令嬢・九条麗奈の献身 第三章

令嬢・九条麗奈の献身 第三章

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第三章:欲求の萌芽(ほうが)

 

 

「はぁ……。全くこれは、不思議な世界ですわね。こんなモノをあの人は喜々として読んでいらっしゃるのかしら……。」

 

私九条麗奈は今、世にも奇妙なHPを拝見しております。『美人の女性を強制肥満化・まとめ』と題されたそのサイトには、何百もの小説(どうやらSSと言うそうです)が載せられており、先程私もいくつかを読ませて頂きました。私の未来の恋人、望田豊さまのお気に入りのサイトとのことですが、これはその――

 

「やはり、どう考えて異常です……。肥満化の程度は様々ですが、どの文章も女性を太らせてばかりで、おまけに淫らで浅ましい表現も多分に見受けられます。しかも望田さん同様に100キロを超える女性を好む方ばかりで、挙句の果てには『肉塊』……でしたか? 身動きが取れない状態まで女性を太らせることに興奮するとは、この小説を書かれた方は一体どこで道を外してしまわれたのでしょうか……。」

 

その過激でアブノーマルな内容に、私は嫌悪感を超えて同情の念さえも覚えてしまいました。私の方から「貴方のことをもっと知りたい」とお願いしてこちらのHPを教えて頂きましたが、成程彼が教えるのを躊躇したのも分かりました。明らかに常軌を逸した性癖だと、彼自身も分かっているのでしょう。私は今までクラスの皆さんが貴方を変態と罵っても、出来る限りその言葉に耳を傾けまいとしておりました。ですがやはり貴方は、変態と呼ぶにふさわしい人間なのかもしれませんね、望田さま……

 

(貴方の目には、きっとこれらの小説がどんな官能小説よりも魅力的に映っているのでしょうね。普通の女性よりも太った女性に興奮してしまう――貴方はそんな特殊な性癖を生まれ持ってしまった。だから4カ月前に仰られたように、私にもこの小説の女性と同じく醜く太って欲しいと望んでいらっしゃるのでしょう……?)

 

私は余計な衣類を脱ぎ去ると、姿見の前に立って現在の自分の姿をまじまじと確認いたしました。

 

九条麗奈

 

お腹、太股、二の腕、ふくらはぎ、首、顔、そして指に至るまで――ぶよぶよの贅肉は既に全身にまとわりついておりました。どこを摘まんでも脂肪の柔らかな感触を感じ、私は酷く落ち込みました。本来脂肪が付くべき胸やお尻も大きくなりましたが、それ以外の部位の余分な膨らみにより、プロポーションなど見るに堪えない情けないもの。肉感が良いと言えば響きは良いですが、重力で垂れ下がった脂肪により「だらしない身体」という第一印象しか思い浮かびません。もはやぽっちゃりと呼ぶ事も、見る人によっては許されない程の肉付きでした。

 

(自分の身体は確かにあの方の理想に近づいておりました。ですが普通の感性を持つ私には、こんな身体――お世辞にも美しいとは言えませんわ。望田さまが愛して下さるなら、その一心で否定的な感情を押し殺し、決して表には出さないよう努めて参りました。でもこれから先、私は醜く太っていく私自身に耐えられるのでしょうか?)

 

私の脳裏に、鏡に映った私の姿がどんどんと太っていくイメージが浮かびました。彼の好きな小説のように、醜く太っていく私の身体。身体をまとう贅肉は見る見るうちに増殖していき、私はもう立っているのもやっとの状態。いえ、すぐさま立てなくなるほどに肥満化は進行してしまう――そう、小説で読んだ肉塊の姿まで。私と認識できないほどに全身が脂肪に包まれた醜い姿へと、私の身体は変化していきます。そして最後には、全身の毛孔から汗と脂を撒き散らした、脂肪の塊のような醜いデブが鏡の中に映っておりました。

 

(あぁ、なんと醜い姿でしょう……。こんな身体ではたとえ彼が私を愛したとしても、他の方々はきっと私に幻滅し軽蔑致しますわ。九条家という由緒正しい家系に生まれながら、ただ食べることしか頭にない汚らわしいデブに私がなってしまうのですか? お父様やお母様はなんと思われるでしょうか……。そんなの、皆さんが一斉に私を一族の恥さらしだと罵るに決まっておりますわ!)

