令嬢・九条麗奈の献身 第四章
第四章:シャル・ウィー・ハブ・ア・ランチ?
「流石にここまで太れば、貴方にとっても魅力的な身体になったのではなくて?」
「そ、そうだね……いや、まさか半年でここまで変わるとは……」
「そうでございましょう? ふふ、すべて貴方のためでございますわ♥」
俺のあわてた姿に麗奈さんはご満悦の様子。本当に最近の彼女の体重の増加は目を見張るものがある。数々のデブ専向けのHPで鍛えた俺の目利きでは、この1カ月だけで10キロ以上は太ったのではないだろうか。
「うーん、でもまだ3桁ではないでしょ……そうだな、見たところ80キロ台ってところじゃない?」
「あら、当てられてしまいましたか。流石はクラス一のデブ専の変態さんですわね。……ふふ、冗談です。でも女性の体重は乙女の秘密でございますから、これ以上は教えて差しあげませんわよ。ですが3桁を超えた時は、その時こそは――♥」
「分かってるってば! ……っていうか、クラスで一番なのは麗奈さんも一緒でしょ。クラス一のおデブさん?」
「あら! 望田さんも酷いお方ですわね、ふふっ。……でもそれはすなわち、貴方にとって今最も魅力的な女性が私であるという、動かぬ証拠ではなくって?」
「う……麗奈さん流石だね、鋭いな全く。だ、だからって、付き合う条件を変えるつもりはないからね。」
80キロを超えたという彼女の身体は、もはやクラスのどの女子よりも大きく、九条と言う名前に関係なく存在感を放っていた。正直な所、もともと可愛いお嬢さまだった彼女がここまで太ったという事実だけでここ2・3カ月はオカズに困らない程だ。今すぐ付き合っても何ら問題はないのだが、折角ならば彼女に最後まで太りきってもらいたいという欲求には勝てず、こうして彼女に強気な態度を取り続けていた。
「分かっておりますわ。その為にいつも……よいしょっと……こちらを、昼食に召し上がっているのですから。」
ドスンッと大きな音と共に、彼女は大きな風呂敷に包まれた重たい何かを机に置く。
「えっと……これって確かお昼のお弁当だっけ?」
「はい! 貴方の為にいつも、お昼はこちらを召し上がっておりますの。」
明らかに弁当と呼べるサイズではないその風呂敷の中身を俺は以前から知っていた――3段お重の弁当箱だ。普段麗奈さんは女子のグループと昼食を食べるため俺も中身は知らないのだが、同じ教室でそんな物を出されては目に付かない方がおかしい。
(ちょっと前まで小食だったお嬢様が3段お重の弁当を食ってるなんて――本当にどこの肥満化SSだよ!! もはや俺が言わなくても、こんな食生活続けたら100キロなんてあっという間じゃねぇか……全く妄想が捗るぜ!)
俺が風呂敷の大きさに感嘆していると、その様子に気づいた彼女が俺にある提案をする。
「もしかして望田さん、こちらのお弁当に興味があるのですか? よろしければ本日は一緒にお昼でもいかがかしら。そうですわね、折角なら誰にも邪魔されないよう屋上へ参りませんか。今の季節ならば、お外で食事するのも気持ちいいでしょうし……。」
俺は二つ返事で彼女の提案に従う。
そしてお互いの弁当箱をもって、2人並んで廊下を出ようとすると、「お幸せに」なんて声が後ろから聞こえてくる。麗奈さんがいつも一緒に食事を食べるグループの女子達の声である。麗奈さんの方はというと気恥かしそうに照れながらそれに応える。なんとも微笑ましい、恋する友人を応援する青春の一コマだ。体型は変わろうとも、変わる事のない彼女たちの友情に俺は内心ホッとした。
だがしかしー―彼女の肥満化が更に進行したとしても、彼女達は今までと同じように麗奈さんと接してくれるのだろうか? 前にも浮かんだ妄想が俺の頭によぎった。ただあの時と今では状況が違う。今の俺は麗奈さんこそ自分の運命の人だと確信していた。彼女の幸せを心から願っているからこそ、酷い目に合わせたくないという気持ちもある。しかし一方で、運命の人だからこそ彼女には俺の理想であって欲しいのだ――たとえ彼女が世間からは醜いデブだと罵られようとも――
