令嬢・九条麗奈の献身
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<登場人物>
主人公:望田 豊(もちだ ゆたか) 17歳
ヒロイン:九条 麗奈(くじょう れいな) 17歳
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第一章:告白と告白
「貴方(あなた)のことが好きでございます!!」
その突然の言葉に俺の頭は完全に思考停止してしまった。
いや、わざわざ手紙で校舎裏に呼び出されて二人っきりになってね、告白の流れとしては凄く妥当だと思う。いやでもさ、
「やはり、困惑されていらっしゃるのかしら? 私(わたくし)では望田さんの彼女としてふさわしくないのでしょうか……」
「い、いや、違うんだ。むしろふさわしくないのは、俺の方っていうか……」
(だって、九条家の娘さんだぜ!!)
そう。この目の前にいる子は、日本が誇る世界的財閥、九条家の一人娘なのだ。そもそも違う世界を生きる人間がなぜ普通の私立高校に通っているかは俺の想像力では追いつかない。いやそんなことより、今その天上人が俺なんかに告白してるなんて、誰が想像できたのか!
「もしかして、九条家のことを気にしてらっしゃるのですか。」
「え!? まぁ……うん。やっぱ俺なんかじゃ、九条さんとは釣り合わないと思うんだ。」
よし良いぞ、この流れ。本当は別のことが引っかかっているのだが、俺の秘密を守るためには丁度いい。
「ご心配には及びませんわ。お父様も『一庶民の中から麗奈の思う最高の男を選んで来い。今九条財閥に必要なのは庶民の目線だ。麗奈が見込んだ男ならば出身は問わん。その為に普通の私立に通いなさい』とおっしゃって下さったんですもの。」
(最悪な形でさっきの答えが出たよ!!)
え、これマジでどうすんの? もう、全部言っちゃうしかないよね。まさか告白される側が別の告白を強要されるとは思わなかったよ!
「ごめん!! さっきのは嘘。と、とにかく君とは付き合えないんだ!!」
彼女の表情が絶望に沈む。た、頼む。俺なんかの為に君がそんな顔をしちゃダメだ。えーい、言うぞ! 墓場まで持ってくつもりだった俺の秘密、言っちまうぞ!!
「俺、デブ専なんだよ!! 九条さんがすっごい美人なのは客観的に分かる。勉強も出来るし性格も良いし、最高の女性だと思う。でも、俺太った子にしか興味し、痩せてる子を見てもドキドキしないんだ!! ごめん!!」
そう言って俺は深々とお辞儀をして謝罪した。
言いきった、いや言ってしまった。もうどうにでもなれとしか思えない。でもこれで良かった。これで諦めてくれる……
「そ、そうでしたか。わかりましたわ……。頭を上げてくださいな。」
「本当にごめんね。だから俺なんかじゃなくて別の人に……」
「それならば、私が太れば文句はありませんわね。」
「うん、そういうことで……ってうそぉぉ!!」
*****
1ヶ月半後――
俺は再び九条さんに呼び出された。
「どうですか、私5キロも太ったんですわよ。ほら、おなか周りも触ってくださいな。」
彼女は少し恥ずかしそうにしながらも、満点を取った子供のように誇らしげにシャツをたくし上げる。そこには、以前の彼女にはおそらくなかったであろう、柔らかな脂肪がチョコンとスカートに乗っていた。
これはマズイ。そしておそらく、彼女はとんでもない勘違いをしている。
「あの、本当にごめん。九条さんの努力は凄いと思う。でも、君のデブと俺のデブのイメージは大きく違うかも知れない。俺のストライクゾーンって多分、九条さんが引くレベルのデブで、正直5キロって言われてもあんま興奮しない。」
「え!?」
明らかに彼女の顔に驚きと落胆の色が浮かぶ。そりゃそうだよね、普通の女の子の感覚だと、5キロ10キロ太ればデブだよね。実はあれから内心、期待した俺が馬鹿だったんだ。
「最低でも100キロはないと、正直デブって感じがしないんだ。80キロとかでもぽっちゃり位にしか思えないし。だから、もうやめよう……。俺なんかのために、無理しなくていいから。」
はい――これでホントにホント、終わり。ほら、彼女の顔も引きつってる。自分でも分かってるんだ、異常
性癖だって。ぽっちゃり好きはそこそこいても、100キロ越えのデブが好きなんて、頭おかしいんだよ。
「体重が100キロになるまで太れだなんて、貴方と付き合えるのはいったい何カ月先になるのですか!?」
(ん?)
(ん?? …………そこ!?!?)
「え、ごめん……九条さん。今なんて?」
「ですから、1月半もかけても5キロ増やすのが精いっぱいだったのに、100キロまで太らなければいけないだなんて何カ月かかると思っているのですか、と聞いてるのです!!」
(彼女は本気だ。本気で太る気だ!!)
「え、だって100キロだよ!? 俺が言うのも変な話だけど、世間的には超デブになれって言ってるんだよ! 本当に太る気なの?」
「何をおっしゃるのですか。望田さんがそう望んでいるのでしょう? 私だって嫌ですわ。でも貴方とお付きあい出来なくなる方がよっぽど嫌でございます。」
淡々と語る彼女の姿に俺は衝撃を受けた。それほどまでに俺を慕ってくれているのかと――でもなんで俺なんだ?
クラスでも影が薄いし、ルックスもスタイルも普通だし、成績も下から数えた方が早いし、こんな俺の為にどうしてそこまで……
「なんで、そんなに俺にこだわるの?」
気が付けば疑問が自然と口から出てしまっていた。すると彼女は、満面の笑みでこう言ったんだ。
「貴方は、私の初恋の相手でございますから……♥」
〜途中経過〜
九条麗奈:157 cm / 43 kg (0週目) ⇒ 157cm / 48 kg (6週目)
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