令嬢・九条麗奈の献身 第五章・上

令嬢・九条麗奈の献身 第五章・上

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第五章上:2度目の告白 (1)

 

 

「あの……お話があるのですが、よろしいでしょうか?」

 

ある日の放課後、家路につこうとする俺を呼びとめる声が――。
振り向かずとも分かるが、声の主は勿論麗奈さんだ。だがその声は7カ月前の彼女のものよりもやや低く感じる。

 

実際に振り向くと、まん丸とした彼女の顔はやや緊張している様子。だがその口元は少し緩んでおり、少し誇らしげな表情も混ざっているように見受けられる。俺は一目見てその時が来たことを感じ取り、「いいよ」と軽く返事をし、一緒に教室を出た。

 

ペタッ、ペタッ、ペタッ……
ドスッ、ドスッ、ドスッ……

 

無言で歩いているため、グラウンドから聞こえる運動部の掛け声の他には、俺と彼女の足音しか聞こえない。ただ2人の足音は全くの別物――俺よりもずっと重量のある彼女は意図せずして重厚感のある足音を廊下に響かせる。その音を聞きながら俺は、歩くという日常の基本にまで肥満化の影響が及んでいる事に感嘆し、その場の緊張感よりも興奮が勝ってしまいそうになる。

 

*****

 

7か月前と同じ校舎裏に着くと、「突然呼び出してごめんなさい」と一言彼女が謝る。そして決意ある眼差しで俺と正面に向かい合うと、すぅっと深呼吸する。普通に考えれば出来レースではあるのだが、既に一度告白に失敗したこともあり緊張が解けないのだろうか?

 

そんな彼女の様子を観察しつつ、緊張感のない俺は彼女の現在の体格を再確認する。

 

まん丸な彼女の顔にはみっちりと脂肪がつき、本来のパッチリとした目も膨れた頬肉で圧迫され、やや小さく見える。あご下にも立派な二重顎が形成されており、成程これらの肉が声質さえ変えてしまったのだろう。パツパツの制服に包まれた彼女の身体は、太る前の彼女よりも一回りも二回りも大きい。寸胴とも呼べるその体格だが、胸とお腹には見事なふくらみが見て取れる。特に胸と同じ位に付き出たお腹は彼女のチャームポイントとも呼べるだろう。そのお腹の肉で隠れ気味のスカートは一応彼女のお尻を隠してはいるが、ピチピチであるためお尻のラインがもろに分かり、逆にその大きさを強調してしまっている。その巨体を支える足もまるまると太く育ち、ドでかい大根足がスカートの下から伸びていた。疑うことなく100キロ超えのデブに相応しいその身体に、俺の心臓は彼女とは別の意味でドキドキする。

 

だが今は彼女の身体を見て悦に浸っている場合ではない。彼女はまさにその言葉を発しようとする寸前であった。ただ相思相愛である以上、女性に告白させるのはあまりにも野暮である。

 

「あ、あの……」
「麗奈さん、その前に話があるんだけど良いかな?」
「は、はい!?」

 

彼女の第一声は俺の声にかき消され、発言権が俺に移る。彼女の方は面を食らった様子だ。間髪入れずに、俺は単刀直入に言った。

 

「君の事が大好きです。愛しています。」
「……!?」
「変態である俺の為にここまで太ってくれる子なんて、麗奈さんしかいないよ……。最初は驚いたけど、君の献身的な姿に心惹かれました。不釣り合いかもしれないけど、俺と付き合って下さい!」

 

(我ながら決まったぜ!!)

 

出来レースではあるが、自分の想いをストレートに彼女に伝えられたことに俺は手ごたえを感じる。さぁ、
早くOKの返事を――そして最後はその柔らかい身体にハグして、素敵なハッピーエンドとしようじゃないか!

 

「……すみません。」
「え!?」
「そんな条件では、私と付き合うことはできませんわ。」
「ええぇぇ!?!? ……う、嘘だ!? だって麗奈さんは今から俺に告白しようと――」
「そうではございません。こんな身体になるまで太らされたのですから、望田さんにもそれ相応の覚悟を持って頂きたいのです。『結婚を前提に付き合ってくださる』位の覚悟がなければ、貴方を恋人と呼ぶ事は出来ませんわ……。どうですか、望田さん? それでも私と付き合い、そして九条の名を一生背負う御覚悟はございますか?」

 

彼女の目は真剣そのもの、告白前の彼女がやけに緊張していたのはこの為であったのだろう。今彼女が望むのは学生同士の軽い告白ではなく、本気のプロポーズなのだ。俺の身体にもようやく緊張感が走った。だが迷いはなかった。今度こそ、真剣な眼差しで彼女に向かい合う。彼女の言う九条家を背負う覚悟がどれほどのモノかは分からない。ただ、これだけは自信を持って言える。彼女を一生幸せにする覚悟はずっと前からあったと――

 

「……勿論だよ! 俺はもう君以上に素敵な女性なんていないって、ずっと前から確信してたから。だから、いつか必ず結婚しよう! たとえ君が名家の一人娘でも、俺は絶対幸せにする!!」
「……はい、喜んで♥」

 

彼女は待っていたかのように満面の笑みでそれに応じる。俺も緊張が解け、ホッと一安心だ。

 