(自分でも我儘だって分かってる、身勝手なことも分かってる。でも本当は……俺は……)
悶々と思い悩む俺は、楽しいはずの彼女との会話さえも適当な相槌を打つ事しか出来なかった。
*****
そうこうしている間に、俺たちは屋上へ着く。
外の天気が良いためか彼女は気持ちよさそうに伸びをしている。が、俺の方は先ほどの考えが頭から離れず気分は晴れない。気が付くと俺は、質問の言葉が口から溢れていた。
「ねぇ麗奈さん。この数カ月色々あったけど、クラスの皆とは変わらずに上手くやれてる?」
「……急にどうされましたの? ええ、いつも仲良くさせて頂いておりますわ。ただ……」
「ただ?」
「実は前よりも、クラスの皆さんと打ち解けた気がするのです。その……デブキャラ、と言うのですか?皆さんってば、いつも私のことをからかうのですよ、ふふっ。『食欲が凄い』とか『お腹がプニプニ』とか『ほっぺを触らして』とか――普通の方なら嫌がられるのかもしれませんが、私の場合人から冗談を言われる経験もなかったので、そのような会話さえも楽しく思ってしまうんです。」
(デブキャラ扱いされて喜ぶって、いくら家庭環境が特殊とはいえ、ある程度マゾッ気がないとそうはならんと思うが……。)
だが成程、道理で彼女が太ることに対して、抵抗感が薄くなってきた訳である。しかしそれはあくまで、彼女の体型がそこら辺にいるデブと同程度だからに過ぎない。俺の理想は100キロを軽く超えるデブなのだ――俺の言葉は、核心へと触れた。
「それは良かったよ。じゃあさ……もしだよ。もし、俺が100キロより更に太って欲しいと言ったら、麗奈さんはどう思う?」
「…………!?!?」
笑顔を浮かべていた彼女の顔の表情が一気に曇ったものに変わる。そう、思い出してはいけない何かを思い出したように――。彼女のその反応に、俺も動揺してしまう。
(どうした……やっぱりこの質問は地雷だったか?)
「それは、その……答えたくありませんっ……」
「ご、ごめん! 変なこと言った! 今のは忘れてくれ、な!?」
「……ありがとうございます。あ、あの……そろそろご飯にしませんか? 私お腹が空いてしまって、仕方ありませんの。」
献身的な彼女が見せた初めての拒絶――。その事の重大さに俺はたじろいでしまい、それ以上の詮索を諦めた。
(まぁこれ以上考えても今は仕方ないし、とりあえず彼女との食事を楽しむとするか――)
*****
パカッ……
「こちらが私のお弁当でございます。興味があるのでしたら、おかずの1つ位なら差し上げますわよ。」
「す、すっげぇ……」
(和食に、中華に、洋食にと……和洋折衷・多種多様だがよく見ると、炭水化物と肉のオンパレードじゃないか! これはきっとカロリーも半端ないな。野菜も一応は入ってはいるが、健康を気にしたシェフが最低限の分をちょこっと入れたって所か……)
彼女のボリューミーな弁当の中身に、思わず我を忘れてその観察に没頭してしまう。そんな俺の興奮が伝わったのか、麗奈さんは少し恥ずかしそうに顔を赤らめる。が、彼女の方は我慢の限界のようだ。
「あの、これくらいにしてご飯を頂きませんか?私待つのは苦手で……」
「そ、そうだね。ごめんごめん。」
「いただきますわ。」「いただきまーす。」
パクパク、モグモグ、ゴックン……
パクパク、モグモグ、ゴックン……
挨拶と同時に彼女は素早く料理に箸を伸ばす。丁寧な箸使いで、食材を1つ1つ摘まみ取り口に運ぶ。そして次はご飯。そして次のおかずへ――。汁物はないものの、綺麗な三角食べである。その大きい身体には似合わず、彼女の動きは繊細であり気品に満ちていた。確かにその動作が異常に早く、咀嚼する回数も少ないのはデブならではと言ったところだが、そのテキパキとした動きはむしろ洗練された機能美にさえ思えてしまう。
「すごいな……。初めて見たけど麗奈さんって本当に食べ方が綺麗だね。改めてだけど、上流階級の人間って感じがするよ。」
