令嬢・九条麗奈の献身 第二章

令嬢・九条麗奈の献身 第二章

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第二章:九条家の娘

 

 

私にとってそれは初めてのことでした。私が生きてきた17年間、私と接する全ての方は常に私の後ろにある「九条」という名前を恐れ、常に私の機嫌を伺ってばかり。私を普通の人間として接して下さる方など、いらっしゃらなかったのです。ですが貴方は違いましたわ、望田豊さん。

 

覚えていらっしゃいますか、とある日のHRのことを。貴方は学級委員の私にこう仰りましたよね、「九条さんのやり方って、自分の意見を周りに押し付けているだけじゃないの」と。一瞬のうちにクラスの空気が凍りました。私に気を使ったのか、クラスの皆さんは一斉に望田さんを叱りつけ、その場は収まることになりました。
しかし、貴方の主張は正しかったのです――。私のいない所で、皆さんが私の陰口を叩いていたことを知ったのはその後です。彼らは変に遠慮して、直接私に文句を言わなかったのでしょう。でも貴方は、一人の人間として私の過ちを正して下さいました。その時から貴方を見る目が変わったのです……。

 

そしてその日を境に、私の方から望田さんに話しかけるようになったのは、貴方もお気づきですわよね。私に忌憚のない意見を下さったのは貴方が初めてで、気が付けば貴方と会話する時間は私の一日の中で最も心躍るひと時となっておりました。そう、私の心は既に貴方に惹かれておりましたの……♥

 

*****

 

「ってなことを前に言ってたけどさぁ、俺はただ空気が読めないだけなんだけどね。昔っから、自分の思ってることをズケズケ言っちゃう性格だからさ、友達泣かすこともしょっちゅうだったんだけど……。」
「そんなことありませんわ! 私にはむしろ、そういう方が必要なのです。何でも、仰って下さいませ。私の直すべき欠点、望田さんが気に食わない所、もしあれば生理的に受け付けない所など、好きなだけ文句でも悪口でも仰って下さいませ! 全て貴方の為に、直して差し上げますわよ。」
「ちょっとタンマ――なんか前に比べて発言がエスカレートしてない?」
「そうでしょうか? だって、私の悪口を堂々と言って下さる方は貴方くらいですもの。貴方に叱って頂けることや悪口を言って頂けることが、私は嬉しくて仕方ないのです♥」

 

(うーん、言いたいことは分かるんだけどその……言葉だけ聞くとただのドMにしか聞こえないんだよなぁ。でもこんなこと流石に言えないし……。全く変な人だな、この人は。)

 

彼女に重度のデブ専であることを打ち明けて、およそ2ヶ月。以前は俺から話しかけることもなく、彼女の人生相談を時たま10分くらい話す程度の関係だった。だが、俺も自分の性癖を告白したことがきっかけとなり、不思議と距離感が近くなった。またありがたいことに彼女の方から「一緒に通学しませんか?」と提案があり、今まさに俺までリムジン通学させてもらっているっていうのも、その理由の1つって所だ。でも本当の理由は別の所にあって――

 

「ところで麗奈さんってさ、やっぱり前よりまた太ったよね。」
「はい!! 勿論でございますわ。今朝も朝からお肉もデザートもしっかりと頂いておりますわよ。全ては貴方の為でございます♥ なんなら100キロとは言わず、今から交際を開始してもよろしいのですわよ?」
「いや、それは流石にまだ早いけどさ。でも……目に見えて大きくなってるって実感するよ。」

 

隣に座る彼女の身体付きは明らかに3カ月前とは大きく違っていた。明らかに体格が一回り大きくなっているのは、冬服とはいえ着膨れだけが原因ではないだろう。というのも数少ない露出部位である顔にはムチムチと脂肪が付いており、全身にも同様に柔らかな脂肪を身にまとっている事は容易に想像できるからである。既に(一般的な基準では)ぽっちゃり体型となった彼女曰く、60キロまで太ったらしい。この短期間で20キロ近く太ったということは、一体どれだけのカロリーを毎日摂取しているのだろうか。彼女の献身性には度肝を抜かされてしまうばかりだ。

 

「それは残念ですわ、ふふっ。……さぁ、学校に着きましたわ。行きましょう。」

 

彼女の身体に視線を取られていたが、いつの間にか学校に着いたようだ。彼女と俺は暖房が効いた車内から寒風吹きすさむ外へと降り立った。
もう一度言うが、俺達の学校は普通の私立高校だ。リムジンから現れる上流階級の存在は、一際目立つ。周りの学生の視線が、麗奈さんとそしてその腰巾着のように出てきた俺に集まる。彼女にとっては日常のことらしいが、俺にとってはたまったものではない。だが彼女を置いて走り去ることも出来ず、しぶしぶ視線をそらして教室まで歩く。

 

「おはようございます、皆さま。」
「……おはよ。」
「おうおう、来たな。逆たまカップル!」
「うっせー。まだ付き合ってねぇし。」

 

お陰で教室に入ってもこの様である。初めて麗奈さんのリムジンから俺が出てきた時は、学校全体が騒然となった。その日を境に俺はクラスの影が薄い学生から、一躍クラスの注目の的へとランクアップした。しかも悪いことに――

 

「九条さん……ほ、本当に大丈夫? その……最近また、太ったんじゃないの?」
「そうですわね。でも、望田さんの為ですから、これくらいなんてことございませんわ。」
「望田ねぇ……。あのデブ専野郎のどこがいいんですか、全く。」

 

そう、九条麗奈という学校一の有名人がある日突然太りだしては、しかもそれがどこの馬の骨かも分からない俺と仲良く通学し始めた時期と重なっては、噂にならない方がおかしい。結局、俺は全てを白状する羽目になった。今では俺は逆たま狙いのデブ専として女子からは変態と罵られ、男子からは羨望と妬みを買うことになってしまっている。まぁ元々仲良い連中ではないので、それほど気にはしていないのだが。

 

「九条さんは無理して合わせなくていいんですよ。こんな綺麗な人を太らそうだなんて、ただの変態じゃありませんか。」
「もう、望田さんのことを悪く言わないで下さいな。あの方は私の大切な方ですので……」

 

本当に麗奈さんは優しい人なんだと思う。なんだかんだ、立場の悪い俺をいつもかばってくれているのだ。おそらくデブ専をバラしてしまった罪悪感でも覚えているのだろう。少しひねくれた俺は馬鹿真面目だなと思ってしまうのだが、俺は決してそんな彼女が嫌いではない。むしろ彼女の異常なまでの献身性に、少し惹かれ始めている自分がいる。だからこそ彼女には期待してしまうし、心配してしまうのだ。彼女なら俺の欲望を全て受け入れ、醜いデブの姿へと喜んで堕ちてしまいそうだから――

 

麗奈さんがクラスメートと談笑している。その顔がブクブクの脂肪の肉で覆われたら、一体どうなってしまうだろうか。醜いデブへと変貌した時、周りの人間は果たして今のように優しく彼女に接してくれるだろうか。彼女の人生が180度、俺のせいで変わってしまったら――。そんな妄想が頭の中で次々と浮かび始め、俺は少し自分が怖くなった。担任教師の号令により、妄想はそこで中断される。俺は内心、その教師に感謝した。

 

〜途中経過〜

 

九条麗奈:157 cm / 48 kg (6週目) ⇒ 157cm / 60 kg (14週目)

 

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