「あぁ良かった。もう本当に驚かさないでってば……。最初から君を一生幸せにする気で俺は告白したんだから。」
「分かっておりますわ……でも確認させて頂きたかったのです。私と婚約するという事は九条家を背負うという事、それ相応の覚悟を持って頂く必要があるのですから。」
「そう、その言葉! さっきから気になっていたんだけど、九条家を背負うって具体的にどうすればいいの? 勿論、何でもする覚悟はあるんだけどさ。」
「はい、一番大事な事はもっと勉強して頂くことです。望田さんは普通の家庭出身ですから、最低限の学歴がなければ私の両親を納得させる事は難しいでしょうね。そうですわね……まずは次の期末テストで学年10位以内を目指すと言うのはどうでしょう?」
「学年10位……そんな無茶な!? 前のテストは、俺150位とかそんなだよ……。」
「あら、貴方の覚悟は早くも揺らいでしまうのですか? だって私は貴方の為に7カ月で60キロも太ったのですわよ? ですから本人のやる気次第で為せば成るものです、頑張りましょう♥」

 

『為せば成る』とよく言われるが、成程彼女が言うと説得力がある。今の体型そのものが彼女の努力の賜物であり、俺への愛情であるのだ。

 

「そうだよな……。ごめん、弱気な事言って。俺、頑張るよ!今度は君の為に、俺が頑張る番だな。」
「はい、ありがとうございます。では早速今日から2人で勉強会なんて如何かしら?」
「全く、麗奈さんの行動力には脱帽だな……。よしっ、じゃあ今日から頑張ろう! でもその前に1つ聞きたいことがあるんだけど、いい?」
「はい、何でしょうか?」

 

そう――彼女と正式に交際する上で、俺にはどうしても確認しておきたい事があった。
「麗奈さんは今日まで物凄い量の食事を食べ続けてきたからこそ、ここまで短期間で太ることができたよね。でも明日から、いや今日の晩御飯から君の方はどうするの? もし量を減らさないなら、体重はきっと更に増え続けるよね?」
「……望田さんはどうして、そんな質問を?」
「いや、この前は聞き損ねたけどこの際だからはっきり言うね。俺、本当は麗奈さんがこれからも太ってくれたらいいなって思ってるんだ。100キロと言わず、もっと太って欲しい。勿論、君次第だけど……。」
「貴方の主張は分かりましたわ……。でも私は、私はこれ以上……太りたくありません……」

 

彼女が口にしたのは予想通りの否定の言葉、だが俺も食い下がらない。

 

「って事は、今日から食事を制限するって事? でも麗奈さんはそれで幸せなの? 食事する君の姿は本当に幸せそうだった。実際、君も美味しいものを食べる時は最高に幸せなんじゃないの? 俺はもう、太るために無理して食事して欲しいだなんて思ってないんだ。ただ余計なことは忘れて、好きなものを好きなだけ食べて欲しいんだ。君は食事を楽しみ、俺は君の肥満化を楽しむ――それがお互いにとって一番幸せだと思わないか?」
「確かに貴方の仰る事は間違っておりません……。私も食事をすることが、今は本当に楽しみで仕方ありませんわ。私は生まれつき厳しい教育環境で育ち、娯楽と呼べる物に触れる機会が限られておりました。食事中もマナーを守ることを強要され、楽しむ余裕さえなかったのです。だからでしょうか、私が食欲の魔力に魅了されたのは……。一度食事に快楽を見出してからは、私にとって食事こそが最高の娯楽となりました。仰る通り、これからも本能に従って食事を楽しめるならどれだけ幸せか……」
「だったらなんで、食事する事や太る事を拒絶するの?」
「私は怖いのです……!! 今までは私がどれだけ太っても、クラスの皆さんは優しく接して下さいました。ですがそれは100キロを超えるとはいえ、私がまだ町でも見かけるレベルの体型だからです。でもこのまま食欲に溺れ更に太ったとしたら、今の生活も壊れてしまいますわ……。優しい彼らとて、見たことのない程に太ったデブがクラスにいたら、きっと軽蔑するでしょう。ましてや私を知らぬ人間ならば、容赦なく私を化け物扱いするはずです……。私はその視線が怖いのです! 九条家に生まれた私が、人から軽蔑されるような恥ずべき人間となるなんて想像したくもないですわ……。」

 

ようやく彼女の口から聞き出せた答えは、残念ながら俺の不安が的中する形となった。普通の人間ならば、自ら進んで醜いデブになることなどあり得ないのだ。俺の前でこそ気丈に振舞っていたが、彼女とてそれは例外ではなかったらしい。
返す言葉も思い浮かばず、もはや諦めざるを得ない状況であった。だが「ある事」が頭に引っかかっていた俺は、恐る恐る彼女に尋ねた。

 

「君の気持ちは分かったよ……もうこれ以上は何も言わない。ただ1つ気になった事があってさ――。俺、麗奈さんはてっきりマゾッ気があるのかと思ってたんだけど、思い違いだったかな?」
「……!?!? い、一体何を根拠にそんなふざけた事を……」
「いやあくまで予想だったんだけどさ、前に『もっと悪口を言って』とか『太ってることをイジられて嬉しい』とか、俺だったら嫌な事も君は笑顔で話してたよね。だからMの素質があるのかなって思ったんだ。ほらマゾの人って、周りから罵声を浴びても喜ぶって言うじゃない? だから麗奈さんがMだったら良いなって期待した訳だけど……って麗奈さん、どうかしたの?」
「わ、私がマゾですって……? う、嘘そんな……そんな変態な訳……」

 

『マゾ』という言葉を聞いた途端、彼女は明らかに動揺した様子で――それをこの俺が、見逃すはずがなかった。サディズムの性分が一気に湧き上がり、どす黒い感情が俺の心を支配していく。そして俺は自分でも驚くほどに優しい口調で彼女に語りかけた。

 

「……麗奈さん? もしかして、心当たりでもあるのかな?」

 

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