 

私の妄想は徐々にエスカレートしていき、鏡に映った虚構の肉塊がまるで今の自分自身であるかのように錯覚してしまいます。

 

(見苦しい身体……もはやただの脂肪の塊です……。恥ずかしいとは……思いませんの……? 人から軽蔑され、罵られ、見下されても……仕方ありませんわ……。九条家の娘として必死に努力し……ハァ……模範となる人生を歩んできたのに……私の築き上げてきた全てが……ハァ……壊れてしまう……脂肪に包まれた醜い身体……ハァ……人から軽蔑される醜い姿……でもそれが……ハァ……今の私――?)

 

(嫌ぁぁぁ!! 嫌ですこんな醜い身体! お願いです皆さまぁ……そんな目で……そんな目で私を見ないで下さいませぇ!! ……私の人生が……ハァハァ……壊れてしまうぅ……わ、私が醜いデブだから……ハァハァ……九条家の恥さらしとして……ハァハァ……の、罵られるのてしまうぅぅ……ハァハァ……私が醜いデブ……ハァハァ……私が人に蔑まれる……ハァハァ……そんなの……そんなのぉぉぉ……)

 

なんとドキドキしてしまうのでしょう……♥♥♥

 

*****

 

(……ッッッッ!?!?!?)

 

私のエスカレートした妄想は突然ブラックアウトし、現実に引き戻されました。いえ、私の理性によって、中断されたと言うべきでしょうか。私の心拍数は未だに高いままで、ドキドキという音を全身で感じておりました。当たり前ですが、今鏡の中に映っている私は肉塊ではございません。

 

(ど……どうしてでしょうか。私ったら今一瞬、変なことを考えてしまいましたわ……。太った自分を想像して、醜く汚らしいデブと罵られる自分を想像して……『興奮』……してはおりませんでしたか……?)

 

私は愚かな妄想で心に昂り(たかぶり)を覚えた自分が怖くなりました。肉塊へと変わりゆく自分に興奮していたなど、認められるはずもなかったのです。それこそ望田さまのように、私も『変態』みたいではありませんか――

 

ぐきゅ〜〜きゅるるぅぅ〜〜

 

(あらっ!? お、お腹の音が……恥ずかしい……。考え事をしてしまっていたせいか、ご飯の時間を忘れておりましたわ。こんなはしたない音、誰かに聞かれては大変です……。全く、私が太ることに興奮するだなんて、有り得ないですわ! 私は九条家の一人娘、そんな歪んだ性癖を生まれ持っているはずありません。そう、望田さまの為に仕方なく……仕方なく太っているに過ぎないのですから……)

 

私の妄想は、突如湧き上がってきた空腹感によって中断されました。変なことを考えてしまいましたが、今は忘れましょう。そもそも、望田さまが私を肉塊になるまで太らせるだなんて、現実離れした妄想をしてしまったのが間違いでした。彼との約束は100キロまで太れば達成されるのです、落ち着きましょう。先ほどの妄想はただの杞憂ですわ。

 

空腹の私は手際よく衣服を着直すと、すぐさま執事を呼びつけました。

 

「セバスチャン、お食事の準備は出来ておりますか? 私、とてもお腹が空いてしまいましたわ。」
「お嬢さま……。準備は既に出来ておりますが、本日もまた3人分の食事を召し上がるのでしょうか? 望田くん、でしたか……彼に熱中するのは結構ですが、自分のお身体の事も考えて下さい。正直に申し上げると、お嬢さまのここ最近の食欲は異常です! 貴女は旦那さまが大切に育ててられた……」
「貴方の言葉とて反論は認めませんわよ。では今すぐ頂きましょう。お料理が冷めてしまいます。」
「……かしこまりました。」

 

彼が私のことを心から気遣っているからこそ、私を止めようとしてくれていることは重々承知しております。私とて心苦しいですが、だからといって望田さまのことを諦められる訳ではないのです。

 

*****

 