「モグモグ……ゴクン。ふふっ、驚きましたか。九条家の娘として、最低限の教養は身につけておりますわよ。テーブルマナーは5歳のころから仕込まれておりますの。」
こちらの質問に返答する際も、必ず食べ物を飲み込んで一呼吸置いてから話す彼女。たとえ太ったとしても彼女のマナーには隙1つないようだ。
パクパク、モグモグ、ゴックン……
パクパク、モグモグ、ゴックン……
ゴクリゴクリ……
一口一口を味わうように料理の味を堪能する彼女の顔には幸せそうな笑みがこぼれ、その姿を観察しているだけでこちらまで満たされた気分になる。が、食事のスピードは俺に比べて断然に早く、大量の食事はあっという間に彼女の胃袋へと収まっていく。今のぽちゃぽちゃとした体格と相まって、その姿は可愛げのある食いしん坊と言ったところか……。自分の食事も忘れ彼女を見つめていたため、流石に当の食いしん坊本人も一旦箸を止める。
「……モグモグ、ゴクン。ど、どうなされましたか? 具合でも悪いんですの?」
「いや、その……君の食べっぷりがすごくて……」
「あ、すみません……お見苦しかったでしょうか? 一応マナーは守ってはおりますが、ご覧の通り、最近は早食いをする習慣が付いてしまって……。本当は楽しいおしゃべりの時間ですのに、貴方を忘れて食事に没頭してしまいましたわ。申し訳ございません。でも急いで食べないとすぐに満腹感を感じてしまって、太るのも中々大変なのですわよ。」
「いや文句がある訳じゃなくて、その……すごく綺麗だなって。」
「え!?」
「麗奈さんがコロコロと表情を変えながら幸せそうに食べている姿が、とっても綺麗だから見とれちゃったんだ。俺の事は気にしなくていいから、もっと見たいな。」
「た、食べている姿が綺麗だなんて……初めて言われましたわ。その……少し照れてしまいます……。では失礼しまして。」
パクパク、モグモグ、ゴックン……
パクパク、モグモグ、ゴックン……
恥ずかしそうにしながらも褒められた事が嬉しいのか、麗奈さんは先ほど以上に満面の笑顔で食べ進める。二人だけで食事を楽しんでいると、なんだか本当のカップルのような気分になる。でも心のどこかで「デブは下品」というイメージを持っていた俺にとって、麗奈さんの上品な食べ方に面を食らった部分は少なからずあった。だがそんなことも忘れるくらい、幸福感に包まれた昼食タイムは過ぎていった。
*****
「「ごちそうさまでした」」
「ああ本日もとても美味しかったですわ。またシェフにはお礼を言わねばなりませんわね。」
「ははっ、まぁ俺は弁当の味なんて覚えてないんだけどね……。」
「あら、どうしてです? 美味しくはなかったのですか?」
「まぁいろいろとね……」
(麗奈さんが可愛すぎて、毎日食ってる母親の弁当の味なんて記憶にねぇよ!!)
「……? それはそうと、そろそろ教室に戻りませんか。お昼休みも終わ――ぐげぇぇぇぇぇっっっぷ!!!!」
「「!?!?」」
彼女にとっても突然の事であったのであろう。完全に無防備な状態で放たれたゲップは、あまりにも豪快で下品な音を立てて2人だけの屋上に響いた。彼女の顔は恥ずかしさで真っ赤になり、必死に言い訳の言葉を紡ぐ。
「あ……あのっ、違うんです! 普段はちゃんと口を覆っているのです……本当です!! ただ先程は油断しておりまして、その……本当にごめんなさい!! ……お願いです、お願いですから幻滅しないで下さいませ……」
泣きそうな声で、麗奈さんは謝罪の言葉を述べる。令嬢として育った彼女にとって、下品なゲップをしかも無防備な状態で放たれた生音のゲップを聞かれた事は、よほど恥ずかしいことのようである。だが俺の方は、彼女が思うほど不快感を覚えていなかった。むしろ、その逆である。
(か、完全に、豚レベルの豪快なゲップ!! いやゲップといったら、牛か……そんなのどっちでもいい! こんなお嬢様が爆音級のゲップだと!? な、なんてエロいんだ!!!!)
