偽と正 偽る男達と女の真心

偽と正 偽る男達と女の真心

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とある病院のロビー、
薄金色の髪の少女が椅子に座って、順番を待っていた。
また新たに朱色の髪の成人女性が入ってきた。
高い背丈にメリハリのある肢体をしていて、
顔立ちも整っているがその印象は美しいというよりも可愛らしく、
彼女は少女を見るなり喜々としてそちらに向かった。

 

 

「光樹さん!お久しぶりです!!」
「リーファちゃん・・・ここじゃあもう少し静かにしようね」
「あ・・・ごめんなさい いや1年ぶりに会えたのでつい」
「いや2ヶ月も経ってないはずだよ」

 

 

金髪の少女は牛坂家の家事手伝い(いわゆる、「メイド」)をしている過龍光樹。
朱色の髪の成人女性は若き天才リーファ・フェフ。

 

「私は公恵さん(牛坂家の次女でやや病弱)の薬を代わりに貰いに来たんだけど
リーファちゃんはどうしたの?」
「私はここの院長と打ち合わせに来たんです、
もう行きますね」 
ペコリと頭を下げてからリーファは院長室の方へ向かった。
「打ち合わせって『朱の女』のだよね・・・」

 

『朱の女』夜の病院に現れ怪我や病気を治し、その代償として
美しさを奪っていく存在。
・・・リーファはそういう設定にして希望する者に肥化治療を行っているのだ。
肥化治療とは、彼女が開発した疾病を肥満化と引き換えに即座に完治させる治療システムで、
効果に比べてコストもリスクも低いのだが、反対の声が強いのでこういう形を取らないと
行えないのだ。
(使用自体は法律で認められる)
リーファの言う「打ち合わせ」は、いわば病院側との契約だ。

 

だが彼女が向かった院長室から怒鳴り声らしきものが聞こえてきた。

 

「!? 」光樹もそちらに向かう。

 

 

院長室には、リーファと院長らしき白衣を着た初老の男性がソファーに座っていて
スーツをきっちりと着た壮年男性とセーラー服を着た中学生ほどの少女が仁王立ちして、
院長とリーファを睨みつけていた。

 

 

「肥化治療は即刻中止すべきだ!」
「あれは「朱の女」なる謎の人物がやってる事ですし
被害者本人が被害届を出す意思がありませんので、私共はどうすることも出来ません」
「患者に違法医療行為をしている人物を放置することが問題なのだ!」
「病院の職員全員で包囲網を作り「朱の女」を捕らえるべきだ!!」
「そんな余裕は有りませんし、肥化治療自体は法律では認められています」
「これはモラルの問題です 医者が患者に悪影響を及ぼす存在を放置してはならないと思います」

 

壮年男性は強い口調で院長を責め立て、少女も柔らかい口調ながらもそれに続いていた。
院長は返答しているが相手の勢いに圧倒されており、リーファは何も言えずにいた。

 

「だいたいそこの貴方は誰ですか!」「えっ」 そんなリーファに、壮年男性は睨みつける視線を向けた。
「お父さん、その人は無関係だと思う」 「そうです、この人は肥化治療とは全く関係ありません!」
少女が止め、院長が助け舟を出すが壮年男性は止まらない。
「貴方の様な素晴らしい容姿の方ほど、肥化治療で奪われるものは大きいのですよ!!」
「無関係ならば、尚更我らと共に声をあげるべきだ!!」

 

「・・・う・・うぅ」
リーファは涙ぐんですらいた。

 

「すみません、少々言わせてもらえないでしょうか」
見かねた光樹は割り込むことにした。
「誰だ!今重大な会話をしているのだ!!」
「会話ならもう少し相手の言い分や事情を考えてください」
「肥化治療の犠牲となった人々のことを思いここに来たのだ!!」
「でしたら、肥化治療を受けた本人の声を集めて、見せて下さい」
「しかし本人達は全員『助かった』って言ってた  らしいですよ、
 こちらのリーファさんは詳細を知ってると思われますが」 「・・・光樹さん」

 

 