食堂に入るとセバスチャンの言うように、既に食事の準備が出来ておりました。
大皿に盛られたボロネーゼスパゲッティにカルパッチョ、マルガリータピザにローストチキン……。本来大人3人が分け合って食べるはずの食事は全て私1人の為に用意されたもの。ですが、それは今の私の普通の量なのです。最初の頃は2人前を食べるのも精一杯で、胃を拡張するために吐きそうになりながら食事をしておりました。ですが最近は胃が慣れてきたのか、はたまた食欲が増加しているのか、何の苦もなくこの量を食べられるようになってきました。そろそろ、次の段階に進んでも良い頃かもしれませんわね……。

 

「セバスチャン。申し訳ございませんが、デザートはどうなっておりますか。」
「デザートでございますか!? ……本日は食事の量も多かったため、用意しておりませんでした。一応アイスクリーム程度なら、すぐにお持ち出来ますが……。」
「そうですか。今後は気を付けて下さいませ、食事の際にデザートは必須ですわよ。甘いものは別腹と言いますが、科学的にもデザートを食べる時は胃が拡張することが証明されているそうです。それに甘いものは今後、おやつとしても食べる機会が増えると思いますので、いつでも出せるよう準備しておいて頂けますか。」
「わ、分かりました。」
「でも、アイスクリームだけですと物足りませんね……そうです、パンケーキなら直ぐに準備出来ますわよね! 私がお食事を済ますまでに準備して下さいませ。アイスとセットで頂きましょう。」

 

「……かしこまりました。」

 

セバスチャンは私に何かを言いたげな表情をしておりましたが、それを押し堪え私の指示に従ってくれました。本当に彼は優秀な執事です。彼の言うように、今の私の食欲は異常だと自覚しております。健康を気にする人間ならば、全員がそろって私を止めようとするでしょう。

 

ですが――

 

(望田さまの為にも、食事を止めることなど出来ませんわ。それにもう、私も今の生活にだいぶ慣れてしまったようですわ……。あぁ、こんなにも大量の食事を前にして、喜んでしまっている自分がおります。すみません、セバスチャン。100キロになるまで――それまではお腹がはち切れるまで、彼の為に食べないといけないのです。だから許してくださいませ、私はもう我慢できません……)

 

「それではいただきます♥」

 

空腹に耐えられなくなった私は、すぐさま料理へと手が伸びていきます。口に入れた瞬間に広がる旨みは脳に快楽を与え、次の快楽を求めて更に一口――私の底なしの欲求は次々と目の前の皿を空にしていきました。

 

パクパク、モグモグ、……ゴックン
パクパク、モグモグ、……ゴクリゴクリ

 

(こんな食生活を続けては、私は本当に醜い肉塊に成り果ててしまうのではないでしょうか……。100キロまでと言っておきながら、太るのを止められなくなってしまいそうですわ……。でも今は太らなければ……一刻も早く望田さまの為に太らなければならないのです。食事制限の事は……その後に考えましょう。きっと大丈夫、だって醜いデブになんてなりたくないですもの……。だから今は余計な事は考えずに、食べる事に集中いたしましょう? だってこんなにも――)

 

パクパク、モグモグ、……ゴックン

 

(こんなにもお料理が美味しいのですから……♥♥♥)

 

パクパク、モグモグ、……ゴックン♥

 

ですがこの時の私は、まだ気付いておりませんでした――既に九条麗奈は食欲の魔力に魅了されていた事に。そう……もう引き返すことなど出来ない程、身も心も食欲に支配されていた事に、私は気付いておりませんでした。

 

3人前の食事を平らげた私のこの日の摂取カロリーは5500kcal――それは既に100キロ級の肥満女性のそれを凌ぐレベル。にも関わらず私の食欲は日に日に増加する一方で、このままでは私の体重増加が100キロでは到底済まされない事はもはや当然の流れでした。それでも私は、自分自身に言い聞かせ続けたのです。

 

100キロを超えたら食事制限しますから、だから今だけは、好きなだけ食べさせて下さいと――。

 

〜途中経過〜
九条麗奈:157 cm / 60 kg (14週目) ⇒ 157cm / 73 kg (20週目)

 

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