調合する手を止めずに、ぶっきらぼうに答えた。

 

ドアノブが回る音がして実験室内に入ってきたのは、彼の幼馴染の高槻沙良だった。
栗色に染めたショートヘアをかきあげながら散らかった室内を眺めた後、鏑木に荷物を手渡した。
鏑木はやっと高槻の方を振り返ると手を伸ばしてそれを受け取った。

 

「お、頼んでた着替え、持ってきてくれたんだな。ありがとう。最近、忙しくて洗濯する暇もなくてさ」
フケがひっついたぼさぼさの髪を掻いている鏑木に、高槻はあきれたように言った。
「学会の発表が近いからって、身だしなみぐらい気を使いなさいよね」
「悪い、悪い。研究も大詰めでさ、もう少しで完成しそうなんだ」
「家畜用の肥育薬だっけ? あんたが大学院で研究しているの」
「そうそう、研究しているテーマは『肉牛を短期間で太らせる薬の開発』だ」

 

そう言って、鏑木は嬉しそうに自分が取り組んでいる研究について語り始めた。
専門用語が多い彼の話を、高槻は半分も理解できなかったのだが、要約すると「現在開発している薬が完成すれば従来よりも短期間で効率的に肉牛に脂肪を付けることができるようになる」そうだ。
有効成分の発見・開発等も終わり、すでに薬の試作品は出来上がっているらしい。

 

「ただ、臨床試験で実際に牛に薬を飲ませてみると体重の増加量が個体によってまちまちで、薬の効果が安定しないんだ。投与後しばらくしていきなり肥りだした個体もいてな。課題は山積みだ」
「それで風呂にも入らずに大学の研究室に籠りっぱなしなのね。見上げた研究者様だこと。あなたのお母様に頼まれて、わざわざ大学まで着替えを持ってこなくちゃいけない私の身にもなってよ」

 

「すまんな。研究が一段落ついたらお前の好きな丸味屋のショートケーキをおごってやるからさ」
「仕方ないわね。それで手を打ってあげる」
台詞とは裏腹に高槻は嬉しそうに答えた。
三度の飯より甘い物が好きという大の甘党の彼女だったが、体に余分な肉は一切ついていない。
小柄な童顔ということもあり、20歳を過ぎた今でも高校生と間違われるほどだ。

 

「それより、喉が乾いちゃった。何か飲み物ない?」
「そこの冷蔵庫の中にペットボトルのお茶が入っているはずだ」
鏑木は部屋の隅に置いてある小型の冷蔵庫を指差すと、再び試薬の調合作業を始めた。
「この緑のパッケージのペットボトル? なんだか中身の色がくすんでいるみたいだけど」
「2週間くらい前に買ったお茶だからいくらか劣化しているかもな。でも品質に影響はないだろうから我慢しろ」
鏑木は高槻の方に背を向けたまま作業をし続けている。

 

「ひどいわね。普通、女の子にそんなお茶飲ませる?」
文句を言いつつも喉が渇いていた高槻は、500mlのペットボトルのお茶を数口で飲み干した。
「うぷ、なんだか変な味。レモン汁のような…。ねえ、これ本当に大丈夫だったんでしょうね」
「ああ、言い忘れていたが冷蔵庫の中には開発中の肥育薬の試作品もあるから間違って飲まないようにな」

 

「そんなもん、飲み物と一緒にしとくな!」
鏑木の頭を叩いた高槻だったが、手にしていたペットボトルに書かれた表記をふと見て表情が変わった。
「ね、ねえ、その開発中の薬ってさ…、緑色のパッケージのペットボトルに入れてなかった…?」
「ん? そう言えばそうだったな…。2本買ったお茶のペットボトルの片方を保存用の容器として使っていた」
顎に手を当てていた思案していた鏑木だったが、高槻の真っ青な顔色を見て頬を引きつらせた。
「お前、まさか…」
高槻が手に持っていたペットボトルには黒いマジックインキで『肥育薬 サンプル』と書かれていた。
「飲んじゃった…肥育薬、全部…」
「き、救急車ー!!」

 