「肥化治療の是非はともかく、今のあなた達がやってる事はただの迷惑行為、
 言わば犯罪です」「言いたいことがあるなら、ちゃんと手続きを踏んで下さい」
「ちっ!そんな悠長なことをしてる間など無い!!」
壮年男性はそう言い捨て、院長室から出て行った。
「失礼しました」 少女の方は一応頭を下げてから院長室を出たが、
「 」 「えっ?」 その前に光樹に耳打ちしていった。

 

 

その後、気を取り直して打ち合わせを終えたリーファは
お礼として近くのレストランに光樹を連れて行った。

 

「光樹さんありがとうございました・・・良く言い返せましたね」
「大きな家で仕事する訳だからああいう客の対応もしなきゃいけないと思って
ちょっとそういうのも勉強してたからね」
「・・・あそこまで酷い人に会うとは思わなかったけど」
「言ってたことが全部間違ってるとは言い切れませんが・・・でもあれは」

 

院長が話してくれたことによると、あの壮年男性は
肥化治療の反対団体の会長である 外田玄一(そとだ くろかず)
しかしその活動はさっきの様な強引すぎるクレームが主で、
当の反対団体からも疎まれているが、
国会議員でもあるので、その権力で肥化治療の使用を
強引に阻止しているという噂があるとのこと。

 

「あっそう言えば、女の子の方が帰る時に光樹さんに耳打ちしてましたよね」
「何て言われたんですか?」 「それはね・・・」

 

『太ったせいで死んだ方が良かったって目に会うこともありますよ』

 

「ええっ!?そんなことを!?」
「あの言葉には負の感情がこもっていた、あの子は一体・・・」

 

その少女、外田哲は自宅に帰っていた。
哲の黒い瞳は一枚の写真を見つめていた。

 

写真に写ってるのは哲を正しく成長させた様な妙齢の女性と
哲を幼くして、そこから太らせた肥満体の幼い女の子。

 

素早さとは無縁そうな太い脚。
『・・・そ、外田、無理はしなくていいがもう少し早く走れないのか』
小学生ながら高校生の平均サイズ並みの胸。
『うわぁ、無駄にデッケー胸しやがって』
子供でありながら、子供が入ってる様な大きさの巨腹。
『 色々手伝ってくれるのは有難いがまずその腹を引っ込める努力をして欲しい』
可愛らしさは保ちながらも、丸々と膨れてる顔。
『あっちいけ、このデブス!』

 

 

「またあんな目に合う位なら・・・死んだ方がましだよ!」

 

決意を改めた哲の耳にインターホンの音が聞こえた。

 

玄関に行き扉を開けた哲が見たのは見たことの無い青年だった。
その人は、銀色の髪をさらりと伸ばしていて、
その身体には無駄な肉が一切無いことは、服の上からでも分かる。
藍色の大きな瞳と整った鼻筋と唇をした綺麗な顔の
リーファとはまた違ったジャンルの美しさを持つ青年だった。

 

「初めまして、私はライディ・マウナスです」
ライディと名乗った彼はその外見に似合った透き通った声をしていた。
「お父様のご依頼の件で打ち合わせに参りました」

 

 

「依頼って、もしかして肥化治療に関することでしょうか?」
少し間を置いてから、ライディは返答した。
「あの病院の周辺で無差別殺人事件を起こす」
「えっ!? 肥化治療を肯定してるからといって、それはやり過ぎで「いえ、逆に肥化治療の反対団体のメンバーを殺します」
「被害者の共通点がその一点のみなら肥化治療を肯定する立場のあの病院に疑いがかかります」
「そんな! 私達の味方なのに!?」 「だから自分たちが犯人だと疑われることは無い」
「あなたのお父様はそう考えました」
「お父さんが・・・」
「そしてお嬢さまに自分のサポートをさせると言ってましたが」
「分かりました」 哲は即答した。
「・・・人殺しの片棒を担ぐんですよ、朱の女よりも遥かに重い罪を負うことになりますよ」
「やるしか無いというなら・・・その罪は私も背負います!」
「太ったせいで苦しむのは私一人でいい!!」
確かな、決意を語る哲。
しかしライディはそんな彼女に背を向け、煙草を吸っていた。
「真面目にして下さい! あなたこそ人殺しをする覚悟が無いなら去ってください!!」

「いやすみません、詳細はまた後日に伝えますので今日のところはこれで失礼します」

 

 

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