針小肥大
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ある研究所にて
「いたっ!」
や、やっちゃった…どうしよう…
痛みを感じて指を見てからは遅かった
研究過程でウィルスの原液を入れていた注射の針が手袋を貫通して自分の指に刺さっていたのだ
すぐに症状がでるという訳ではないが、汗がじわっと体中から吹き出るのを感じる
どうしようかと思ったが
針が刺さり注射器の中に入っていた液体が体内に入ったかどうかは、
体を調べてみないとわからない
…この事を報告して、すぐに検査をしなければ…
この病気は、死ぬというわけでもないし肺炎やら壊死などが起こるわけでもない
ただ、容姿に著しい変化をもたらす。生活に支障をもたらし、肉体的な性質にも変化を与える…
私は何度もこの病気に感染した人間の写真を見たが、驚愕するばかりだった、
写真に写っているのは本当に人間なんだろうか…、そう思うぐらい人間離れしていた姿だった
ある者は顔から足の辺りまで顎が垂れ下がり、ある者はお尻が大きくなりすぎて歩けなくなっている
だが基本的に共通しているのは、とんでもないほど膨れ上がるということ。
そんな姿になるかもしれない可能性があるんだと考えると、憂鬱になる。
検査結果自体はすぐにでる。そのウィルスに感染しているかどうか調べるだけだからだ。
私が最早やるべきことは、その結果を知る為に
椅子からいずれ重くなるかもしれない重い腰をあげ、結果を聞きにドアをノックする事だけ。
どうしようもない重たい気持ちをひきずりながら一時間後、私は結果を知った。
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検査の結果は陽性だった
感染してしまった理由がわかっている分、ショックはある意味少ない
この病気は発症したが最後、体が瞬時に膨れ上がり、その後も一定期間肥大する。
筋力などに変化はおきないが心肺機能や内蔵に変化を伴う、
変化といっても体同様大きくなり大きさ相応の機能をもつだけだ
どのような肥大…もとい太り方になるかはわからない、全体的にふとましくなるのかもしれないし
一部分が極肥大化した肥満体になるのかもしれない
どれだけ太るかだけはデータとして平均値がでている、基本は感染した人間の体重の十倍だ
おそらく500kgは太るだろうか…
現実味を感じられる体重ではなさすぎて、どうも実感が湧いて来ない
だがあの写真に写っていた姿、あんな姿になってしまうんだ…
-3-
翌日、私は研究所の一角に入院することになった
このウィルスが発祥するのは、感染してからおよそ一週間以内、その間は個人専用の部屋で過ごす
貴重なデータを提供するためと患者としてだ。
昼間はここの職員として、ベットで横になりながらパソコンでデータと報告書、
事務的なものを処理する作業をしている。
どっちみち最近はパソコンで作業しなければならない業務が溜まっていたので、
複雑な気持ちになるが、ちょうど良かった。
昨日は同僚に話したら驚愕されつつも、どのような姿になってしまうか
楽しみにされるような発言をされてしまった
気持ちはわからなくもないが、こっちとしては、その姿で生きていかなければならないのだから
末恐ろしい
この病気自体は治療は発見されてない。
脂肪を除去しても除去した分がすぐに増え、除去した分倍加する。
元々はアマゾンの奥地で発見された病だったが、現地が近代化するうちに
徐々に発症者が増えていった、
ウィルスの感染経路は性的感染と血液感染のみ、血液感染は主に輸血とかだ。
異常に太った姿なので感染者と人目でわかるのだが、
悲しいかなカップルのどちらかがその姿になっても良いと思って性行為に走る
彼と同じ姿になりたいと思ったり、その姿になってでも良いから彼女と交わりたかったり、
様々な理由があるのだろうが、それで自ら感染してしまう
生まれた子供は親同様感染状態で生まれる為、身長の伸びは他の子供と変わらないが
横幅だけは、異常に増える
-4-
アマゾンの奥地で見つかった時は村々の人々がその病で太かったのではなく日本で言う
巫女的な存在だけが代々その姿だった。
巫女と交わるものは代々、厳重に決められていたため性行為に及んだ者などは御法度であり、
やれば感染してすぐばれて村八分か処刑されたので、その後感染者が増える事は無かった。
一部、村八分にされた男女同士で作られた村があったらしいが生活もままならなかったのだろう、
自然に消滅した。
それが近現代に入り、アマゾンが開拓され近代化すると巫女という立場が廃れる事はなくとも、
掟や慣習はゆるくなっていったのだろう、徐々に感染者を増やしていくことになった
今では日本では極めて少ないが、感染者同士のカップルなど南米と欧米には少なからず
存在しているまで増えた。
おそらく爆発的に増える事はないし、どこまでか増えたら感染数の上昇も減少に転じたり
するだろうと思うが、現代のアメリカを見ればわかるとおり、ある程度開き直れば、
歩けないぐらいに太ってしまっても生活出来る為、そういう一部地域では感染は
増え続けるかもしれない。
この病気で唯一のメリットがあるとすれば、太っても死ななくなる事だ、
肥大化した患者が自堕落になり自然と太り続けても、同様に内蔵が体に合わせて変化する。
そういう意味では、もう私は体形やら体重やら血糖値とか血圧とか
気にする必要がなくなってしまうってことになる
これもある意味すごいことで高血圧と糖尿病なんか気にしなくて良い事になる。
たしかに開き直って食べ物を食いまくる生活になってもいいやと思ってきそうだ…
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この部屋で過ごすようになってから4日目
ようやく溜まってた業務が片付いてきたので、空いてる時間は患者として読書やらゲームを
できるようになった
というか、だらけたかった。本来は休める日でも、こう職場で寝泊まりするとなっては
仕事を片付けない事には心休ませて読書やゲームをできるものではない。
おかげでこの4日間は休むどころか疲れてしまった。
ようやく明日あたりは一日中休む事が出来そうだ。
発症はまだしていない。このウィルスが活性化するとき、お腹に激痛がきて高熱が一日中続く
そののち熱がある程度引くと、せきをきるかの如く肥大化が起こる。
後3日以内、もしくは今日中にその症状がでるのだ。
無駄な期待だけど、このまま発症しないでほしい。
今日の昼食を食べ終える頃、お腹に激痛が走り、痛み止めを飲んだ
時間にしてみれば6時間前か
今はもう夜になっている。
体の節々が痛く熱は40度近い、解熱剤は使わずともそれ以上熱が上がることはないので、ただただ安静にしている。熱がでるのは体が肥大化に耐えれるように変化させている為にでるものなので、
ここで下手に熱を抑えない方が良いのだ。
症状が現れたので病衣をカーテンのような巨大なものに変えた、
ぶかぶかしていて動きづらいが、太ったときの事を考えれば致し方ない。
この病依は私が考えた物で、伸縮性があり、どこかしら破けたとしても全て破けないように
なっている。
私が4人はすっぽり入りそうな病衣を着ていると、ついにこの時が来たんだなぁと
熱でぼんやりしている頭でも実感が湧いてきた
朝起きると熱が引いていた。そしてそれはやってきた
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