****
それから大騒ぎになった。
救急車で病院に運ばれた高槻は、胃洗浄を受けた後、体に異常がないか精密検査を受けた。
その後、経過を観察するため数日間入院するはめになった。
幸い、彼女の体に異変はみられなかった。
ただ、医師によると「まだ効果が検証されていない開発中の薬品を誤飲してしまったため、
今後高槻の体になんらかの影響が現れる可能性はある」とのこと。
鏑木は教授や親からこっぴどく怒られた。

 

 

そして、高槻が退院する日。
病院を出た後、鏑木は肩を落として高槻と並んで歩いていた。
「はぁー、やっちまった…。教授に当分研究室に出入り禁止にされちまった…」
「全く、薬と飲み物を同じ冷蔵庫に入れておくなんて。あんたのずぼらな性格のせいでひどい目にあったわ」
「本当にすまん…」
「駅ビルにある、『ブランネージュ』のケーキで勘弁してあげる」
「あの、ケーキ1個が800円くらいする高級洋菓子店か!?」
「私に迷惑かけたんだから、それくらい当然よね」
「今月は生活費が苦しいのに…」
「さあ、そうと決まれば早速食べにいきましょ♪」

 

 

場面は変わって、『ブランネージュ』の店内。
生クリームがたっぷりのったスペシャルケーキを食べている高槻の隣で、鏑木は一番安いコーヒーを飲んでいた。
「ん、おいし。やっぱり、高いものは味も格別よね」
「おいおい、そんなに頬張って大丈夫か?」
「大丈夫、大丈夫。私の胃は甘いものに対しては底なしだから」

 

直径10cmほどもあるケーキをぺろりと平らげる高槻の横顔を、呆れた表情で見ていた鏑木だったが、その表情がわずかに曇った。
「なあ、お前…なんだか、だんだん顔が丸くなっていないか?」
「ん?」とフォークを咥えたままで鏑木の方を向いた高槻。
「そう言えば、なんか体がむずがゆい…」

 

高槻がお腹に手を当てた時。
彼女のお腹が空気を入れたようにぽよんと膨らんだ。
ブラウスのボタンがきつくなり、生地に菱形の隙間ができて、その間からインナーが見えた。
「う、ズボンがきつくなった?」
ベルトのバックルを一段階緩めると、大きくなったズボンのウエストに合わせるように、肉がついたお腹がぼよんと広がった。

 

さらに、次の瞬間、高槻の胸が一回り大きくなり、ブラウスの胸の部分にかすかに横皺ができた。
「何…これ!?」
茫然と自らの体の変化を眺める高槻。
その顔も、顎にうっすらと肉がつき、二重アゴができつつあった。

 

ざっと判断すると、10kgほど体重が増えただろうか。
華奢だった体の線は、丸みのある女性らしいものに変化していた。
あっけにとられて一部始終を見ていた鏑木は、我に返った
「まさか、肥育薬の効果が今になって表れたのか?」

 

自分の体の変化を見ていた高槻だったが、ふいにその目が潤み始めた。
突然の出来事にショックが大きかったのだろう。
急に太った高槻に、周囲から好奇の視線がに集まりはじめた。
「と、とりあえずここを離れよう」
泣いている高槻を促し、店を後にした。

 

しかし、一旦止んだ彼女の肥満化は店を出た直後に再びやってきた。
今度はお尻に肉がついたのだ。
引きしまった臀部は2回りほど大きくなり、ボリュームが幾分か増した。

 

形の良い尻が歩くたびに左右に揺れる。
増加した自重を支えながら辛そうに歩く高槻を鏑木は励ましていた。
「病院に行こう。あそこならこの現象を治療してくれるはずだ」
しかし、彼女は頭を強く左右に振った。
「い、嫌よ…こんなみっともない姿を他の人にみられるなんて絶対嫌!」
「そうか、困ったな。大学の研究室は当分の間出入り禁止だし…そうだ、俺のじいちゃん家に行こう」
「あの、いつも変な発明ばかりしているおじい様?」
「あそこならお前の体を元に戻す手がかりが得られるかもしれない」

 

 

高槻沙良:160cm 51kg→160cm 65kg

 

 

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