先程までの幸福感は、一気に煩悩へと置き換わっていく。頭の中で彼女のゲップ音が何度もリピートされ、泣きそうな顔で謝る彼女の姿を目に焼き付ける。むくむくと俺のドSな性分が湧き上がり、そして俺の股間も同様にむくむくと大きくなっていく。
「麗奈さんっっ!!」
「は、はいっ!」
興奮で耐えられなくなった俺は突然大声で彼女の名前を叫ぶと、彼女の両肩に手を置き正面で向かい合う格好にする。それに驚いた麗奈さんはやや裏返った声で返事をするも、俺の気迫に押されたのか、彼女も俺が次に口にする言葉を待った。
ドクン……ドクン……
「麗奈さんの豪快なゲップ――超エロかった!」
「え?」
「麗奈さんが恥ずかしがってる姿――すっごく可愛かった!」
「えぇぇ!?!?」
「だから謝る必要なんて全くないから! むしろもっとゲップして欲しい位!! 今度また一緒にご飯を食べよう! 本当にごめん、先に戻る――」
「あ、ありがとうございます。……あれっ、もう行かれるの――って、既にいらっしゃらないですわね。突然どうなさったのでしょうか。」
俺は彼女に言いたい事だけを伝えると、身勝手にも返事もせずに全力疾走でその場を去る。残してきた彼女には悪いが、俺も我慢の限界なのだ。
「ご自分のお弁当も持たず行ってしまいましたわ……。でも、軽蔑されなくて本当によかったです。むしろもっとゲップして欲しいだなんて、やっぱり望田さまは変態ですわね、ふふっ。」
残された麗奈さんはと言うと、俺が突然出ていった理由は分からなかったが、ゲップしても幻滅されていないと知りホッとした様子だ。逆にゲップを褒めた俺の変態っぷりに驚きつつも、お弁当を片づけるその表情には笑みがこぼれているのであった。
*****
ところ変わって、俺 in 男子トイレ。
(麗奈さんの超ド迫力の生ゲップ!! 牛並の豪快ゲップ!! お嬢さまとゲップ、ギャップ萌えとはまさにこのことか! ……た、たまらんぞ。うおぉぉぉぉ!!!!)
(で、でるっ!!)
1分後――
「ハァハァ……いやぁ、今年で一番勢いがよかった気がするな。すっげぇ気持ち良かったぜ……。にしても、麗奈さんの食べ方が上品だったのは期待外れだったが、逆に上品さが残っていたからこそゲップの下品さが際立ったな。うん、あれはエロかった。ギャップ萌え、恐るべしだぜ……。」
浅ましい妄想でしばらく楽しんだ後、ふと食事前の彼女とのやり取りの事を思い出す。そう、俺が「もっと太って欲しい」と遠回しにお願いした時の、彼女の反応についてである。
(あの反応はやっぱり、麗奈さんはこれ以上太りたくないってことなのかな……でもなんでだ? あんな幸せそうに食事するんだから食事は好きなはずだし、となると太ること自体に抵抗があるのか……。くっそぉ……こればっかりはどうにもならないか……)
(でも麗奈さんって超献身的だし、俺が本気で頼めば何とかなるか? というか彼女マゾっ気もあるみたいだし、そっちを開発するのもありだな。肥満化スレのSSだと、最終的にドMの変態に覚醒してデブの自分に興奮するパターンってベタだけど最高にエロいし……って待て待て、あれはフィクションだぞ! そもそも麗奈さんがMってのも確証はないし、変態に堕ちるなんて想像も出来ないし、ってか俺らただの高校生だし……あぁもう、やっぱし無理ゲーじゃねぇか!!)
脳味噌をフル回転させるが流石にお手上げ状態であり、俺はこの場で結論を出すことを諦めた。
そして再びそれとは全く関係のない彼女のゲップについて妄想し始める。
「……ゲップを活かしてあーして、こーするとだなぁ……。そ、そいつはやべぇ!! 我ながら自分のデブ専としての妄想力には脱帽だぜ! これは麗奈さんの裸体を見るよりも、ひょっとしてエロいんじゃないのか!? ……おっと、妄想だけで思わず俺の息子が再び反応してしまったじゃねぇか! これはもう一回、いくしかないぜ!」
「うぉぉぉぉぉ!!」
トイレの個室にて意味不明な叫びとともに、俺は第2ラウンドに突入する。もはや先程の心配事などすっかり忘れ、俺は麗奈さんのゲップをオカズに自分の息子を慰め続けた。
なお調子に乗りすぎて授業に遅れてしまった俺は、先に教室に戻っていた麗奈さんに理由を問いただされてしまい、しどろもどろするばかりなのであった……。
〜途中経過〜
九条麗奈:157 cm / 73 kg (20週目) ⇒ 157cm / 85 kg (24週目)
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